ボッチャ日本選手権BC3クラス初代チャンピオンの山下智子さん(以下、山下)。生まれつき重度の脳性まひのある彼女は、高校卒業後に出会ったボッチャを今も現役で続けています。
そんな彼女の生きがいは、Jリーグ・東京ヴェルディの応援。大ファンである彼女はホームゲームだけでなく、練習場やアウェイの試合にも応援に駆けつけます。
山下さんにとってのボッチャ、そしてヴェルディについて話を伺いました。
ボッチャで金メダルを目指す!
ーー山下さんがボッチャを初めて知ったのはいつですか?
山下)高校卒業後、友だちに「ボッチャやってみない?」と誘われて始めました。初めてやったときは、どこにボールを投げたいのかなど、自分の言葉で想いが伝わり、すごく新鮮に感じたことをよく覚えています。途中で何度か競技から離れる時期もありましたが、約25年競技を続けてきています。
ーーこれまでの競技生活で思い出に残る出来事はありますか?
山下)1999年に初めて開催された日本選手権で優勝することができ、いきなり日本代表になりました。その際に国際大会でアルゼンチンに行ったことがとても記憶に残っています。私にとって初めての海外で、飛行機で26時間もかかり、罰ゲームなのではないか?と思うほどに辛かったです(笑)。
ーーボッチャ選手として、いま目指しているものは何ですか?
山下)残念ながらパリパラリンピックは出場することができないので、4年後のロサンゼルスパラリンピックに出場し、メダルを獲りたいです。できれば個人でもペアでも出場し、金メダルを2個獲りたいですね!
“世界”を目指せるボッチャのおもしろさ
ーー山下さんにとってボッチャの魅力・おもしろいところはどんなところですか?
山下)この競技は、健常者とも一緒にできるようになっているところが魅力です。また、重度の障がい者でも“世界”を目指せるところも、とても魅力的だと思います。
ーー現在はどのくらい練習しているのですか?
山下)週1回ですが、もっと2人でもっと練習して、連携やコミュニケーションを高めたいです。ランプオペレーターの山崎さんが、仕事としてボッチャに専念できる環境ができればもっと練習ができるのですが。
ーーそうした金銭的な環境も今後の競技発展には必要になりますね。
山下)大会への出場も基本的には自己負担になります。4年後を目指すためにも、こうした点で協力してくれる企業があると嬉しいですね。
ヴェルディとの出会い
ーー山下さんは、Jリーグ・東京ヴェルディの大ファンだとお伺いしました。応援するようになったきっかけはどのようなものなのでしょうか?
山下)Jリーグ開幕当時からヴェルディを応援しています。開幕戦をテレビで見ていたとき「このチームはとてもおもしろいサッカーをするな!」と思い、そこからヴェルディにハマっていきました。
当時応援していたのはやはり三浦知良選手ですね。16歳でブラジルに行って自分を磨いたエピソードなど、神様のように思っていました。練習場に行くと、北澤豪さんが話しかけてくれたりしました。2017年に引退した平本一樹さんは、彼が高校生のときから応援していて、今では何でも言い合えるほど仲が良いです。
ーーボッチャのお話以上にとても饒舌ですね(笑)。ヴェルディの魅力はどんなところにありますか?
山下)いっぱいあります(笑)。もちろんサッカーの試合も大好きですが、クラブとしても東京ヴェルディはいろいろな障がい者やベビーカーとかで見に来ても対応してくれる、素晴らしいクラブです。子どもたち向けのボッチャのイベントも多く開催していて、私も新型コロナウイルス流行の前までは現地に行って手伝っていました。ここ数年は残念ながら現地には行けていないのですが、事前に動画で私がどのようにボッチャをやっているのかなどを子どもたちに見てもらう形で関わっています。
ヴェルディのバリアフリー進化の立役者
ーーこの30年間、山下さんからのご意見もありヴェルディではバリアフリー化が進められてきたとのお話も伺いました。
山下)やはり、当事者が言わないと何も変わらないと思っています。私はヴェルディに限らず、困っていることをどんどん言うようにしているのですが、「いつか変わるだろう」と黙っていても変わらず、何も始まらないものです。
ーーご自身から積極的に困りごとを言うようになったのには、なにかきっかけがあったのでしょうか?
山下)もちろん生まれ持った性格もあると思うのですが、小学校入学のときの出来事が大きく変わったきっかけです。私は健常者と一緒の幼稚園に通っていたのですが、小学校からは養護学校に行くことになりました。そのこと自体も、当時の私はあまり意味がわからなかったのですが、入学してすぐにみんながもらっている教科書が私にはもらえなくて。
私の言語障がいの様子などから判断されてしまったようで「なんで私にはないの?」と直接言って教科書をもらうことができました。幼稚園ではテストでも上位だったのに、自分は障がい者だから同じものがもらえないのはおかしいと言うことができ、自分から言って変えることができた経験が今につながっているような気がします。
ーー自分から言わないと変わらない、というのは私自身にも身に沁みる言葉ですね。
ーーホームゲームだけでなく、アウェイや練習にも行かれる山下さん。最近のサッカー観戦で困っていることはありますか?
山下)クラブによって、チケットの買い方が違うことには少し困っています。車いす用の席が少ないのか、抽選でしかチケットが取れなかったり。各クラブにはいろいろな事情があるとは思うのですが、当事者である私はなぜなのかよくわかっていません(笑)。
10年ほど前、平本一樹さんが当時所属していたヴァンフォーレ甲府の試合を観に甲府まで行ったこともありました。そのときには、車いすユーザーで年間チケットを持っている方も多くいたり、そうした点はすごいなと思いました。でも、やっぱり味の素スタジアムが一番いいです!
ヴェルディへのメッセージ
ーー山下さんにとってヴェルディとは?
山下)ずっと私の生活の一部です。私は、20歳で親元を離れて自立生活を始めました。それは、ヴェルディの試合や練習を観に行きたいという想いが一番大きいです。ヴェルディを応援したいから、という理由で人生がとても潤っています。
ーー昨シーズンはチームもプレーオフを経てJ1リーグへの昇格をつかみ取りました。
山下)新型コロナウイルス流行以後、なかなかスタジアムに行って応援をすることができていなかったのですが、プレーオフでは味の素スタジアム、国立競技場での2試合を応援することができました。昇格の場面をこの目で見ることができました!もう降格するあの感覚は味わいたくないので、今年も精一杯応援します!
ーー開幕戦は、横浜F・マリノスとの国立競技場の試合です。
山下)私がヴェルディを応援するきっかけとなった、『ヴェルディvsマリノス』の試合が、あのときと同じ国立競技場で行われることに本当に感動しています。1993年当時はテレビ観戦でしたが、今回は現地に応援に行く予定です。本当に楽しみです!
ーーこれからの目標を教えてください!
山下)いつかは大好きなヴェルディでお仕事がしたいなとずっと思っています。今年はパラリンピックもあるので、ボッチャがもっと盛り上がって、『ヴェルディ ボッチャチーム』ができて私も関われたらとても嬉しいです!
ーーありがとうございます!