『防災』において、皆さんが備蓄しているものは何ですか?
水・食料など、なにかのときへの備えをしている方も増えてきています。しかし、実際の災害場面を想像したとき、『電気』についてはどうでしょうか?電気がないと、携帯電話の充電がなくなる、暗い中・寒い(暑い)中で過ごす、などの状況が想定されます。
そんな電気への備えに1つの答えを提示しているのが、ヴィガラクス株式会社。コンテナを使ったその取り組みは、2020年にはコロナ禍の状況により医療機関への発熱外来用コンテナとしても活躍。そしてついに2021年、防災分野でも動き出します。ヴィガラクス株式会社代表取締役の横山氏(以下、横山)に、その想いを伺いました。
もともと『防災』に取り組みたかった
ーーヴィガラクスさんは、どのような事業をされているか教えていただけますか?
横山)ヴィガラクス株式会社は、2019年10月、もともとは防災をメイン事業として展開していこうと思って立ち上げた会社です。防災の商品の中でも、『電気』にフォーカスした商品をと考えておりました。2019年に台風15号、19号が千葉県に直撃した際の房総半島一帯の長時間停電、2018年に苫東厚真火力発電所が止まったことによる北海道全体のブラックアウト、などの災害が発生し、非常時の電気の確保というのが大きな問題になっているような状況でした。
ただ、設立から半年も経たないうちにCOVID-19の感染が拡大してしまい、もともと目玉として考えていたコンテナの商品リリースが難しくなってしまいました。その代わりに2020年5月にリリースしたのが、医療用コンテナの『モバイルクリニック』という商品です。こちらを各病院さんなどから受注し、オーダーメイドで作ってご提供しています。
ーーヴィガラクスさんは、『コンテナを使う』というところが大きな特徴ですが、なぜコンテナなのでしょうか?
横山)まず、コンテナは非常に頑丈です。周りがすべて鉄で作られているので上から物が多少落ちてきても傷がつくだけで、ペシャンコになりません。例えば、港にある海上輸送コンテナは、中に最大20t積載することができます。そして、その20tのコンテナを船の中では6段積み上げることもあるので、1番下のコンテナにかかっている重量は、垂直方向に最低でも100tかかっていることになるんです。さらに海の上で揺れると100t以上の力が1番下のコンテナにはかかっているのですが、それでも壊れない。
この頑丈さは、災害対策にも必ず繋がってくるんじゃないかと思い、コンテナの活用を考えました。
ーー現在ご提供している医療用のコンテナ『モバイルクリニック』は、どのような形で役立てられているんでしょうか?
横山)医療用コンテナの使い方のメインは発熱外来になります。コロナが発生した当初は、医療機関の中で院内感染が多発した時期がありました。院内で隔離地帯をつくるよりも、院外で対応をしたほうが動線も完全に切り分けることができるため、発熱者の対応をするために発熱外来を院内ではなくて院外で実施したいという医療機関が非常に増えてきました。
完全に医療用として、専門医の監修を受けた形で、『医療従事者を守る』というコンセプトのもと開発したのが、モバイルクリニックという商品になります。
基本的に受注生産品で、医療機関の要望に応じてカスタマイズできるということがこの商品の強みになります。
コンテナとプレハブって何が違う?
ーー私たち自身、コンテナに触れる機会は日常生活ほとんどないかと思います。似たようなイメージのものとしてプレハブがあるのですが、コンテナとプレハブとではどういった違いがあるのでしょうか?
横山)大きな違いは、持続可能かそうでないか、というところです。
プレハブは基本的に、短期間で作って壊すものです。しかしコンテナは、使い道が変わったときに中を改装することも可能です。
コンテナ自体についても、まわりが鉄なので、夏は暑く冬は寒いのではないかと言われることもありますが、床、壁、天井すべてに断熱をしっかり入れれば大丈夫ですし、常設でればエアコンの取り付けも可能です。現在医療用でお使いいただいているお客さんからも快適な環境だとおっしゃっていただいています。
『防災』と『電気』がつながる瞬間
ーーヴィガラクスさんは、『防災』に取り組む会社だとおっしゃっています。横山さんご自身がそもそも防災に取り組もうと思ったきっかけ、またその中でも『電気』に取り組む理由はありますか?
横山)この事業を作ったきっかけが、『防災』と『電気』に分かれます。
まず、『防災』に関心を持ったきっかけは、私が中学1年生の頃に体験した阪神淡路大震災です。未だに鮮明に記憶に残っています。まだ中学1年生ながら、初めて自分が死を考えるきっかけになった出来事でした。そして、自分の生きて行く中で、この経験を何かのきっかけにできたらいいな、というのは大人になってもずっと考えていました。
『電気』に対する関心は、私が以前、ソーラーパネルを販売する会社にいたことがきっかけです。当時ソーラーパネルは、投資商品のの1つとして販売することもありました。ただ、私は「ソーラーパネルのような再生可能エネルギーは、投資ではなく、災害対策にこそ活用されるべきなのではないか?」と疑問を持ちならが仕事に取り組んでいました。
そして、この2点が一致した状態で、その解決方法としてコンテナを使った電気の備蓄という事業を始めることになりました。
ーーずっと抱えていた「災害に対して何か将来役に立ちたい!」という思いが、実際に仕事をされる中で、ツールが見つかったような形なのですね!
『電気』は重要なのに備蓄しづらい
ーー災害時での『電気』の重要性について教えてください。
横山)阪神淡路大震災以降も、各地で災害がたくさんありました。その際にやはり皆さん困ってるのは『電気』なんです。電気があるとないとでは、大きく違います。
例えば、災害で土砂崩れが発生し、ある一定の地区が孤立化してしまうことが起こり得ます。孤立化した地域に電気が届かない、そうなるとその地域の住民は、『自分たちは今どうなっているのか』が分からなくなってしまいます。
もしそこにポータブル蓄電池などがあれば、スマートフォンの電源を回復し、情報を取得することができます。そうした意味で電気は非常に重要なのです。
また、電気以外のライフライン、水やガスについては、ペットボトルやガスボンベなど、準備が可能です。しかし、電気で私たち一般人が用意できるのは、少し大きめのモバイルバッテリーくらいなもので、災害時に大きく役に立つほどのものを準備することは難しい。
電気は重要なのに備蓄しづらい。その点を解決していきたいと思っています。
ーー今回の『ソーラーシェルター』なのですが、ソーラーパネルとコンテナが一緒になる意味はどのようなところにありますか?
横山)今回、第1号としてご提供するのは、防災備蓄倉庫にする形になります。
防災備蓄倉庫は各自治体さんで用意されていることも多いのですが、何もないときはそこに物を置いておくだけになってしまいがちです。
ですが、コンテナでしかも電気の備蓄があれば、例えばショップを展開し、その場で電気を一部使用するなどの工夫が可能になります。極端に言うと、たくさんのコンテナを使ってホテルにする、ということもコンテナであれば可能です。トレーラーのシャーシをつけて移動することも物理的には可能です。
いま挙げた可能性は、プレハブだったら難しい。コンテナだとカラーリングを変えたり、形もちょっと変えたりすることもできるので、デザイン性にも優れています。なので、ただ『電気付きの防災備蓄倉庫』というだけではない価値をコンテナベースにすることで出すことができるのではないかと考えています。
ーー今回このソーラーシェルターを、山口県周南市須金地区に寄贈しようということで、クラウドファンディングを実施されています。この地区でやろうと思ったきっかけみたいなところって、どういったところがあるんですか?
横山)この須金地区は、土砂崩れで市街地への通行が完全に遮断されてしまったことがある地域です。元々前職時代のお客様で、この須金地区の自主防災組織の部長されている吉安さんという方がいらっしゃったということもあります。
ーーなるほど。災害時に一番電気がないと困る地域ということですね。
横山)彼らからは3年ほど前、防災無線用に、ポータブル蓄電池のご要望をいただき、販売させていただいたこともあります。
ただ当時から、本当に市街地と遮断されてしまったら、やはりもっと大きな電気が必要ですよねという話をしていました。
私も会社を立ち上げて立場も変わり、この新しい会社で何かできないかといことで今回ご協力させていただいています。モバイルクリニックを昨年兵庫県に寄贈する際にクラウドファンディングを行った経験や、須金地区は自主防災組織なので資金の調達が難しいこともあり、今回のクラウドファンディングに取り組んでいます。
また、住民の分断を生まないこともクラウドファンディングを選んだ理由です。地区の中で有志の方がお金を出し合って買うとなると、住民の皆さんの分断を生んでしまうきっかけになってしまいます。でも、この形をつかってお金を集めて、それを寄贈するという形であれば、皆さん使う権利や使い方を考える権利があることになります。こうした住民同士のつながりをつくる、保つことでも我々が寄贈する意味があると思っています。
ーー今回、クラウドファンディングをスタートとしてソーラーシェルターが普及して行くことになると思います。今後、どのように展開していきたいとお考えですか?
横山)私たちのコンテナは、受注生産品にしていることが特徴です。災害の場面で役立つこともそうですが、平時の利用にどういった使い方があるのかということをいろいろと検討しています。
私たちの目標として、このソーラーシェルターを通じて、日本中に防災用の電源を広げていくということを掲げています。現時点では、ホテルやショップ、学校現場などへの導入を考えています。
例えば学校では、体育倉庫の代わりにソーラーシェルターを導入する。そうすると、子どもたちへの災害教育の一貫としても活用することができます。単純に電気を作って売る、ということではなく、何かあったときのためにこの体育倉庫が存在していること、そして『電気が重要である』ということを地域の方々に認識してもらうよいきっかけになります。
ほかにもさまざまなアイデアが出せると思うので、まずは電気を備えることの重要性を知っていただき、コンテナでの有効な活用方法をいろいろな地域の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
ーーありがとうござました!
ソーラーシェルターを設置するためのクラウドファンディングを実施中です!
果物がよく獲れる山口県周南市須金地区ならではの返礼品もございます!
災害時孤立してしまう地区の電気備蓄の支援、あなたもしてみませんか?
編集より
横山さんのお話を聞くまで、「電気を備える」ということについて、正直考えたことがありませんでした。
『備える』と聞くと正直思い浮かぶのは、水・食料くらいだった私ですが、お話を聞いてイメージしてみると、災害場面での電気の重要性は明らかでした。また、備蓄のしづらい電気をコンテナという倉庫としても施設としても汎用性の高いものと合わせて取り入れる、というアイデアも、いつ起こるかわからないものへの『備え』として素晴らしいものだと感じます。
皆さんも身の回りの備えについて、実際の災害場面を想像して何が必要なのか、もう一度考えてみませんか?