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サッカーで障がいを個性に〜「さっかぁりょういく」に込めた想い

発達障がいを持つ子どもを対象に、サッカーを楽しみながら「脳の働きのアンバランス改善」「コミュニケーション能力の向上」「集団ルールの理解」といった療育の大切なポイントが満たせる協会独自のプログラム「さっかぁりょういく」を行う日本発達支援サッカー協会。

今回は、日本発達支援サッカー協会代表理事 杉岡英明さん(以下:杉岡)に『さっかぁりょういく』が生まれた経緯や、活動を通じて伝えたいことを伺いました。

『さっかぁりょういく』を生んだ3人の出会い

ーー「さっかぁりょういく』の活動を始めたきっかけを教えてください。

杉岡)元々、私はサッカーを見るのもプレーするのも好きで、サッカーで何か社会貢献がしたいと考えていた中で、ある2人との偶然の出会いから活動は始まりました。

1人目はコミュニケーションを学ぶきっかけを作ってくれた、発達障がいの専門医である河野政樹先生です。私は歯科医師としてコミュニケーションの重要性を感じていて、河野先生が主催されている協会などで勉強し、自ら歯科医師向けにコミュニケーションの本を出版しました。(医歯薬出版社:患者さんの心をつかむデンタルコミュニケーションメソッド)その師である先生から、「コミュニケーションのスポーツであるサッカーは発達障がいの療育に効果があるのでは?まだ実証されていないことですが、誰もやっていないことなのでやってみたらどうでしょう。」という提案をもらいました。

そして2人目は「さっかっぁりょういく」を実践的に開発した、元サッカー選手の山本誠氏です。彼は私が以前所属していたシニアのサッカーチームのチームメイトで「障がいを持つ子どもにサッカーを教えたい」という情熱を持っていました。

この3人の出会いがきっかけでさっかぁりょういくが始まりました。

ーー「サッカーで社会貢献をしたい」と仰っていましたが、お2人と出会う前から具体的な貢献の形は考えていましたか?

杉岡)これまでは地元のサンフレッチェ広島をサポートする歯科医師の会代表を務めたり、あくまでも一歯科医師としてJリーグのチームをサポートしていましたが、今から考えると子供にサッカーの素晴らしさを伝えたいと確信したひとつのきっかけは東日本大震災です。翌年の2012年から歯科医師会の先生方にサポーターになってもらい、「平和祈念U-12デンタルサッカーフェスタ」という小学生のサッカー大会を開催しています。この大会は広島県歯科医師会が広島県サッカー協会をバックアップして実現したもので、福島の子供たちを招待してサッカーの試合を行っています。ほかにも被爆地である広島ならではの、平和教育とスポーツと健康を学び楽しむ体験の場になっています。

サッカーを楽しみながら行う「療育」

ーー『さっかぁりょういく』では、どのようなことを行うのですか?

杉岡)まず、「療育」というのは障がいを持つ子どもさんが社会的に自立することを目的として行われる医療や教育のことを指します。その療育とサッカーを組み合わせたものが『さっかぁりょういく』です。

具体的にはサッカーを通して楽しみながら、「脳の働きのアンバランス改善」と「コミュニケーション能力の向上」、「集団ルールの理解」という、療育の大切なポイントが満たされる独自のプログラムになっています。つまり、医療・福祉・スポーツ・教育という多様な観点からの有効な情報やスキルが満載のプログラムになっています。

ーー『さっかぁりょういく』というプログラムを作るにあたって様々な知見が必要だと思いますが、どのような過程を経てプログラムを作られたのですか?

杉岡)発達障がいの専門医である河野先生が園長を務めておられた広島県の子どもの療育支援センター(わかば療育園)で、作業療法の一つとして1年間サッカーを取り入れたのが始まりです。

プログラムを作っていく中で、作業療法士や、言語聴覚士などプロフェッショナルの方にアイディアを頂き、改善を繰り返しました。また、河野先生が別協会でAMWEC(一般社団法人日本医療福祉教育コミュニケーション協会)を立ち上げて、そこで発達障がいの知識を学べるような講習や研修を実施されていました。そこで、元サッカー選手の山本誠コーチと私が学び、学んだことをプログラムに追加していきました。

子どもの療育には本人だけではなく、保護者支援も重要なのでペアレントトレーニングも提供していて親子でしっかり学べるような工夫をしています。こうしたプログラムには応用行動分析理論やコーチングやカウンセリングで知られている神経言語プログラミング(NLP)やアンガーマネジメントなどの実践コミュニケーション理論の知見も入れています。また、山本誠コーチが日本サッカー協会や日本障がい者スポーツ協会のコーチングのライセンスも持っているため、サッカーや障がい者スポーツのトレーニングメソッドももちろん入っています。

「うちの子、こんな笑顔になるんだ!」

ーーこの「さっかぁりょういく」を通じて子どもたちにどのようなことを経験して、得て欲しいのか、プログラムに込められている想いや願いを教えてください。

杉岡)『さっかぁりょういく』は、療育の大切なポイントを抑えている独自のプログラムとお伝えしましたが、コーチの基本姿勢は、褒めて、認めて、成功体験を積んで、自己肯定感を育てることです。

発達障がいを持つ子どもたちは学校でも家でも叱られることが多く、自信がない子が多いんです。なので、体を楽しく動かすことで、脳科学的に「よし!新しいことをやってみよう!」という気持ちになり、チャレンジするようになります。サッカーのフィールドで挑戦したことをコーチに認められると、「レジリエンス」という失敗しても立ち直る力が強化されます。サッカーというスポーツ自体が攻守の切り替えがあるため、メンタリティの切り替えが上手になるスポーツだと感じます。

子どもたちの自己肯定感を育むことで、自分たちもやればできるという気持ちを持ってもらい、自分の得意なことを社会生活でも生かして欲しいと思っています。サッカーのフィールド内では、「チャレンジして失敗してもいいんだよ」と伝えています。サッカーという非日常の中でこういった経験ができると、日常生活でも「もう少し頑張ろう、まだまだ頑張れる」と思えるようになっていきます。

ーー実際に参加した子どもたちに変化はありましたか?

杉岡)ほぼ全ての保護者が『さっかぁりょういく』を経て、前向きになったり粘り強くなったと言ってくださっています。そもそも学校に行けてない子たちが、時間通りにサッカーに来るということ自体がもう前向きですよね。

暴言や暴力がひどくて、集団の療育はもう無理と言われてしまい、行き場所のない状態で来てくれた子がいたのですが、プログラムの3回目頃に、お母さんが「昨日息子が『お母さん明日サッカーだよね』と言って、誰よりも早く起きて準備をしていて、その光景を見て信じられませんでした。どこに行ってももダメと言われたのにすごくやる気になっていて、今では暴力もなく幸せです。コーチ方のレッスンは奇跡のレッスンです!」と話してくれたんです。

また他の保護者の方から「初めて連れてきたときに『うちの子、こんな笑顔になるんだ!』と思いました」と伺い、とても嬉しかったです。

ーー体験した子どもたちも親御さんも笑顔になるのは、とても素敵ですね!

ーーポジティブな効果をもたらす指導を行うために、協会でコーチの育成もされているそうですが、コーチの育成についても教えてください。

杉岡)『さっかぁりょういく』のコーチにはアシスタントコーチとチーフコーチがあり、その上にマスターコーチの山本誠がいるという体制です。

まず、アシスタントコーチになるには、2日間の『さっかぁりょういく』の初級認定講座を受け、子どもたちの好ましい行動の引き出し方や、逆に好ましくない行動の対応の仕方を座学で学びます。この講座を終了すると、アシスタントコーチ申請資格が得られます。アシスタントコーチになると、アカデミーにチーフコーチのサポート役としてご参加いただけます。

アカデミーでの『さっかぁりょういく』プログラムを提供するのはチーフコーチです。チーフコーチになる際にも、講座を受ける必要があり、チーフコーチの場合は、座学に加え、全12回の実践もあります。アシスタントコーチとしてアカデミーで指導に参加しつつ、チーフコーチの実習を約半年間行います。毎回のアカデミーでの実習が終わった後に、撮影した実習の様子を見ながら、山本誠マスターコーチとディスカッションを行います。最後に、実際のアカデミーでのコーチングを評価し、そこで合格点が出るとチーフコーチとして認められます。

チーフコーチになってからはアカデミーなどの活動でも収入が発生したり、児童デイサービスなどでさっかぁりょういくを行うこともできるようになります。

ーープロとしてしっかり収入も出るのですね。

杉岡)将来的にはサッカーを教えたいという人の副業や、スポーツ選手のセカンドキャリアになるといいなと思っています。実際に、現在副業としてコーチをしている元なでしこの選手もいます。

『さっかぁりょういく』を通じて、社会の認識を変えていく

ーー実際に今まで、活動を通して大変だったことを教えてください。

杉岡)まだまだ発達障がいの療育については知られていないので大変な部分もありますね。

『さっかぁりょういく』についてはなおさらです。また、「発達障がいを持っている子に集団のスポーツは無理」と思っている先生や保護者が多く、まだまだこのようなプログラムがあると知られていません。

療育の場所の確保も大変ですね。本来、屋外スポーツであるサッカーですが、発達障がいの子どもの中には屋外では集中力が散漫になる傾向のある子もいるので、体育館の方が集中して活動しやすいのです。だから体育館か屋根付きのフットサル場が適切なのですが、行政の体育館などを借りる手続きも大変です。行政側には「障がい者」といえば「身体障がい」という認識があるのか、なかなかスムーズには行きません。体育館を借りるときも書式が旧式で障害者手帳が必要で、発達障がいを持つ子どもたち向けの申込みフォームが対応していません。

ーー発達障がいへの世間的な理解は、まだあまり深まっていないと感じます。

杉岡)そうですね。まだまだ認知されずらい障がいだと感じます。身内に知られたくなかったり、見た目に障がいがないため、お孫さんが障がいと認めていない祖父母の方もいらっしゃいます。そのため、メディアに出るときは顔出しに関してかなり気を遣っています。
けれども私たちのアカデミーでは親御さんも「顔が写ってもいいので、どんどん『さっかぁりょういく』を広めてください」と言ってくださるのは有難いことです。

ーーまだ、世代間でギャップがあるのですね。

杉岡)将来的には保護者も子どもたちも堂々とテレビに出て欲しいと思っています。
今はまだメディアに出るときは顔を写さなかったり、声を変えたりしているのが現状でしょう。私たちはそこにもチャレンジしています。『サッカーで障がいを個性に!』という理念を掲げています。障がいであることも一つの個性だと堂々と思えるように、社会の認識が変われば良いと思います。

ーーこの活動を通して、少しでも社会の認識が変われば素敵ですね。

杉岡)見方が変われば考え方も変わるはずです。今の日本では、できていないところを指摘しがちなので、子どもたちは自信を失い、引きこもったり、不登校になってしまいます。発達障がいの子たちも良いところを伸ばしていけば、ネガティブな部分を補えるほど生きる力があると感じます。

私たち大人も、もっともっとお互いのできることや、良いところを褒めれるようになると良いと思いますし、そんな世界になって欲しいですね。

ーー社会が抱える課題感に対し、スポーツを通してアプローチできると良いですね。

杉岡)一つの競技団体という枠を超えて、さらにソーシャルに活動していきたいですね。

 互いを認め合い、生きやすい世の中に

ーー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

杉岡)発達障がいの療育は、決してネガティブなことではなくて、ポジティブなフィールドであると認識して欲しいです。私たちは、今までスポットライトの当たっていなかったところにサッカーを通じて可能性を引き出していきたいと考えています。

そして、サッカーをきっかけに人も循環できるようになると良いと思っています。例えば、『さっかぁりょういく』を受けていた子たちが将来的にはコーチとして『さっかぁりょういく』に関わるようになってくれるといいですね。サッカーを続けたい子は続ければいいですし、やめてしまったとしても『さっかぁりょういく』の場にはいつでも来たいときには来られる、世代を超えた交流の場になる。『さっかぁりょういく』がその子たちのサードプレイス、つまり居場所です。安心・安全の場所になれたらと思います。

『さっかぁりょういく』を通して、自己肯定感を伸ばして、社会に出ても自信を持って前に進める人になってほしいと思っています。

世の中の発達障がいに対する理解や認知がもっと広がって、みんなが認め合って生きやすい世の中になってくれたら良いですね。このギスギスした世の中に対して、アプローチできるのは発達障がいの分野だと思っています。人と人とが認め合える世界にしていきたいですね。

ーー『さっかぁりょういく』は、社会にもポジティブな影響を与える活動だと思います。本日は素敵なお話をお聞かせくださりありがとうございました!

写真提供:日本発達支援サッカー協会

日本発達支援サッカー協会公式HP:http://jdsfa.jp/

編集より

『さっかぁりょういく』に関わる方々の強い想いに触れることができた今回のインタビュー。プログラムを通して前向きになった子どもたちの反応など、お話いただいた想いやエピソードからはとても心動かされました。 

他者を認め合える社会へ。まだ風当たりも強いというお話もありましたが、スポーツがその第一歩になれるのではないかと力を貰ったインタビューでもありました。

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