「このままでいいのかな?」「毎日を全力で生きれているのかな?」熊本地震から考えた、社会のため、子どもたちのための生き方とは?
今回の対談は、元バドミントン選手でロンドン五輪銀メダリストの藤井瑞希さん(以下、藤井)と、株式会社SUSTAINABLE JAPAN代表取締役の東濵孝明さん(以下、東濵)。
熊本県出身である2人による『海洋ごみ問題』についての対談です。世界では毎年800万トンものプラスチックゴミが海に流れ出ており、増加の一途をたどっている海洋ゴミ。2050年には魚よりもプラスチックゴミが多く浮かぶ海になると予測されています。
海洋浮遊ゴミを自動回収する機械「Seabin」の普及活動を行う東濵さんと、バドミントンを通して子どもたちに多くのことを伝える藤井さんに、それぞれの環境問題への想いについてお話を伺いました。(全2回の#1/#2はこちら)
「このままでいいのかな?」そう思ったきっかけは熊本地震だった
ーー株式会社SUSTAINBLE JAPANの事業内容について教えていただけますか?
東濵)弊社は『海をきれいにする』ということを軸に事業を行っており、中でも、世界的に深刻化している海洋ゴミ問題を解決する活動に注力しています。2017年にオーストラリアで海洋浮遊ゴミを自動で回収する機械「Seabin」が製造され、現在39の国と地域で860万台が稼働しているのですが、弊社は、こちらのSeabinを日本全国に設置し、日本の海洋ゴミを回収することができるよう、日々普及活動を行っています。また、現在は新たに用排水路専用のゴミ回収機の開発を行っています。
ーー東濵さんが『海をきれいにする』ことを事業の軸にしようと思ったきっかけ何だったのでしょうか?
東濵)私の地元である熊本に久しぶりに帰省し海を見た際、「海が汚い」と感じたことがきっかけです。自分が幼い頃に遊んでいた海が大人になって久々に見たらすごく荒れていて、それがとても嫌に感じる自分がいました。海をきれいにしようとビーチクリーン活動を始めましたが、それだけではなかなか海はきれいになりません。海に来るたびに、元の荒れた海に戻ってしまうのです。「海をきれいにする何かいい方法はないか」と考えているときにSeabinの動画を見つけ、これを日本にも導入しようと思いました。
藤井)東濵さんは、株式会社SUSTAINBLE JAPANを立ち上げる以前は、どのようなお仕事をされていたのですか?
東濵)以前は、東京でIT企業に勤めていました。しかし、2016年に起きた熊本地震をきっかけに退職し、現在の海をきれいにする事業を始めました。
藤井)熊本地震は東濵さんにとってどのような意味を持っていましたか?
東濵)私にとって熊本地震は今の生活やこれからの生活を大きく考えさせられるものでした。熊本地震を通して、多くの方がつらい想い・大変な経験をしている。そのような状況を目の当たりにして、「自分はこのままでいいのだろうか?」そう思いました。
藤井)そうなんですね。実は私、熊本地震が起こった2016年には現役を引退する予定だったんです。しかし、東濵さん同様、熊本地震をきっかけに「このままでいいのかな?」と考えさせられました。恐らく、このまま現役を引退しても、なんとなく普通に生きていけるだろう。でも、「一生懸命に生きているのか?」「日々を全力で過ごしているのか?」と問いただした際、このまま現役を引退するのは違うなと思い、競技を続ける選択をしました。
東濵)そうだったんですね。やはり熊本地震のような、何か大きな出来事は考えさせられるきっかけや決断するタイミングになりますよね。
ーーお二人とも、難しい状況に置かれているからこそ、今の自分に何ができるのか考え、行動を変えることができたのですね。
そもそも海洋ゴミ問題とは?
ーー東濵さん、そもそも『海洋ゴミが環境にどのような悪影響を与えるものなのか』教えていただけますか?
東濵)海洋ゴミは現在も増加し続けており、海の環境汚染や生物への悪影響が問題視されています。海洋ゴミにはさまざまな種類がありますが、その半分以上をプラスチックゴミが占めており、環境省の調べによると毎年2〜6万トンのプラスチックゴミが海へ流出しているそうです。なかでも、5mm以下のプラスチック「マイクロプラスチック」は海の生物に大きな影響を与えます。マイクロプラスチックは5mm以下と非常に微細なものであるため、海の生物は食事と同時にマイクロプラスチックを体内に取り込んでしまいます。また、プラスチックは有害物質が付着しやすいという性質を持っているため、有害物質の付着したプラスチックは食物連鎖に組み込まれ、我々も知らず知らずのうちに口にすることになります。
ーーなるほど。そこでSeabinを用いて、マイクロプラスチックのような微細な海洋ゴミも回収し、環境や生物、ひいては私たちへの害をなくしていこうということなのですね。
藤井)Seabinはどのような仕組みでマイクロプラスチックのような微細なゴミを回収することを可能にしているのですか?
東濵)Seabinの仕組みはすごく単純です。お風呂に桶を浮かべた状況を想像してください。桶を沈めると、お湯が桶の中にザーっと流れ込んでいくと思います。この原理をSeabinに用いてゴミの回収を行っています。桶の部分にネットとポンプを設置し、ゴミのみを残して水を排水するというシンプルな仕組みです。
藤井)Seabinの容量であるは20kg程度というのは、どのくらいのペースでいっぱいになるのですか?
東濵)これまで何度も実証実験を行ってきました。回収場所や天候などによってゴミの回収ペースなどは異なりますが、早くて半日で20kgのゴミでいっぱいになります。特に雨が降った次の日は、比較的多くのゴミが回収されますね。
ーー確かに、「雨が降った次の日は海が汚い」というイメージがありますね。
東濵)そうですね。雨や風によって街中のゴミが海に流れ出ていくため、雨の次の日は海が汚くなってしまいます。そのため、街中から海へゴミを流れ出さないために今後は用排水路専用のゴミ回収機を活用していきたいと思っています。
編集部より
『海洋ゴミ問題』がテーマとなっている今回の対談。海洋ゴミ問題について理解が深まったと同時に、熊本地震をきっかけに、「自分は今のままでいいのだろうか」という自問自答を行ったというお話から、お二人の考え方や熊本への想いにとても刺激を受けました。
後編では、新たな取り組み「用排水路専用のゴミ回収機」についてお話を伺います!