私たちの想い

元サッカー選手・トランスジェンダーの3人がはじめたYouTuber「ミュータントウェーブ」を突撃取材

ミュータントウェーブ

日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)の元選手で、現在は男性として生きるトランスジェンダーの3人が、自分らしく個性を発揮できる社会を目指してYouTubeでの動画配信をしています。
突然変異する波という意味の「ミュータントウェーブ」というグループは、情報発信を通してどのような未来を実現したいのでしょうか。
ミュータントウェーブのおーちゃん、あさひ、まさの3人にお話を聞きました。

ミュータントウェーブ

まったく新しいジャンルのYouTuber!突然変異する波「ミュータントウェーブ」とは

ーー「ミュータントウェーブ」はどのような活動をしているグループなのでしょうか?

おーちゃん)僕らは YouTuberとしてさまざまな企画に挑戦しています。ただYouTubeで企画をするだけが目的ではないです。
1人1人違った個性があるよね、みんな違ってみんないいよね。そんな当たり前に気付くキッカケの入口づくりに、トランスジェンダーの僕たちがなれたらいいなと思っています。その延長線上でLGBTへの認知も広がっていくといいなと思っています。

ーーYouTuber として活動を始めようと思ったきっかけは何ですか?

おーちゃん)もともと僕は、企業のジェンダーに関わるコンサルや研修において、LGBT関係のことを提供する会社で働いていました。
研修などを行って感じていたのは、「もっと個人的な部分を知りたがっている人がいるのではないか?」ということや、「自分自身トランスジェンダーという個性を活かしてできること、アプローチできることがあるのではないか?」ということでした。
まさとあさひの2人は幼馴染で、ひょんなことから知り合い「3人で何かしよう!」となったとき、まだまだ自分たちの影響力では何かしても伝えきれないと思い、まずはYouTubeを始めて、影響力を与えられる人になれるようにと思い活動を始めました。

ーー「もっと個人的な部分を知りたい人がいるんじゃないかな」というのは、具体的にどのような部分なのか教えていただけますか?

おーちゃん)LBGTという観点で企業の制度などについての研修を行っていました。その中で僕自身が、トランスジェンダーとしてこれまでの就職活動や治療についての経験を語る『ライフヒストリー』というコーナーがありました。
コーナーとしては多くの時間を割くものではなかったのですが、「トランスジェンダーとして個人の経験などをもっと聞きたい」というご意見や、質疑応答でもライフヒストリーについての質問が多かったんです。大枠の話も大事ですが、その人の体験について深く聞きたい人って多いんだなーと、研修を重ねるごとに感じていました。

ーーたしかに、知識だけでなく個々の経験の話があった方が具体的な想像がしやすいですね。

おーちゃん)そうですね。当事者ではないと想像してもなかなか難しいとは思います。トイレや更衣室の問題が例としては出やすいのですが、そうではない経験もたくさんあります。でも想像できない。だから聞きたいというのは皆さん思われていました。

ミュータントウェーブあさひ(左)、おーちゃん(中央)、まさ(右)

ーートイレや更衣室以外の話だと、どのような話の反響が大きかったですか?

おーちゃん)例えば、日常会話で出身学校の話って会社でも普通にあると思うんですよ。みんなにとっては普通なんですけど、人によってはそれが男子校や女子校だった場合、もともとの性別がわかってしまいます。理解してもらえなさそうな人には嘘をつくこともあります。そうすると、「あの人に何て言ったかな?」ということの繰り返しが始まってしまいます。結構意外と当たり前にみんなが生活できている環境の中で、当事者側は気を遣って考えてしゃべっていたりもするんです。

あさひ)あとは、治療過程とか?

おーちゃん)治療過程もそうですね。急に性別を変えられると思っている人も多くいるのですが、実際は非常に複雑です。診断が下りて、そのあと手術の順番とか、起こる副作用とか…。そのあたりの話は皆さん興味持たれますね。
最初に名前と戸籍が変わって、そのあと見た目が変わっていくっていうのが過ごしやすいのかもしれませんが、先に男性化が進んで、でも証明書は女性でという時期が絶対にあるので、いろいろな所にトラブルが逐一出てくるんですよね。

あさひ)そうですね。治療過程では先に男性化が進んでいき、戸籍の変更は後からになります。なので、病院などでもまだ名前が変わっていない状態だけど、男性化が進んで声も低くなっていたり、うっすらひげが生えている状態で名前を呼ばれてしまう。本当に本人ですか?というような確認が発生することもあります。名前を呼んで欲しくないという人もいるので、そうしたときは当事者からすると苦痛な時間に変わってしまうこともありますね。

ーーみなさんはこれまでサッカー選手としても活躍されてきました。サッカーの場面でセクシュアリティで困ったことはありましたか?

おーちゃん)サッカーでいうと、ちょっと表現が合っているかはわかりませんが、女の子ですけどボーイッシュだったんですよ。例えば、僕らのようなボーイッシュなメンバーが固まって女子トイレに入ったときに、どうしても傍から見ると男の子に見えてしまうので、おばちゃんたちに怒られたこともありました(笑) なんであんたたちこっち入ってるの?みたいな。でもまあ、団体でいるので、そこは周りの選手に救われたりするんですよ。下の名前で呼んでもらったりとか。あとは自分たちでちょっと高めの声で話すとか。もともと高いんですけど。なんかそういう感じでごまかしたりしてましたね。でも、サッカーをしていた仲間はすごく受け入れてくれるというか、割と女子サッカーは寛容だったりするなと感じています。

ーーその点、スポーツの世界では理解が進んでいるのかもしれませんね。やはり日常生活の方が課題がありそうですね。

あさひ)そうですね。サッカー(スポーツの場)は受け入れやすい環境だったっていうのもありますし、ここの3人は自分自身が女性であることは自分で理解しているし、受け入れている上でのサッカー選手だったので、だから女子サッカー界にいる間にセクシュアリティに思い悩むみたいな時間は非常に少なかったかなと思います。

ジェンダー教育は“教える”のではなく“体験する”ことが大切

ーー先日行われていたクラウドファンディングでは、学校訪問についていろいろとお話があったと思いますが、学校訪問ではどんなお話をされているのか、改めて教えていただけますか?

おーちゃん)YouTube の中の企画で「町カミングアウト」という企画をやっています。これは、町の人に声をかけて「LGBTを知ってますか?」「どう思いますか?」とインタビューをし、僕たちがその LGBT のどこにいるのかを、LGBTに分けられたボードに磁石を置いてもらっているんですよ。そこから、実は僕たち…っていうのをカミングアウトして、さらに、なでしこリーグでサッカーをやってましたっていうのを話しています。

「ジェンダー教育」も、学校に教えに行くっていうよりも、その体験をして気づいてもらったり、考えてもらいたいというのがあり、体育館で行う講義でもLGBTについては説明するけど僕たちのセクシュアリティは伝えません。YouTuberが来ましたという形にしてもらって、実は僕たちがLGBTのどこかにいますと伝えます。そして、体育館のエリアをLGBTの4つに分けて、それぞれどう見えるか?というのを、生徒に動いてもらうんです。

その後、エリア単位で同じセクシュアリティを選んだ人、たとえばまさのことをゲイと選んだのであれば、「なんでゲイって思ったのか?」を話し合ってもらうんです。そうすることで、同じセクシュアリティを選んだとしても、違う視点で決めているというのがそこでわかるんです。

「それってなんか不思議じゃない?」という話から、1人の人間のセクシュアリティを決めるのにもたくさんの意見があるということは、普段の日常生活でも意見の食い違いが出るということはそもそも当たり前だよね、ということに気づいてもらえるようにしています。

ミュータントウェーブ

ーー教えるのではなく、体験を通して考えるきっかけをつくるということですね。現代の学校教育でも、少しずつ性やジェンダーの教育は進み始めています。学校の先生ではなく、皆さんが伝える意味はどういうところにあるとお考えですか?

おーちゃん)あさひは教員免許を持っているんですけど、教育教員を免許取る過程でそういった教育は習ってはないんですよ。
だから、急に学校から教えなさいって言われても結構難しかったり、先生も悩んでたりするんです。

知り合いの校長先生も、「LGBTの生徒がいるんだけど、なんて言って良いのか、実際に当事者ではないから、本当にその子にとって正しいアドバイスや正解が分からない」と言っていました。先生を対象にしたアンケートでも、やはり半分以上の先生が、LGBTの生徒との対応に難しさを感じていました。

さらに、先生は立場もありますし、全体の統制の中で教育を進めないといけません。先生が教えたくてもできないことも、YouTuberだからできる。そして、それを少しくだけて楽しく伝えることができる。ここに意義があると思っています。

ーー先生だけではなく、大人も子どもたちにこういったことを伝えていくシーンもあるのではないかと思います。どういう教え、コミュニケーションをとるのが正解なのでしょうか?

おーちゃん)こういう質問は結構聞かれるんですよ。そもそもそこに違和感を感じています。性に関係なく、単純にそこに信頼関係があるかないかだと思っていて、普通という枠組みの中で考えてしまうからLGBTが特別に対応をしないといけないことだと捉えてしまう。
普段、友達や家族に相談を受けて答えるのと同じで良くて、LGBTだから何か特別に対応するとかは必要ありません。

普段からきちんと信頼関係を築くコミュニケーションを意識していれば、受け入れることも安心して伝えることができると思います。一つ、アドバイスがあるとしたら、カミングアウトや相談を受けた際に、一度気持ちを飲み込んで受け止めてあげてほしいですね。

ーーたしかに、人対人の会話でマニュアルや答えなんて必要ありませんね。

あさひ)「対応しよう」と思うと難しく感じますしね。まずは聞いてあげることが最初の入り口なんじゃないかなと思います。

ーー相談されてから、こういう勉強をしました、先生もこういう風に調べてみたんだけど…みたいな話でも全然いいわけですもんね。

あさひ)嬉しいと思います。

おーちゃん)変に知ったかしないでほしいよね(笑)

あさひ)そういったときに、こういう人たちいるらしいよ〜で「ミュータントウェーブ」を紹介してもらいたいですね。

おーちゃん)先生から、結構相談来るんだけどどうしよう…みたいなときに、「YouTube見てって言ってください!」と伝えましたね。そうすると、当事者でもこんなにポジティブで前向きに活躍しているんだ、というロールモデルになり、安心感につながるのではないかなって思います。そうじゃない子も当事者でもYouTuberっていう職業に就いて活動している人が居ることを知ることになり、それも新しい1つの知るキッカケになれるかなと思っています。

ーー「個々の事をしっかり認識してほしい」というメッセージを出されていますが、その辺りのメッセージをもう少し具体的に教えていただけますか?

おーちゃん)個々の認識というのは、“1人1人の違い”みたいなことですね。目の前に男性が3人いるとしたら、なんとなくみなさんの頭の中で、それぞれ別の印象(顔も性格も)を抱くと思うんですよね。通常だと、1人ずつ違う個性の認識は浮かぶと思うんですけど、なぜかトランスジェンダーっていう括りになると、個ではなくトランスジェンダーって括りになっちゃうんですよ。でも僕らって、1人ずつ性格も顔も考え方も全部違います。性別に関係なく、本当に一人ひとり違った個性というのは必ず持ち合わせているので、もっと人対人、その子がどういう個性なのか、どうしたいのかみたいなところまで汲み取れると良いですよね。これは教育現場がどうとかではなく、生きる上で全員が思うべきことだと思います。

ーーそうですね、最近メディアでもトランスジェンダーの方が取りあげられることは増えてきましたが、それも『トランスジェンダー』として取り上げられている印象があるので、そうではなくて、1人の人として取り上げるのがすごい大事なのかなと、自分は伝える側として思いました。

僕たちのセクシュアリティでマツコ・デラックスのような存在を目指す

ーーYouTubeをやる上でのこだわりは何か持たれていますか?

おーちゃん)マツコ・デラックスさんみたいな存在を目指しています。一般社会には、まだまだLGBTに偏見や抵抗がある方とかもいるわけじゃないですか。マツコさんは男性が好きと公言しているゲイの女装家の方ですよね。一般的にはまだまだ偏見の対象になってしまうはずなのに、みんな家に帰ったらマツコさんの番組を見て笑っています。

じゃあマツコさんって、LGBTの活動について啓蒙をしているかというと、イベントに登壇したりしているわけではないじゃないですか。だけど、それ以上の存在感をちゃんとメディアを通して出せている、みんなが「マツコさんの言ったことなら」って信頼して聞いてもらえている。なんか本当に存在するだけで影響力を発しているって素敵な方だなと思っています。

いまメディア全体やテレビの中で見ても、トランスジェンダーで女性から男性になって活躍している人は思い浮かびません。でもほかのセクシュアリティセクシュアリティの方だったりとか、僕たちと逆のはるな愛さんとかはパッと浮かぶんですよ。

いま確立されていないのは、僕たちと同じセクシュアリティのインフルエンサー。テレビの中だったりとか、メディアで活躍するFTM(女性から男性)インフルエンサーとして発信力や存在感がある人になりたいですね。

ーーマツコさんの場合、マツコさんという個人として見ていて、女装家さんというのは一要素でしかないという印象がありますよね。改めてすごいことだなと思います。

おーちゃん)まだまだ今の時代でみたらマイノリティの塊でもあるじゃないですか。太っていて、女装家でゲイ。もともと美容師やゲイ雑誌の編集部などで多様な人と関わって働いてきた方なので、そういった経験が今の発信力や信頼を得ていると思うと本当にすごいなと思いますね。

ーー今後の活動としてはどういったことを目指されてるんですか?

おーちゃん)YouTubeはもちろん継続してやっていきたいと思いますが、今後は活躍していく場としてラジオやテレビにも出演させてもらえるように頑張って、1人でも多くの方に知ってもらいたいですね。

将来的には、自分たちのレギュラー番組を持ちたいと思っています。個人的には、マツコ会議、月曜から夜ふかし、イッテQには出てみたいですね。出川ガールにも名乗りをあげたいなと。元女子として(笑)

ーーありがとうございます(笑)それでは、最後に今後にむけて一言ずつお願いできますか?まずは、あさひさんからお願いできますか?

あさひ)ジェンダー教育においては、自分たちがやっている活動はこれから未来を担う子どもたちに向けて発信がメインです。子どもたちが大きくなった時に、「あの時言ってたな…」とか、そんな心に残ってもらえるようなことを伝えていきたいと思います。
そして、10年後、20年後、いろんな方と出会った時に、個性を認めあえる大人になって欲しいですね。「大人のシンボル」になれるように全力で頑張ります。

ーーまささんはどうですか?

まさ)えっと、かぶっちゃうんで…(笑)
んーそうですね、ジェンダー教育をしていく上で自分たちが学ぶことも多い。そこにすごく楽しみを感じるし、難しい教育をしていくのではなく、僕らたちの活動も楽しんでもらいながら、一緒に学んでいけたら良いなと思いますね。本当にそれだけです。

ーー最後に、おーちゃんお願いします。

おーちゃん)僕らからはグループの押し売りを…(笑)You Tubeでもこのバックグラウンドのジャンルでやっているグループって世界初なんですよね。だからこそ、新しいジャンルとして、応援していただけたら嬉しいですし、皆さんの期待をこえて活躍できるように頑張っていきたいと思っています。

ミュータントウェーブ公式You Tube