一般社団法人Sports Cares(スポーツケアーズ)代表の木村勇大(たけひろ)です。
「アスリートの力で社会を元気に」という理念を掲げ、アスリートが社会貢献活動に取り組む事を当たり前にしたいという想いで活動しています。
今回から不定期ではありますが、Sports Caresの活動や、ともに活動させていただいた方々がどんな思いでどのような事に取り組まれているのかについて発信していきます。
第一回目はNPO AYA代表の中川悠樹さん(以下、中川)にお話を伺います。
AYAは障がいがあったり、医療ケアが必要なお子さんとその家族を主な対象としてさまざまなイベントを実施しています。私は以前から中川さんと面識があり、2023年4月に開催された映画鑑賞イベントにボランティアスタッフとして参加してきました。
「病気になったからこそ素晴らしい出会いがあった」と思えるように
木村)改めましてSports Caresの木村です。本日はよろしくお願いします!
中川)NPO AYA代表の中川です。よろしくお願いします!
木村)4月9日に開催された映画鑑賞会の話を中心にお話を伺いますが、まずはAYAの活動について教えていただけますか。
中川)私たちAYAは「病気になったからこそ素晴らしい出会いがあった」と子どもたちやご家族が思える社会を目指しています。
日本には、病気と闘う子どもたちが大勢います。その子どもたちやご家族の願いのひとつとして「同世代の子どもたちと同じような経験をしたい」ということがあります。
しかしながら、法律や制度はまだ行き届いておらず、企業や各種団体の理解も追いついていないのが現状です。
病気と闘う子どもたちへの支援については、「どうしたらよいのかわからない」という声を頻繁に耳にします。AYAの役割はそのような企業や団体と病気の子どもたちやご家族の「架け橋」となることです。
木村)医師である中川さんが、こうした団体を作ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
中川)設立の原点は『あやこ』という私の幼馴染の妹です。彼女は幼少時に麻疹(はしか)に罹患、数年後に亜急性硬化性全脳炎という病気を発症し、闘病の末亡くなりました。これは、麻疹が原因で起こる、未だに治療法のない病気です。
私は医師という立場で、あやちゃんだけでなく、本人やご家族に何の責任もなく不可抗力で病気になってしまう患者を多く見てきました。そういった人たちに何かできることはないのかと考え続け、病気と闘う子どもたちをサポートしたいという気持ちが日に日に強くなっていきました。この想いを幼馴染に伝え、そこで生まれた想いの共有から設立したのがあやちゃんの名前を由来とする『AYA』です。
木村)初めてお会いした時もそうでしたが中川さんの課題に取り組む理由や意志の強さにすごく魅力を感じました。そうした魅力から、私もAYAの活動に協力したいと思いました。
やりたいことランキングの上位は「映画鑑賞」
木村)今回のAYA主催の映画鑑賞イベントは、とても素敵な機会提供だと感じました。実施までにはどのような経緯があったのでしょうか。
中川)AYAでイベントを実施するたびに参加者の方々にアンケートを取っています。その質問の1つに「やりたいこと」があるのですが、そのトップ3に映画鑑賞が必ずランクインしています。
映画館に観に行くだけならコスト的にもあまりかからないですが、基本的には静かに観る場所なので、吸引機など医療のケアが必要な子の親や、走り回ったり声を出してしまう子の親は音が出ることを気にしてしまい、行くことができなくなる人が多いと思います。だったら自分たちの団体で貸し切ってやってしまおうと思い立ち、行動してみたところ、知り合い経由で映画館の支配人の成田さんと繋がることができました。
木村)当日は『ドラえもん』の映画を鑑賞しました。作品をチョイスした理由はあるのでしょうか?
中川)最初はスラムダンクで考えていました。なぜなら、私がバスケットボールが大好きで観たかったので(笑)。
でも、このイベントをずっと続くものにしたくて、だったら映画も毎年定期的にやる映画が良いなと考えると、ドラえもんが最適解でした。
木村)たしかに、ドラえもんだと子どもも好きで、毎年ある映画ですね!当日会場は満員でしたね。
中川)10日間で募集を締め切ろうと思っていましたが、募集開始2日で100名以上の応募がありました。
それで当初予定していたよりも会場を大きくしたのですが、5日で会場のキャパの2倍以上の応募(約350名)があり予定より早く募集を締め切ることにしました。
応募者から「まさか自分たちの家族が映画に行けるとは思っていなかった」といった感想をたくさん聞くことができました。それだけ需要があり、意味のあるイベントだったと思います。
自分が楽しいイベントが、人のためにも
木村)お話を聞いていると、中川さんご自身も楽しんでやられているというのを強く感じます。
中川)僕は学生時代からイベントをやるのが好きで、幹事をやるのも全然苦じゃない性格なんです。
AYAのイベントについてもそうで、参加される人たちのためというのもありますが、自分がやることで楽しんでいるというのが強いです。あと単純に、企画してみると自分もドラえもんの映画を久しぶりに観たいという想いも出てきました(笑)。結果的に、喜んでくれる人がいるならいいなと思っています。
木村)僕自身もそうですが、ボランティアとして参加している方々も楽しんでやられてると感じました。
中川)そういえばアンケートに「ラグビー選手がいて助かった」とありましたよ(笑)。
木村)車いすを映画館の最上段に運ぶ係だったので少しは役に立ったと思います。
ボランティアのグループ分けで、僕のグループだけ明らかにパワー系の人が多かったので、最初に集合した時点で自分の役割を察しました(笑)。
中川)(笑)。
木村)最後にイベントをやってみて気付いたこと、事前の想定と違ったことがあれば教えてください。
中川)上映中、声を出す子や医療機器の音などでもっと騒がしくなると思っていたが全然気にならなかったことですね。「ちょっと音がするな」程度で、大半の人が気になっていなかったのではないでしょうか?
通常営業の映画館の方が騒がしいんじゃないかと思うくらいでした。
木村)確かに全然気にならなかったです。めっちゃ集中してドラえもん観れました(笑)。
通常営業の映画館でも問題なさそうに感じました。
中川)そうですね。今回のように、まわりを気にせずに参加できる機会にはニーズがあるとわかったので今後も続けていこうと思いました。木村さんも今後も参加してもらえると助かります。
木村)もちろんです。次回は僕のファンの方々にも声をかけて協力してくれる人の輪をもっと広げようと思います!
中川)ファンの方が新たに協力してくれる、というのは斬新で素晴らしいアイデアですね!ぜひやっていきたいです!よろしくお願いいたします!
木村)はい、引き続きコラボレーションしていきましょう。本日はありがとうございました。
編集より
今回から、Sports Caresの木村勇大さん(以下、キムタケさんと呼ばせていただきます)の連載が始まります。純粋な想いを持って、現役ラグビー選手でありながら真摯に人々に向き合うキムタケさんの姿に、私たちも大きく共感しています。
そんなキムタケさんが第一弾の記事に選んだのがNPO法人AYAの中川悠樹さん。目を向けてみなければ気づけない、映画に行きたいけど行けない、迷惑を掛けてしまうかもしれないと思っている人へのイベントに対し、「自分がやりたいこと」と素直に言い切る姿に感銘を覚えました。
「聞いていること」と、「体験してみたこと」の感じ方の違いは、多くの方が味わうもので、とくに障がいのある方との関わりあいではその差は顕著に出ると私自身感じています。AYAのイベントが、障がいのある方、そのご家族にとってはもちろん、いろいろな方との関わりあいの場になっていくことを期待しています。(柳井)