読売ジャイアンツ菅野智之(すがの・ともゆき)投手は、2015年から介助犬支援活動を始めています。
介助犬とは、肢体不自由者の動作を手助けする犬のことで、日本国内では58頭の介助犬が活躍しています。今回は、読売ジャイアンツで社会貢献活動の担当をされている吉野さん(以下、吉野)と日本介助犬協会 後藤さん(以下、後藤)にお話を伺いました。
「何かやりたい」という菅野投手の想い
ーー読売ジャイアンツの『G hands』のひとつの取り組みである菅野投手の介助犬支援活動について、教えていただけますか。
吉野)まず『G hands』はジャイアンツで社会貢献活動を担うプロジェクトの名前です。社会貢献活動については球団主導の活動と選手主導の活動があります。選手主導の活動において、選手個々だけはなかなか持続した活動ができないため、『G hands』を通じて球団も一緒に活動したり、関わる方々と連絡や調整をするなどのバックアップをしています。
ーー選手個人の活動はどのようの始まるのでしょうか。
吉野)選手側からの提案で活動が始まることもありますが、「何かやりたいけど、何をすればいいのかわからない」という相談に対して、『G hands』から提案することもあります。菅野投手の場合は、先輩である内海投手(現・埼玉西武ライオンズ)がランドセルを寄贈するという活動をされる姿などを見て「自分も何か役に立てることがあれば」と思っていたそうです。そんな中、縁あって日本介助犬協会さんの橋本久美子会長とお話する機会に恵まれたのが活動のきっかけです。
ーーなぜ介助犬支援活動を選ばれたのでしょうか。
吉野)まず菅野投手自身、ご実家で犬を飼っておられてこともあって犬が大好きです。日本介助犬協会の橋本会長とのお話で、介助犬の認知度が低いことや、数が少ないことなどを聞き「自分に何かできることがあるのでは」と思ったことが大きな理由になったそうです。
ーー縁が重なり活動につながったのですね。
日本国内での頭数は盲導犬の約1/15
ーー介助犬というのは、どんな仕事をする犬のことなのでしょうか。
後藤)介助犬とは、肢体不自由者の動作を手助けする犬です。その方のニーズに合わせて、落としたものを拾ったり、ドアの開け閉めをしたりします。
ーー盲導犬や聴導犬とは違うのでしょうか。
後藤)対象の方が違います。盲導犬は目の不自由な方、聴導犬は耳の不自由な方の手助けをしますが、介助犬は車椅子を使っている方のような身体の不自由な方の手助けをしています。
ーー介助犬について知らないと、盲導犬や聴導犬と間違えてしまいそうですね。
後藤)そうなんです。犬を連れている障がいをお持ちの方=目の見えない人と思われてしまうことも多いので、他の方から適切なサポートを受けられないこともあります。
ーー現在、介助犬は日本に何頭くらいいるのでしょうか。
後藤)2022年4月現在58頭です。
ーー盲導犬は全国で848頭ですから、盲導犬と比較すると街中で出会う確率は低いのですね。
後藤)はい。そのため、なかなか知ってもらう機会が少ないのが課題でした。
ーー菅野投手が活動を始められると聞いた時、どのように思いましたか。
後藤)私たち日本介助犬協会の職員からすると雲の上の存在の方なので、「あの菅野投手が支援してくださる!?」と信じられない気持ちでいっぱいでした。本当に温かい方で、犬好きということもあり、人と人との繋がりによる「縁」を感じずにはいられませんでした。
ーー人と人との繋がりはとても大事ですね。
約9割が寄付などでまかなわれている
ーー介助犬を1ペア育てるために費用はどれくらいかかるのでしょうか。
後藤)およそ240~300万円かかります。その費用のうち9割程度を寄付や募金、チャリティーグッズの売り上げなどでまかなわせていただいています。
ーー個人ではなかなか負担しにくい金額ですね。菅野投手が発信されることで多くの人に知ってもらい、少しでも寄付に繋がると嬉しいですね。
後藤)はい、とてもありがたいことです。
ーー寄付が増えれえば、もっとたくさんの人が介助犬とともに暮らすことができるようになりますね。
東京ドーム内の介助犬PR特設ブース
ーー菅野投手や読売ジャイアンツは、この介助犬に関してどのような活動をされているのでしょうか。
吉野)まず1つ目は、菅野投手や球団としてサポートすることで、私たちの情報発信力を提供し、認知度アップという課題を解決するためにお手伝いをさせていただいています。
ーー応援している球団がサポートしていると、おのずと興味を持ちますよね。菅野選手や球団が関わることによって、ファンの人たちをはじめとするさまざまな方々に知ってもらう機会が増えますね。
吉野)「好きな人が好きなものが好き」ということを活かして発信しています。こうした情報発信は私たちが持つアドバンテージなので、活動に関わることで認知度アップのお役に立てればと思っています。活動を続けてきたことで、東京ドーム内での認知度もかなり上がりました。
ーーもともと介助犬とは関わりのなかったファンの方への認知度も上がっているのですね。
吉野)ファンの方同士で輪を繋げていってくれていますね。
2つ目の活動は、金銭的なサポートです。菅野投手の勝利数に応じた寄付を行っています。それ以外にも、ノーヒットノーラン達成時のユニフォームをオークションにかけ、売り上げを寄付するなどもしています。
ーー菅野投手は、2019年には285万円の寄付をされたんですよね。素晴らしい活動だと思います。3つ目は、どのような活動でしょうか。
吉野)3つ目は、コラボグッズの販売です。チャリティーコラボレーショングッズを販売し、売上を介助犬のために使っていただいています。菅野投手の肖像や球団の商標など無償で提供させていただき、また、東京ドームの特設ブースや地方球場でのPRブースなどの場所も提供させていただいています。
ーーコラボグッズはどんなものがあるのでしょうか。
吉野)いろいろありますよ!Tシャツ、エコバッグ、ハーフパンツ、パーカー、ポロシャツなどさまざまです。
ーー巨人ファンで犬好きの方にはたまらないデザインですね。私も欲しくなりました。
吉野)ぜひ!最近、球場の中でコラボグッズを身につけている方をよく見るようになりました。
ーー応援グッズのひとつとしても欲しくなりますね。介助犬ユーザーの方からすると、そういったものを身につけている方を見かけると、嬉しくなるのではないでしょうか。
吉野)そうですね。ファンの方とも一緒に楽しみながらサポートができたらいいなと思っています。
ーー活動をするなかで、感じることなどはありますか。
後藤)協会としては、日々とても感謝をしています。繋がりによって菅野投手との縁がうまれ、今があります。活動が始まらなければ、東京ドームのビッグビジョンに介助犬が映ることもなかったですし、ブースを作っていただくこともありませんでした。これからも、みなさんに感謝をしながら活動を続けていきたいです。また、菅野投手の活躍についても近くで応援しつつ、一緒に歩んでいけるような団体でいたいと思っています。
ーービッグビジョンに映るなんて、夢のようですね!
介助犬ブースはファンにとっても癒しの場
ーーコロナ禍で苦労されたことはありますか。
吉野)積極的に活動がしづらい時期はありましたが、オンラインでイベントを実施するなど工夫をして行ってきました。一方で直接触れ合うことができる東京ドーム内の介助犬PRブースはファンの間でも癒しの場所になっていたりしますので、今後も継続して活動したいと思っています。
ーー菅野投手が介助犬についての活動をしてくださることについて、介助犬ユーザーの方からの反応などはありましたか。
後藤)みなさん、菅野投手についてとても興味を持たれるようになったと思います。協会からユーザーの皆さんに菅野投手の動向についてお知らせすると、もうすでに知っていることも多いです。それくらい、菅野投手のことを身近に感じて、注目し応援してているのだと思います。
ーー活動がきっかけで、野球や読売ジャイアンツ、菅野投手へ興味を持たれる方もいらっしゃるんですね。素敵です。
去年より今年、今年より来年
ーー今後の活動について教えてください。
吉野)菅野選手も、球団も、これからも介助犬のバックアップを続けていきたいという強い意志があります。そのなかで、去年より今年、今年より来年というように活動を広げていきたいと思います。このようなご時世ではありますが、止まらずに活動を広げていけたらと思っています。
ーーありがとうございました!介助犬について、これからもよりたくさんの方に知っていただけるとよいですね。ぜひみなさんも東京ドームで試合観戦される時には、ブースを訪れてはいかがでしょうか。