日本財団が支援する『子ども第三の居場所』プロジェクト。家庭の抱える困難が複雑・多様化し、地域のつながりが希薄化する中で、安心して過ごせる場所がなく“孤立化”してしまう子どもたちのための居場所をつくっていくプロジェクトです。さらに、その場所を地域のハブとして、誰一人取り残されない地域子育てコミュニティを目指しています。
埼玉県久喜市に2022年1月に誕生したファルカオスポーツベース。子ども第三の居場所プロジェクトの中で、全国で初めて『スポーツ』を軸にした施設です。運営するファルカオフットボールクラブ代表の瀬川泰祐さん(以下、瀬川)に、子どもたちの居場所としての意義、『スポーツ』を中心に据える意義を伺います。
地域のサッカークラブから
ーー瀬川さんが、地域のサッカークラブである『ファルカオフットボールクラブ』を立ち上げた経緯を教えてください。
瀬川)2013年に自分の子どもが地域のスポーツクラブに入り、私もお父さんコーチをすることになりました。私自身、Jクラブで仕事をさせていただいていたり、トップの環境を見てきた中で、そこで体感した地域スポーツに大きなギャップを感じました。
「地域の子どものスポーツ環境を、もっとしっかりとしたものにしたい」と思い、子どもたちの1つの選択肢になれるよう、地元の若者たちと一緒に『ファルカオフットボールクラブ』を立ち上げました。
ーー実際にどのような課題を感じたのですか?
瀬川)久喜市のある埼玉県の東部北地区は、県の中では比較的レベルが落ちると言われています。その指導の現場を見ていると、子どもの自己肯定感を育むような指導がなく、むしろ大人が試合に勝ちたいがために子どもをロボットのように動かしているような現場が当時は多くありました。「これは子どもに適した環境ではない」と感じ、それとは違うコンセプトのクラブを作ろうと決意しました。
スポーツで『地域の壁』を乗り越える
ーー今回『子ども第三の居場所』プロジェクトの1つとして、『ファルカオスポーツベース』を開くことになりましたが、そのような構想は以前からあったのでしょうか?
瀬川)サッカーだけでなく、「スポーツを通じて地域コミュニティをつくれるのではないか?」という想いは以前からありました。さまざまな団体の活動を見たり、2016年ごろからは指導者交流会や講演会を開催したりする中で、自分の考えを整理し、仲間と繋がってきました。
ーー子ども第三の居場所プロジェクトでは、『地域コミュニティの希薄化』も課題とされています。ファルカオスポーツベースのある埼玉県久喜市は、その点いかがなのでしょうか?
瀬川)久喜市は4市が合併してできた市で、その地域ごとにちょっとした違いがあります。市の中でも学校の数や生徒の数が少なくなってきており、『学校の単位を超えたコミュニティ』が必要だと以前から感じていました。
それぞれの小さなコミュニティに横串を刺し、交流が生まれるようなものがあったらいいなと思っていましたし、それが「スポーツを通じてできるのではないか?」とも思っていました。
ーー瀬川さんの考えるスポーツの持つ力や役割にはどのようなものがありますか?
瀬川)『いろいろな壁を越えられる』ところがスポーツの一番の強みだと思います。オリンピックでそうした話題をよく耳にしますが、私たちのような小さな環境でも存在する、ちょっとした壁に対して身近なところで乗り越えられるものがスポーツだと考えています。地域で活動していると、いろいろな地域の壁を感じることも本当にあるので。(笑)
日本財団HEROsとのつながり
ーー日本財団さんと瀬川さんとは、どのようなつながりがあったのですか?
瀬川)日本財団さんとは、HEROsのオフィシャルライターとして関わり、サッカー元日本代表である巻誠一郎さんの熊本の被災地訪問に同行するなど、貴重な経験をさせていただいていました。HEROsの活動も含め、せっかく全国でいろいろな事例を見ていたので、「自分もなにか社会貢献のアクションをしたい!」と常々思っていました。
地域に恩返しをするという意味で、自分たちでも社会貢献の活動を地道に行っていましたが、日本財団さんのSNSで『子ども第三の居場所』事業を見たときに、「これだ!」と思って連絡させていただきました。
ーーなるほど。もともと関わりのあった日本財団さんの活動で、瀬川さんの想いに一致する活動だったのですね。
瀬川)スポーツ団体が自ら児童福祉に関わり、子どもの居場所づくりに携わるケースは全国的にもあまりない活動です。
実は、スポーツに関わる指導者がパワーを発揮する場所として、その能力や経験値、働く時間的にも一番相性が良いのが児童福祉だと思っています。「地域の中で子どもの自己肯定感を育む」というコンセプトでやってきた私たちクラブの経験値を児童福祉に活かしていきたいです。
ーー既にある学校などの施設との違いは何になるのでしょうか?
瀬川)“ボーダーレスな世界”という意味で、ある意味学校は象徴的だと思います。外国人家庭や、経済的な環境の差もある人たちが一緒に生活していく。私としては、こうした学校というボーダレスな世界の延長線上に『ファルカオスポーツベース』がありたいと思っています。
子ども食堂=貧困というイメージを持たれがちですが、「スポーツの場所だよ」と発信することによって、いい意味でいろいろな環境・状況の方を包み込み、結果的に居場所を必要としている方を救える形になればと考えています。
スポーツを活用する『モデルケース』をつくる
ーーこの施設を長く運用していくために、収益という観点も重要かと思います。その点を瀬川さんはどのように考えていらっしゃいますか?
瀬川)収益を長期的に得ていくために、まず1つは、『施設を使用する』人を増やすことを考えています。ファルカオスポーツベースを場所として使用してワークショップを開催したり、ローカル局さんの中継拠点として活用したり、『この施設を使うと便利になる、使いたい』と思う人を増やし、連携していきたいと思っています。
もう1つは、カフェとしての運営です。子ども食堂という性格だけでなく、週末にはしっかりと利益の取れる形でカフェ運営をし、その一部を運営費用に充てていきます。キッチンもあるので、福祉事業所の職業訓練の場所としても使えればいいなと思っています。
ーー1つの施設で、企業の活用から職業訓練まで、さまざまな対象が広がりますね!
ーー今後フォルカオスポーツベースとして目指すものと、瀬川さんご自身が地域に対して目指していくものを教えてください。
瀬川)スポーツを活用し、施設を活用して、地域の課題解決にアプローチすることを引き続き目指していきたいです。小さなスポーツ団体でも、スポーツを通じて地域に対して貢献できるということが伝わって、結果的にそれがモデルケースとなり、全国にそういう場所が多くできていったら嬉しいです。
ーーありがとうございました!
巻誠一郎さんより
ーーこの『ファルカオスポーツベース』のような空間・環境があることで、子どもたちにどんないい影響があると考えていますか?
巻)子どもたちは、空間・環境によって、学ぶ意欲や成長のスピード、夢を育む思考が変わってくると思っています。いろいろな人と関わり、工夫して競ったり、協力することで、自立やコミュニケーション能力の向上につながります。
ファルカオスポーツベースは、そうした意味でとてもいい空間だと思いますし、加えてこの木のぬくもりがあるのもいいですよね!
これから先の未来を創造していく子どもたちにとって夢を育むことのできる環境であり、大きな期待をしています。また、スポーツというコンセプトとの融合で、『スポーツの持つ可能性』という点でも広がっていくと嬉しいですね!
スポーツライター・編集者としても活躍される、瀬川さんの公式サイトはこちら