今回は以前も登場していただいたパラテコンドー日本代表、そして日揮ホールディングス(株)所属の阿渡健太選手をお招きして今年新たに設立した新会社(日揮パラレルテクノロジーズ株式会社、特例子会社の前身)について、お話を伺います。
阿渡氏は、2021年1月に新会社の副社長に就任。社名は日揮パラレルテクノロジーズ株式会社。社名には「障がいの有無に関わらず、全ての人が対等 (parallel) で、社会的意義を感じながら持てる技術 (technologies) を発揮して働ける社会の実現を目指す」という意味が込められています。
日揮パラレルテクノロジーズ株式会社は、日揮グループ内におけるさらなる障がい者雇用の促進、および安定化を図っていくために設立したもので、今後は積極的な障がい者の採用活動を実施し、本年4月1日から日揮グループ内のIT関連の業務支援を主な業務として活動を開始する予定です。
阿渡氏には、新会社設立までの苦悩や想いなどを語って頂きました。
■阿渡健太選手について:
1986年生まれで現在34歳。元々はサッカーをやっていましたが、2017年にパラスポーツの体験会でパラテコンドーに出会ってパラテコンドーを始めます。2017年には世界パラテコンドー選手権でベスト8、2018年のアジア選手権では2位となりました。東京パラリンピック、その先のパリパラリンピックでも、期待されている選手の1人です。
障がい者が輝ける、新会社設立の背景
Sports for Social編集部:
最初に新会社設立の背景や経緯を教えてください。
阿渡氏:
現在の日揮ホールディングスは、2019年10月に分社化し、日揮ホールディングス株式会社、日揮グローバル株式会社、日揮株式会社の3社に分社化しました。分社化後は障がい者が偏在する結果となり、それを合理化するべく、新会社を設立しました。
Sports for Social編集部:
新会社を作ろうと思った時に、どういった決心があったんですか?
阿渡氏:
障がい者雇用には様々な課題を感じていました。例えば、私が就活をしていた頃、障がい者だから雇えないとか、最低時給並の賃金など、障がいがある=生産性が低い、という思い込みが強い社会だなと感じていました。
また、私が就職した際は、同じような障がい者が周りにいなくて、モデルケースがないことで、自分のキャリアに不安や悩みを感じる時期もありました。これから就職していく障がい者も同じような苦労をしていくだろうなと日々感じながら過ごしていました。そんな時、障がい者雇用の推進を図る会社の想いと、私の想いが重なり、このタイミングで新会社を作ろうと決心しました。
新会社を作る際の、周りからの反対
Sports for Social編集部:
新会社を作る際に、周囲からの反対はありましたか?
阿渡氏:
あまり詳細は語れませんが、一つの会社を作るということは、たくさんの時間、人、お金、責任を伴うことだと経営陣はわかっているので、若造にできるのか、という反応はありました笑。それに対して、日揮グループが抱える課題や障がい者の能力、他者事例などをきちんと整理した上で説明し、最終的には了承を得ることができました。
Sports for Social編集部:
経営陣が了承してくれた背景には、阿渡さんの存在や日頃の働きぶりなども影響されていたのでしょうか?
阿渡氏:
少なからず影響はあったと思います。私自身が仕事と競技を両立するパラアスリートであり、経営陣も私の存在は知っていました。また、日揮グループでは、SDGsを念頭に置いて、さまざまな社会課題を解決していくことを目指しています。その中で、障がい者に対する人権の尊重や働きがいを推進していこうという想いが一致したことで実現できたと思います。
障がい者が行うIT業務支援
Sports for Social編集部:
新会社の業務内容はどのようなものですか?
阿渡氏:
主に日揮グループ内のIT業務支援を行います。今まで蓄積してきた膨大なデータをITの力を活用することで作業工数の減少や人件費の削減などが実現できます。そのIT化の一部を新会社で担うことになります。本年4月から、このようなITの素養を持った人材を採用していきます。
Sports for Social編集部:
一般的な障がい者支援をしている団体との違いはどういったところでしょうか。
阿渡氏:
一概には言えませんが、私個人のイメージとしては、一般的な障がい者の仕事は軽作業が中心で、例えば、オフィスの社内メール配布やトイレの清掃、コピーを取るなど、誰でも出来るような軽作業が主流です。
しかし、私は障がい者の能力はそんなものではないと思っています。私自身が障がい者ですが、普通の人と同じレベルで仕事をしていますし、能力も変わらないと思っています。もちろん、障がいの程度によっては、軽作業しかできないという場合もあると思いますが、障がい者全員がそうではないと言いたいのです。
要するに、個々の能力を最大限に活かしきれていないことが社会全体の問題ではないかと考えています。新会社の場合、ITに素養のある人材を採用しています。能力的には市場価値の高いスキルをもっているにもかかわらず、障がいがあるという理由だけで、就職に苦労したり、就職できても低賃金というケースも少なくありません。
そうではなくて、障がいに見合った、柔軟な働き方や職場環境を整備することで、最大限能力を発揮してもらい、それに見合った対価を支払うことが理想だと考えています。
Sports for Social編集部:
新会社の今後の展望について教えて下さい。
阿渡氏:
まずは日揮グループ内でIT業務支援を行い、「結果を出す」ことが重要なミッションだと考えています。結果を出すことで、社内の見方も変わってくるでしょうし、社外からも新たな仕事を請け負いたいと考えています。そのためにも、まずは「結果を出す」ことが重要になってきます。また、障がい種別にかかわらず、色んな障がい者が活躍できる会社にしていきたいです。高度なIT技術で仕事をする特例子会社は国内には多くありません。
私たちが社会にアピールすることで、同じような仕組みを作る会社が増える時代が来ると思います。ITスキルはこれから必須となる時代なので、障がい者が活躍する領域としては追い風になると思います。
パラアスリートを雇用する価値
Sports for Social編集部:
パラテコンドーでの経験が、この新会社と関連している部分はありますか?また、パラアスリートが仕事の上で強みとなる部分は何ですか?
阿渡氏:
関連しているかはわかりませんが、少なくとも、私がパラアスリートとして活動することで、私を応援してくれる社員はいますし、なによりも、社内の一体感が生まれたと言われたときは嬉しかったです。私の頑張りで「勇気づけられた」「前向きになれた」「自分も頑張ろと思った」など言われたことで、これがパラアスリートの”力”なんだなと思いました。 そういう意味では、新会社でもパラアスリートを採用したいなと考えています。
Sports for Social編集部:
阿渡さん、ありがとうございました。