“戦争”を知らない世代が増えている中、平和への想いを未来へ語り継ぎたい。
Sports for Socialでは「#平和をつなげる」をテーマに平和活動に取り組まれている方々の想いを発信していきます。
Jリーグ、V・ファーレン長崎では「愛と平和と一生懸命」を平和祈念活動のキャッチコピーとして年間を通じて平和活動に取り組んでいます。
今回は、V・ファーレン長崎所属で長崎県(V・ファーレン長崎U-18)出身の五月田星矢(さつきだ・せいや)選手にお話を伺いました。長崎で生まれ育った五月田選手だからこそ感じる「平和」について、皆様にも知っていただければと思います。
勝負事のサッカーと平和活動をつなげる難しさ
ーーV・ファーレン長崎アカデミー出身の五月田選手。アカデミー時代、最後の昨年の平和活動はどのような活動をされましたか?
五月田)はい、ちょうど新型コロナウイルス感染拡大の時期が被っていたということもあり、どこかに足を運んで平和活動をするということは難しかったのですが、クラブが企画したアカデミー選手向けの「平和学習」として、寮で社長も含めチームメイトとディスカッションなどを行いました。平和とサッカーをどう結びつけ、繋げていけるかということについて考え、グループで話す機会を作っていただきました。
ーー実際に話を聞いたりディスカッションをしてみて、感想などはありますか。
五月田)この機会の前は、スポーツはやはり勝ち負けがあり、勝つためにやっていることなので、平和と結びつけるのは難しいと考えていました。
しかし、V・ファーレン長崎は「フェアプレー」や「一生懸命プレーする姿を見せる」ということで、平和につながるきっかけを作ることができるということを大切にしています。見方を変えれば「そういう点でも平和も伝えられるのだな」と新しい発見ができました。
ーーなるほど。そこからプレーの意識も変わりましたか?
五月田)そうですね。そういうことを意識してプレーするようにしています。
©VVN
トップチームに昇格して感じるこれまでとの違い
ーー実際にトップチームに昇格してからの平和活動はいかがですか。
五月田)トップチームでも、毎年クラブが企画した「平和学習」がありますが、私はそれに加えて新人研修の一環で、長崎出身者として「平和学習」を重点的に実施しました。原爆資料館に行って館内を回ったり、実際に被爆された方の話を聞きました。当時の話を聞いたり、被爆二世の方などの話を聞いて、それをどう今後につなげていくかということを考えることができました。ずっと長崎で過ごしてきましたが新しい発見があったので、本当に良い機会だったと思います。
ーー被爆二世の方々もいろいろとお話ししてくださるんですね。
五月田)私たちは紙芝居で実際にあった話を聞きました。紙芝居を通して当時の話を伝えてくださいました。
ーーなるほど。興味深い伝え方ですね。これまでも長崎県民として暮らしてきたと思うのですが、幼少期に学校で経験してきた平和活動と比べて、長崎を象徴するサッカークラブの選手として活動をすることで変わった点はありますか。
五月田)今までは知る・学習するという立場でしたが、発信力のあるプロサッカー選手という立場になったことで、次は発信する側として活動していかないといけないなと思うようになりました。
平和について伝えることの難しさ
ーー長崎県民の方としてお伺いしたいのですが、原爆についての平和学習などは頻繁に行われるものなのですか。
五月田)そうですね。まず、学校では8月9日(長崎原爆の日)は必ず登校日に設定されていました。その時には、夏休みに入る前に事前に平和について学習したことをグループで発表したことを覚えています。また、被爆された方が学校に来てくださっての講話もありました。毎年8月9日は、何かしらの平和活動に取り組んでいましたね。
ーー学習する側から伝える側に立場が変わっていく中で、気をつけていることなどありますか。
五月田)小学生の時に原爆について話を聞いた時には「原爆は命がたくさん奪われたもの」というような怖いイメージしかなかったです。しかし、実際に今年、家族証言者の方と話した際に、「もちろん怖いことではあるのだけど、怖いイメージを持たれると興味を持ってもらえなくなるので、例えば、現代に近い話を混ぜ合わせて工夫している」という話を聞いて、そのような工夫も必要なのだと学びました。例えば、爆弾をドラゴンボールに例えて大きさを説明したり、実際に模型を持っていって参加者に持ってもらったりされているそうです。被爆された方が少なくなっていく中で、被爆二世の方や家族証言者の方は、さまざまな工夫をされて伝える活動を行っていると伺いました。
ーー今後、五月田選手をはじめ長崎の選手がお話をする機会もあるかとは思います。実際にスクールの子などに話をして欲しいと言われたらいかがですか?
五月田)難しいですよね。やはり伝え方は大事だと思います。どうやったら伝わるのかどうやったら少しでも考えるきっかけになるのかと考えると、やはり言葉の選び方などは難しいと感じました。
また、小さい子どもが相手になると、伝え方を変えないとわかりにくくなってしまうと思うので、そのような点も勉強していかなくてはいけないと感じました。
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自分が考える「平和」について発信したい
ーー五月田選手が発信することで、平和についてどのように伝わってくれたらいいなと思いますか。
五月田)もちろん、戦争はダメだとか戦争の悲惨さを伝えることも大事だと思うのですが、本当に戦争が起きるのかと考えると、少し現実味がないのかなとも感じています。ですので、原爆の怖さを伝えることだけでなく、私が一番伝えたいことは「命の大切さ」です。これは、どの時代においても共通することだと思いますし、どこの国に行っても共通することだと思うので、私が平和学習を通して一番感じた「命を大切さ」について伝わっていったらいいなと思います。
ーー『命を大切にする』という点で気になっている社会課題はありますか。
五月田)自分なりの「平和とは何なのか」を考えたときに、戦争がないことが平和なのかと言われたらそれだけではないなと思いました。例えば、いじめが原因で自殺する子がいたり、自分の手や他人の手によって命が奪われたりということが起こらないことが、平和につながると思うので、そういうことについても取り組んでいければと思います。
ーー素晴らしいですね。『命を大切にする』ということへの五月田選手の想いが伝わってきます。
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長崎にあるチームだからこそ
ーー今のチームについて伺いたいと思います。長崎のチームとして平和活動をされていると思うのですが、長崎出身の五月田選手だからこそできる「チームの中でやっていきたいこと」はありますか。
五月田)私はまだ全国的に有名な選手ではないので、まずは試合で活躍して発信力をつけたいと思います。しかし、私自身が発信力をつけるだけでなく、V・ファーレン長崎には有名な選手がたくさんいるので、チームメイトにも何か感じてもらって、それを一人一人が発信することで伝わる人を増やしていけたらと思います。ですので、私がまずチームメイトに長崎で起きたことや命の大切さについて知ってもらえるような取り組みをしたいと思います。
ーー五月田選手から見て、長崎出身でない出身の選手の方々の考えや思いはどう感じますか。長崎出身でないと遠いもののような気もしてしまうのですが、いかがでしょうか。
五月田)長崎出身でなくても、さまざまなことを感じて発信してくださる選手もたくさんいますし、長崎から移籍した選手の中には8月9日になると発信してくださる選手もいます。V・ファーレン長崎での活動を通して平和への考えが深まって発信してくれる方が増えたと思うので、そういう方を徐々に増やしていけたらいいのかなと思います。
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伝えるだけではいけない。考えるきっかけを発信したい。
ーー最後に、今後取り組んでみたいことなどについて教えてください。
五月田)今回、平和活動を通して、本当にたくさんのことを学ぶことができたとともに、伝えるということが本当に難しいことだと分かりました。その中で、平和について考えて知って発信していくことは大切だと思うのですが、ただ発信するだけではいけないとも思いました。私自身ができることは、平和や命の大切さについて考えるきっかけを与えることだと思っています。そうしたきっかけになるよう発信していきたいと思います。「平和について伝える」。そうした発信力のためにも、サッカー選手としてこれからも頑張っていきたいと思います。
ーーありがとうござました!これからのご活躍、応援しています!
編集部より
取材に真摯に応えてくださった五月田選手。長崎に生まれ育ち、平和活動に触れ合い考え続けてきたからこそ持っている「平和」への考えにとても頼もしさを感じました。終戦から76年経った今、平和についてしっかりとした考えを持つ10代がいるということは、これからの世界にとっても大きな希望であるように思います。今後のサッカー界を担う五月田選手の発信を通じて、同年代の若者たちが平和について考える機会が増え続けていったらいいなと感じました。