「人新世」とは、21世紀に入ってから新たに提唱されている「人類の時代」という意味の地質学の新しい時代区分です。人類が産業革命などを通じて地球規模の環境変化をもたらした影響に注目して提案され、SDGsが提起する人類社会の将来展望とも深く関わっています。今回は「人新世」の意味、そしてなぜいま注目を集めているのかについてわかりやすく説明します。
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人新世とは
人新世とは、地質学における時代区分の1つです。地球上の岩石層に残された生物の化石などをもとに時代を区分する地質時代では、時代の区分は大きなものから「代」と呼ばれ、それが「紀」に分かれ、さらに「世」に分かれます。
例えば、恐竜が生きていた時代区分は中生代・白亜紀となります。その後、「新生代・第四紀・完新世」から私たち人類の活動は始まり、現代まで続いていると言われています。しかし、産業革命以後の約200年間に人類がもたらした戦争や森林破壊における環境への影響や気候変動はあまりに大きく、「完新世」はもはや人類中心の「人新世」となっているということで、オゾンホールの研究でノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン博士らが2000年に「人新世」という時代区分を提唱したのが始まりです。
しかし、人新世は、地質学の国際組織「国際地質科学連合」に公式に認められた時代区分ではありません。国際的な評価を得るためには、岩石層に刻まれた完新世と人新世との境界線をはっきりと定義する必要があるということで、今日もさまざまな学者が研究を続けているということを押さえておきましょう。
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人新世とSDGs
近年注目を集めている人新世ですが、この考え方はサステナブルな未来の実現を目指す上で深く関わっていると言われています。
SDGsに配慮していることを示すラベル、洋服のリサイクル・途上国への洋服支援など、身の回りには、これまで通りの消費行動に安心感を与えてくれるような取り組みを行っている企業も多く、また、産業政策として新技術を開発することで、環境保護と経済成長を両立させる動きがあります。
しかし、経済成長を優先する資本主義を突き進んでいった結果、あらゆる環境破壊が起きてしまっている人新世の現状を受け止め、経済成長を止めることこそがサステナブルな未来の実現には必要だという意見も増えており、環境問題を表面的に捉えずに、思想や哲学、文化など、さまざまな観点から捉えることが必要だとされています。
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人新世のこれから
SDGsには17のゴールがありますが、それぞれが切り離されているわけではなく、すべては密接につながっています。経済の持続的な発展も包摂的な社会の実現も、安定した地球という土台がないことには成り立ちません。SDGsが話題になりつつある中で、本質的な課題にも目を向けることが必要であるということを人新世は教えてくれます。その事実を知ったうえで消費行動に取り組むことが人新世の時代を生きる私たちに求められていることかもしれません。