今回お話を聞いた『ここね』は、重症心身障がいのある子どもが過ごす施設です。重い障がいを抱える子どもの多くは、自宅でも治療やリハビリなどがあることもあり、ここねのような施設は子どもにさまざまな体験をさせ、家族も安心して預けられる数少ない施設になっています。
こうした施設を運営するだけでなく、同じ境遇の家族や支援者が交流したり、情報共有をしたり、相談したりできるコミュニティを作ろうという取り組みを始めた特定非営利活動法人EPOここねの代表・齋藤えりかさん(以下、齋藤)。
障がいのある子どもたち、そしてその家族の抱える課題に向き合い、「かわいい子どもたち」にとって大事な人や場所を増やすその取り組みを是非知ってください。
※重症心身障がいとは:重度の肢体不自由と重度の知的障がいとが重複した状態を重症心身障がいといい、その状態にある子どもを重症心身障がい児といいます。(引用:社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会より)
「障がいがあることで、たくさんの経験ができなかった」人が多くいる
ーーまず、重症心身障がいのある子どもが通う事業所『ここね』を立ち上げた理由を教えてください。
齋藤)私は、社会人になってからは18歳以上の障がいのある方が通う生活介護施設に勤めていました。15年ほど勤め、利用者の方と過ごす中で感じたのは「障がいがあることで、たくさんの経験ができなかった」方が多くいるということです。
障がいの有無に関係なく、人が生きていき、成長していく過程でさまざまなことを経験する必要があります。障がいのある方でも、たくさんの経験をすることで、もっとコミュニケーションが上手になったり、もっと好きなものを見つけられるのではないかと思っていました。
私自身も子どもを持ち、「やはり子どものために働きたい!」と考えたのですが、そうした施設自体が不足しているという現状に気が付きました。それならば自分で作ろうと2015年に『ここね』を立ち上げました。
ーー『ここね』には、どのような子どもたちが通ってくるのでしょうか?
齋藤)医療的ケアの有無にかかわらず、重度の障がいのある子どもたちが利用できる事業所です。子どもたちの様子や、家庭環境なども多岐にわたり、子ども・家族のニーズや生活スタイルを基本に、ここねの取り組む内容にご共感いただいた皆さまにご利用いただいております。
ーー全国的にそうした施設が足りていないと伺いました。
齋藤)そうですね。『ここね』にも、遠方から通われている方がいらっしゃいます。利用希望者が多く、月曜から金曜まで毎日預かる形ではなく、週1回から週2回など利用回数に制限も出てしまっている状況です。
『ここね』が大切にしている3つのこと
ーー『ここね』では、どんなことを大切にしていますか?
齋藤)立ち上げ当初から大切にしている3つのことがあります。1つ目は、部屋の雰囲気作りです。『ここね』では、利用するお子さんたちに「楽しそう!」と思ってもらい、ご家族の方にも「ここなら安心して子どもを預けられる」と思ってもらえるような、雰囲気作りを大事にしています。使う木の素材やカラーなど、細かいところまでこだわって作りました。
また、施設内で使う物も、福祉用の物をあまり使っていません。雑貨屋などで売っている物を中心に、子どもたちが社会に出たときに一般的に使われているものをできる限り使用し、大人になってから使う物に子どものうちから慣れることができる環境を作っています。
2つ目は、「とにかく遊ぶ」ことを大切にした活動プログラムです。五感に刺激を与えるようなさまざまな経験をして、それを人生の選択肢やステップにしてほしいと考えています。
ここねを始める前のこれまでの経験から、障がいがあるからと「これは難しいかな」「これはやらなくていいかな」などと考え、経験を得られる機会が少なくなってしまい、人生の選択の場面で経験不足により消去法で限られた中から選択することしかできない現状を目の当たりにしてきました。そのため、小さい年齢の頃からたくさんの経験を積み、社会に出たときに「これが好き」や「これはやったことがある」と、人生の選択肢をたくさん持つことができるように、『ここね』でいろいろな経験を積み重ねてほしいと思っています。
ーーたとえば、どんな活動を一緒にしているのですか?
齋藤)お米を炊いたり、タンドリーチキンを焼いたり、スイーツを作ったりなど、さまざまなことを行っています。みんなで仮装してハロウィンパーティをしたり、ディズニーランドへ外出したりすることもあります。初詣など、寒くて外へ行けないときには、施設内に「ここね神社」を作って初詣をしました。
3つ目に大切にしていることは、スタッフの人柄です。私は、こうした場所で働くスタッフだからこそプライベートの時間を大切にしてほしいと思っています。オンとオフがしっかりとできて生活が充実することで、利用者の子どもたちと遊ぶときの引き出しが増えていっています。新しい遊びを提案してくれたり、手作りのおもちゃを持ってきてくれたり、絵本の読み方をちょっと変えたりするなど、スタッフのアイデアや工夫は素晴らしいの一言ですね。
コミュニティサロン『COCOLON』が目指す未来
――『ここね』を運営していて、課題だと思うことはなんですか?
齋藤)障がいのある子のご家族が、頼れる場所がないということです。障がいのあるお子さんが生まれて、病院から自宅に帰ってきたとき、どのように生活していけばよいのかわからない。そんな中、手探りの状態で毎日必死に生活をしていて、「助けて」と言う余裕もなく、そうした思いを内に秘めてご家族だけで頑張ってしまうことも多くあります。何か知りたいと思ったときにインターネットで調べたり、役所に聞いたりしても、そもそも情報が統括されている場所がほとんどないのが現状です。
『ここね』のスタッフにも、以前ここねを利用していたお子さんのご家族の方がいます。当時は、いつもニコニコしていて明るいお母さんという印象だったのですが、スタッフになってからお話を聞くと「これからどういう生活をすればいいのだろう」という不安や、つらい思いなどがあったと知りました。そういう苦しい思いは、なかなか表には出てこないのだと改めて知りました。
現在ここねが行うサービスだけでは、ご家族をサポートできない。そこで、障がいのあるお子さんのご家族が交流できるコミュニティサロン『COCOLON』を新たに立ち上げようと思いました。『ここね』だけでは手が届かない、もっとご家族に寄り添った場所を作りたいと考え、現在コミュニティサロン作りのためのクラウドファンディングを実施しています。
ーー『COCOLON』は、具体的にどのような取り組みになるのですか?
齋藤)まず、全国の障がいのあるお子様とご家族、地域の方々、そして、私たちのような支援者の皆さま、自治体の方々などすべての方を対象としてオンラインでつながれる場所を作ります。ただ、やはり顔を見てお話をしたり、相手と直接やり取りしたりする肌感も大切だと思い、実際に会えるサロンを現在工事中です。
障がいのあるお子さんの子育てをする上で、必要なときに必要な情報を入手できるようなコミュニティにしていきます。今の生活が子どもの将来にどう繋がるのかや、今後どう生活が変化していくのかなど、先輩のご家族から情報共有をしてもらったり、お話を聞いてもらったりできる場所にもしていきたいですね。
ーー今後、どのように発展してほしいと考えていますか?
齋藤)『ここね』のような重症心身障がいのあるお子さんが通える事業所を、もっと増やしたいという目標があります。大きいセンターを一つ作るのではなく、小さい事業所をたくさん作る。私たちだけが事業所を立ち上げるのではなく、同業者やこれから事業所を立ち上げたいと思っている方をバックアップしたいと考えています。新たに立ち上げる『COCOLON』では、そうした事業所を作りたい人をサポートする役割を担えればと思っています。事業所を立ち上げたいけれどノウハウがない方や、請求業務がわからないなど、研修会を開催したり私たちが出向いてお伝えしたりすることで、一つでも二つでも事業所を増やしていきたいです。
みんなの笑顔のために
ーークラウドファンディングを通して、一番伝えたいことはなんですか?
齋藤)障がいのあるお子さんを取り巻く環境についてまず知っていただきたいです。私の友人には、『COCOLON』のクラウドファンディングの話で初めて私の仕事内容がちゃんとわかったと言う人もいます。当事者でないと、なかなか知る機会がないですよね。
今回のクラウドファンディングを通して、障がいの有無に関わらず、子どもたちはみんなかわいいんだ、いわゆる健常のお子さんと配慮点が違うだけで何も変わらないんだということ、そして、同じように楽しく心を動かしながら成長していくために、『COCOLON』のようなコミュニティが必要なんだということを、たくさんの人に知っていただきたいです。
障がいのある子どもたちだけでなく、ご家族や支援者が「かわいいな」「幸せだな」と思いながら安心して過ごすことができる。そうした笑顔を支えるコミュニティを作っていきたいと思います。
ーーありがとうございました!
『ここね』が行うクラウドファンディングはこちら