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サッカー指導における経済的な教育格差を解消する

SDGs17項目の中には、貧困による教育格差について解決していくという目標もあります。しかしながら、社会全体が取り組まなければいけない課題だとわかっていても、解決のためのアクションに至ることは容易ではありません。埼玉県のエボルテサッカースクールでは、シングル世帯及び低所得者世帯へのスクール料金を無償化する制度を取り入れています。スクールとして負担するだけではなく、地域の企業に協力してもらいスポンサー(パートナー)という形式を取り入れ、無償化を実現しています。今回は、エボルテサッカースクール代表の辻本拳也さん(以下、辻本)にお話を伺いました。

サッカー指導を無償で提供する

ーーまず、「ひとり親及び低所得者世帯のスクール無償化」について活動の内容を教えていただけますか。

辻本)エボルテサッカースクールは、埼玉県内に3つのスクールがあります。そして、この「ひとり親及び低所得者世帯のスクール無償化」はすべてのスクールで導入しています。内容としては、シングルマザー・シングルファザー世帯及び世帯年収360万円以下の家庭のお子様にかかる費用をすべて無償化するという内容です。

ーーかかる費用、すべてですか?

辻本)基本的に入会金や月謝などは無料です。一部保険料などはご負担いただく場合もありますが、原則無償で行っています。

ーー素晴らしい取り組みですね。どのような仕組みで無償化を実現しているのでしょうか。

辻本)3つあるスクールの中でも、大宮校に関してはFBモーゲージ株式会社(以下FBモーゲージ)という、住宅ローンなどのサービスを提供されている会社にパートナーになっていただいています。女性向けの住宅ローンサポートなども行っている企業であるため、当スクールにおいてもシングルマザー世帯の無償化における費用をパートナーとしてご協力いただいています。先ほど申し上げた、入会金や月謝以外にもウエア代や保険料についてもスポンサードしていただいています。

ーー保険料やウエア代もご協力いただいているんですね。パートナーは他にもいるのでしょうか?

辻本)シングルファザー世帯に関しては、個人パートナーの方にもご協力いただいています。もちろん、自己資金の中でやりくりしている部分もあります。

ーー「ひとり親及び低所得者世帯のスクール無償化」制度はいつから始められたのですか。

辻本)2021年の11月頃からです。まだ始まって4ヶ月程度です。

ーー新しい取り組みなんですね。すでにユーザーの方がいらっしゃるなんて、ニーズに合わせた取り組みで素敵だと思います。

大宮校での様子 ©︎エボルテサッカースクール

経済的な問題でサッカーの指導を受けられないことに疑問を感じた

ーーひとり親世帯に向けた料金システムを取り入れられたきっかけについて教えてください。

辻本)まず、エボルテサッカースクールは2018年4月からパーソナルレッスンを提供するサッカースクールとして始まりました。始めてからしばらくして、パーソナルレッスンに限定してやっていると、高級住宅街に住まれているような富裕層の方にしかサービスを届けられないなと考えるようになりました。そのような折に、私の地元である埼玉県で体験レッスンを受けた方が、「レッスン自体はとても良かったが、シングルマザー世帯で金銭面的に習わせることが難しい」と教えてくださいました。値引きなどのご提案もさせていただいたのですが、それでもやはり難しいとのことで入会していただくことができませんでした。

ーーシングル世帯の方と実際に接したことがきっかけだったんですね。

辻本)はい。経済的な問題から質の高い指導を受けることができないということに疑問を感じました。チャンスは全員に平等に与えられるべきだと考えたので、お金がないという理由でサッカーの指導を受けられない子どもを、一人でも減らしたいと思ったことも理由の一つです。

ーー全くその通りだと思います。

辻本)ありがとうございます。そして、まずはパーソナルレッスンの料金を割引することから始めてみようと考え、シングル世帯への割引を始めました。

ーー現状、シングル世帯のお子様は何組いらっしゃるのでしょうか。

辻本)現在、パーソナルレッスンに1組、大宮校に1組います。まだ受け入れられるので、今後も増やしていけたら良いなと考えています。

スポンサー企業の協力を得て実現した「完全無償化」

ーー辻本さんがシングル世帯の経済的な問題について考えられたきっかけなどはありますか。

辻本)最近は海外のクラブチームのメソッドを導入するサッカースクールが増えてきています。そのようなスクールが増えてきたことを知るなかで、費用面について考えたことがきっかけのひとつです。海外とやりとりするためにはお金が発生するため、個人が負担するお金も高額になってしまいます。ビジネスとして富裕層のご家庭向けに企画されているので、高額だからいけないというわけではないのですが、収入に余裕のある家計でないと指導が受けられないという現状に疑問を感じました。どんなに質の高い指導だとしても、お金が払えなければ受けることはできません。金銭面での不安を解消し安心してサッカーの指導を受けていただくための方法として、無償化という料金システムを作りました。

ーー無償化について、スクールとして負担されるのではなくパートナー様のご協力で行っているんですよね。

辻本)はい。スクールとしてだけではなく、活動に賛同いただけるスポンサーのおかげで無償化が実現できています。企業のCSR活動の一環としてパートナーになっていただけるようにご提案させていただいています。また、大宮エリアを中心に埼玉ではっとり鍼灸接骨院様と業務提携させて頂いております。提携によって、スクール生は特殊電気治療や体組織計測が無料となります。さいたま市の制度で保険適用治療は小中学生は無料ですが、保険適用外の特殊電気治療なども無料になるので、経済的に厳しい状況の家庭でも、良質な治療を受けて頂くことが可能です。

ーー「ひとり親世帯及び低所得者世帯へのスクール無償化」をする上で気をつけていることはありますか。

辻本)無償化制度を使っている子がどのお子さんか他の方に知られないように気をつけています。他のお子さんに知れ渡ってしまうと負い目を感じてしまうかもしれませんので、個人情報の観点では当たり前だと思うのですが、知れ渡ってしまうことがないように内密にしています。

ーー無償化制度を始めて、周りの方からの意見や辻本さんご自身の感想などはありますか。

辻本)実は、当スクールのアシスタントコーチがシングル世帯出身だったそうです。無償化制度を始めるまでは知らなかったのですが、始めてから「実は私もシングル世帯出身です。他の子はできていることができなかったり、スパイクはボロボロになるまで使い続けたりしました。」と教えてくれました。そういった話を聞き、シングル世帯で育ってきた方は身近にいるのだなと感じ、この制度の必要性を再確認しました。また、制度についてSNSを通じて発信したところ、たくさんのポジティブなリアクションをいただきました。

横浜にて元Jリーガー アン・ヨンハさんをお招きした時

社会課題に取り組む団体として活動をする

ーーJFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度について教えてください。

辻本)JFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度は、日本サッカー協会が取り組んでいるグラスルーツサッカーの環境を改善しようという取り組みです。例えば、補欠を無くすことや、社会課題への取り組みをすることなどが含まれています。

ーーエボルテサッカースクールもパートナーに認定されているのですよね。

辻本)はい。社会課題への取り組みについて賛同するパートナーとして認定されています。貧困や不登校、引きこもりなどのさまざまな社会低課題についてサッカーを通して課題解決に取り組む団体として認定されました。

ーー無償化制度は、まさに「貧困」についての取り組みですね。

辻本)そうです。認定されたことにより、活動へのお墨付きをいただきましたので、より一層活動に力を入れていきたいと考えています。

©︎エボルテサッカースクール

社会課題を解決しながらサッカー指導に携わる

ーー埼玉県で活動されるにあたって今後取り組みたいことはありますか。

辻本)埼玉県には子ども食堂が比較的多くあるので、子ども食堂とタイアップした企画なども進めていきたいと思っています。

ーー興味深い取り組みになりそうですね。今後の活動について教えてください。

辻本)パートナー様などと考え、女子サッカーの普及に取り組んでいこうということで、女子サッカー選手の無償化についても取り組み始めています。活動を通して、女性が活躍していく社会をサポートできたらと考えています。

ーーありがとうございました。一人でも多くの方にこの制度が届くといいですね。

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