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「社会貢献活動は、提供する側の自己満足ではいけない」クラブスタッフが語るその真意とは?

横浜ビー・コルセアーズ

クラブの地域・社会貢献活動を「YOHOアクション(YOKOHAMA B-CORSAIRS HOPE ACTION)」と呼び、小学校や福祉施設などへの訪問、また健康体操の開催、地域清掃活動、ホームゲーム招待などを行っている国内男子プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」に所属する横浜ビー・コルセアーズ。

2022年3月にプロのバスケットボール観戦を通じて夢や感動を与えることを目的に、ホームゲーム招待シート「YOHOシート」を新設したのをご存知ですか?

3月26日のホームゲームには、横浜市内の児童養護施設の子どもたち・職員の方々を約30名を招待し、事業がスタートしましたが、そのプロセスには1人でも多くの子どもたちに参加してもらうための工夫やこれまで経験したことのない葛藤もあったようです。

企画当初から当日の運営まで携わってきた、株式会社横浜ビー・コルセアーズ マーケティング部 FC・チケット担当・長谷川彩海さん(以下、長谷川)と法人営業部 部長松川弘也さん(以下、松川)に詳しくお話しを伺いました。

LTO活動20210605
地域が誇れるクラブへ~横浜ビー・コルセアーズの地域・アカデミー戦略~プロバスケットボールリーグ・Bリーグの横浜ビー・コルセアーズ。横浜市という大きな経済圏を持つ地域とともに、横浜ビー・コルセアーズが目指す地域・社会への貢献とは?アカデミーの活動にも力を入れ、『プロ』を意識した取り組みとは? 広報担当の植木さんと、アカデミー担当の山田さんにお話を伺いました。...

「今の自分にできることが何かあるはず」とずっと信じていました

ーーまずは新設された「YOHOシート」について、その経緯などをお伺いできればと思います。

長谷川)横浜ビー・コルセアーズでは、初めて試合を観に来てくださるお客様を増やしていきたいという想いがあり、これまでもミニバスケットボールクラブに所属する子どもたちやそのご家族との接点を増やしたり、アカデミー組織の強化などを行ってきました。ただ、それだけでは私たちが出会えない子どもたちやご家族も当然いるわけで、どうにかして触れ合える機会をつくりたいと思っていたんです。

そのような話をクラブの営業担当である松川に相談したところ、試合観戦のご招待を通じて機会づくりを支援してくださるパートナー企業さんがいらっしゃることを聞いて、企業さんも子どもたちも私たちもみんなが良くなる活動ができればと思い、今回の「YOHOシート」の構想がスタートしました。

ーー今回、児童養護施設の子どもたちを対象に本腰を入れてご招待したいと思った理由には、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

長谷川)私自身、幼少期にはあまり出かけることがない家族だったのですが、子どもの頃に出かけた思い出は意外にも大きく記憶に残っています。また、バスケットボールは観ていてこんなに面白いスポーツはほかにはないと思っていますので、それを知らない子どもたちに観てほしいという想いからですね。

ーー子どもの頃の印象的な思い出は大人になってからも残りますよね。

松川)私は前職のプロサッカークラブにいたときから、このような養護施設の子どもたちに向けての活動こそプロスポーツクラブが行うことだと思っていました。というのも、実は私が小さい頃に親が家出をしてたり生活がかなり危ない時期がありまして、当時を思い返したときに生活を励ましてくれる人たちや仕組みがあれば良かったなとずっと思っていたんです。

ただ、私は三重県の山奥で育っていたので、当時はプロスポーツと触れ合う機会すらありませんでした。だからこそ、私と同じような境遇の人がいたときに、プロスポーツクラブに関わる今の私にできることが何かあるはずだとずっと信じていました。

長谷川、松川株式会社横浜ビー・コルセアーズ 長谷川さん(左)、松川さん(右)

ある意味、私たちはこれまで押し付けていたのかもしれない

ーー児童養護施設の子どもたちに実際に会場に来ていただくために、工夫されたことなどはありますか?

松川)これまでも各自治体の福祉課などに依頼をして、児童養護施設へ声をかけていただくことはしていたのですが、市役所職員の方も日常の仕事がある中で、私たちの個別な要望に対応するのは難しかったと思います。なので、今回は横浜市の児童養護施設を調べて、私と長谷川で「本当に観戦に来てほしい」という気持ちを伝えるために、企画書を持って1つ1つ訪問しました。

長谷川)施設職員の方が引率するというハードルを下げるため、施設から会場に子どもたちを連れてくる際にはバス会社のパートナー企業さんと連携し、会場までの送迎も行いました。

ーー1施設ごとに実際に足を運ばれたということで、これまでとは違った気づきもあったかと思います。

松川)児童養護施設ごとにルールがいろいろとあることも初めて知り学びになりました。その中でも特に驚いたのが、児童養護施設のイメージが想像していたものとは違ったことですね。私はてっきり同じ建物で10〜20人くらいの子どもたちが共同生活をしていると思っていました。ただ横浜市の半数以上の児童養護施設では、管理事務所を中心に数人が1組で生活する民家が10箇所ほどあり、実際の家庭環境と似た形で生活しているケースが多いんです。つまり、1つの児童養護施設でも10ヶ所ほどに分かれていて、普段1か所に集まることがほとんどないとのことでした。

施設のご担当者が10ヶ所を取りまとめて集まっていただくということ自体がかなり大変なことで、これまで自治体経由で依頼をしていたときには、まったく得られていなかった情報でした。ある意味私たちはこれまで自分たちが良いと思ったことを恩着せがましく押し付けてしまっていたのだなとも思い、自分たちの行動を見直すきっかけにもなりました。

ーー現場に足を運んで情報を得ることで、本当の意味で子どもたちが喜んだり施設のためになる活動ができそうですね。初めてバスケットボールを観戦した子どもたちの様子は、どのようなものだったのでしょうか?

長谷川)普段は外国籍の選手をアテンドにあてないのですが、今回は日本語を意欲的に勉強しているパトリック・アウダ選手に参加し出てもらいました。そうしたら、ある男の子と大盛り上がりしたという話を後から聞いて、面白いきっかけがつくれたなと感じて嬉しかったですね。

横浜ビー・コルセアーズパトリック・アウダ選手

松川)パトリック・アウダ選手はチェコ出身でロシア語を話します。今回、ロシアの方が親御さんである男の子が参加してくれていて、事前情報でアウダ選手がチェコ出身ということを知っていたようなんです。最初に子どもの方から「チェコ出身なんですか?」とロシア語で話かけたところ、アウダ選手もロシア語で返してそこから話が弾んでいました。

その男の子も、まさかロシア語で返してくれると思っていなかったようで、ロシア語で会話できたことにとても感動して顔を真っ赤にして、興奮して言葉が出てこない状況で。そんな感動を体験してもらえたことに、私たちスタッフ側もとても感動したシーンでした。

交流の様子選手との交流の様子(写真提供:横浜ビー・コルセアーズ)

現実を知ることにもなるかもしれない、でも夢を持つきっかけをつくりたい

ーー子どもたちや選手が喜んでくれた一方で、開催したことで見えてきた課題もあると思いますがいかがでしょうか?

松川)当日いらっしゃった引率者からいただいたメッセージの中に「こんなに贅沢をさせてもらってよかったのでしょうか」という言葉があったのですが、これについては深く考えさせられました。例えば今回の場合、試合が終わってから選手と触れ合うまでに20分ほど時間が空きました。子どもたちはコートの傍で待っていたのですが、その間にチアリーディングスクールのお披露目会がコートで行われており、女の子たちがダンスを披露していて観客席から保護者の方が我が子の写真撮影をしていたんですね。

児童養護施設から来てくれた子どもたちの生活環境では、もしかしたらなし得ないことを、まざまざと見せつけてしまったということに気づき何とも言えない気持ちになりました。

ーー決して悪いことをしているわけではないものの、このあたりの配慮は言葉では表しにくい難しさがありますね。

松川)私たちが良かれと思って取り組んでいることが、ある一方では現実を知らせてしまっていて、人生の暗い部分に気づかせてしまったという責任があるような気がしていて。

試合前にケータリングカーで好きなものを食べられる食事の機会も提供したのですが、もし普段は好きなものを好きなだけ食べられない環境があるのだとしたら、施設に戻った次の食事からはまた現実に戻らないといけないかもしれない。参加者の中に、中学生になったらバスケをやるんだという女の子が1人いたのですが、自分の置かれている現実を知ったことで「本当にできるんだろうか」とつぶやくのを聞きました。

将来の夢を持ってもらおうと招待したのですが、現実を突きつけてしまうところもあって。夢を見させるということは、その裏には現実を見させてしまうことがあると、私たちのような企画する側は知っておかないといけないですね。

ーー今回の活動を通じていろいろと気づかれたことも多かったわけですね。最後に今後の「YOHOシート」の展望を教えていただけますか?

長谷川)今回小さな規模からスタートできたので、内容をより良くしていきつつ、よりたくさんの人に知ってもらいたいです。そして、パートナー企業さんや地域のみなさんが「ビーコルがやっているんだったら、自分たちもやってみよう、支援しよう」と、ビーコルの枠を超えて広がる活動になるといいなと思います。あと個人的にはこの活動が選手のモチベーションにも繋がると嬉しいです。

松川)横浜市では児童養護施設が8施設あるうち、今回は半数ほどしかお招きできなかったので横浜市すべての施設の方に来ていただきたいですね。また平塚市内の施設など神奈川県内の横浜以外の地域でも活動をすることで「ビーコルがいてよかったね」と感じてもらえるようなスポーツクラブにしていきたいです。

選手から「やりましょう」「まだやらないんですか」という声が出るようになったら、この活動は成功じゃないかなとも思います!

ーーお話を伺わせていただき、ありがとうございました!