“戦争”を知らない世代が増えている中、平和への想いを未来へ語り継ぐため、Sports for Socialでは「#平和をつなげる」をテーマに平和活動に取り組まれている方々の想いを発信していきます。
JリーグクラブであるV・ファーレン長崎では、シャレン!活動を始め、年間を通じて平和活動に取り組んでいます。『平和の灯を世界へ』と題し、4回にわたってクラブの平和への想いをお伝えします。
第1回である今回は、V・ファーレン長崎が昨年行い、シャレン!アウォーズにエントリーした「愛と平和と一生懸命〜長崎市と連携協力した平和の灯~」の活動について、代表取締役社長である髙田春奈氏(以下:髙田)にお話を伺いました。
長崎市と連携協力した「平和の灯」
「平和の灯」は、平和祈念式典の前夜(8月8日)に、長崎市民が手作りのキャンドルに平和への願いをこめたメッセージを書き入れて、灯をともすことで、原爆で亡くなった多くの方々を慰霊し、一人ひとりが原爆の惨禍を決して忘れることなく、若い世代に平和の尊さを継承していくために毎年開催している行事です。 V・ファーレン長崎では、多くの方にこの行事のことや平和について知ってもらうべく、2020年7月18日に平和の灯のイベントで使用するキャンドル作りのイベントを長崎市の長崎市民会館で開催しました。
ーーこの活動を始められたきっかけを教えてください。
髙田)長崎市で毎年「平和の灯」というイベントをされていて、そこにV・ファーレン長崎も参加させていただきました。
私たちだけでなく、ファン・サポーターの方々にも参加していただき、平和について一緒に考えていただく機会を作ると、より平和への想いが広がるのではないかと考えました。そこで、参加型のワークショップイベントを7月に開催しました。
8月の平和の灯では、他の皆さんと作ったろうそくに選手たちのメッセージを書いたものをクラブマスコットのヴィヴィくんが代表して持って行き、参加させていただきました。
ーー長崎のシャレン活動は「ファンの方と一緒に活動する」という想いが強いと感じます。その考えの背景を教えてください。
髙田)平和は、多くの方と享受するものなので、どれだけの方を巻き込めるかが大切だと考えています。長崎が被爆地であって過去にこういう苦しい経験をした、だから戦争は二度と起こしてはならないことだと多くの方感じてもらいたいのです。
長崎のファン・サポーターはその想いを理解している方が多く平和活動に対して一緒に活動したいと思ってくださるんです。
昨年は、折り鶴を作るワークショップもホームゲームのイベントとして実施しました。そこにも多くの方が参加してくださいました。ファン・サポーターの方々の力を借りて活動するのが長崎らしいやり方だなと思っています。
愛と平和
ーー髙田さんにとっての“平和”とはなんでしょうか?
髙田)私は「愛」がベースにあると思っています。原爆にしても、投下されたところにたくさんの人がいてその人たちの生活があってということを想像したら、とてもそんなことできなくなるというのが人間だと思っています。
サッカーで考えても、敵味方があれど同じサッカーファミリーだという想いでおもてなしをするような長崎のスタイルは平和の源泉にあるような気がしています。シンプルに、リスペクトや異質な他者を受け入れる気持ちをみんなが持てれば戦争はなくなると思っているので、V・ファーレン長崎というクラブのスタイルでそれを証明したいです。
ーースポーツの“フェアプレー精神”と“平和”は親和性が高いと感じました。サッカークラブがこの活動をする意義はどういったことだと思われますか?
ひとつは、サッカーのプレースタイルや地域密着型の活動など、Jリーグだからこそのスタイルで平和を表現できることがあると思います。
また、サッカーというスポーツは世界中で愛されていて、とても大きなパワーを持っていると感じているので、サッカークラブが平和活動をする意義は大きいと思っています。強くなって世界に向けて発信することで、より多くの方にメッセージを届けられると考えています。
世界に向けたメッセージ
ーーV・ファーレンでは外国籍の選手も一緒に活動していることも印象的です。外国籍選手が長崎で平和活動をすることで、選手に何か変化はあったのでしょうか?
毎年、選手に平和研修をしていますが、一昨年は被爆体験伝承者にお話しいただいての研修を実施しました。
その時に一番印象的だったのが、元コロンビア代表でもあるビクトルイバルボ選手の反応でした。話を聞いた時に、「長崎にこんなに苦しい経験があったことを知らなかった」と涙を流して彼が受け止めてくれたと聞きました。
昨年、長崎のホームページで多言語で平和のメッセージを出しました。イバルボ選手にイタリア語で想いを語ってもらったのですが、その内容が本当に素晴らしく私もとても感動しました。愛がベースにあるという話を自分の言葉で語っていました。研修でのメッセージが伝わり、選手から自分の言葉で語られたことがとても嬉しかったです。
ーー長崎県ご出身であることの平和活動への想いを伺ってもよろしいでしょうか?
長崎出身ですが、長崎には小学校までしか住んでいなかったし、長崎に戻ってくることは全く考えていませんでした。子供の頃から平和への想いはとても強かったので、だからこそ長崎にこだわってなかったというところがあるんです。世界平和のために貢献したいからこそ、長崎だけでなく社会や世界のためにという想いが強かったです。
ですが、V・ ファーレン長崎は平和への想いを持った人たちが、サッカーを通して世界に向けて発信できるという組織であるからこそ、ここで働く意義は大きいと思いました。長崎を拠点とするクラブとしてここから平和への想いを広げていけるように頑張らなくてはいけないと思っています。
ーー長崎県では幼い頃からの平和教育を受けると聞きますが、その教育が活動に与える影響はありますか?
長崎の方は平和への理解が深く活動にも協力的ですが、共通言語を持っているからこそ、知識の少ない県外や海外の方に対しても伝わるように発信し、平和への想いを広げていく必要があると考えています。
平和への想いを未来へ
ーー他のクラブと一緒に活動をしていきたいというビジョンはありますか?
2018年にサンフレッチェ広島と、2019年はFC琉球と平和祈念マッチを開催しました。去年はコロナの影響もあり一緒に活動ができなかったのですが、広島と琉球に限らず、いろいろなクラブを巻き込んで平和活動を行っていきたいと考えています。
ーーどうやって他のクラブを巻き込みたいかアイディアがあれば教えてください。
クラブマスコットのヴィヴィくんが人気で、2021Jリーグマスコット総選挙では1位になることができました。ですが、ヴィヴィくんは、総選挙の時も1位になるために争うということではなくて、みんなを喜ばせたいという想いで活動していたんです。本当にヴィヴィくんは平和の象徴だと思います。
多くのクラブがヴィヴィくんとのコラボに協力的で、コラボグッズを出すなど良い意味でV・ファーレン長崎を活用してくださっています。
各クラブのマスコットは個性的で多様性もあるし、敵味方を超えたマスコット間の交流はとても平和な時間・空間だと思います。ヴィヴィくんの周りには愛が溢れて平和な気持ちになれると思うので、例えばヴィヴィくんをハブとした平和の発信をしていけたら素敵だと考えています。
ーー最後に、これからに向けた想いを教えていただけますか?
できることを地道に頑張るしかありません。
今年、私は長崎市の平和宣言の起草委員に起用していただきました。長崎市長が8月9日の平和祈念式典で読み上げる文章を一緒に考えるチームが毎年結成されていて、その中にお声掛けいただいてクラブの代表として参加させていただきます。
実際に被爆した方や平和の団体の方、大学の先生という平和活動を本気で推進してくださっている方々の中に入れてくださったということは、V・ファーレン長崎を平和活動に注力している団体だと認めてくださったということだと考えています。社会的使命を感じながら、活動しなければいけないという緊張感は持っています。
これからも、長崎にあるクラブとして、平和に対しての理解を深め、その想いを発信していきたいと思います。
編集部より
次回はヴィヴィくんに平和への想いを伺います。みなさん、ヴィヴィくんと一緒に平和について考えてみませんか?