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フットサルのチーム名に『サラダ』がつく理由。JFAも認める〜Football For All〜

日本サッカー協会(JFA)から、グラスルーツ推進・賛同パートナーとして認定を受けている『チームSMiLEサラダ』の活動。活動内容も気になるのですが、それ以上に気になるのがフットボールや社会福祉に関係のない「サラダ」がチーム名につく理由ですよね。

神奈川県フットサルリーグ2部チームに所属する選手であり、また介護福祉士、社会福祉の資格を持ちながら通信制高校で働く、『チームSMiLEサラダ』監督である長谷川健(はせがわ・たける)さんにお話を伺いました。

チーム発足のきっかけは自分が感じた「疑問」

ーー『チームSMiLEサラダ』が認定を受けているJFAのグラスルーツ推進・賛同パートナーとは、どのようなものなのですか?

長谷川)こちらのJFAのホームページを見ていただけるとわかりやすいのですが、「Football For All〜サッカーをもっとみんなのものに〜」を合言葉に、だれもが、いつでも、どこでもサッカーを楽しむことができる環境にしていくことを目指しているものです。6つあるテーマのうちチームSMiLEサラダは、「引退なし」「障がい者サッカー」「社会課題への取り組み」の3つのパートナーとして認定をいただいています。

フットサル1JFAグラスルーツ宣言の6つのテーマ

 

ーーJFAにこのような取り組みがあることを初めて知りました。そもそも『チームSMiLEサラダ』は、何がきっかけで活動を始められたのでしょう?

長谷川)もともとはクリアソン新宿(Criacao Shinjuku)というサッカーチームの会社運営に関わっている方が、個人で神奈川県の県リーグを取材するメディアを立ち上げられていて、その事業の1つとして県内の各地に大人のフットサルのサークル活動『チームSMiLE』というものがいくつか存在していました。

そのSMiLE事業の1つに自主リーグの運営もあり、僕は審判としてお手伝いをしいるのですが、たまたま僕が審判をするときに聴覚障がい者のチームが飛び込みで参加してくれたことがあったんですよ。

ーー長谷川さん自身、どうすればいいかと戸惑いませんでしたか?

長谷川)社会福祉士の資格を持っていて聴覚障がいに対する知識は少しあったので、「笛は聞こえなくても旗を使えば何とかなるよね」と思って、その場でレフリー側が少し工夫して他のチームと一緒に参加してもらいました。後日に参加した聴覚障がい者のチームから「その場でうまく対応してくれて感動しました。ありがとうございます」とお礼のご連絡をいただき、僕の中でフットサル×社会福祉の観点で何かできることはないかと考える機会になったんです。

ーーそれがきっかけで始められたと。

長谷川)それだけではないんです。僕はその時期に障がい者施設で働いていて、施設の利用者の方とデフフットサルのイベントを見学しに行く機会がありました。

一緒にデフフットサルの日本代表選手のプレーを見ていたのですが、その時にふと「自分はいろいろな人とボールを蹴ってきたし、選手としてもそれなりのレベルでやってきたのに、どうしてこれまで聴覚障がいの方と一緒にボールを蹴ったことがないんだろう?」と不思議に思ったんです。

同じチームで仲間になったこともないし、対戦相手としてやりあったこともないような気がする。そこに疑問を感じたんですね。

フットサル2現役フットサル選手としても活動する長谷川健さん

ーー今の日本の教育では、障がいの種類によって通う学校が分けられたりするなど、障がいのある・なしで分断されていますよね。

長谷川)そうなんですよ。それをきっかけに障がい者フットボールに関心がでてきたので調べているうちに、ソーシャルフットボール(精神障がい)のチームが指導者を探している情報を見つけて、気になったのでチームに連絡して練習に参加させていただきました。

チームの様子を見て自分が貢献できそうなところを選手やチーム関係者に伝えたところ、そのフィードバックがチームに合っていたようで、指導をお願いしますということでソーシャルフットボールチームの指導者をすることになったんです。

ーー『チームSMiLEサラダ』発足のきっかけになる出来事が、偶然にも2つほぼ同じ時期にあったのですね。

長谷川)細かなことを言うと他にもあるんですけど、そういういろいろなことが繋がった時期でもありましたね。さらにソーシャルフットボールチームの指導者となったことをSNSで発信したところ特別支援学校の先生から連絡をいただいきました。詳しく聞いたところ、その先生の教え子が養護学校を卒業した後に体を動かしたい、スポーツしたいと思って個人フットサルに申し込みをしたものの、障がいがあることが理由で参加を断られたそうなんです。

また僕は仕事で障がいのある子どもの支援をしていたのですが、一斉指示を聞けないとか集団行動が苦手だったりする子もいるので、サッカーチームに入ることを断られてしまう相談も結構受けていたんですね。

それらのことをチームSMiLEに相談したところ、障がい者の人も参加できるということも含め、「本当に誰でも参加できる」というコンセプトで新しいチームSMiLEを本格的につくってみようという話になったんです。

「サラダ」に込めたのは特別感を出したくない想い

ーーそれで生まれたのが『チームSMiLEサラダ』というわけですね。フットサルチームなのにサラダという言葉が入っていてかなり特徴のあるチーム名ですが、どのような想いが込められているのでしょうか?

長谷川)チーム名はかなり悩みました。実は名付けてくれた方が別にいるんですけど、サラダがいろいろな色や形の野菜や果物などが混ざっているように、「いろいろな人が混ざっていいよ」というコンセプトで名付けたチーム名なんです。

ーー同じような意味で、今だとSDGsやインクルーシブなどの言葉が流行っていると思うのですが、あえてサラダという言葉を選んだのはどうしてなのでしょう?

長谷川)ソーシャルやボーダレスやインクルーシブなどもコンセプトがはっきりと伝わりやすいので良いかもしれないのですが、逆にあまり良くない効果もあると思っています。福祉的な活動であるし、そういうコンセプトのチームなんですけど、一方であまり特別感を出したくないというところもあったんですね。

練習メニューの組み方や雰囲気のつくり方など、福祉の勉強をしてきたあなただからできるんでしょうとは思ってほしくなくて。本当に僕がやっていることは、誰でも知っていればできるくらいの簡単なことなので。

フットサル月1回定期開催でフットサルを楽しむ「チームSMiLEサラダ」

ーー例えばどんなことをされているのですか?

長谷川)ビブスの色を見やすい色に工夫したりとか、ゴール裏の背景でも視覚障がいの方が認識やすい色があるので紅白戦の時に攻める方向を固定してあげるとか、本当にその程度の工夫なんですよ。

知っていれば誰でもできる範囲の配慮しかしていないんですけど、福祉色の強いチーム名にしてしまうと、何か専門的なことをしていると誤解されてしまうと思ったのでそれを避けたかったんです。

ーー確かにそのくらいのちょっとした工夫であれば、やり方さえ知れば誰でも真似できますね。

長谷川)そうなんです。他にもちょっとした工夫というところで言うと、僕は参加希望の確認を事前に取らないんですね。だから当日にフットサルコートに行って「今日は誰が来るんだろう?」という感じでやっていて。

ーー参加希望を事前に取らないのはどうしてなのですか?

長谷川)事前に連絡する煩わしさもきっとあるだろうなと思ったのと、朝起きたときの体調やメンタルで「今日は参加してみたいな」と、ふと思うことがあると思うんです。そんな方たちもふらっと参加できるようにしたかったんですよ。

そうしたところ、「友達も参加したいと言ったので連れてきました」みたいに気軽に知り合いを誘って参加してくれることも増えてきて、新しい出会いも生まれて参加者もより楽しんでくれますからね。

ただ、どんな方が参加しているか最初はわからないので、最初の15分ほどはみんながどれくらいボールを蹴れるのか見極めるためかなり集中して情報収集してますね。その上で参加者のレベル感に合わせた練習メニューを即興で組み立てるのですが、これもやり方さえ知れば誰でもできるんですよ。

ーー以前に取材させていただいた、福祉×FOOTBALLをテーマに掲げ活動している浅井徹さんも、同じように「参加者に合わせてルールをつくると全員が楽しめる場がつくれる」と言われていました。

好きだから続けられる。定期的に参加することで自然と変わっていける

ーー『チームSMiLEサラダ』をつくられて7年ほど経つと聞きました。それだけの期間、どうして活動を継続できていると思いますか?

長谷川)シンプルに僕自身がボールを蹴ることが好きだからですね。このチームで参加者と一緒にエンジョイしながらボールを蹴るのも好きですし、社会人リーグの選手としてガチガチの真剣勝負も好きなんです。両方の好きな時間を自分でつくっているだけの感覚ですね。

ーー自分の好きなことをしているからこそ、これだけ長期的に活動が続いているのですね。これまでの活動の中で、どんなことが思い出に残っていますか?

長谷川)チームSMiLEサラダは、単発のイベントではなくて月に1回定期開催しているイベントなんです。だから参加者も1回の参加でガラッと変わるのではなく、定期的に参加する中で変わっていくことが多いんですよ。

例えばメンタルの理由で仕事や学校に行けなくなり引きこもっていた人が、月に1回この練習だけは参加した結果、いろいろな人と関わるうちに生活にハリが出て「日常生活も楽しいかもしれない」と思ってもらえて、社会復帰するきっかけをつくれたこともありました。

ほかには、下半身麻痺の障がいのある子どもが参加してくれたことがあって、その子のお母さんは「うちの子がサッカーなんてできるのかしら?体育の授業でも走ったことがないし」という気持ちで練習を見ていたんですね。その子は最初は足に補装具を付けて専用の靴を履いていたんですけど、「なんか歩きにくいから普通の靴がいい」と言って履き替えて。そうしたらボールを蹴って走ってるんですよ。お母さんも自分の子どもが走っているところを初めて見たようで、とても感激されて。

楽しいと思ってもらうことができれば、そんな奇跡みたいなことが起こるということはこれまでの経験から思いますよね。どちらの出来事も、生活を豊かにするためのきっかけになれたということで、すごく良かったなと感じています。

フットサル4ソーシャルフットボールチームの指導者としても活動する長谷川健さん

ーー一方で、悩みや課題も感じられていると思います。

長谷川)先ほども少し触れたのですが、この活動についていろいろな機会でお話することがあるのですが、やはり「何か特別なすごいことをしている」みたいな印象を相手に与えてしまうことが悩みですね。僕の想いとしては、いろいろな地域でほかの競技でも同じようなことをしてくれる人が増えてほしいと思っていますので。

もう1つが難しい問題なのですが、生活保護を受給されている方から「参加したい気持ちはあるが、参加費を減免してくれないか」と連絡をいただいた場合の対応ですね。生活保護を受給する理由がある中でも参加してみたいと思ってもらえることはとても嬉しいのですが、僕の仕事柄、生活保護の使い方を考えないといけない立場でもあるので、いろいろと悩んだのですが今はお断りさせていただいています。

それでも「仕事ができるようになったら参加します」と言ってくださる方もいて、ここは本当に難しい問題です。

ーー継続して参加することで参加者が変わる姿をたくさん見てきただけに、ここの判断はとても難しいですね。コロナ禍の現在は『チームSMiLEサラダ』の活動を一旦休止していると聞きました。再開後はどのように展開していきたいと考えていますか?

長谷川)もう少し自分自身の時間に余裕ができたとしたら、いろいろな地域に行って全国各地に『チームSMiLEサラダ』のような活動を広げていきたいと思っています。おそらく同じ取り組みをやってみたいと思っている方が全国にいらっしゃると思うんですね。ただやり方がわからないだけだと思うので、やってみたいと思われている方と一緒に開催することで、「意外と簡単にできるな」という実感を感じてもらいたいなと思っています。

もちろんフットサルやサッカーだけでなくバスケやバレーなどほかの競技でも大歓迎で、空気感のつくり方や声かけの仕方など、僕が意識しいてることを実際にプレイに混ぜてもらいながら伝えていきたいですね。

このインタビューを読んでくださっている方で興味のある方は、ご連絡いただけると本当に嬉しいです!

ーー「特別なことをしている感をなくしたい」という想いが、取材をしている中でとても伝わってきました。自然体で参加できる場所づくりと誰でもできる少しの配慮。Sports for Socialでも応援していきたいと思いますので、長谷川さんの活動にご興味のある方はぜひご連絡ください。

長谷川健さんの連絡先はこちら:ツイッターフェイスブック

球舞1
「福祉×FOOTBALL」で目指す誰も排除されないインクルーシブな社会〜サッカーは障がいを網羅する〜フットボールエンターテイメント集団「球舞-CUBE-」メンバーのTo-ruとしてパフォーマンスを披露しながら、社会福祉士として働く浅井徹さん。「福祉×FOOTBALL」の想いと実現させたい2050年の社会の姿に迫ります。...
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