2022年10月30日、JICA東京体育館(渋谷区幡ヶ谷)にて「ユニバーサルスポーツフェスティバル2022」が開催されました。さまざまな国籍、年齢の方や、障がいを持った方々が集い、風船バレー・卓球バレー・ボッチャの3種目を体験しました。
学校法人創志学園クラーク記念国際高等学校の生徒が授業の一環で参加するなど、新たな取り組みも行われた本イベント。独立行政法人国際協力機構(JICA)東京センターの小杉美和さんに、JICAがユニバーサルスポーツフェスティバルに取り組む背景や、今後の展望を伺いました。
また、特定非営利活動法人アジアの障害者活動を支援する会(ADDP)、クラーク記念国際高等学校のコメント及び、写真とともに、当日のイベントの様子もお伝えします。
高校生がはじめて参加。新たな広がりを見せた2022年
ーーまずはじめに、ユニバーサルスポーツフェスティバルの概要を教えてください。
JICA)ユニバーサルスポーツフェスティバルは、「国際協力への理解・参加を促す機会づくり」として、JICA草の根技術協力事業「ラオス国障害者スポーツ普及プロジェクト」でADDP様がラオスで実施してきた「ユニバーサルスポーツフェスティバル」を日本に取り入れ、2017年から実施してきました。今年で6回目の開催となります。
ーー元々はラオスで実施していたイベントなのですね!ラオスで行なっていたユニバーサルフェスティバルをなぜ日本でも開催することになったのですか?
JICA)日本の方々にも、国際協力にもつながる第一歩として、障がいの有無や年齢、性別、国籍などに関係なく、全ての人々が平等に参加できるスポーツである「ユニバーサルスポーツ」を通じて、「インクルーシブな社会」への理解を深めて欲しいという想いから開催することになりました。
「インクルーシブな社会」と一言で言っても難しいですが、スポーツを通じて、誰でも楽しく学ぶことができると考えています。
ーー私も体験したことがありますが、ユニバーサルスポーツは競技経験や運動神経も問わず、ルールもシンプルなので、誰でもすぐに楽しむことができますよね。
小杉さんがユニバーサルを担当することになった経緯を教えてください。
JICA)現在私は、草の根技術協力事業の「ラオス国知的・発達障害を持つ子供たちの社会的自立を目指したインクルーシブ教育と就労支援の実践」の担当を務めていることから、ユニバーサルスポーツフェスティバルの運営にも携わることになりました。個人的にもパラリンピックのボランティアをやった経験があり、パラスポーツに興味がありました。
ーーユニバーサルスポーツフェスティバルは、ADDP様と連携して開催されているのですね!6回目の開催ということで、今回から新たな取り組みを始めたと伺いました。
JICA)今回から2つ新たな取り組みを始めました。ひとつは、クラーク記念国際高等学校のグローバルスポーツ専攻の生徒さんたちにイベントに参加していただきました。
参加された生徒さんたちは「グローバル社会・多文化共生社会で自分らしく活躍できる人材の育成」をテーマに、スポーツを活用した国際貢献活動の学習と実践に取り組んでおり、「ユニバーサルスポーツフェスティバルを通じて実際に体験したい」というご希望をいただき、参加が実現しました。
もうひとつの取り組みは、群馬でのユニバーサルスポーツフェスティバルの開催です。オリンピック・パラリンピックをきっかけに、国際交流・国際協力に興味を持つ方が増えており、群馬の国際協力推進員(JICAの各県窓口)から「群馬でもぜひやってみたい」という声が挙がり、東京以外でも初めて開催することになりました。
ーーイベント開催の回数を重ねることで、参加者や開催エリアの広がりが生まれているのは素晴らしいですね!
優勝したのは一番多様なメンバーで構成されたチーム
ーーユニバーサルスポーツフェスティバル当日、印象に残ったエピソードを教えてください。
JICA)イベントの最初に、背の順に並んで大まかにチーム分けをした後、子どもや外国籍、障がいのある方などを考慮してチーム編成を行いました。
3種類のスポーツを行い、優勝チームを決めるのですが、毎年優勝するのは、小さなお子様や障がいのある方、外国籍の方など一番多様なメンバーで構成されているチームで、今年もやはりそうでした。
ーーそれは面白いですね!多様なメンバーがいるからこそ、自然とコミュニケーションや助け合いが生まれ、結果スポーツでも良いチームプレーができるということがわかりますね。
<関係団体からもイベント当日印象に残ったシーンについて、コメントいただきました>
アイ・シー・ネット株式会社 渡邊様(クラーク記念国際高等学校 グローバルスポーツ専攻 授業実施)
授業では、生徒たちに新しいユニバーサルスポーツを考案してもらい、実際にラオスの人たちにそのスポーツを体験してもらうということを目標に学習を進めています。その授業の一環として、ユニバーサルスポーツフェスティバルで実際にスポーツを体験する機会をいただきました。
この授業ではじめて「ユニバーサルスポーツ」に触れた生徒がほとんどでしたが、「誰もが楽しめる新しい遊びを考える」ような感覚で新しいユニバーサルスポーツの考案に取り組んでくれました。ユニバーサルスポーツフェスティバルの時は、普段の授業や学校生活の時よりも周囲の人を気遣いながら、自分もスポーツを楽しもうという様子が見てとれました。」
クラーク記念国際高等学校 青山先生
ユニバーサルスポーツフェスティバルの最後に表彰式があり、多様な方々と関わろうとした人に与えられる賞を、クラーク高校の男子生徒が受賞しました。車いすの方や外国籍の方がいるチームの一員になり、チームメイトに積極的に声をかけ、終始とても笑顔でいました。
普段の学校生活では発揮できていなかったその生徒の良いところが、ユニバーサルスポーツフェスティバルで見ることができたので、イベントに参加してもらってよかったと思いました。
特定非営利活動法人アジアの障害者活動を支援する会(ADDP)事務局責任者 中村由希さん
クラーク高等学校のある生徒が、誰から言われるのでもなく自分から、難聴の女の子に口を大きく開いたり、ジェスチャーを使って一生懸命コミュニケーションをとっていました。また、アフリカ人の研修員と一緒のチームになった子どもたちが、最後は肩に登って記念撮影を行うほど仲良しになっていました。
1人1人が役割を持って、支え合う、インクルーシブな社会をつくることは簡単なことではないと思います。ですが、さまざまな人と一緒にスポーツを行い、勝つために考えて、協力する。このユニバーサルスポーツフェスティバルの3時間で「共生社会」を疑似体験することができます。ユニバーサルスポーツはそのような学びにも役立つ良い「ツール」でもあると考えています。
ユニバーサルスポーツで垣間見える参加者の「新たな一面」
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
JICA)JICAは日本全国に拠点があり、各県の窓口として国際協力推進員がいます。群馬でのユニバーサルスポーツフェスティバルの開催をきっかけとして、今後、千葉・埼玉・長野・新潟などへ普及を試みたいと考えています。
また、JICAでは、「グローバル・アジェンダ」という開発途上国の課題に取り組む20の事業構想を掲げています。その「グローバル・アジェンダ」のNo.10「スポーツと開発」の中で、「性別や社会的な立場などの制約を受けず、みんなが等しくスポーツを楽しめる平和な社会の実現を目指す」ということを掲げています。
スポーツは、言葉や文化の違いを超えて楽しめるボーダーレスなものです。JICAは今後も誰もがスポーツを楽しめる環境づくりや、スポーツを通じた人材育成に取り組み、多様性のある平和な社会の実現に貢献していきたいと考えています。
私自身はまずは自分ができる取り組みとして、「ユニバーサルスポーツフェスティバル」を通じて、「インクルーシブな社会」の理解を深める活動の和を広げていけたらいいなと思っています。来年も沢山の笑顔をみることができるのが今からとても楽しみです。
ーー本日はありがとうございました!