「見えるをデザインする」ブランド『WAVE』を展開する株式会社パレンテとSports for Socialでは、インタビューや合同イベントなどを通して“見える”について考えてきました。
今回は業界大手のジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(以下、J&J)と株式会社シード(以下、シード)の2社を加え、各社の『見えるを支援する』活動に関する対談では、各社の捉える“見える”、そこから見出される「見ようとする」ことの価値を考えてきました。
後編では一般社団法人日本障がい者サッカー連盟(以下、JIFF)の北澤豪会長を加え、スポーツを絡めながら「見える」について深めていきます。
(全2回の#2/#1はこちら)
登壇者紹介
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループJAPAN COMMUNITY IMPACT チェア 森村 純 氏
株式会社シード 代表取締役社長 浦壁 昌広 氏
株式会社パレンテ 代表取締役社長 吉田 忠史 氏
一般社団法人日本障がい者サッカー連盟 会長 北澤 豪 氏
日常に溶け込むブラインドサッカーへ
ーーここからは北澤豪さんをお迎えして進めていきます。“見える”に関して北澤さんの活動領域に近いところでいうと、ブラインドサッカー(5人制サッカー)が挙げられます。
北澤)パリパラリンピックでは、5人制サッカーはエッフェル塔の下に特設のスタジアムを作って、最大12,000人の観客の中で試合が行われます。いわゆる名所と呼ばれる場所で開催されることの意義は大きく感じますが、会場としてはまわりの音が結構発生する場所になるので、耳が最大の武器となる競技においては難しい環境になります。
ですが、日常生活を送る人に対して「静かにしてください」とお願いすることは難しいですよね。お互いの配慮という点で考えると、日常の中にどう一緒に入れるかが今後大事になってくるとも思います。何が標準で、何が基準なのかという点をお互いの目線から一緒に考えていくようなフェーズに来ていると感じます。
パレンテ 吉田)私たちは、全盲の社員と一緒にゴールボール体験を行ったことがあります。鈴があって音は聞こえますが、ぶつかると痛いですし、怖さも感じました。
北澤)5人制サッカーは、フィールドプレイヤーは目が見えない状態でプレーしますが、ゴールキーパーは見えている、真ん中には監督がいて、攻める側のゴール裏にはガイドがいてフィールドを見ながら指示を出す。こうした共生・共存が生まれていることはこの競技の大きな魅力です。コミュニケーションが重要な要素になるので、一回で理解ができるような言葉の使い方がとても上手だと感じますし、参考になります。
ーージョンソン・エンド・ジョンソンさんは、JIFFのパートナーとしても活動されています。
J&J 森村)ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ヘルスケア社会貢献活動において4つの優先領域をグローバルで提示しています。そのひとつが “ビジョン”です。日本においては、若者のロービジョンなどに関連する支援先がないか探していた中、JIFFさんの競技種目において、ブラインドサッカーやロービジョンフットサルなど私たちの優先領域との接点が多いように感じ、今に至ります。
さきほど北澤さんがおっしゃっていたように、サポートする側もいかにわかりやすく言語化するかが大きな課題になり、業務に活かせる面もあります。「この言語化のプロセスは自分の仕事にも活かせるので、ボランティアとして参加したい」と話す社員もいるほどです。
北澤)コミュニケーションの面だけではなく、障がいのある方々と何度も時間を重ねてると、当たり前に接してる自分がいたりしますよね。
視覚障がいのある人が多い5人制サッカーのボランティアに来てくれたあと、点字ブロックの存在に気が付くようになったり、普段歩いている道で「目の見えない人にとってはこの横断歩道は危ないね」という気づきが生まれます。体験することがユニバーサルに物事を考え、議論していくキッカケになるのではないかと思います。
シード 浦壁)シードでは、盲導犬の団体の支援をしています。そうすると、お店に入るときの「補助犬OK」のシールに目が向くようになったりしますよね。
北澤)国際都市化しているところは、そうしたユニバーサルな対応をされていることが多いですよね。
子どもたちの変化
北澤)街づくりとしてユニバーサルな形を考えていく中で、子どもたちへの取り組みも考えていきたいですよね。時代を変えるには子どもたちの考え方の影響力が大きいと思うので。
吉田)私の息子は今小学校2年生なのですが、授業でSDGsを学び彼にとっては“普通”になっています。昭和のときの水を飲むなという風習からスポーツの現場が変わってきたように、子どもたちにとっての意識は変わってきていますね。「お父さんの会社はSDGsの何番をやってるの?」と聞かれてしまうと、大人側の意識も変わらなければと思わされます(笑)。
ーー小学校訪問を積極的に行うシードの浦壁さんは、子どもたちの変化について感じるところはありますか?
浦壁)先日訪問した学校では、リサイクルに関する内容など「私たちにできること」について教室の後ろに貼ってありました。知識として得ているだけでなく、自分たちの身近でできることに参加しようという意識はかなり根付いているのではないかと感じます。
北澤)こうした子どもの価値観の変化も、大人の関わり方が重要なのではないかと思います。子どもたちの将来に過度に期待してはいけないかもしれないですが、私たちとは全然違うものに触れてきている世代で、創造性も違うものを持っていると思います。健常者、障がい者という言葉もまた違った形になってくるかもしれませんよね。
サッカーのスタジアムでも、まだユニバーサルにできているとは言い切れません。スタジアムの中だけでなく、その場所にどうやっていくかという点でハードルがあります。ですが、そうした点を解消していくことで、いままで行けなかった新しい場所で、新しい景色を感じることができるようになります。新しい景色は自分の夢や目標を広げ、世界を広げることに繋がっていきますよね。
吉田)パレンテではヴィッセル神戸さんのスポンサーをさせていただき、“新しいスポーツ観戦”を作ろうと試みています。コンタクトレンズ業界からも各社に賛同していただき、さまざまなことに取り組んでいます。
北澤)企業も含め、大人たちが一緒に新しい景色を子どもたちにどう見せていくかっていうことは非常に大事ですよね。
ーー子どもたちと視力の関係性として、ジョンソン・エンド・ジョンソンさんが協賛する「外あそび推進の会」について教えていただけますか?
森村)例えば台湾では、国を挙げて近視進行抑制に取り組んでおり、その中で子どもたちに対して「1日2時間以上 外遊びなどの屋外活動をする」ことが推奨されています。日本においては、公園でのボール遊び禁止などのルール厳格化、学校の校庭開放の制限、空き地の減少などの子どもたちをとりまく環境の変化を受け、こども家庭庁へも働きかけ、外遊びが広がりやすいような状況を作ろうと取り組んでいます。
また、「外あそび推進の会」は、有識者の先生から学術的なサポートをいただいたり、著名なアスリートの方からも賛同していただいています。
浦壁)シードではそうした屋外スポーツを推進する意味も含め、ベトナムで少年サッカー大会に優勝トロフィーをプレゼントしたことがあります。そういうことをクラブ・スポーツの活動を通じて知っていただく人が広がればいいなと思っています。
スポーツをする上で大事な視力
ーーアスリートにとっても大事となる視力の問題。北澤さんは現役時代から視力のことを意識されていましたか?
北澤)やはり見えていないといけないですし、一点だけに集中しないで全体を見るような“見方”も意識していましたし、奥行きの使い方はかなり目の訓練をしました。
トップレベルになってくると、動いて、見てからプレーしてしまうと遅いわけです。いかに見えていないところをプレーするのかという感覚にもなり、ブラインドサッカーの見えていない技術や経験も必要になると考えています。
吉田)私たちはスタジアムの観客席やテレビで、ピッチを上から見渡しているので、そうした感覚のお話をきけるのは嬉しいですね。今は、走行距離のデータなども見られるようになり、スポーツ観戦がさらにおもしろくなったと感じています。
北澤)現在、シニアの競技者数が増えてきています。そうした世代になると、老眼や加齢による目の問題についての話題が増えますね。パッと振り返ったときに焦点が合わないというお話を聞きます。
浦壁)老眼で遠近両用のメガネをかけて生活をしている方ですと、実際にモノがある距離と見えている距離のズレが生じることがあります。慣れていないと、日常生活でも階段を踏み外してしまう事故等も起きやすいです。遠近両用のメガネをかけて生活している方はスポーツをする際にも見え方がズレてしまうかもしれませんね。遠近両用のコンタクトレンズですとそうしたズレは起きないので良いかもしれません。
北澤)それは知らなかったです。是非コンタクトレンズ業界にはシニアスポーツにも協力していただきたいです。怪我も減ったり、健康促進にも繋がります。
森村)ちゃんと視力矯正をしておかないと、そうした怪我のリスクやメンタル面でも影響があると言われています。目は一番最初に老化を感じるところだと思うのですが、40代、50代できちんと対応しておくことは非常に重要です。
浦壁)「アイフレイル」という言葉もあるように、目の老化を防ぐための対応には注目されていますよね。目がしっかりと見えていることによって、その後の活動量が変わってくるとも言われています。
北澤)世代的に、少しくらい見えにくくなっても頑張ってしまう人も多そうですね。
吉田)最近だと、若い世代でも色付きのメガネをつけてパソコンの作業をする人が増えてきていますよね。目への影響を考える人が増えたと思いますし、「電車酔いするからサングラスをしてあえて視界を狭くする」というような、見え方を考える人も増えたと感じています。
北澤)私の場合は、スタジアムに到着して、ピッチに出るときに、グラウンドの状況を確認するだけではなく、自分の目線を広げ、距離感を合わせています。慣らしておかないとピントや距離感が合わないこともあるので、大事な作業ですね。
垣根を超える新しいチャレンジへ
吉田)今日のお話では、シニアスポーツの方々の目の健康へのアプローチについてはハッとさせられました。いままで人生でコンタクトをしてこなかった人も多いと思いますし、抵抗のある人も多いと思いますが、そこにスポーツというコンテンツを結びつけることで使いやすくなる工夫ができるのではないかと感じています。
北澤さんと今日ご一緒したのもそうですが、いろいろな人たちと一緒になにかをすることで、新しい“見える”が生まれてくるのかなと思います!
北澤)こうしてコンタクト業界内の垣根を超えた企画というのは改めてすごいことですね(笑)。
私の立場としては、5人制サッカー(ブラインドサッカー)など障がいのある方とどうスポーツに取り組むかということのお話になりますが、結局障がいがあるか、そうじゃないかという枠組みはどんどんなくなっていくと感じています。そういった意味では、より楽しい人生を送っていくためには、いくつになっても健康で、なにかにチャレンジできるということが大切です。目が見えていると安心してチャレンジができますし、見えなくても横に見えている仲間がいてくれて、勇気をもらえる。そんなフィールドを将来に向けて作っていきたいと思いますし、さまざまなお話から私たちがチャレンジできることも増えたなとありがたい気持ちになりました。
ーーありがとうございました!