「私たちよりも現地の人たちの方が幸せなのではないか?」
アフリカ・ウガンダを訪れた元テニスプレイヤーの吉冨愛子さん(以下、吉冨)。スポーツやテニスを通して子どもたちへの支援を考えていた彼女は、ウガンダの人々の心の豊かさに驚きを感じるとともに、改めて自身にどんなことができるのかを考え始めます。
サラヤ株式会社も、同じくウガンダで『100万人の手洗いプロジェクト』などの活動を行っており、これまで多くの現地の方々と交わってきました。
今回は“ウガンダ”という共通項で繋がる両者の対談です。吉冨さん、そしてサラヤ株式会社広報宣伝統括部 廣岡竜也さん(以下、廣岡)とのお話から、皆さんも是非一緒に考えてみてください。
ウガンダでの活動のきっかけ
ーー2023年2月に初めてウガンダを訪問されたとのことですが、そのきっかけは何だったのですか?
吉冨)大学の先輩から「アフリカでテニスをやっている子たちがいるよ」と、インスタグラムのページが送られてきたことがきっかけでした。裸足でテニスをしていたり古いラケットを使っていたりしながらも、キラキラした目、すごく真剣な眼差しでテニスをしている写真や動画を見て私も興味が湧きました。
その際に少し寄付をして、その後インスタグラムの情報も追っていたところ、その現地の学校の代表の方から「是非ウガンダに遊びに来てほしい」と直接連絡をいただきました。行く前にも、テレビ電話で現地の子どもたちの様子を見せてもらったりして、すごく行きたいという気持ちが高まった中での訪問でした。
ーーウガンダではどんな活動をされましたか?
吉冨)10日間の滞在のうち7日間はボランティアをしました。ムピジという村で、午前中は3歳から6歳の子どもたちが通うプレスクールでボランティアをし、午後は先生たちにパソコンを教え、夕方からは2時間弱ほど子どもたちと一緒にテニスをしました。
ーー最初にインスタグラムを見た時の印象と比べ、実際に現地へ行き、感じたことや驚きだったこと、その通りだったことはありますか?
吉冨)私自身選手としていろいろな国に行った経験がありましたが、日本や先進国とウガンダとの違いに衝撃を受けました。村には桶を使って手洗いで洗濯をしている女性たちがいたり、裸足の子どもたちが外で遊んでいたりしていましたし、インフラが整っていないため2日半ほど電気・電力が途絶え、朝も夜も本当に真っ暗で何も見えないということもありました。
一方で、子どもたちだけでなく、村の人たちの表情がとても明るいことにもすごく衝撃を受けました。自分たちは貧乏だと言いつつも「家族がいてコミュニティがあるからとても幸せだ」と言っていました。
そういった環境の悪さと心の豊かさが両極端であることにおもしろさを感じました。同時に「私たちよりも現地の方々の方が幸せなのではないか」とも感じ、自分に何ができるのだろうと考えるようにもなりました。
それぞれの強みを活かした活動に取り組む
ーーサラヤさんも以前からウガンダで衛生環境を整えるビジネスをしてきたと思います。
廣岡)2010年頃に、当時衛生環境の整備を必要としていたアフリカでの事業が始まりました。最初の取り組み先としてウガンダという国を選んだ理由は、サラヤの特徴とウガンダの特徴との親和性にあります。
ウガンダは、ビクトリア湖周辺国の一つであり、内戦が終わって治安、政治が安定してきていたということ。そして国として衛生環境の向上に取り組もうとする意志がありました。そして、英語圏であるということも大きなポイントでした。
サラヤが目指したのは、手を洗うことに関する教育や意識の啓発です。ウガンダでは国民の生活環境の改善に目を向けた取り組みがされており、同じ衛生環境改善という目的のために足りないところを互いに補い合える関係性を作ることができました。また、私たちが行ったボルネオでの活動から、単なる寄付活動の限界と事業を連携し継続させる重要性を認識していたため、ビジネス面での可能性から英語圏のウガンダを選びました。
サラヤも衛生事業に取り組む企業としてできることを考え、衛生環境の改善と教育を行っています。吉冨さんがテニスプレーヤーとして何ができるのかを考えられたことと同じです。目的を曖昧にせず、それぞれの立場で自分たちのできることを考えるところからのアプローチで取り組みがスタートしていることが、吉冨さんとサラヤ、お互いの活動に共通していると思います。
ーーそれぞれが持つ強みをどう活かして貢献していくかはすごく大事ですね。
吉冨)私としても日本の子どもたちではなく、遠く離れたウガンダの子どもたちのために活動をすることに疑問をもったことがありました。ですが、今では「自分の強みを生かした活動があっていい」と考えています。
私がウガンダのテニスをする子どもたちを見ていいなと思ったことがスポーツの本来の目的を重視して、スポーツに取り組んでいたことです。彼らはスポーツの原点であったり、私たちが忘れているスポーツの本質を忘れていないと感じました。
ーースポーツの本来の目的というと、どのようなイメージでしょうか?
吉冨)自分がテニスをしてきた中で、スポーツが勝利至上主義やお金のためになっていると感じることが度々ありました。私自身、純粋に「スポーツが好きだ」というよりは「勝たなきゃいけない」「スポンサーさんやまわりの人にどう思われてしまうのだろう」と考えてしまい、好きだったテニスがすごく嫌になった時期がありました。
ウガンダの施設の方は、スラム街の子どもたちをスポーツを通して犯罪から救いたい、生きていく上でのライフスキルを学んで欲しいという想いで活動を行っています。それこそスポーツの大切な部分だなと心を動かされました。
現地で感じたスポーツ、テニスの価値
ーーウガンダの子どもたちにおけるスポーツの役割、スポーツがもつ影響についてどのように考えていますか?
吉冨)スポーツをする中で、諦めない気持ちや目標を達成する気持ちを育むことができると思うのですが、私がスポーツをやってきて特によかったと思ったことはスポーツが世界に連れて行ってくれることです。施設の代表の方はスラム街出身でしたが、テニスを使って海外のアカデミーへ教えに行ったり、私のような日本の1人の心を動かしたりしています。
もちろん子どもたちにとっては楽しくテニスをすることが1番だと思いますが、テニスができることで、将来的に海外でテニスを教えたり試合に出たり、海外とコネクションが持てるかもしれません。
テニスやスポーツはそういった可能性をすごく広げてくれたり、繋がりを生みだせたりするパワフルなツールだと思っています。子どもたちが楽しく意欲的にスポーツに取り組むうちに、世界と繋がるチャンスや可能性が増えているのではないかと現地で強く感じました。
廣岡)私から見ても、まだ価値観が固まっていない柔軟な子どもたちにとって、テニスをする機会はその後の人生に大きな影響を与えられる可能性があると思います。子どもがスポーツをするときにルールを学んだり、礼儀作法を学んだりすることが、アフリカでは特に重要な要素になり得るからです。
というのも、サラヤの社員から現地の人々が約束事を守らないことに苦労したと聞いたからです。それがアフリカの文化だと言えますが、それでは世界とビジネスをするのは難しい。ですが、子どもの頃から教育やスポーツを通じてルールや礼儀を学ぶ機会があることは、将来にとって重要だと思います。
ーーアフリカで他のスポーツを通した活動もある中で、教育的な価値の部分では他のスポーツと比べてテニスにはどのような特徴がありますか?
吉冨)テニスにはフェアプレーの精神と自分で考える力を養えることに特徴があると思います。
テニスではセルフジャッジの文化があります。相手が打ったボールは自分がジャッジすることになるので、ズルしようと思えば平気でできるんですよね。すぐそこにズルできるチャンスがあってもフェアプレーの精神を持ち続けられるかはテニスならではだと思います。
また、テニスの試合の中でチームメイトもコーチもいないという部分では、自分で自分が何をしていくべきかを考えていくことが必要になるため、特に自分で考えていく力が養われると思います。
私も実際に、なぜ発展途上国の支援なのに物が少なくて済むサッカーとかではなく、テニスなのかとSNS上で言われたことがあります。確かにテニスはコートもラケットもボールも必要でお金がかかってしまう。それでも施設の代表の方のように、他の国に発信しながら活動する人がいて自分ももっとチャレンジすればやれる気がすると思わせてくれました。
クラウドファンディングについて
ーーここからは吉冨さんが現在行われているクラウドファンディングのことについてお聞きします。クラウドファンディングではどんなことをしたいと思って臨まれていますか?
吉冨)クラウドファンディングでは、テニス用具を揃えるための費用と、現地に新しいコートを作るための費用、渡航費などの経費を集めたいと考えています。
小さい子向けの赤い柔らかいボールや少し大きめのオレンジのボールは、現地では手に入れることが難しいです。一方で、日本では使っていないものは処分することがあるので、日本からそのような用具を運ぶための費用にも使います。
また、現地のコートは草や石が入ってでこぼこした土のコートで、実際に私がテニスをした際もテニスにならないことがありました。現地の方がハードコートを作りたいとおっしゃっていたので、それを作るための費用をクラウドファンディングで集めたいと考えています。
自分は現地での経験を、人生を変える経験だなと思ったので自分の活動やクラウドファンディングを通してまわりを巻き込んでいきたいです。少しでも自分の発信を通して活動の過程をともに体験してもらいたいです。
ーー最初のお話では、物の少なさと心の豊かさのギャップの中で何をすればいいのだろうと感じたと仰っていましたが、直近でやることに対しては納得感を持っていらっしゃるようですね。
吉冨)今はクラウドファンディングで応援してくれる人も含め、この活動をたくさんの人に届けていきたいと納得感を持ってやっていますが、次のフェーズに入るときには活動をどう継続していくのかも考えながらやっていきたいです。
何がなんでも支援したい助けたいというよりも、現地の人たちが希望を抱いて本気でやってることに対して、自分も楽しみながら一緒に取り組んでいきたいです。
ーー素晴らしいですね。
廣岡)事業をどう続けていくかにおいて、現地でテニスが根付くことはどういった形で社会に還元できるのかの意義を見い出すことが大切だと思います。
同じウガンダで活動しているもの同士、サラヤとしても一時的な形ではなく継続して何かできないか一緒にアイデアを考えていければと思います。
ーー吉冨さんのように実際に現地で活動をすることが大きなことだと思いますので、ぜひクラウドファンディングを実現させてほしいと思います。
廣岡)誰もがアフリカに行けるわけじゃないからこそ、現地へ行ってしっかり報告をすることが吉冨さんの仕事でもあります。
アフリカで事業を行う際にサラヤの社長がアフリカで行うことは施しではなくチャンスを渡すことだと言います。つまりテニスという施しではなく、テニスを通して一つの成長のきっかけにするチャンス、機会を与えるということです。
吉冨)チャレンジできる機会や環境があるという点で、自分は今すごく恵まれているなと思いますが、日本には精神的にチャレンジできる機会が少ないと感じています。
何かをやりたいと言ったときに、二言目には無理だと言う人がいたり、自分の中で無理でしょって勝手に決めつけてしまう。逆にウガンダの人には、日本と比べて明らかに環境が整っていないのに、チャレンジできる、チャレンジしてもいいといった精神的な機会があるなとすごく感じました。
クラウドファンディングと現地での活動を通して、自分がアフリカで感じたものは不足しているけれど心は充足しているというところを多くの人に届けていきたいと思っています。
ーー楽しみですね。この活動が次に繋がっていくことを応援しています!
ウガンダの恵まれない地域の子供たちをテニスを通して応援したい!