私たちの想い

子どものために大人がつくる「いじめのない世界」とは~『BE A HERO』プロジェクト~

“科学的”なアプローチによって、『いじめ撲滅』を目指す『BE A HERO』プロジェクト。

“科学”でいじめのない世界を~『BE A HERO』プロジェクトいじめはなぜ起こるのか、いじめが起こらない集団の条件とは――。 『BE A HERO』プロジェクトでは、“科学的”なアプローチによって『いじめ撲滅』を目指しています。 “科学”を使っていじめに向き合う『BE A HERO』プロジェクト特任研究員の木村匡宏さん(以下、木村)、特任研究員兼事務局の新保友映さん(以下、新保)の「“科学”でいじめのない世界を創りたい」という想いに迫りました。...

2度目のインタビューとなる今回は、『大人が考える子どものいじめの問題』についてお伺いします。
SNSが普及し、複雑化した子どものいじめの問題は、大人が持つ経験則や価値観だけでは、解決しきれません。
こうした、『子どものいじめの問題』に対して大人が出来ること、やるべきこととはーー。

保護者や学校の先生向けにも講座をされている『BE A HERO』プロジェクトの特任研究員 木村匡宏さん(以下、木村)、特任研究員兼事務局 新保友映さん(以下、新保)にお話を伺いました。

“価値観”や“経験則”には限界がある

ーー「大人のいじめに対する認識」について、BE A HEROプロジェクトが感じている課題を教えてください。

新保)大人が、自身の“経験則”で、子どものいじめに対処してしまうことが大きな課題だと感じています。大人も加害者、被害者、傍観者と立場は違ったとしても、何かしらのいじめを経験しています。そして、その経験があっても大人として元気に暮らしている人は、それを乗り越えてきた人たちだと考えられます。
ただ、乗り越えてきた人たちの経験は、状況も違えば環境も違うため、それを他の人のいじめ問題に当てはめて解決するには無理があります。まして、SNSが普及した今の時代のいじめに当てはめるのは、無責任になってしまいます。いじめ問題に限らず、上手くいった人たちの経験ばかりが語られることを『生存バイアス』と呼んでいます。

ーーたしかに、自身の経験をもとに考えてしまうことはよくあります。

新保)もちろん、経験則がすべて悪いわけではありません。しかし、今起きているいじめと、昔大人が経験したいじめとでは、根本的に環境が違います。環境が違うのに経験則だけで対処することには限界があるのです。逆にいえば、世界中でいじめに関しての研究がなされていて、さまざまなことが分かってきているので「日本でも、大人も子どももそれを使いませんか?」ということをBE A HEROでは言い続けています。

ーー木村さんは『いじめに関する課題』という点でどのような課題を感じていますか?

木村)私が一番課題に感じるのは、教育の現場で、子どもたちに行動スキルをちゃんと教えてくれる機会がほとんど無いことです。日本の学校では、『校則』という規律を守らせるというスタンスで「〇〇することを禁止とする」という伝え方をします。例えば海外の教育では、“Expected behavior”(期待する行動)といって、子どもたちにまず具体的な行動スキルを教えていくプログラムがあります。

ーーこのことを実感された具体的なエピソードはありますか?

木村)以前、道徳の授業で「いじめを考える」というテーマで、アクティブラーニングをする講義に参加したことがあります。子どもたちは『どのような行動を選択するのがよいか』という具体的な行動スキルを教わっていないので、問題に対する判断が、結局のところ一人ひとりの価値観に拠ることになります。道徳的な価値観に拠ってしまうと、意見を収束させるのがとても難しくなります。これでは問題に対して、きちんと対処しきれません。ここで、科学的なアプローチが有効になります。“いじめ”という問題を道徳的な価値観から考えるのではなく、“いじめ”を科学でとらえ、研究で明らかとなった“いじめの構造→いじめがなぜ起こるのか”を学び、いじめが起こらないための行動スキル、いじめに遭遇してしまったときの行動スキルを大人も、子どもも学ぶ機会が増えたらいいなと思います。

考え方が変わることがスタート

ーーそのような課題に対して、「BE A HERO」プロジェクトが行う先生や保護者向けの講座では、どのようなアプローチをされているのですか?

新保)子どもたちにも伝えている「良い行動を増やして、そもそもいじめが起こらない空間を作りましょう。」という根本の考え方は同じです。それに加えて、研究結果の共有とケーススタディーを行っています。

ーーケーススタディーはどのような場面を想定して行うのですか?

新保)例えば、保護者役を想定して、【子どもが「学校に行きたくない。」と言い出し、詳しく聞くと「部活動で色々なことを言われた」と答えた場面】でどのように対応するのかなどです。先生役を想定したケースもあります。ちなみに、このケーススタディーは、「子どもの発達科学研究所」の先生方に監修をいただいているので、それぞれに考えさせるだけでなく、答えもある内容です。

ーーたしかに、何も知識が無いと、自分の経験や価値観をもとに考えてしまうかもしれません。講座やケーススタディーに取り組むことで、考え方は変化していきますか?

新保)はい。講座を受けることで、多くの方が、科学的な根拠をもとに考えることが出来るようになります。それぞれのケースに対して、「ここはアンバランスパワーとシンキングエラーが生じているからいじめだよね。」というように、科学的な視点で分析ができるようになります。そうすることで、誰でも同じように問題を解決できるようになります。これが、私たちが目指している“再現性を高める”ということです。

ーーなるほど。そもそもの考え方の部分が変わっていくのですね。

木村)そうですね。そこが我々がとても大切にしているところです。私が最初に受講した、子どもの発達科学研究所の『Triple change』という講座では、「考え方が変われば、認知が変わり、行動が変わり、組織が変わる」ということを学びました。つまり、「いじめについて科学的に学び、考え方が変わること」が個人の経験や価値観に縛られずに、子どものいじめの問題に関わるスタートだと思います。それが、我々の目指している「そもそもいじめが起こらない空間」の実現のために重要だと思います。

“科学”によって“再現性”を高める

ーー実際に講座を受けた先生方の反応を教えてください。
新保)
「これを求めていた!」という声をいただいたことがあります。
学校の先生方は、迷いながらも何とか自分たちの経験をもとに、子どものいじめの問題に向き合っています。それに対して、“科学”という誰がやっても同じ答えになる“再現性”があるものを共有することで、みんなが同じ答えを出せるようになります。これこそが先生が求めていることだと思います。

ーー木村さんはいかがでしょうか?
木村)科学的な視点を持つことで、順序立てて考えられるということが一番大きな変化だと思います。
以前、ある高校の部活動に関わっていた際に、いじめが発生したことがありました。対応されている先生方が一番苦労されていたことが、「何から対処して良いのか分からない」ということでした。
そもそも、科学的な視点がないと、その問題が「いじめかどうか」や「何から対処するべきか」も分かりません。
しかし、ケーススタディーなどを通じて、科学的な視点を持つことで、順序立てて考えることが出来るようになります。このように、論理的に考えを組み立てられるということはとても大きな変化だと思います。

ーーなるほど。保護者向けの講座では、いかがでしょうか?

新保)保護者の方は、「いじめは嫌だな」や「自分の子どもにいじめが絶対起きて欲しくない」という想いを持っています。しかし、自分の子どもが、被害者や加害者ではない場合には、「まあいいか」と済ませている人が多いです。
しかし、ここで重要なのは“傍観者”についてです。我々の講座では、「将来、傍観者も被害者と同じくらいの苦痛を受ける」というお話をしています。このことは、アンケートなどを見ていると、保護者の危機意識を高めるきっかけになっています。こうした危機意識の高まりが、子どもたちの「そもそもいじめが起こらない空間づくり」に繋がっていくと思います。

「学ぶ」って楽しい

ーーありがとうございます。もっと勉強しないといけないという気持ちになりました。
  最後にお二人からメッセージをお願いします。

新保)「辛い想いをする子を待つ」のでは無くて、世界中の研究結果をもとにすれば、「そもそもいじめが起こらない空間」をつくることができます。
学ぶことをスタートにして、「そもそもいじめが起こらない空間」を一緒につくっていきましょう。

木村)“知は力なり”という言葉がありますが、私が初めて「いじめを科学で予防する」講座に参加した時の感動したことを覚えています。「世界には、難しい問題に対して、解決していくための研究がちゃんと存在するんだ!さらに、科学論文というのは、基本的には、前の研究を受け継いでいく形式になっているので、研究の成果=様々な人たちの知の集積なんだ!」と知ったときに、私もそうした想いを受け継いでいきたいと思いました。大人になってからも知らないことは、たくさんあります。だからこそ、学ぶことで、変わることができます。BE A HEROプロジェクトを通じて、子どもたちに“学ぶことって楽しいんだ”ということを伝えていきたいです。

ーーありがとうございました。

(画像提供=BE A HERO プロジェクト)

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