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「なぜこの練習をするのか?」少林寺拳法が東ティモールにもたらすもの|JICA海外協力隊員インタビュー

「学校の先生になりたい」という想いを胸に、JICA海外協力隊スポーツ隊員の道を歩み始めた古野公大さん(以下、古野)。幼少期から培ってきた少林寺拳法の経験を活かし、東ティモールの地で少林寺拳法の指導に取り組んでいます。

技術や指導力の向上だけでなく、少林寺拳法を通じて人間的な成長の機会を提供し、将来的には少林寺拳法を通じて世界中の人々を繋いでいくことを目指していると古野さんは語ります。

今回は、古野公大さんのこれまでの取り組みと少林寺拳法を通じて伝えたいこと、そして今後チャレンジしていきたいことを伺いました。

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少林寺拳法連盟本部からの案内をきっかけに、新卒でJICA海外協力隊に参加

ーー中学生の頃から「学校の先生になりたい」という夢を持っていたという古野さん。そんな中、JICA海外協力隊に参加した経緯を教えてください。

古野)先生になりたいという想いと同時に、海外旅行も好きだったため「海外で教員をする」という選択肢が自分の中に浮かび、JICA海外協力隊に興味を持っていました。

大学卒業後すぐにJICA海外協力隊に参加し、その後の人生の糧にしたいと考えていたところ、少林寺拳法連盟本部から「JICA海外協力隊を募集する」という案内をいただき、競技経験や段位の条件も満たしていたため、すぐに応募することを決めました。

ーー古野さんの少林寺拳法との関わりを教えてください。いつから少林寺拳法を始められたのでしょうか?

古野)5歳のときからです。中学・高校時代はバスケットボール部に所属していて、大学でもバスケットボールをしようと思って入学したのですが、新入生歓迎会での少林寺拳法の演武を見てその魅力を再認識し、再び競技を始めました。

ーー少林寺拳法を“教える”ということにも興味はあったのでしょうか?

古野)そうですね。中学生の頃から「教員になりたい」と思っていたのも、人に何かを教えることに興味と関心があったからです。

少林寺拳法においても、大学の部活動で後輩たちに対して指導する機会が多くあり、「人に教えるのはおもしろい」と感じていました。少林寺拳法は、身体を鍛えたり技術を磨くだけでなく、心も鍛える教育システム、体制が充実しているところにも特徴があり、そうした点もおもしろいと思えた理由の1つです。

ーー少林寺拳法をはじめとした武道は、人に何かを教えたり伝えたりすることと相性が良さそうですね。

JICA

ほとんど情報のない東ティモールへの派遣

ーー派遣先である東ティモールという国に対して、派遣前はどのような印象を持たれていましたか?

古野)JICA海外協力隊のほかの職種のように、いくつかの選択肢から希望の派遣先を選ぶわけではなく、「少林寺拳法を教えたい」と思ったときには東ティモールしか募集がない状況でした。派遣される前は東ティモールについてほとんど知らなかったですし、ネットで調べてもあまり情報が出てこなくて、「そのような国で少林寺拳法をやってる人たちってどんな人なんだろう?」と想像もつきませんでした。

新しいことや普段やらないようなことに挑戦することに対して、不安よりもワクワクが勝るタイプなので、恐怖心や躊躇はありませんでしたが。(笑)

ーー実際に派遣された東ティモール。少林寺拳法を行う環境はどのようなものだったのでしょうか?

古野)東ティモールはもともとインドネシア領であり、そこから独立したという歴史的背景があります。実はインドネシアは、競技人口が日本よりも多いといわれるほど少林寺拳法が盛んな国です。その影響もあり、東ティモールの地域でも独立以前から少林寺拳法が盛んです。

ですが、独立した際に指導者の多くがインドネシアに移ってしまったため、少林寺拳法をやる人の数はかなり多いにも関わらず指導者が不足していました。東ティモールでの少林寺拳法の様子を初めて見たとき、「一世代、二世代前の少林寺拳法が続いているな」と感じるほど、情報がアップデートされていないことが課題だと感じました。

ーーそのような東ティモールの少林寺拳法の状況で、古野さんは現地でどのような活動をされていたのですか?

古野)東ティモールの少林寺拳法連盟に派遣され、まず最初に取り組んだのは、練習の内容を充実させることです。現地での指導の方法はかなり厳しく、子どもたちがついてこれなくなるのでは?と感じる場面も多くありました。厳しく指導され、型など個人で取り組む内容に割く時間が多くなり、2人1組で技をかけ合いながら練習する時間が非常に短くなっていました。

少林寺拳法は、技を掛けたり、掛けられたりする中で上達していく武道です。そこで、みんなで切磋琢磨しながら、お互いに教え合いながら練習できるように、2人1組での練習時間を増やすなど、練習内容を少しずつ変えていくことに取り組みました。

世界中で使われる技名が日本語であることの多い武道ですので、言葉の面ではすんなりスタートすることができました。細かなニュアンスの部分は実践して体感してもらえるようにするなど、私も工夫しながら取り組んでいます。

ーー言葉の壁は実際に身体を動かすことでカバーされているのですね!「指導者の育成」のところも古野さんが期待されていた役割のひとつだと思います。「指導者の育成」で取り組まれていたことはありますか?

古野)最初に取り組んだのは練習のプランニング(計画)をきちんと行うことでした。しかし、東ティモールの人たちは少林寺拳法の指導に限らず、プランニングをする習慣があまりなく、苦手としています。練習の際に現地の指導者と話し合いながらプランニングしたり、私の当日組み立てた練習の流れを見てもらって学んでもらうことも意識して取り組んでいます。

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「なぜ」の問いかけが若者の主体性を育む

ーー現地の課題を肌で感じながら、試行錯誤されているのですね。難しさを感じる部分も多いとは思いますが、少しずつ良い方向に変わってきたな、と感じたエピソードはありますか?

古野)私が指導の際に意識していることは、「なぜ?」とたくさん問いかけることです。構えや攻め、受けなど、少林寺拳法に限らず武道にはさまざまな要素があります。それに対し、「この技はこういう構えから始まるよ」という事実だけを伝えるのではなく、「なぜその構えから始まるのか」というところから教えたり、技の掛け合いの場面でも「なぜその攻撃を選ぶのか」など、「なぜ?」を考えてもらうような声掛けをしました。

そうした指導を1年ほど続けたところ、若い子から私に対して「なんでその場面でこういう受けをするのですか?」というような質問が出てくるようになったことが、良い方向に変わってきたなと思うエピソードです。それまでの一方通行のコミュニケーションから、生徒自身にも考える癖がつき、変化が生まれていると感じています。

ーー技術だけではなくて、考える力、人間的な成長にもつながり始めているのですね。

古野)こうした「なぜ?」を考える習慣が、東ティモールの人たちが苦手なプランニング能力を身につけることに繋がるとより良いのではないかとも考えています。

ただ、人から指示されるだけで目的意識がない状態では、どの練習がよいのか自分で考えたり、プランニングするのは難しいです。「なぜ?」を常に持つようにすることで、少し大きな話になりますが、東ティモールの若者の就職などの国全体の課題解決にも繋がるのではないかと思います。大学を卒業しても仕事に就けない人も多くいる現状に対し、「海外で働きたい。だから今英語を勉強するんだ。」などの人生のプランを描けるような人材が増えてほしいですよね。

ーー自分と向き合うことや自分の頭で考えることが大切な少林寺拳法や武道を、東ティモールで普及させていく意義を感じます。

東ティモール

少林寺拳法を通じて、世界と繋がることができる

ーー今お話しいただいたこと以外にも、少林寺拳法を普及させることで東ティモールにもたらせることはありますか?

古野)少林寺拳法は、現在約40か国に広がっている武道ですが、実は流派がなく「世界にひとつの少林寺拳法」と言われる武道です。少林寺拳法で世界と繋がることができたり、世界に行くことができることは私にとっても驚きでしたし、それを活かしていきたいと思っています。

残りの活動期間では、少林寺拳法を通じて東ティモールと日本の人々を繋げることに取り組んでいきます。東ティモールの人たちが日本に興味を持ち、日本のことを知ることで、「自分たちの国をもっとこうしたい」という意識が芽生えるかもしれませんし、逆に、日本の中高校生が東ティモールの現状を知ることで、今まさに発展していっている国とともにどのような取り組みができるのかに目を向けるきっかけになるかもしれません。少林寺拳法という一つの武道をツールとして使い、日本と東ティモールの人々が世界と繋がる機会を提供できたら、一番嬉しいですね。

ーー素晴らしいですね!古野さんが競技としてのスポーツの価値だけでなく、スポーツが持つ人と人とが繋げる価値に気づいたきっかけはあるんですか?

古野)日本の少林寺拳法でも、大学の部活動は年に一度香川県にある本部に集まり、約1週間の合宿を行います。全国から少林寺拳法をやる大学生が集まることで、たくさんの人と繋がることができましたし、一緒に練習して一緒に上達していく経験ができました。

東ティモール古野さんが大学生のときに合宿で出会った仲間たち

発信活動を通じて「いろんな世界」に気づくきっかけを

ーー古野さんはご自身のSNSなどで発信活動をされていますが、始めるに至った経緯を教えてください。

古野)『少林寺拳法×海外』という組み合わせで活動している私は、これまであまりいなかった珍しい存在だと思っています。その経験を発信することで、とくに学生世代が「いろんな世界があるんだ」と気づいてもらえたらいいなと思っています。

発信を続けることで、突然高校生の方から「私も少林寺拳法を通じて国際協力をやってみたいと思っているんです」という話を聞くこともできました。和歌山県の道場の先生から連絡をいただき、中学生に向けてJICAのことや活動のことについてオンラインでお話させていただく機会もいただきました。
こうして発信していることで、誰かの目に留まり、繋がる機会が少しずつ増えてきているのは、私としてもとても嬉しいことだと感じています。

ーー最後に、JICA海外協力隊スポーツ隊員として、今後取り組んでいきたいことを教えてください。

古野)まずは、月に一度日本の道場の先生や大学生とZoomを繋いで行う練習を計画しています。この活動ができるようになると、東ティモールの少林寺拳法の情報のアップデートがなかなか進んでいないという課題にもアプローチすることができるようになります。独立後もインドネシアに依存していた体制から脱却し、私が日本へ帰国した後も情報が更新されるような体制作りを進めていきたいです。日本と東ティモールが月に1回繋がる練習を続け、現地の方々がこの方法に慣れていけば、何か問題が発生したときにもZoomで本部と連絡を取り合い、修正を行うことができるようになります。

残りの期間で、日本と月1回繋がって練習する機会を作ることと、日本の本部との情報更新がスムーズに行える体制作りを目指して取り組んでいきたいと思っています。

ーー今後の活動の素晴らしいプランニングですね!本日はありがとうございました!

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