スポーツ

『考える力』を育むスポーツへ~Buildが作る指導者と選手の理想の関係~

Build

学生時代のスポーツから得られるものはなにか?

努力する力、忍耐力、精神力。さまざまな回答がこの質問には出てくるでしょう。多様な価値観を求める現代において、学生年代のスポーツ指導者は、選手個々にどのようにアプローチをするのか悩む場面もあるのではないでしょうか。
スポーツで有名な筑波大学発のベンチャーであるAruga株式会社が展開するサービス『Build』は、選手が手軽に目標を設定し振り返りを行うことができ、指導者の個別の対応も容易にするサービスです。元陸上五輪選手であり、男子400メートルハードルの日本記録保持者(2023年10月現在)でもある為末大さんも支持する『Build』が生まれた背景、その想いを代表取締役の下園良太さん(以下、下園)に伺いました。

BuildAruga株式会社代表取締役 下園良太さん

教育的観点を持つスポーツ指導者を助けたい~『Build』開発の想い

ーー『Build』は、大学生以下の年代のスポーツチーム、部活動などで活用されています。簡単に言うとどのようなサービスなのでしょうか?

下園)デジタル版練習ノートBuildは、スポーツチームをサポートするためのITサービスです。その目的は、選手自身が良い目標を設定でき、その振り返りをする習慣を身につけ、選手同士で学び合いながら成長していくことです。そして、それを指導者が見守れるような仕組みを構築しています。

ーーこのサービスはどのような背景から生まれたのでしょうか?

下園)そもそもAruga株式会社は、学生時代にスポーツの指導領域をターゲットに起業した会社です。その中でさまざまな指導者の方とお会いしていくうちに、スポーツチーム特有の文化として「紙やノートを使った振り返り」を実施しているチームが多いことがわかりました。
練習や試合を選手が振り返り、指導者がフィードバックするという文化自体はとてもよいものだと思います。しかし、チームに所属する選手の人数が多くなればなるほど、「紙を回収する、1人1人チェックしてコメントする、返却する」といった作業が膨大になることが大きな課題だと感じました。

また、「選手が社会で生きていく上で、目標設定の力や振り返る力をつけさせたい」という教育的観点を持っている指導者も非常に多いと感じています。こうしたチーム作りをすることに感動し、そうしたチームのサポートをすることに社会的意義を感じて『Build』の開発が始まりました。

ーーメジャーリーグの大谷翔平選手に代表されるように、スポーツを通して人として成長することに注目が集まっています。それを目指し、実践する指導者が増えてきているのですね。

下園)本当にそう思います。そうした指導者や、成長したい選手を支える基盤になりたいという想いで、このサービスの名前を『Build』にしました。
私自身も高校時代の部活動で、選手主体で運営するチームに所属していました。私はキャプテンとして関わり、強いチームではありませんでしたが仲間と協力して「どうやったら勝てるのか?」と考えたり、選手とのミーティングを重ねたりしていました。そうした経験が、いまの人生にもつながっていると思います。

Build

指導を変えたいわけではない

ーー「指導方法を変えたい!」のではなく、「よい思想を持っている指導者のサポートをしたい」と考えている下園さんの想いがよくわかりました。

下園)まさにおっしゃる通りです。理想をしっかり持っていても、それを実現するためのコストが大きかったり、やり方がわからない人もいるのが現状です。

ーーそもそも、「自分で考える力」はなぜ大切だとお考えですか?

下園)スポーツとは少し離れますが、人生において「答えが用意されていない問題」はとても多いです。進路選択などがわかりやすい例でしょうか。さらに、こうした問題は、状況が誰一人同じものはなく、他人に任せることができないものです。まわりのアドバイスをもとに相談しながら進めることもできるかもしれませんが、結局その状況をすべて把握しているのは自分で、結果を受けとるのも自分なので、「答えが用意されていない問題」に対してどうするかは“自分で考えて”判断すべきことだと私は思っています。

ですが、日本の教育では、答えのある問題を解くような座学が多かったり、スポーツの場面でも指導者の言うことをトップダウンでこなしていくような状況も多く、その先の人生で起きる問題とのギャップが非常に大きいです。
「人生をよりよく生きたい」と思ったときに、自分で考える力というのは非常に重要だと考えています。

ーー学生時代のスポーツがそうした人生の力になる可能性がありますね。

下園)そうですね。とくに学生時代は、社会で生きていくための準備期間だと考えていて、その準備としてスポーツはとてもよい場であると考えています。経済産業省が2006年に提言した『社会人基礎力』でも、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」と定義されており、これらはスポーツで身につけられる力ばかりだなと感じます。

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Buildでできること

ーー『Build』のサービス内容について教えてください!

下園)『Build』では、選手は手軽に目標設定と振り返りができ、その内容がリアルタイムで指導者に共有される仕組みになっています。選手はLINE上で練習前に今日の目標を設定でき、練習後に振り返りを行うことができます。
振り返りでは、「Good・Bad・Next」のフレームワークにあてはめ、よかった点・できなかった点、それを踏まえて次はどうするかということを入力します。あまり複雑になりすぎると入力すること自体が負担になってしまうので、必要最小限の質問で効果的な振り返りができるように工夫しています。
回答方法も、LINEのチャットボットが自動で対応し、メッセージのやり取りをする感覚で答えていくことができます。

ーー練習後に「今日はどうだったかな」と考える習慣が手軽にできるのはいいですね。

下園)LINEの活用は、手軽さという観点からユーザー(選手)からも大きな魅力に感じてもらえています。
さらに、チームの目標も表示されるので、個人のことだけでなく、チームに対しても意識を向けることもできます。私たちとしては、1人1人が“個別に”成長してくわけではなく、“チームの中で”成長していくことを大事にしています。自分の目標を持ちながらも、チームの中での役割を達成できているか、チームワークについて意識できているか、という点も大事な要素になっています。

選手画面選手が使用する画面

下園)チームを意識することで出てくるのが、「チームメイトはどのようにやっているのか?」を学ぶ点です。『みんなのワーク』という、チームメイトの目標設定や振り返りを見ることのできる画面があるのですが、実はこのページの平均閲覧時間が一番長いです。
チームメイトの目標設定や振り返りを見て、自分の学びに変えていくような現象も起きています。チームで取り組むことで、個人の成長の速度も速くなっていくのだと実感しています。

ーー指導者側にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

下園)IT化したとはいえ、毎回選手全員にコメント付きのフィードバックを送ることはやはり難しいです。しかし、選手からは「ちゃんと見てくれている」という実感を持てることも大きな価値に感じられますよね。そこで、指導者側の画面では、選手1人1人にできるだけフィードバックをしやすい形式を作っています。誰に送ったかがわかるのはもちろんですが、クリックするだけで“見たよ”ということが選手に伝わるアクションも用意しています。

ーー自身の学生時代、指導者からコメントをもらえただけでとても嬉しかったことを思い出しました。

下園)こうした機能を活用しながら、フィードバックにもメリハリをつけることも大事だなと思いますね。

コーチ画面コーチが使用する画面

振り返りの文字量が2倍に!Buildから得られる効果

ーー選手の目標の立て方、指導者のフィードバックのやり方など、その方法についての指導もされているのでしょうか?

下園)導入初期には私たちBuildスタッフがチームと伴走する場合もあります。中高生の選手によっては、具体性をもった目標設定に慣れていなかったり、振り返りで深掘りできていないこともあります。そうしたときに、私たちから選手へ実際にアドバイスをすることで、やり方を学び、慣れていくことができます。さらに指導者側もBuildスタッフを見て、Buildの利用方法を知ることができ、指導者から選手へのフィードバックが増えていく現象も起きています。

ーー専門家が監修していることも大きいですよね。実際に導入して効果がでた実績はありますか?

下園)例を挙げると、Buildを導入している中学生のチームで、始めてから2ヶ月で振り返りの文字数が2倍に上がった事例もあります。小学生・中学生でも、しっかり考えればかなりの文量で書くことができるということがよくわかりました。大人よりもしっかり振り返りができてるなぁと思うこともありますね。(笑)
また、法政大学の駅伝部など、指導者の数が少なく部員が多いチームにも上手に活用していただいています。指導者1人で50人規模のフィードバックがこまめにできるようになり、喜んでいただいています。

法政大学
「しっかり考え、努力する」箱根駅伝のランナーを育てる伝統校監督の考えとは?Sports for Socialにおける『箱根駅伝“教育論”』連載の第1回は、法政大学の坪田智夫監督(以下、坪田)。選手としても箱根駅伝2区区間賞をはじめ、実業団選手としてニューイヤー駅伝6度の優勝、そして個人としても世界陸上に出場するなどの輝かしい実績を持つ坪田さんは、2012年からOBである法政大学の監督として指導の現場に立ち始めました。指導者のいなかった学生時代、なかなか結果が出ない中での王者からのアドバイス、それらの経験から今でも大切にする想いとは?...

ーー自分の考えたことを文章にしてアウトプットすることも非常に大きな力になりますよね!自分の好きなもの、真剣に取り組むものでこうした経験ができることは、とてもよいことに感じます。

下園)こうした振り返りの習慣がつくことで、リアルな場面でも効果が出ています。あるチームでは、試合が終わったあとに選手が自主的に集まって、「この試合どうしたらよかったんだ」という、次に繋げるように話し合いをするようになっているそうです。『考えるクセ』がついてきた何よりの証拠だと思います。

保護者の方や学校の先生から、書く力がすごく上がっているというお声もいただいたり、さまざまなところでスポーツ、そしてBuildを通しての成果が発揮されているなと感じます。大学生では、就職活動に臨む際に、「自分がスポーツにどう打ち込んできたのか」というプロセスの記録としてBuildが活用されていたり、企業からも高評価をいただいたりしています。

利用の様子

ーー今後の展望を聞かせてください。

下園)今後もよりシステムを発展させ、「指導者が見守る温かさ」とIT化の両立をしながら、『監督とBuildのダブルサポート』の形で進めていきたいというのが大きな方針です。

弊社の開発チームは、AIや自然言語処理に関する専門的な経験を持っており、チャットボットについては今後もブラッシュアップしていきたいと思っています。流行りのAIというわけではなく、AIだからこその価値が提供できるようにしたいですね。

ーーこのサービスから、よりよい人生を送る大人が10数年後に増えていくといいですよね。

下園)そうなるとすごい嬉しいですね。Buildの想いに共感していただけるチームや指導者の方に広く導入してもらいたいです。

ーーありがとうございました!

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