『エクスポネンシャル』とは、これまでテクノロジーが1の次が2、2の次が3と人間の経験則や直感に基づいてリニア(直線的)に成長していくと思われていたことに反し、1の次は2、2の次が4、4の次が8のように急速(指数関数的)に成長することです。今回は、エクスポネンシャルの意味を掘り下げながら、今話題になっている理由や具体的に研究が進められているエクスポネンシャルテクノロジーの導入事例や今後の展開について解説をします。
エクスポネンシャルの意味
エクスポネンシャルとは、直訳すれば「指数関数的」という意味です。指数関数のグラフが急上昇するカーブを描くように、飛躍的な発展を遂げる企業のメカニズムやテクノロジーの進歩を説明する際に用いられる概念です。テクノロジーについて足し算(直線的)で成長すると想像していたことに対し、実際のテクノロジーは倍々の掛け算(指数関数的)で成長しているようなイメージです。
エクスポネンシャルの本質的に意味については、人工知能研究の世界的権威でシンギュラリティ大学創設者のレイ・カーツワイル博士が、対義語Linear(線形的)と対比した上で、次のような説明を行っています。
「人間の直感がLinearであるのに対し、人類やテクノロジーの進化は、歴史的にExponentialである」
なお、エクスポネンシャルな成長が期待されるテクノロジーとして代表的なものにゲノム解析、ナノテクノロジー、太陽光発電蓄電、脳波解析が挙げられています。
なぜ、今エクスポネンシャルが話題になっているのか
エクスポネンシャルが話題になった理由は、シンギュラリティについて理解するとわかりやすくなります。
シンギュラリティ
シンギュラリティとは「技術的特異点」のことで、レイ・カーツワイル博士らが示した未来予測の概念です。テクノロジーの加速度的な進化の結果、いずれコンピュータは人間の知能を超える「超知能」を獲得するようになり、人間にはその「超知能」がどのように振る舞うか予測も制御もできず、その影響によって社会や人々の生活に決定的な変化が起こると考えられています。
このシンギュラリティはいつ起こるのでしょうか。人工知能研究の第一人者である先述のレイ・カーツワイル博士は、「2029年にAIが人間並みの知能を備え、2045年に技術的特異点が来る」と提唱しています。AIが人類の脳を超えることで、AI自身がより優れたAIを生み出せるようになると言われており、その結果、2045年以降人類は何かを新たに発明する必要がなくなったり、AIが出す答えや生み出す物を予測することができなくなったりすると言われています。
プレ・シンギュラリティ
また、シンギュラリティの前に起こるものとして、プレ・シンギュラリティという概念があります。シンギュラリティがAIが人間の能力を超えるという技術的な変化を示す「技術特異点」であるのに対して、プレ・シンギュラリティは現在の社会的なシステムが変化する「社会特異点」を意味しています。スーパーコンピュータ開発者で次世代の汎用人工知能の研究者である齊藤元章氏によると、このプレ・シンギュラリティは2030年ごろに起こると予想されています。
プレ・シンギュラリティ(社会的特異点)やシンギュラリティ(技術的特異点)は、社会にどんな影響を与えるのでしょうか。考えられるのが、「モノの価値」や「仕事のあり方」の変化です。モノの価値については、AI技術の進歩によりあらゆることが自動化されて生産や流通に人が関与しなくなると、人的コストを抑えることができるようになります。仕事のあり方については、2014年に英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らが発表した論文「雇用の未来—コンピューター化によって仕事は失われるのか」によると、20年後には今ある仕事の47%はなくなるという結論が導き出されています。
エクスポネンシャル・テクノロジーとは
エクスポネンシャル・テクノロジーとは、指数関数的に成長していくテクノロジーのことで、人工知能やVRなどの技術が例として挙げられます。シンギュラリティ大学が28種類の技術をエクスポネンシャル・テクノロジーとして定義しています。
28種類のエクスポネンシャル・テクノロジー
- 無人航空機
- バーチャルリアリティ(VR)
- 拡張現実(AR)
- ビッグデータ分析
- サービスロボット
- 機械学習
- 脳とコンピューター結合
- 3Dプリンター
- 4Dプリンター
- デジタル取引
- 携帯式分析器
- 自動運転車
- シェアリングエコノミー
- モジュール化
- 再生可能エネルギー
- 知覚インターフェース
- 量子コンピューター
- 群制御、群知能
- 人工臓器
- ナノ粒子
- ナノ素材
- 遺伝子治療
- 遺伝子編集動植物
- センサー群
- スマート繊維・素材
- テレプレゼンス
- 感情コンピューティング
- ニューラルネットワーク
エクスポネンシャル思考とは
エクスポネンシャル思考とは、シンギュラリティ大学で教えられているメインテーマのひとつで、変化や成長が著しく激しいこの時代を生き抜くための考え方のことです。技術進化のスピードはエクスポネンシャル(指数関数的)で、今後はそのスピードに対応した生き方を選択する必要があります。つまり、エクスポネンシャル思考とは、そのような時代の中で生きるためのテクノロジー俯瞰力とも言えます。
エクスポネンシャル思考の代表的な事例を2つご紹介します。
ベンチャーが大企業を倒せる時代
アマゾンを事例に考えてみましょう。アマゾンは創業30年弱で、GAFAMで表されるように世界的な大企業へと成長しました。創業当時はオンライン書店として自宅ガレージで事業をはじめた同社は瞬く間に成長し、当時のアメリカでNo.2の書店チェーン「ボーダーズ」が経営破たんする原因のひとつにもなったと言われています。
これまではベンチャー企業や中小企業が大手企業に勝負をするには、大手企業が参入しない「ニッチ」な分野を狙い、そこでの地位を確固とするのが定石でした。しかし、アマゾンの例のように、大手が参入している分野でも近年ではベンチャー企業も新しい価値を創出し、既存の大手企業のシェアを短期間で奪取できることもあります。このような新しい価値は、テクノロジーを俯瞰することで生み出されますので、企業においても外部環境やテクノロジーのエクスポネンシャルを見極め、新しい価値の創造に向けてチャレンジし続けることが企業の発展と生き残りをかけて必要不可欠だといえるかもしれません。
個人の力が大きくなる時代
今はSNSで個人の才能を世の中の人に対して自由に発信することができ、個人の才能やポテンシャルを社会に発揮できる時代です。フォロワーの数、「いいね」の数で多額の収益を得るインフルエンサーも出現しています。組織や会社名ではなく自分自身を会社と見立てて信用力を高め、能力を発揮する時代が訪れているといえます。
クラウドファンディングなどの登場で資金を持たない個人でもインターネットを通じて資金調達を行うことができるため、新しい商品やサービスを生み出せるようになりました。テクノロジーによって個人の力が組織や会社の壁を超えて輝き始めています。エクスポネンシャル思考では、「10%の成長ではなく、10倍の成長を目指せ」のように、エクスポネンシャルで進化するテクノロジーを前提に、考え方そのものも直線的ではなく指数関数的に発想していくことが提唱されています。