Flora株式会社の代表取締役・クレシェンコ アンナさん(以下:アンナ)はウクライナご出身で、現在京都大学に留学しながら日本で産前・産後うつのメンタルヘルスケアに関する事業を展開しています。
ラストとなる後編では、アンナさんの想いにフォーカスして、Sports for Socialを運営する株式会社HAMONZ代表取締役・山﨑蓮(以下:山﨑)との対談の内容をお届けします。
<前編>「“あなたはあなたのままでいい”パートナーの産前・産後うつに寄り添う」
<中編>「“差別や偏見を無視して進むほうがラクだ”と思わないで」
現状に「満足していなかった」
ーー後編ではアンナさんご自身について伺います。まず、アンナさんはなぜ留学先で日本を選んだのでしょうか?
アンナ)子どもの頃に空手をやっていたこともあり、少し日本について知っていました。そしてウクライナの大学に行っていた頃、「留学に行きたいな」「ずっと同じところ(ウクライナ)で勉強するのは嫌だな」と強く思い、留学プログラムを探したところ、空手の縁もあったので、日本に留学することになりました。
日本は技術が進んでいる国というイメージがあり、ウクライナとまさに真逆のような社会だと思い、挑戦したいと思いました。
山﨑)ウクライナではなくて、日本で会社を立ち上げられた理由はなんでしょうか?
アンナ)大きな理由としては、「満足していなかった」ことがあります。大学で勉強をしていましたが、授業にも周りの人にも満足していなかったんです。「自分の人生はこういうふうに、だんだん慣れていってしまうんだ」と思い始めてから、「自分は何をやりたいか」というのを探し始めました。特に2回生のときは色々なビジネスコンテストにも応募しました。そこでビジネスコンテストに1回出て、やはり「“0から1”を創ることが好きだな」「起業が性格と合っているな」と感じました。そういう経緯です。
画像提供:Flora株式会社
山﨑)産前・産後うつのメンタルヘルスを事業の柱に選んだ理由はなんでしょうか?
アンナ)ビジネスをやりながら社会貢献するのが素敵だなと思い、社会的企業を作ろうと思っていたことが1つ。
そしてもう1つが継続性です。企業をつくるからには、継続的に事業をしなければならず、それなりのモチベーションがないと続かないですよね。
私の中の身近な問題といえば、従姉妹のうつの経験があります。短期的には利益が出なくても頑張れるという確信があったので始めようと思いました。
日本は妊産婦の自殺率が高い
山﨑)妊婦さんとも実際に触れ合う機会があると思いますが、実際に苦しみを抱えてる方とお話した中で印象的だったことはありますか?
アンナ)結構怖い話も聞きました。やはり日本は、諸外国の中でも、妊産婦の自殺率が高い国と言われていて、毎年100人もの妊婦さんが自殺をしています。社会通念からすると、妊産婦の時期は最も幸せな時期ですよね。実際にそうではないということを発見して、とても印象的でした。
※国立成育医療研究センターが2015〜16年に行った調査では、1年で102人の女性が妊娠中から産後にかけて自殺していていることが判明。
私たちは今、産前・産後うつのメンタルヘルスに関する事業を展開していますが、妊活中のメンタルサポートもとても大事だと思っていて、将来はそこにも事業を拡大しようとしています。不妊治療を受けた方の半数ぐらいは抑うつ症状が出ています。ある方が「自分の子どもを授かるために10年で1000万円の費用がかかる」と仰っていて、これは社会問題なのではないかと思いました。
そういう話を伺って、一時期的には私も苦しい思いをしましたが、もっともっと頑張らないといけないとも思いました。
アンナさんの想い
山﨑)漠然とした質問ですが、日本で事業をスタートして、色々な人と出会う中で感じることはありますか?
アンナ)売り上げを目指している起業家との出会いではなくて、インパクトを目指している起業家との出会いはとても素敵です。自分の夢を実現させる中で、事業が思い通りにいかないこともありますが、自分の夢のために全力で頑張っている姿を見て、いつも感動しています。
山﨑)一起業家としてとても共感できます。アンナさんの今後の展望について教えてください。
アンナ)「思春期から更年期まで女性の自分らしさを守りたい」と考えています。「社会に合わせる必要はなく、自分らしく生きてもいい」というメッセージを、多くの女性に伝えたいと考えています。
山﨑)今回のテーマでもある「男性目線で女性のコトを考える」について、是非アンナさんから男性へメッセージをお願いします。
アンナ)男性には「黙っていてはいけない」と伝えたいです。差別などのジェンダー問題は女性だけの問題ではないので、「自分の問題」として捉えてほしいです。
ーー産前・産後うつについて様々なお話を伺いましたが、山﨑さんが今日感じたことを教えてください。
山﨑)今回、アンナさんにいろいろとお話いただき、私にとって全てが新しい発見でしたし、多くのことを知ることができました。こういう機会がもう少し世の中に増えてくると、男性側の理解が深まるのではないかと思っています。
いきなり「女性のことをもっと考えなさい」「もっと勉強しなさい」と言っても誰も動けないと思うんです。だからこそ、こういう出会いやきっかけが世の中で増えてくると、少しずつ変わっていくのではないかと思いました。
アンナ)やはり勉強というよりは、ディスカッションすることが必要だと本当に思います。このような場を設けて、さまざまな人がディスカッションできるようになれば良いと思います。
編集部より
後編では、社会や事業へのアンナさんの想いを伺いました。
「自分らしく生きてもいい」というアンナさんのメッセージに私も勇気付けられました。
性別に関わらず、ジェンダーの問題を自分の問題として捉えるには、まず身近にある問題を知ること。1人の意識が変わることから、社会は少しずつ変わっていくはずです。