「学生の力を活用したい!」と思う企業やスポーツチームは数多く存在し、学生たちも社会につながる経験を求めてインターンなどに積極的に取り組む時代になっています。
そんな中、J2・モンテディオ山形が2023年1月に結成を発表した『U23マーケティング部』が注目を集めています。
県内外から集まった23歳以下の学生約40人が、年間を通して学びと実践を行うこの活動について、株式会社モンテディオ山形代表取締役社長 相田健太郎氏にお話を伺いました。
山形の若者が自ら動ける『場』を
ーー1年間かけてマーケティングを学び、ホームゲームでの集客やイベントなどのアイデアを実行する『U23マーケティング部』はどのような経緯で立ち上がったのでしょうか?
相田)もともと、山形県において若者の人口流出が大きな課題となっていました。私も4年間モンテディオ山形に関わる中で、若者がなにかを実現したり、やりたいことをやってみる場所は想像以上に少ないと感じていました。
大人に用意されたステージの上で活動するのではなく、自分たちから考えて「これやっていいですか?」と動き出すことはなかなかありません。Jクラブである私たちがそうした“場”を作ることで地域が元気になるだけでなく、年齢の若い人々が山形県という土地に対して可能性を見出してくれたら、という想いでスタートしました。
ーー昨シーズンから、学生を絡めたホームゲームでの企画(高校生マーケティング探求、ガールズデー女子大生プロジェクト)なども実施されていましたね。
相田)昨シーズン高校生や女子大生の子たちにホームゲームの企画に参加してもらって感じたのは、彼らは私たちの想像以上にしっかりとした考えを持っているということです。同時に、そうした考えを具体化する場所がないだけなのではないかとも感じました。
昨シーズンは計画的に予算をつけることができなかったのですが、今シーズンはちゃんとそうした『場所』と『お金』と『機会』を作ろうと動き、実現に至りました。
ーーそうした準備の面も含め、若者に対する本気度がすごいですね。
相田)海外では、若くても優秀な子はどんどん起業していて、日本においても少しずつ事例が増えてきました。言ってしまえば今の学生の皆さんはそうしたことができる世代です。
このU23マーケティング部の構想段階では、あわよくば社内の部署の1つにしてしまおうかという話にもなるほど、そのくらい学生たちの世代を巻き込むことは私たちにとってもいいことです。彼らからしても「やったことが実現してニュースになる」といったことや「クラブの動きに反映される」ことが、学びにも自信にもなる。そんな環境を作ろうと思っています。
本当の意味で『ホームタウン』に貢献する
ーーU23マーケティング部の活動を進めていく上で、クラブはどのようなサポートの体制を取っているのでしょうか?
相田)この活動の管轄の主体は、ホームタウン活動を担当する部署になります。私は、ホームタウン活動はただの慈善事業ではなく、現実としてファンを増やし、チケットを売る、いやらしい言い方をすると“お金を稼ぐ”ということが必要な活動だと認識しています。
そうしたお金の部分やクラブ全体のこともU23マーケティング部のメンバーにはしっかり知ってほしいので、ホームタウン部だけでなく営業や強化など、他の部署の部長たちもよく顔を出してくれています。
ーークラブ全体で関わろうといういい雰囲気を感じます。
相田)私たちも学生の皆さんからいろいろと学べるので、みんなで楽しみながら関わっています。
ーー40人、23歳以下で学びに意欲的なメンバーがいると、それだけで価値がありそうですよね。
相田)将来的には、そのリソースをモンテディオに対してだけでなく、地域の中の課題解決にも提供していきたいです。そうなることではじめて、ホームタウン活動としてこのU23マーケティング部がある意義が出てくると思います。
山形に限らず、地方都市で多い年齢の高い経営者の皆さんや、自治体の方々にもこうした若者の力を活用していただき、町の雰囲気を変えていきたいですね。
必要とされる『マーケティングを学ぶ場』
ーー実際にU23マーケティング部がスタートし、学生たちの様子をご覧になられていかがですか。
相田)いや、本当すごいの一言ですね。(笑)すごくロジカルに物事を言える子も多いですし、話し合いややり取りがアクティブです。いろいろなものを使いこなす能力や技、理解力などはとにかく素晴らしく長けてるなと思います。
ーー学生たちも、やらされずに自分たちで積極的に取り組めていそうですね。印象的な学生はいらっしゃいましたか?
相田)「俺サッカー全然見たことないです」という子がいます。「なんで参加したの?」と聞くと、「マーケティングって生きていく上で多分必要なことになりますよね」とさらっと言われました。
ーー「マーケティング」というものを必要だと思いながら、もしかしたら学ぶ場に困っていたのかもしれませんね。
相田)そうですね。受け身でいるとどうしても大人が作った過保護な環境で学ぶことが多くなってしまうので、今回のような募集に自分から積極的に飛び込むことは素晴らしいことです。
学校や保護者などは関係なく、自分が本当にやりたいことがあれば信頼できる社会の師匠に相談してどんどんやってみてほしい。そう言える環境が増えれば、ひょっとしたら日本におもしろい会社が増えるきっかけになるかもしれませんね。
ーー若い世代の方々の特徴はどんなところにあると考えていますか?
相田)私自身は、学生たちからするとお父さんの世代です。お客様を楽しませるために、世の中にあるデジタルの技術や新しいものを使っていこうとしますが、“必死”なんですよね。
ですが、U23マーケティング部のメンバーはナチュラルに使いこなします。『普通』の価値観が良くも悪くもコロナ禍で変わってきた中で、こうした変化を素直に受け入れ、若者たちの力を活用しようと思えることで、私たちの世代も気持ちが楽になりますよね。
ーーこうした若い世代の力をいまの経営者たちが受け入れていくことで、地域が変わっていく絵が見えてきますね。
将来のモンテディオの社長が!?
ーー今回のU23マーケティング部へのまわりの反応はいかがでしたか?
相田)『場所』『お金』『機会』を設けて1年間活動するという点への驚きは多くいただいています。Jリーグからも、サッカーにおける若年層の集客という意味での注目や期待は大きなものを感じています。
スポンサー企業の社長さんからは、「もし何か悩んだら相談しに行っていいですか」という声もあり、嬉しい限りですね。
ーー地域の未来に投資しようという思いが、スポンサー企業さんなども巻き込んで実現していくとよいですね。
相田)そうですね。そのためにも、U23マーケティング部のメンバーがやりたいことをしっかりと“プロスポーツクラブ”として出せるクオリティにしていかなけれらなりませんね。お金をいただけるレベルのものをクラブとも一緒に話し合いながら行い、自信を持てるようになるといいなと思います。
そしてしっかりそれを発信し、「自分がやったことが世の中に認められた」という自信をU23のメンバーが持てることも大事にしていきたいと思います。
ーー最後に、今回参加しているメンバーにとってどんな場になってくれたら嬉しいですか?
相田)基本的に、世の中すべてがうまくいくことではないので、まずは自分がウキウキして、まわりが幸せになるようなことを楽しくやってほしいと思っています。
この1年間を通して、“人を巻き込むこと”“自分から提案すること”に臆病にならず、“人と話すこと”を苦にしない子たちが多く出てくれると嬉しいです。山形に似た環境の地方都市は多くあるので、そうした違う場所でおもしろいことをしてくれるのもいいかもしれませんね。
彼らを見ながら「将来ここの中から、モンテディオ山形の社長をやる子が出てくるのかな」などと考える幸せも感じています(笑)
ーー今後が楽しみですね!ありがとうございました!