1964年、日本で初めてのオリンピック開催を機に建てられた『日本武道館』。これまで多くの武道大会が開かれてきたこの会場は、国家式典・教育的事業やアーティストのコンサートなど、幅広いイベント会場の“聖地”として国内外より多くの方に認知されています。
そんな“聖地”とも呼ばれる日本武道館の目的は「武道の正しい普及振興」にあり、それは日本人のみに限ったものではありません。武道を体験しながら外国籍の方が日本の文化を学ぶプログラムを1988年度から30年間に渡り実施してきました。2018年度からは、主に外国人“留学生”を対象に形を変え、今年で6回目の開催となります。募集開始から数日で定員が埋まるなど、現在では武道振興・普及事業の中でも人気のプログラムとなっています。
日本の伝統文化である武道を通し、外国人留学生に伝えたいことは何なのか。公益財団法人日本武道館の端春彦さん(以下、端)、沢登英徳さん(以下、沢登)、西川雛子さん(以下、西川)にお話を伺いました。
※本記事は、SPORT FOR TOMORROW Conference にて発表された『スポーツ庁長官表彰団体』のインタビューです。
日本武道館が果たすべき役割
ーー日本武道館は、やはりコンサートなどのイメージが強く印象にあります。
端)そうしたイメージを持つ方が多いのですが、日本武道館は1964年10月3日に青少年の健全なる育成を主眼として開館されました。なので、“武道を普及する”ことが私たちの本来の目的です。
日本武道館では、毎年夏に全国の小・中学生を対象に8種目(柔道、剣道、弓道、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道)の全国大会を行っています。また、「広く世界の平和と福祉に貢献すること」も大きな目的の1つです。
ーー日本の武道だけでなく、世界の視野も持ちながら運営されているのですね。今回行われた『外国人留学生等対象国際武道文化セミナー』も、そうした視点から始まったのでしょうか?
端)1984年に国際武道大学が千葉県勝浦市に開学したこともあり、武道を世界へ広げて行くための連携事業として始めたのがこのプログラムの発端です。
実は、現在のプログラムになる前は、『国際武道文化セミナー』として、国内にいる外国人武道修業者を対象にし、1988年度から2017年度まで計30回行っていました。2018年度から、“外国人留学生”を対象とし、現在の形になります。
ーーなぜ“留学生”に着目したのでしょうか?
沢登)留学生の方々は、日本の言語や文化を学びに来ていると思いますが、その日本の文化の一つとして武道を学んでいただきたいと私たちは考えています。あわせて、武道が国際的に普及していくために、自国に戻った際にそこで武道の魅力を発信してほしいという狙いも持っています。
また、以前の『国際武道文化セミナー』は外国人武道修業者を対象に実績を積んできましたが、リピーターの方が増えてきたこともあり、事業の活性化及びより多くの方にご参加いただきたいとの想いから外国人留学生を主な対象に変更しました。
ーー今年の第6回参加者では55名の参加者のうち53名が初参加と伺いました。多くの方が武道に本格的に触れられる場となっているのですね。
武道は日本の伝統文化
ーー海外からの留学生は、どのような意図をもってこのセミナーに参加しているのでしょうか?
沢登)参加者は、大学や日本語学校に在籍する留学生などさまざまです。参加者の皆様は各々が目的をもって日本に来られていますが、その中には“武道=日本の伝統文化”という認識を持っている方も多く、「学んでみたい」という声が多くあります。なかでも、もともと武道に興味があったり、海外にいるときに武道に触れたことがある方は、私たちのセミナーに積極的に参加をいただいています。
ーー本当にいろいろな国や地域からの参加があるようですね。多様なバックグラウンドの方々が集まる合宿で、言語の違いなどコミュニケーションに苦労されることはないのでしょうか?
沢登)講義や体験武道では、日本語と英語の逐次通訳で進めていきます。通訳をしてくださっている方も武道修業者で、なかには、長年、このセミナーの実行委員を務めていただいていたり、他の事業にも携わっていただいている方もいます。我々の想いを参加者にしっかり伝えていただけるようなパートナーさんと関われていることを、ありがたく思っています。
武道を通して伝えたい想い
ーー実際に参加された方からの反応はいかがでしょうか。
西川)私自身も今回のセミナーの運営に携わったのですが、参加者の皆さんがとてもポジティブに参加してくださっていると感じました。講義後の質疑応答の時間では多くの方から質問があったり、「私のフォーム(型等)を実際に指導をしてほしい」など、積極的にプログラムに参加している様子を見ることができました。
沢登)参加する前は、武道をあまりよく知らない人にとっては、映画などの影響もあり「暴力的なイメージ」という印象を持っている方もいらっしゃいます。しかし、実際に参加することで、振る舞いや態度、相手を尊重する気持ちなどを学び、武道に対する考え方や印象が変わりますし、セミナー前後での積極性の変化というものも感じ取ることができます。
ーー武道を深く知らない外国の方にこれを伝えたいというものがあれば教えてください。
端)“武道”というのは、本来日本でのみ使用されてきた言葉です。海外では、“マーシャルアーツ(格闘技)”と呼ばれます。格闘技とは異なる「礼に始まり礼に終わる」という武道特有の礼儀作法の部分は、武道の一番の魅力だと思いますし、“格闘技”ではなく“武道”である事を一番伝えたいことです。
今回のセミナーの中でも、宿泊施設には畳があり、靴を脱いで部屋に上がるなど、外国にはない文化をたくさん体験することができます。そうした文化の違いも学び、自国に帰ったときのよい経験にしてほしいと思います。
ーー外国由来のスポーツにはない、独自の良さがありますよね。
沢登)武道の持つ教育的価値をもっと伝えたいです。セミナーでも、ただ体験してもらうだけではなく、歴史や礼法の部分も含めて理解していただけるようなプログラムになるよう工夫しています。
西川)私自身、武道をやっていた経験から礼儀作法や相手への感謝など、普段の生活に活きている部分が多くあります。
海外から日本に来られている方も、武道に触れたことでこうした日本の文化に興味を持っていただき、さまざまな生活の中でも活かしてもらえると嬉しいですね。
ーー外国人だけでなく日本人にも改めて知ってもらいたいですね。
武道が生み出す国際交流と未来
ーー日本武道館さんとして考える武道を活用した国際交流について教えて下さい。
端)今後も10回20回と日本の伝統文化である武道の継承や振興を含め、武道の精神や武道そのものを通じた国際友好親善として魅力あるセミナーにしていきたいと思います。そのために、我々もどうしたら魅力を伝えられるのか、勉強しつづけたいです。
西川)このセミナーをもっと多くの人に知ってもらいたいですね!
大学や専門学校、大使館など、各所へ案内を出しているのですが、まだまだ情報が届いていない留学生の方もいらっしゃいます。多くの人に「参加したい!」や、「楽しそう!」と思ってもらえるよう、広報活動にも力を入れていくことで、武道を通して日本文化を学ぶ方が増えてくれればと思います。
また、日本武道館と聞くと多くの方がコンサートなどを想像されます。ですが、公益財団法人日本武道館としては、武道の振興普及がメインの事業となりますので、そうした私たちの活動についても多くの方に知っていただければ嬉しく思います。
ーーありがとうございました!