2023年から北海道日本ハムファイターズの新たな本拠地となった『エスコンフィールドHOKKAIDO』を中心に、複合的な共創空間として生まれた『北海道ボールパークFビレッジ』(以下、Fビレッジ)。野球だけではない多様な楽しみ方を提供し、年間400万人が訪れるFビレッジを核に、周辺7自治体が連携して誕生したサイクリングイベントが『ライドアラウンド北海道ボールパークFビレッジ』です。
2025年で3年目を迎え、年々参加者も増えているこの取り組みから見えてきた、“スポーツ施設を核とした広域連携の可能性”とは何なのか。その起点となっている北広島市、株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(以下、ファイターズ)と、ライドアラウンド事務局のルーツ・スポーツ・ジャパン(以下、RSJ)の担当者に話を聞きました。
インタビュー対象
- 北広島市 経済部 観光振興課 山田健斗さん
- 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント 開発本部 開発・企画統括部 スポーツコミュニティ部 坂下大仁さん
- 一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン 西川晃伸さん
- 一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン 山本美空さん

Fビレッジ建設を機に「北海道全体の価値向上」に動き出した
ーーまず、この取り組みの背景にある「オール北海道ボールパーク連携協議会」について教えてください。
北広島市 山田)オール北海道ボールパーク連携協議会は、北海道全体の価値・魅力向上および成長発展への寄与のために生まれました。Fビレッジを北海道の新たなシンボルとして位置づけ、そこを拠点に道内各地の魅力を広く発信していくことを目的としています。北海道は地域ごとに自然や文化、観光資源などの特徴があります。それを広域的に連携しながらまちづくりにつなげていこうと、現在41団体が本協議会に参画し、民間と行政が合わせて官民連携のネットワークで取り組みを進めています。
ーーそのなかで、なぜサイクルツーリズムに着目されたのでしょうか?
ファイターズ 坂下)Fビレッジは野球場を中心としている施設ではあるものの、それ以外にもさまざまな楽しみ方ができるように設計されています。野球が好きな人もいれば、温泉やサウナが好きな人、ビールが好きな人もいる。それぞれの“好きなもの”を目的にまずはFビレッジに来てもらうことを大切にしています。世界中の誰もが来るきっかけがつくれるように、いろいろなコンテンツを置いていこうという中で、自転車にも着目したのです。
山田)その前提として、北海道やFビレッジに訪れた方に対する周遊策を強化していこうという動きがあります。そこで、北海道の自然を感じられるアクティビティとして自転車が適していると考えました。以前から各自治体が独自にサイクルツーリズムの施策を展開していたこともあり、これを広域連携で結びつけて、より広い範囲で多様な立ち寄りの目的を提供すべく、スタートしました。

コロナ禍が生んだ「ライドアラウンド」という新しいイベント形式
ーーRSJの期間型イベント「ライドアラウンド」シリーズはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
RSJ 西川)きっかけは2020年にコロナ禍となったことです。RSJはそれまで主に1000人規模の単日型イベントを手掛けてきましたが、人が集まることが難しくなり、アプリを使った期間分散型で、密を避けるような形でイベントを始めたのが最初でした。
ーー「ライドアラウンド」シリーズの中でも、Fビレッジならではの魅力はどのような点でしょうか?
西川)今回でいうと、Fビレッジという「ランドマーク」が起点となっているライドアラウンドであるということが一番の特徴です。そもそもFビレッジ自体が全国的に注目が集まっている施設ですし、サイクリングの前後にFビレッジで野球を見たり、他のコンテンツを味わったりすることも可能です。RSJとして、サイクリング以外のスポーツとも広く共創関係を築いていきたいという思いもありますので、そこにつながる可能性もある、いい事例になっていると思います。

ーー2023年にライドアラウンド北海道ボールパークFビレッジがスタートしてからこれまでの3年間で、どのような取り組みをしてきたのでしょうか?
山田)1年目は、核となるFビレッジへの来訪者やファイターズファンの皆さんに向けたPRを重視してきました。ただ、ファイターズファンとサイクリングの親和性があまり見受けられなかったことから、2年目以降はよりサイクリスト向けの施策に転換しました。
賞品としても、Fビレッジに出店されている世界的自転車ブランド「Specialized(スペシャライズド)」の自転車のメンテナンスサービスや、インスタグラムと連動した「フォト賞」という企画を始めました。
3年目は、1年目と2年目の実績をもとに、より効果があったものを取捨選択して、シンプルにわかりやすく伝えることを意識しています。
RSJ 山本)2年目は特に、人口200万人ほどを抱える札幌市へのアプローチを強化し札幌のサイクルショップに直接電話をかけたりチラシを配ったりと、地道なプロモーションも行いました。結果として、2年目は北海道内における参加者の半分ほどが札幌の方で、すそ野が広がってきている実感があります。
参加人数としても、1年目に比べて2年目は倍増しました。3年目の2025年も、前年以上の推移で伸びているので、集客的には間違いなく効果が出てきていると思います。

広域連携による経済効果が生まれ始めている
ーー実際に地域活性化にどんな効果が生まれていますか?
山本)ライドアラウンドでは参加者に事後アンケートを取って、宿泊や飲食、お土産などの消費額を推計しています。すると、参加費無料のイベントにもかかわらず、かなりの規模の経済効果を生んでいることが見えてきています。定性的に「地元の知らない店舗を再発見できた」という声も多く、事業者さんからもお礼の言葉をいただくことがあります。
西川)ライドアラウンドはただスポットを巡ってポイントを獲得するだけではなく、スペシャルスポットでご飯を食べる、お土産を買うなどすると、プラスで特典が追加されるという企画になっているので、そういったところもうまく作用したのかなと思います。
また、各地のスポットへのチェックイン数はあまり偏りがないので、他市町も北広島市と同じように回っていただいていると見受けられます。地域で行われる単日のイベントも、一日限定の高得点スポットにしているので、自治体の方々にとっても、直接参加者とお会いできる良い機会になっていると思います。
ーーこの取り組みは7自治体の広域連携が肝となっていますが、広域連携を成功させるポイントがあればお聞かせください。
山田)行政として企画を通していくためには、丁寧に説明して回り、賛同していただき、議会を通して予算を取っていくというプロセスを一つひとつクリアしていく必要があります。ライドアラウンドに関しても、ファイターズ、Fビレッジというシンボルを最大の武器として、ようやく実現できたイベントです。その意味では、担当者が熱意を持って「必要なんです」と、根気強く伝えていくことに尽きるのかなと思います。

自治体と民間が互いに気持ちよく連携できている理由
ーー事務局として取り組みを進めていく中で、RSJにはどんな印象がありますか?
山田)担当の西川さん、山本さんには、本当に丁寧にご対応いただいています。自治体への理解も深いですし、ビジネスパートナーという枠を超えて、人として信頼できる方たちだなと感じます。広域連携のイベントなので、各自治体との調整も労力がかかるのですが、スポットの集約や商品の集約、支払い関係も一括してRSJさんに行っていただいているので、私たちが事務局として手を動かすことは最小限に抑えられているのも非常にありがたいです。
坂下)だいたい民間企業と自治体が何か取り組もうと思うと、考えや感覚のズレはどこかにあるものです。ただRSJさんは、普段から自治体との取り組みを多くされているからかもしれませんが、ズレがほぼなく、スムーズに各自治体と連携できているのがすごいことだと思います。いろいろこちらから要望も言ってしまうのですが、そこもご理解いただいて、気持ちよく一緒に取り組めています。もちろん、イベントの再現性の高さも素晴らしいと思います。
西川)ありがとうございます。北広島市さんは他の市町と比べて若い方が多く、皆さんエネルギーにあふれているので、いい意味で行政の人らしくなく、すごくやりやすい環境でご一緒させていただいています。
山本)メールの返信1つとっても、スピード感がありますし、7自治体の連携イベントにもかかわらず、スムーズに進行できていると思います。Fビレッジのライドアラウンドは、このイベント専用のインスタグラムアカウントが発足されて動いているのですが、これも北広島市さん主導で始まり、そのうえ運用までしていただいているのは本当にありがたいです。

ーー今後の展望をお聞かせください。
山田)今後、参加自治体や連携先をさらに広げていきたいと思っています。北海道の持つ広大な自然やサイクリングの環境と、Fビレッジのエンタメ性をかけ合わせて、国内外問わず多くの方に利用していただけるイベントになればと思っています。
坂下)北海道外の方が来訪されるときに、Fビレッジ内を楽しむだけだと年間1~2回で十分となってしまうかもしれませんが、ライドアラウンドを通して北海道各地の魅力を感じていただくことができれば、長期滞在や再来場にもつながると考えています。我々としてもぜひ「北海道ごと」好きになってもらいたいので、他の自治体も含めてより広域で取り組めるといいですね。
自治体間の連携もしっかりと行いながらイベントを実施できていることは、このイベントだけでなく、これからの観光施策や様々な事業展開にも意味のある取り組みだと感じています。
西川)RSJとしては、全国各地、多数のサイクリストとのつながりがあります。そういった方々に、少しでも北海道の魅力を届け、1人でも多くの方に来ていただけるようなコンテンツづくりを進めていきます。このような広域連携での事例は多くないので、ぜひ他の自然豊かな市町村にも入っていただき、北海道の価値をより全国に伝える機会にしていきたいです。

「ライドアラウンド北海道ボールパークFビレッジ」に参加しよう!
「ライドアラウンド北海道ボールパークFビレッジ」は、サイクリング初心者でも気軽に参加できるイベントになっています。FビレッジにはSpecialized社のレンタサイクルサービスに加え、シェアサイクルも完備されており、手ぶらでサイクリングを楽しむことができます。
2025年の開催期間は10月15日まで。北海道の大自然とともに、地元の知られざる魅力を感じられるイベント、Fビレッジにお越しの際はぜひ体験してみてはいかがでしょうか。

エントリー(無料)はこちらから!
https://tour-de-nippon.jp/ridearound-fvillage-hokkaido/





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