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『にじいろくらす』で発達障がいのある子どもたちのチャレンジを!~横浜F・マリノス~

にじいろくらす

2022年度から、横浜F・マリノスでは『にじいろくらす』という小学生の知的・発達障がいのある子どもを対象とした常設クラスが開講しました。
横浜F・マリノスには、『フトゥーロ』という中学生以上の知的障がい者サッカーチームがあり、その特別扱いしない環境づくりはスポーツ界から大きな注目を集めています。

新たに開設された『にじいろくらす』では、どのような目的をもって活動されているのかをメインコーチの斎藤幸宏さん(以下:斎藤)に伺いました。

取材で感じた「横浜F・マリノスフトゥーロ」の未来2004年、Jクラブ初の知的障がい者サッカーチームとして結成された『横浜F・マリノスフトゥーロ』。 横浜F・マリノスと横浜市スポーツ協会、障がい者スポーツ施設である横浜ラポールの3団体が協力して運営され、中学1年生から51歳までの約80人が日々、汗を流しています。 そして2018年には、選抜チームが横浜市社会人リーグに参戦。健常者とも試合を重ねるなど、活躍の場を広げています。 8月下旬、私たちは練習場所を訪ね、宮下幹生総監督と芝崎啓コーチにお話を伺いながら練習を見学させてもらいました。...

小学生の障がい児を対象とした「にじいろくらす」

ーー横浜F・マリノスさんには、中学生以上の知的障がいのある方々を対象とした『フトゥーロ』というチームがありますよね。この度、小学生を対象とした『にじいろくらす』が始まった経緯を教えてください。

斎藤)これまでマリノスでは、中学生以上の知的障がいの方には、フトゥーロを通してサッカーをする場、運動する場を与えることができていました。しかし、同じ障がいの小学生に関しては、アプローチはするものの回数的に少ないという状況でした。
2021年度に「ふぁんタイム」小学生の知的・発達障がいを持った子たちを対象にしたサッカー教室を不定期で開催し、2022年4月からは『にじいろくらす』という名前で常設のクラスを開講しました。

ーー斎藤さんは障害者スポーツ指導員の資格も取られています。もともと障がいのある子どもたちへの指導に興味を持たれていたのですか?

斎藤)興味はもちろんありましたが、障がいを持つ選手たちがどのようにサッカーをするのか、ということは実際にチームに入り込み、一緒にやってみるまではわからなかったです。

ただ、実際に関わることになり、こうした選手たちの持っている魅力や可能性に気づき、アプローチの方法や「もっと環境をよくするにはどうしたらいいのだろう」ということを考えるようになりましたね。

ーー斎藤さんの感じた彼らの魅力とは、どのようなところですか?

斎藤)「一つの物事に対して全力で取り組むこと」「とても素直であること」ですかね。言ったことに対して受け入れられないときもありますが、素直に話を聞いて「上手くなりたい!」という想いが子どもたちから伝わってきます。
そうした素直な態度だと、指導するこちらも想いが強くなりますし、来週もまた来たいと思ってもらえるようにしたいと強く思います。
「サッカーを楽しみたい」という彼らの強い想いは本当に魅力的ですね。

にじいろくらす

サッカーを楽しむことで変わった子どもと保護者

ーーこの『にじいろくらす』ですが、知的・発達障がいのある子どもたちに対して週1回の常設クラスとして活動しています。実現までの課題はどのようなものがあったのでしょうか?

斎藤)「ふぁんタイム」で不定期に活動をしながら、常設でできる可能性を探っていました。保護者の方からのご意見では、「毎週通えるのか?」という声や、「彼らの特徴を理解してくれる指導者がまだ少ないのでは?」など、不安の声をいただいていました。
子どもは行きたいと思うけど、まわりの子に迷惑をかけてしまうのではないか」という不安や、「やっぱり楽しくなくて、もうサッカーしたくないと思ってしまうのではないか」という不安だったようです。

ーーそうした不安を持たれる保護者も多いのですね。

斎藤)そうですね。そうした中で、やはり安心安全な空間を作り上げることが大切だと改めて思いました。僕たちもこうした活動では、コントロールしやすい人数や時間など、試行錯誤して改善しながら安心安全な空間を作ってきています。何度かチャレンジし、改善していく中で子どもから「楽しい!」という表情が明らかに見て取ることができ、これは継続していける可能性があるなと感じましたね。

ーーたしかに、安全安心な空間というのはとても大事ですね。保護者の方の立場からも、毎週こうした場があるというのも安心感につながりますね。

障がい児とサッカーで向き合うということ

ーー実際に斎藤さん指導の現場で気を付けていることは何ですか?

斎藤)ワクワクを与えることと、不安にさせないようにすることは工夫しています。カードを使って次のメニューなどの予定を伝えるようにしているのですが、その際には「あとちょっと」という言葉を使わないようにしていますね。
その“ちょっと”のニュアンスが伝わらず、気になって楽しめないという子もいるので、「あと1分!」とか「あと10回!」など、具体的な言葉かけにするようにしています。

にじいろくらす

ーー「にじいろくらす」として毎週の活動がスタートしたばかりですが、印象に残る出来事はありますか?

斎藤)先日、1人の子のお腹にボールが当たってしまいました。その子にとってボールが身体に当たるっていうのは、非日常のことで、そのときは感情の波長が乱れてしまい、また普段通りに戻るのには少し時間がかかりました。これまでもこれからも、生活の中で自分の思い通りにならないことはたくさんあります。僕たちはこうしたときに現れる彼らの特徴を受け入れ、向かっていくんだということを再認識できましたね。

ーー「思い通りにいかない」ことを経験できるのも、サッカー・スポーツのいい価値かもしれませんね。

斎藤)本当にそう思います。足を引っかけられて嫌な思いをした子がいたときには、全体に対してパネルを使いながら説明しました。普段のスクールではサラッと注意して終わる場面です。
わざとでなく足が引っかかってしまう場面はサッカーでは多くあります。そのときにはこうして謝る、ということを視覚的にも見せたことで、翌週の練習では「ごめんね」や「大丈夫?」という声掛けがなされていました。言ってもわからないとなるのではなく、絵で見せるなど工夫をして話すことによって受け入れることができ、成長していく姿を見れたことは嬉しかったです。

命つなぐアクション
僕たちはなぜ『#命つなぐアクション』に取り組むのか松田直樹さんが長く在籍した横浜F・マリノスでは、2019年より『#命つなぐアクション』としてスポーツ中の心臓突然死に対する啓蒙活動を本格化させています。松田直樹さんご逝去後10年を迎えた2021年8月には、このアクションの活動費用に充てるために松田直樹さんの背番号でマリノスの永久欠番となっている#3のユニフォーム、プレイヤーズTシャツの販売などにも取り組みました。...

「にじいろくらす」の指導者として

ーー知的・発達障がいの子どもたちを指導していく上で、そうした活動をしたいと思う指導者へのアドバイスはありますか?

斎藤)アドバイスというのもおこがましいですが(笑)、障がいの有無なども関係なく、いち指導者として1人1人のことを知ることがすごく大事なことだと感じます。何が得意で何が苦手なのかを知ることによって、その子が不安にならずに活動できることにも繋がってくると思います。

これは苦手なことに対して何でもやってあげるということとも違います。ときには失敗することも大事です。配慮しなければならない場面、なにも配慮しない方がいい場面もそれぞれありますね。先日もうまくいかないことがあり、殻にこもってしまった子がいましたが、彼にとっては問題を自分の中で解決する時間となって、また練習に戻ってくることができました。でもそれが彼にとって必要な時間だということを知らないと、「お前どこ行ってたんだ」「みんなもうこっちにいるよ」という言葉をかけてしまう可能性があります。私自身、障がいによる特徴に関しても勉強していますが、その個人個人の性格・特徴となると、障がいの有無に関係なく指導者が知ろうとしなければならないものだと思っています。

ーー『にじいろくらす』から一般のクラスに参加することもあるのですか?

斎藤)もちろんあります。隣のコートで活動していますし、実際に見学した子もいます。その子の特徴によっては、“続ける”ということがすごいことになる子もいて、その子たちには6年生の最後まで続けてもらいたいなという想いがあります。と同時に、やはり社会に出てしまえば障がいの有無関係なく、いろいろな方たちと仕事をしたりすることもあるので、ごちゃまぜの関係に飛び込むきっかけが『にじいろくらす』になってくれたらいいなという大きな目標も持っていますね。

ーーそうしたごちゃまぜの関係づくりのきっかけがサッカーになるのはすごく嬉しいですね。いつか社会に出るっていう意味も含めて、サッカーというスポーツでチャレンジしたり、楽しさを知ったり、前向きな気持ちを作れますね。

斎藤)障がいを持つ子どもたちは、家族・親戚や学校の先生以外の大人と関わる回数が少ないと思うんです。なので、コーチやスタッフとの触れあいの中で、大人と関わるのも楽しいんだなって思ってもらいたいです。僕らがいないところでもまた別の誰かと関われるような勇気を持ってもらえたら嬉しいなと思います。

ーーありがとうございました!

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