私たちの想い

「小児がんの子どもたちが安心できる社会のために」〜ゴールドリボン・ネットワーク理事長 松井秀文さん

「子どもたちは金(きん)のように“最も貴重な宝物”である」という考えから、小児がんの子どもたちを支えるシンボルマークになっている「ゴールドリボン」をご存知ですか?
認定NPO法人「ゴールドリボン・ネットワーク」では、小児がんの子どもたちが安心して笑顔で生活できる社会をつくるため、さまざまな活動をしています。
「ゴールドリボン・ネットワーク」の設立者で、理事長の松井秀文さん(以下、松井)にお話を伺いました。

大人のがんではあまりない後遺症もある「小児がん」

ーー「ゴールドリボン・ネットワーク」さんでは、どのような活動をされているのですか?

松井)小児がんの子どもたち(患児)の生活の質を向上させたりするために、さまざまな活動をしています。

小児がんを専門的に扱う病院は少なく、病気によっては地元の病院では治療が受けられない場合があります。遠方の病院に行く費用負担が大きいことが理由で適切な治療を受けられない子どもを出したくないという思いから、本人や家族に遠方での治療のための交通費等を助成しています。
また、「給付型奨学金」も実施しています。がん患児は、所得の面だけでなくがんの治療の結果として学力の面でも、通常の奨学金では難しい場合があります。現在、大学や短大・専門学校に在学している40人以上に給付を行っています。
そして、小児がんへの理解促進のための「ゴールドリボンウオーキング」にも力を入れています。イベントをすることによって、多くの人に小児がんを理解してもらい、患児や経験者が生きやすい社会に繋がってほしいと願っています。

それ以外にも、研究者への研究助成や髪の毛のトラブルを抱えやすい患児のためのニット帽やマスクの支給、就労移行支援など、幅広い活動に取り組んでいます。

ーーそもそも「小児がん」とは、どのようなものなのか教えてください。

松井)小児がんとは、0歳〜15歳の「小児」が発症するがんの総称で、年間2000〜2500人が新たに発症します。
大人にはまれながんが多く、稀少がんである一方、その種類が多く、更に、がんの種類によって治療法が異なるため、扱うことができる病院の数が約200と少ないという問題を抱えています。小児がんを重点的に取り組む「拠点病院」は全国で15。小児がん治療において質の高い医療を提供できる「連携病院」も、県内に1つしかない地域もあります。

小児がん全体の治癒率は80%ほどですが、小児がん特有の「晩期合併症」という後遺症を抱えるお子さんが経験者の約半数います。大人のがんと様相が違う一方で、発症数が少ないために世間の理解が少ないのが現状です。

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関わるきっかけは、娘を亡くした親御さんの手記

――松井さんご自身が、「小児がん」に関わり、その支援をしようと思ったのには、何かきっかけがあったのですか?

松井)運命だと思うのですが、他業種から保険会社「アフラック」に転職しようか迷っていた29歳のとき(1973年)、お嬢さんを白血病で亡くされた親御さんの『娘を不治の病に奪われて』という手記に出会いました。そこに書かれていたのは、父親が感じた無念な思いとともに経済的な問題でした。

そして、他の手記でも「家を売ってでも子どもの治療費に充てる」という記述を読むなど、小児がん患児の家族の経済的な負担を知ったことが、迷っていた私の背中を押してくれました。

ーーそうしたきっかけから、小児がんに関わるようになったのですね。
理解を促すためのイベントとして「ゴールドリボンウオーキング」があると伺いましたが、このイベントはどのようなきっかけで始まったのですか?

松井)2006年、小児がんの支援のためにアフラック社内で「ゴールドリボン」バッジを着用し始めたのがそもそものきっかけです。
当時、小児がんのことを話しても、残念ながら「子どもにもがんがあるの?」と質問する方がおられるくらい、小児がんは知られていませんでした。そのため、小児がんの子どもたちが生きやすい社会をつくる上では、まず小児がんを知ってもらうことが大切だと感じ、2007年に始めたのが「ゴールドリボンウオーキング」でした。

当初は1000人ほどだった参加者は、新型コロナ禍前の2019年には、東京、大阪、福岡の3会場で合わせて8000人ほどにまで増えました。
2021年はオンライン開催になりましたが、「YouTube」配信では、総再生回数が1万3000回を超えるなど、始めた頃と比べ、世の中の小児がんへの関心が大きく高まった印象を受けます。

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健康を確かめあえる場にも

ーー多くの人が関心を寄せる「ゴールドリボンウオーキング」のなかで、何か印象に残っている出来事はありましたか?

松井)2017年、大阪会場でのウオーキングに、ある大学生が参加されました。その女性はたまたま会場で小児がんの医師と会い、「自分は先生の病院で小児がんの治療をしました」「今は医者になるための勉強をしています」と話しました。
そして、「今までは小児がん経験者だったことを周囲に話すのをためらっていました。だけど、このように多くの人が小児がん患児や経験者を応援してくれていることを知って考え方を変えました。」と打ち明け、カミングアウト後に小児科の医師になられたそうです。
このウオーキングが女性が小児科医になるきっかけを与えたとするなら、とても嬉しいことです。

――そのような出来事があったのですね。この女性の出来事のように、「ゴールドリボンウオーキング」に取り組む意義はたくさんありそうですね。

松井)「ゴールドリボンウオーキング」を始めた当初は、一般の方に小児がんのことを知っていただくことが目的でした。ですが、回数を重ねるにつれて、小児がんを経験した人たちが「お互いに元気なことを確かめあう場所」という意味あいも強くなってきました。
また、小児がん経験者だけでなく各地からウオーキングに集まった人たちが年1回、「元気だったか!」と確かめあえる場になっていることで、このイベントを開催する意味や意義が強まっていると感じます。

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「AYA世代」「きょうだい」 多岐にわたる課題

ーーここ数年、「AYA世代」(進学や就職、結婚など大きなライフイベントが多い15歳~39歳までの世代)への支援が大きなテーマになっていますよね。
松井さんはこの世代に対しては、どのような支援が必要だと考えていますか?

松井)「AYA世代」では、就職や結婚など課題が多く、近年、その対応が重要視されています。
特に結婚・出産においては、小児のときの治療の影響で、子どもを持つことができるかどうかの「妊よう性」が損なわれる可能性があることもあり、周囲の理解がないとその対策も進みません。就職や結婚の際に、小児がん経験者であることを伝えるべきかも難しい問題です。
小児がんやAYA世代についての理解が深まっていけば、受け入れる側の姿勢も変わるのではないでしょうか。私が手記に出会って関心を持ったように、普通はあまり関心のない元気な人に理解してもらうためには、ウオーキングを含めた“場”を多くつくることが大切だと思います。

ーー課題は治療だけではないという点も、小児がんのならでは難しさなのですね。

松井)小児がんは子どものときに発症するので、その後の人生のほうが長いわけです。普通に生きていける人も当然いますが、自分たちの課題や問題を抱えながら生きていかなければならない人もいます。その人たちを社会でどのように支え、生きやすい社会を作っていくかという視点はすごく大切だと思います。

小児がんでは、本人だけではなく、「きょうだい」の問題もあります。
きょうだいのうち1人が小児がんになったら親はその患児に付きっきりになってしまい、残りのきょうだいは誰が面倒をみるか、という課題もあります。本人や付き添いの人の交通費・宿泊費に次いで多いのが、きょうだいの保育費です。
患児1人ひとり全く違いがありますが、課題が多岐に渡っていることは事実です。

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自分たちの経験から歌詞を紡ぎ、楽曲を作成

ーー多くの人に小児がんのことを知ってもらうため、これからも活動の幅が広がっていけばいいですね。

松井)2017年の大阪での「ゴールドリボンウオーキング」をきっかけに、小児がんの経験者を中心に楽曲を制作するプロジェクトも立ち上がり、ついに2021年、小児がんの子どもたちのための応援歌をつくることができました。その名も『WE ARE ONE』です。
がん経験者である作曲家の石井亮輔さんと共に制作し、歌詞は自分たちの経験から言葉を紡ぎました。
たくさんの人の想いがひとつになったこの歌を皆さんに聞いていただき、小児がんの理解や支援に繋がれば嬉しいです。

ーー最後に、これからの目標を教えてください。

松井)私たちの目的は、小児がんの子どもたちが安心して生活できる社会にすることです。
まだ手をつけられていない課題もたくさんありますが、コロナ禍になり、特に低所得層は経済的な支援の強化が必要と感じています。子どもたちが夢を叶えられるようにするため、取り組まなければならない支援だと思っています。

小児がんの子たちが自分を発揮できるような「文化祭」のような取り組みをしたいとも考えています。そうした発表の場は、自分の「証」になり、治療や療養にあたる上でのパワーになっていくような気がします。
そして、「ウオーキング」は全国に展開したいです。今年のWEB開催でオンラインの良さも感じましたが、やはり支援者も小児がんの経験者も皆さんが集える「リアル」も大事だと思っています。
我々が始めたこのイベントを、もっともっと広げたいと思っています!

ーーありがとうございました!

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