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【現役WEリーガーが聞く!】女性アスリートのデュアルキャリア〜女子野球の現状・阪神タイガースWomen 中江映利加〜

阪神タイガース・中江

この連載では、WEリーグのノジマステラ神奈川相模原に所属する常田菜那が、現役アスリートが出来る社会貢献活動を考え、インタビューしていきます。

現役アスリートとして、競技に専念することは当たり前。その中で「競技を通してもっと地域や社会に貢献したい」「自分にできる取り組みをしたい」という思いが強くある常田さん。アスリートが現役中に社会の課題と向き合うこと、地域貢献活動をすること、そうした意義のあることを現役アスリート目線で発信していきます。

今回のテーマは、「女性アスリートのデュアルキャリア〜女子野球の現状〜」。現在、国内に女子野球のプロリーグは存在せず、ほとんどの女子野球選手がアマチュア選手として働きながら競技に打ち込むといった二足の草鞋を履いた競技生活を送っている日本の女子野球。
『阪神タイガースが運営する女子硬式野球クラブチーム(阪神タイガースWomen)』に所属し、日本代表選手でもありながら、株式会社阪神コンテンツリンクベースボール事業部に所属し、会社員としての顔も持つ中江映利加さん(以下、中江)にお話を伺いました。中江さんに女子野球のデュアルキャリアの実態について迫ります。

常田菜那
WEリーガー常田菜那が考える女子サッカーの現状と未来~社会・地域に貢献する女子サッカー選手へ~今回の記事では、なでしこリーガーを経てWEリーガーとなった私・常田菜那が、現在の女子サッカーを現役選手目線で考え、女子サッカーの発展に少しでも繋げていきたいという想いで発信していきます。 私がサッカーを始めた当初は、まだまだ“男子がやるスポーツ”というイメージが強く、まわりから珍しい目で見られることが多かった女子サッカー。その頃から私の夢は『なでしこジャパン』。2011年、なでしこジャパンがW杯で世界一になったときの興奮は忘れられません。...

現役アスリートとして働く価値 「私だからこそできること」

常田)中江さんが野球を始めたきっかけは?

中江)父が小学校の野球チームの監督をしていて、兄がそこのチームに入っていました。一緒によく見学していた友達がいつの間にかその野球チームに入っていて、遊び相手がいなくなったので自分も始めたという流れです。(笑)
中学・高校は女子野球部がなくソフトボール部に入り、大学でまた野球に戻りました。大学生のときに女子プロ野球は存在していましたが、卒業する頃には活動休止に近い状態だったため「就職して野球を続ける」という選択をしました。

常田)現在、ほとんどの女子野球選手がアマチュア選手として働きながら競技をしていると思いますが、中江さんの現在の生活サイクルを簡単に教えてもらえますか。

中江)平日は月曜日から金曜日は仕事があり、練習がある日は8時半から17時まで働いて、17時にすぐ退勤してそのまま練習に向かって、17時半過ぎくらいから練習に入ります。練習がない日には、大体8時半から18時半まで働いています。シーズン中は、練習が21時過ぎに終わることも多くあるので、朝から晩までフル稼働って感じですね。(笑)
女子サッカーの方が、同じアマチュアでもそうした体制が整っているのではないですか?

常田)そうですね。私が以前所属していたアマチュアリーグのチーム(伊賀FCくノ一三重)は、選手は同じ職場で、勤務時間を14時までにしてもらっていて、環境としては恵まれていました。ですが、他チームでは中江さんと同じように夕方までフルタイムで働いてから練習をするチームも多くあり、その中で競技を続けるのは厳しい環境で大変だなと思っています。

中江)この生活にだんだん慣れてくるかなと思っていましたが、、3年経った今でもやっぱりしんどいと思うときはあります。(笑)

【現役なでしこリーガーが聞く!女性アスリートと社会課題 #2】競技でも一流、社会でも一流な「プレイングワーカー」とは?女性アスリートに特化した社会的課題に目を向け、アスリート自身が抱えている悩みや、女性アスリートならではの課題に目を向けて、課題解決につながるヒントを見つけるこの連載。 今回のテーマは、「女性アスリートの社会的価値、地域へのクラブの在り方」。 現在、関東女子サッカーリーグに所属するFCふじざくら山梨(以下、FCふじざくら)は、女子サッカーチームの中でも地域貢献活動や、選手主体での競技以外の活動を積極的に行っているチームです。今回はFCふじざくらGMの五十嵐雅彦さん(以下、五十嵐)にお話を伺いました。五十嵐さんは10年ほどトップアスリートのマネジメントに関わられていました。そこで気がついたアスリートの社会的価値に対する課題をFCふじざくらのチームづくりを通し、女子サッカーの発展に繋げられています。...

常田)仕事内容はどのようなことをされているんですか?

中江)私の所属する会社は、阪神タイガースと阪神甲子園球場の広告総代理店で、私は主に看板広告の営業やチームのスポンサー営業の仕事をしています。
女子野球選手である私に、私たち『阪神タイガースWomen』や女子高校野球関係などの仕事を多く振り分けていただいているので、その点はとてもやりがいを感じています。

常田)働きながら競技をしていて“よかったな”と思うことはありますか?

中江)野球だけではなく、会社員として働いているからこそ、そこで得たスキルに関しては野球の現役生活が終わったあとにも活かしていけると感じています。
今は取引先の阪神タイガースファンや女子野球を知っている方々に「中江選手」と言ってもらえることも多いですし、女子野球を知らない人やスポンサーさんに「女子野球選手なんです」とアピールすることが営業面で強みになっていることも感じています。社員の方からも「中江さんにしかできない営業がある」と言っていただけるのは嬉しいですね。

常田)すごくいいことですね!私も、社会人としてまわりの方と仕事の面で関わることはすごく楽しかったですし、現役選手でありながら仕事をすることに価値を感じてもいました。いまはプロになって、サッカー以外でどこかの会社で働くことはなくなり、どこか少し楽しみがなくなってしまった気もしています。

阪神タイガースwomen

「競技を続けるために働かざるを得ない環境」を変えるために大事なこと。今は「女子野球の土台の時期」

常田)実際、女子野球の選手たちは自分が本当にやりたいと思う仕事ができているのでしょうか。それとも、競技を続けるために働かざるを得ない、といった環境なのでしょうか。

中江)そうですね。やりたい仕事ができている人はあまりおらず、「競技に支障がないところで働く」というイメージの方が近いです。

常田)自分が本当にやりたい仕事をすることは、アスリートでなくてもなかなか難しいですよね。

中江)難しいですね。自分がやりたい仕事ができるようになれば、女子野球選手たちにとってもより良い環境になるな、とはすごく思います。

常田)そうですよね。どのように変わったら競技も仕事も自分がやりたいような充実した環境になると思いますか?

中江)“女子アスリート”というカテゴリーの人たちの採用を理解してくれる企業をどれだけ増やせるかが重要だと思っています。もちろん私たちが企業のことを知ることも大事ですが、私たちが「こういう環境で仕事をしたい」と思っていても企業とのミスマッチが生まれることもあり、企業側がアスリートに対して理解をしていただけるようにすることも大事です。女子野球界として知名度を高め、「こんな女子アスリートがいる」ということを多くの人や企業に知ってもらうことが今一番必要なことだと思っています。

常田)仕事と競技の両立の中で、働くことに対してネガティブに考えてしまうことはありますか?

中江)「この働いている時間を練習時間にできたらもっと野球が上手くなるのになあ」とか「もっと野球が上手になる選手も増えるのになあ」と思うことは正直あります。競技に打ち込める年数は、人生の中でも少ない期間しかないので、その期間はやはり“野球がうまくなるため”に集中したい想いもありますが、働かなければならない現実もある。でも今は「女子野球の土台の時期だ」と思いながら、両方に力を注いで頑張っています。

常田)やはり時間を競技に費やせるというのは、アスリートとして一番ありがたい環境だなと思いますね。

「女子野球ってこんなにおもしろいんだ」を実感してもらうために

常田)今後女子野球がもっと発展していくためには何が必要だと感じていますか。

中江)まずは女子野球を知ってもらうこと、女子野球のファンをもっと増やしたいと思っています。下の世代の女の子たちにも野球をする子が増えてきて、女子高校野球も規模が大きくなっています。私たちが目指してもらうべき選手になり、ファンになってもらうために自分たち個々のレベルを上げることも非常に大事だと思っています。

常田)観に来てもらうための活動も大事ですが、観に来てもらったときに「おもしろい」「また観に来たい」と思ってもらえるようなレベルであることも同時に大事だと感じています。

中江)そうですよね。試合を観に来てもらった時に「女子野球ってこんなにおもしろいんだ」と言っていただけることも多くあります。そういう意味では、観に来てもらう活動にも同様に力を入れなければならないですよね。

常田)今チームとして普及活動や地域貢献活動として取り組んでいる活動はありますか。

中江)年間通して野球教室をさまざまな場所で行っています。また、全日本女子野球連盟やスポンサー様が開催するイベントに参加する機会も多いです。こうした活動からか、野球をする女の子の数も増えてきているので、選手を増やすいいきっかけとして続けられればいいですね。

常田)いい活動ですね。女子サッカーも、地域に根付いたクラブになるために「地域の方との関わる」活動を増やしていかなければと思っています。男子サッカーのJリーグだとすごい地域に根付いていて、地域のシンボルになっているイメージがありますが、女子はまだそこまでじゃないです。それは地域との関わりや活動量の少なさが1つの要因だと私は思っていて、そういう活動をもっと増やして知名度・認知度を上げていかなければならないと考えています。

中江)たしかに、Jリーグチームを街中で見かける機会は多くありますよね。女子サッカーや女子野球はあまりみかけないので、これからもっと増やしていきたいですね。

未来は「無限大」「何にでもなれる」女子野球にもプロリーグを

常田)女子野球選手のセカンドキャリアについて伺っていきたいと思います。多くは引退されたあと、今働いている企業でそのまま働くケースが多いのですか?

中江)働き続ける人もいれば、選手を辞めたら仕事も変える人もいます。コーチやマネージャーをするケースなど、人によってさまざまですね。

常田)女子サッカーでは、「今まで競技しかやってこなかったから、引退したらどうしよう」となってしまう人も多いと感じています。女子野球はその点いかがですか?

中江)たしかにそれはあるかもしれませんが、実際みんな働きながら野球をしているので、野球を辞めてもそのあとに困るという人はあまり聞かないですね。その違いは、女子サッカー選手が1つの立場として確立されていることも影響しているのではないかと思います。男子のプロ野球でもセカンドキャリアの問題は大きくなっていますし、女子野球もこれから発展してきたときに改めて選手のセカンドキャリアに向き合わなければならないタイミングが来るのではないかと思います。

常田)中江さん自身は野球を引退したあとのことについて考えていますか?

中江)わからないですね(笑)。指導者になっているかもしれないですし、ケガさえなければ競技者として長くプレーして“レジェンド”のようになっている未来も見えます。好奇心旺盛なタイプなので、世界中を旅して回ってるかもしれません。自分のコトを考えると、これから先は「無限大だな」「何にでもなれるな」と思います。(笑)

常田)とっても良い考え方ですね!女子野球の再びのプロリーグ化にも期待しています。女子サッカーの現状と重なる部分や、違いもあって、同じ女子スポーツ選手としてとても興味深いお話でした。今後も共に発展していけるようにお互い頑張っていきましょう!

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