特集

私でも主役になれる!~2025年デフリンピック東京大会は「みんなでつくる大会」に~

ろう者(耳のきこえない人)のオリンピックが、2025年に東京で開催されることをご存知ですか?

『デフリンピック』と呼ばれるこの大会は、1924年からの歴史があり、100年経って初めて日本で開催されることになりました。
Sports for Socialでは、2025年大会に向けて、デフリンピックそしてデフアスリートたちの魅力をお伝えしていきます。

この連載にあたり最初にお話を伺ったのは、デフリンピック運営委員会事務局長の倉野直紀さん(以下、倉野)。デフリンピックの歴史、東京大会のエンブレム制作の裏側、デフスポーツの魅力まで語っていただきました。

INPEX
「聞こえない」から生まれるコミュニケーションの先に~2025東京デフリンピックへ挑む~2025年、聴覚障がい者のオリンピックであるデフリンピックが東京で開催されます。前回のリオデフリンピックで、新型コロナウイルスの影響により棄権を余儀なくされた日本選手団は、初めての自国開催での活躍が期待されます。 そんなデフアスリートの中でも珍しく、「もともとバレーボール部に入る気はなかった」というデフビーチバレーボール日本代表の瀬井達也選手(以下、瀬井)。インタビューを通して、彼の優しい人柄と、彼が見つけたデフビーチバレーボールの魅力を強く感じることができました。...

1924年から100年、ついに日本へ!

ーーデフリンピックが初めて日本・東京での開催となります。

倉野)デフリンピックを日本で開催することは、すべてのデフアスリートにとっての悲願でした。1981年に一度、日本は開催地に立候補したことがありましたが、当時アメリカのロサンゼルスが立候補したこともあり、投票の結果選ばれず大変残念な思いをしました。2025年の東京開催は40年以上待ち続けた、待望の大会です。

ーー決まったときの嬉しさも大きかったのではないでしょうか?

倉野)2022年9月にオーストリアのウィーンで、国際ろう者スポーツ委員会総会がありました。各国の代表者からたくさんの拍手や声援をいただき、満票で選ばれたことに大変感激しました。それと同時に、期待に応えるだけの大会をつくらなければならないという責任の重さも痛感しました。

ーー世界からは、日本・東京開催にどのような期待があるのでしょうか?

倉野)一番の期待は、日本のトップレベルの競技施設です。デフアスリートたちも東京2020オリンピック・パラリンピックで使用されたような最高の施設を使えることに期待してくれています。
また、東京は国際的にもダイバーシティに配慮された都市づくりが注目されているので、そういった期待もひしひしと感じます。

倉野さんデフリンピック運営委員会事務局長 倉野直紀さん(©東京都)

主役になりたい〜デフの子どもが夢を持つ〜

ーー今回、エンブレム制作において筑波技術大学の学生さんがデザインを行いますね。そこにはどのような意図があるのでしょうか?

倉野)筑波技術大学は茨城県つくば市にある国立大学で、聴覚障がい者や視覚障がい者のための大学です。世界でも珍しい大学なので、エンブレム制作を依頼することで世界中の人々にもこの大学の存在を広く知ってもらいたいという気持ちが強くありました。

私は耳がきこえる人と一緒に学んできた期間が長くあります。その間は、クラスメイトがみんなきこえる人たちばかりで、自分が主役になることはなく、生活のさまざまな場面で耳のきこえる同級生の後を追いかけていた期間だったと思い返されます。学校や遊びなどでも「自分が必要とされている」と実感したことがほとんどありませんでした。

また、一般企業に20年間勤めた際、きこえる人と一緒に仕事をする中で、電話ができず、仕事上の連絡のやり取りができないことにとても困りました。今はメールができますが、当時は、自分の仕事の幅が広がらず、思うようにできなくて悔しい思いをしました。

私自身もそうだったように、いろいろな意味で学校や社会の中できこえない人たちは孤独を感じています。今回のデフリンピック日本開催によって、耳がきこえない学生が学べる大学があることを知ってもらう機会になったり、自分が主役になって活躍できる場があるという希望を持ってもらいたいです。

“協働”する魅力を

ーーろう者、いわゆる“きこえない人”が主役になるデフリンピックですが、私のような“きこえる人”はどのように関わったり、応援したりすればいいのでしょうか?

倉野)今回の大会は“みんなでつくる大会”にしたいと思っています。例えば、「障がいのある人に対して、障がいのない人が支援する」というイメージは世の中の考えとして染み込んでしまっていると感じます。しかし、世界各国でのスポーツシーンを見ても耳のきこえない審判はたくさんいるし、ボランティアでも障がいの有無に関係なく、できることはたくさんあります。

聴者とろう者が対等に意見交換をし、協力してつくりあげていく。“協働”するということは、簡単そうに見えますが本当に難しいことです。こうした協働の機会がデフリンピックを通じて多く生まれればいいなと思っています。

ーー大会運営、競技運営、応援などにおいても、「一緒に行う」「ともにつくり上げる」経験ができるのはお互いにとって素晴らしいことですよね。

倉野)今大会では手話言語通訳やデジタル技術なども活用し、工夫を凝らした“協働”を感じながら大会に関わったり応援してもらえると嬉しいです。

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協力し合うデフスポーツの魅力

ーーデフスポーツの魅力を教えてください!

倉野)デフスポーツは、競技のルールはきこえる人たちのものとまったく同じなので、遠くから見ると普通に競技をやってるようにしか見えないことがあります。ですが、実はきこえない人の中には平衡感覚やバランスにも障がいを持ってる人もいます。見た目にはわからなくても、耳のきこえない人が、音がきこえずわからない状況の中で、サインなどで工夫して伝え合い、わかり合って、行動していく。お互いが協力し合ってスポーツをしているということに感動があると思います。

ーーいかにしてコミュニケーションを取っているのか、チームスポーツでも個人スポーツでも注目すべきポイントですよね。

倉野)そうですね。審判、支援スタッフ、きこえないボランティアも含めて、みんながお互いに助け合い、協力し合って成立するのがデフスポーツの魅力です。「きこえないからこそ、そういうことができるのか」という点をわかって見てもらえると、デフアスリートが全力を尽くす競技に対してより感動していただけるかなと思います。私たちも当たり前になってしまっている部分があるので、デフアスリートたちの工夫や努力をしっかりと伝えていくことも大切だと思っています。

ーーこれからいろいろなデフスポーツと出会うのが楽しみです!本日はありがとうございました!

2025年デフリンピック エンブレム制作

2025年デフリンピック東京大会のエンブレム制作は、国内唯一の聴覚障がい者のための大学『筑波技術大学』の学生が担います。5月10日には、そのオリエンテーションが行われ、筑波技術大学で主にデザインを専攻する学生たちが集まりました。
当日はスペシャルゲストで、デフバスケットボールから日本代表候補の川島真琴選手、強化委員長の須田将広さんが来場し、初の自国開催となる大会へ臨む熱い想いを学生たちへ届ける場面もありました。

デフバスケットボールデフバスケットボール 強化委員長 須田将広さん(写真左)、日本代表候補 川島真琴選手(同右)(©東京都)

今後は、夏にかけて学生が制作した複数のデザイン案から、9月上旬頃に行う都内中高生によるグループワークでの投票によって決定し、大会に向けて展開されていきます。

このグループワーク・投票は、全世界が注目する大会のエンブレム制作に携わることのできる唯一無二のチャンスです。多くの中高生が関心を持ち、参加することで今後の2025年デフリンピック東京大会の盛り上がりも変わってくるでしょう。

グループワーク・投票の参加者募集の詳細は、下記の東京都公式HPにて追ってご案内があります。

スポーツ東京インフォメーション

https://www.sports-tokyo-info.metro.tokyo.lg.jp/seisaku/deaflympics2025/emblem/index.html

デフリンピック エンブレム制作©東京都

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