今回お話を伺ったのは、アスリート専属の管理栄養士として働きつつ、ボランティア団体『GRIT』の代表として走りながらゴミ拾いするプロギングを企画運営している大嶋英美里(おおしま・えみり)さんと、副代表をされている中学校教員の栄藤辰久(えとう・たつひさ)さん。
1年前にも取材させていただきましたが、今年8月には新たに東京都からの助成が任意団体ながら認められ、さらに活動の幅を広げています。
▶前回のインタビュー記事
活動を続ける中で助成に応募するに至った悩みや、約2年半の活動を通じて気づいたスポーツと社会貢献活動の親和性など、さまざまなお話を伺いました。
倍率なんて関係ない、私だったらいけるはず!
ーーおめでとうございます!今回『GRIT』の提案内容が東京都に認められて助成金を受けたということですよね。ぜひその経緯などをお伺いさせてください。
大嶋)本当にありがたいお話で、今年の5月に東京都教育委員会・東京スポーツ文化館が主催している「令和3年度 チャレンジ・アシスト・プログラム」に応募して助成金を受けることができました。書類審査とプレゼン審査の2つがあったのですが通過できてほっとしています。
ーー活動を初めて2年ほど経ったそのタイミングで、どうして助成金に応募しようと思われたのですか?
大嶋)令和1年の2019年5月にボランティア団体『GRIT』を立ち上げたのですが、これまではずっと私自身のポケットマネーで活動を続けていたんですね。大学生の時にさまざまなボランティア活動に参加して、たくさんの価値観や生き方に触れることができたのが私自身の財産になっていて。
だからこそ参加者の方に少しでも満足していただきたいという気持ちで、軍手やゴミ袋、活動が終わった直後にちょっと食べられるお菓子とか、ボランティア募集サイトに掲載する費用などもずっと自分で負担していました。
でも参加者も集まらない時もあり「このまま続けていくのもどうなのかな?」と悩んでいたところ、ちょうどそのタイミングで東京都の助成金の情報を見つけたんです。
副代表の栄藤さんに相談したらかなりの倍率らしいということを教えてくれたんですけど、「倍率なんて関係ない。私だったら、これ絶対行けるな!」と思って勢いで応募しました笑
ーー書類審査やプレゼン審査はすんなりと通過できたのですか?
大嶋)書類審査は特に問題なく通過できました。ただ、オンラインのプレゼン審査では質問にうまく回答することができず、正直「これはもうだめかな」とも思いました。でも、これまでの活動実績やただ走ってゴミ拾いするだけのプロギングとは違う『GRIT』の想いにも共感いただけて、申請額を満額いただけることになりました。
毎回の自己負担がなくなったということで気持ちが軽くなりメンタル的に良かったですし、多くの方に活動を知っていただければと思い、さっそくPR動画もつくりました!
ーーメンタル的にキツくなると活動を継続することが難しくなるので、助成金を得られて本当に良かったですね。活動当初は自己負担することに、嫌な気持ちなどはなかったのですか?
大嶋)私にとってボランティアは趣味なので、ゲーム好きの人がゲームを購入したり、トレーニング好きの人がジムに通ったりという感覚と同じなんですね。だから、自分のお金を使うことに嫌な気持ちは全くなかったですね。
でも、募集したけど応募人数がゼロとか、申込者の半分近くが当日にキャンセルとか、そういうことが何度も続くとしんどくなってしまうこともありました。
ーー助成金を使ってさっそくPR動画をつくられたということでしたが、自費ではできなかったことも今後は取り組めるようになりますね。
大嶋)これまでは皇居や代々木公園に集まって走りながらゴミ拾いをしているだけなので、側から見ると何をしているかわかりにくかったと思います。きっと「ゴミ拾いの好きな人が今日は多いなあ」くらいの印象しか残らなかったと思うんです。
でも今回、助成金やいろいろな企業からも協賛をいただけたことで、軍手を『GRIT』のロゴ入りに統一したり、トングやゴミ袋やバッグを揃えたりして参加者みなさんが同じモノを身につけて活動できるようになりました。
大嶋)参加者みなさんの一体感も高まりますし、側から見てもチームとしてボランティア活動していることが一目で見てわかるようになったので、この活動に興味を持っていただける機会も増えて本当に嬉しいです。
ーー確かに同じモノを身につけて活動するとチームへの所属感も高まりますね。モノを揃える以外にはどのような活動をしていきたいと思われているのですか?
大嶋)今回の助成金は2月末までの半年間で、新たにプロギングする人を100名増やすというプロジェクトで応募したので、まずは目標を達成できるようにしていきたいですね。
そして『GRIT』の活動に参加してくださる方はスポーツ好きだったりスポーツチームや選手の方が多いので、スポーツ業界にもっとプロギングを広めていきたいと思っています。
ーー例えばどんなところに広がっていくと嬉しいですか?
大嶋)サッカーのジュニアチームが朝練でプロギングみたいな形で広がっていくと、子どもたちの教育にも繋がるのでめちゃくちゃいいなと思っています!
自分の「好き」の延長線上にある活動から始めました
ーー中学校の教員をしながら、『GRIT』の副代表で運営に関わっている栄藤さんにもお話を伺いたいと思います。栄藤さんが『GRIT』の運営に携わり始めたきっかけは何だったのですか?
栄藤)中学校の教員をしているので、学校教育にも繋がるボランティアを検索していた時に、たまたま『GRIT』の募集を見かけたんですね。当時ランニングが趣味だったこともあり単発のイベントなので気軽に参加できそうと思いまずは参加してみました。
ーー初めて参加してみていかがでしたか?
栄藤)軽く走りながらゴミ拾いもするので、何だか心も身体もすっきりしたのを覚えています。あとはプロギングの最中や終わった後の交流会で、普段は接点がない業種の方とコミュニケーションがとれるというのがとても面白かったですね。
何度か活動に参加する中で代表の大嶋さんとも『GRIT』や社会貢献活動に対する想いを話すようになり、気がついたら自分も運営側にいましたね。
ーー何か特別なことがあったというよりも、自然の流れで運営に関わるようになったのですね。実際にプロギングを体験されて、社会貢献活動に対する考えはどのように変りしましたか?
栄藤)「社会貢献」という言葉を聞くとメンタル的なハードルを感じていたのですが、実際にやってみると気軽に出来ることもあるんだということに気づきました。自分と相性がいい活動があるんだということに気づけたことも大きかったですね。
ーー無理して始めるよりも、自分の「好き」の延長線上にある活動から始めることが、最初は入りやすいのかもしれないですね。
栄藤)社会貢献活動を始めるためには「知る機会」も大切だと思っています。だから、自分と相性のいい社会貢献活動がわかる検索サイトなどがあるといいかもしれないですね。
ーーこの『GRIT』の活動ですが、栄藤さんは今後どのように展開していきたいと考えられているのでしょうか?
栄藤)参加人数を増やして大所帯にすることにはあまり興味がなくて、毎回10名ほどでいいので参加してくださった方が他の社会貢献活動にも参加するようになってくれると一番嬉しいですね。
近い将来、「『GRIT』に参加したことがきっかけで、社会貢献活動の楽しさに気づいたので今でも続けています」のような声が聞こえてくると最高です!
この『 GRIT』の活動を通じて「自分の居場所」もつくれたら
ーー副代表の栄藤さんに『GRIT』の今後の展開について伺ったところ、「社会貢献活動の最初のきっかけになれば」と言われていました。大嶋さんはどのように考えられているのでしょうか?
大嶋)もともとこの活動は「社会貢献活動の敷居を下げたい」という想いもあって始めたので、活動を開始して2年半ほど経ちますが今もその想いは強いですね。
ーー将来的には一般社団法人やNPO団体の設立なども考えられていたりとか。
大嶋)今はこのままでいいかなと思っています。逆にすごくないですか?任意団体なのに東京都から助成金をいただいてオフィシャル感があって笑
東京都の職員の方もびっくりされていたのですが、助成金を受けることが決まった直後に銀行口座をつくりにいったら、とんとん拍子につくれたんですよ。銀行窓口の方も「こんな活動をされているのであれば口座をつくったほうがいいですね」と、口座開設に協力してくださって。
ーー任意団体での銀行口座開設はいろいろと審査があって手間がかかる、と一般的には言われているのにそれはすごいですね。それだけ可能性を感じてもらえたのかもしれないですね。
大嶋)私自身もまだまだ『GRIT』にとても可能性を感じています。日常の中でゴミが道に落ちていても普通は拾わないじゃないですか。でもこの活動に参加したことでゴミ拾いを始められた方もいらっしゃって。
以前参加してくださったある女性の方が、参加してから道に落ちているゴミが気になって仕方なくなってしまったそうで。なんと渋谷のスクランブル交差点のあたりを、1人でプロギングされたそうなんです。
ーー人通りが多いので、ゴミ袋を持っていたらかなり注目されますね。
大嶋)大きなゴミ袋が10袋くらいになってしまい、持って帰ることもできずどうしようと交番に相談したら、「ここに置いてもらって大丈夫ですよ」と警察官の方に言われたそうで。
人の意識をこんなに大きく変えて行動につなげられる『GRIT』の活動はやっぱり素敵だな、とこの時とても感じました。
ーー参加された方が「社会貢献活動っていいよね」と思うだけでなく、実際に行動も変わってしまうというのは本当にすごいことだと思います。
大嶋)今までプロギングをしていなかった人がするようになると、その周りの人にもきっと影響が広がると思うんですよね。そうやって、身近な人の行動を介してプロギングや社会貢献活動が広がってくれると嬉しいですね。
ーーここまでいろいろなお話を伺ってきて、『GRIT』は単に走ってゴミ拾いをするプロギングとはまた違った魅力があるように感じています。そのあたり大嶋さんはどのように感じているのでしょうか?
大嶋)もともと私自身が、いろいろな方に出会って様々な価値観や生き方も知りたいなと思って始めた活動です。だから、今でも職種や国籍を問わずたくさんの方に参加いただいていることは本当に嬉しいですね。
スポーツって人との距離をグッと縮めるじゃないですか。だからこの活動でもスポーツの一環として、人とのコミュニケーションを楽しんでいただきたいなと思っています。
あと「自分の居場所」があると思ってもらえるとすごく嬉しいです。生きてきた道や職種が全く違う相手だからこそ話せることもあると思うので、普段はなかなか話せないことも話しながら、「自分はここにいていいんだ」と感じてもらえる方が1人でも増えると嬉しいですね。
ーー「自分の居場所」というのはこれからの社会貢献活動を進めていく上でのキーワードになりそうですね。
大嶋)プロギングというプロセスの共有を通じて、価値観が違う人とも寄り添い合うことができるようになり居場所ができて自己肯定感も高められる。そんな役割も『GRIT』が担っていけると最高です!
ーー1年ぶりの取材でしたが、さらに活動が盛り上がっていることが、スポーツを通して社会貢献活動を応援するメディアとしてとても嬉しいです。ここまで読んでくださった読者のみなさま、ぜひ『GRIT』が主催しているプロギングに1度ご参加してみはいかがでしょうか!
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