サッカーJリーグ・松本山雅FCでは、2021年から無料の生理用品を詰めた赤いボックスを提供することで、生理中の若者を支援することを目的としたチャリティー団体「RED BOX JAPAN」と協力して「スタジアムトイレに生理用品を設置する」活動をスタートしました。
それに合わせ、中学生年代の女子選手・スタッフへの生理についての勉強会など、生理についての理解を深める、知るきっかけを作る活動も行なっています。
「ほかのJクラブにも実施してもらいたい」と語るのは松本山雅FCの渡邉はるかさん(以下、渡邉)。RED BOX JAPANの木戸彩さん(以下、木戸)とともに、女性のカラダのことに関する発信への想いや、今後の展望についてお伺いしました。
より多くの方に『生理』について知ってもらいたい
ーーまず、活動について教えてください。
渡邉)ホームスタジアムであるサンプロアルウィンのトイレに、試合の有無にかかわらず生理用品を設置しています。また、フェムケアを学ぼうということで、松本山雅FCレディースU-15や地域の女子選手、また地域の指導者に向けて講習の場を設け、一般社団法人RED BOX JAPANさんに講師としてお話していただきました。
ーー講習はオンラインでも配信されたそうですね。
渡邉)もともと、松本山雅FCレディースの監督が生理による選手のコンディションや接し方について課題を持っていました。「地域にもきっと同じような悩みを持った指導者がいるのではないか」「より多くの方に『生理』について知ってもらいたい」という思いから、地域にも開かれたものにするためにオンラインでも配信しました。「生理について理解の深まるいい機会でした」と感想もいただき、やる意味はあったと思います。
ーー渡邉さんご自身は松本山雅のスタッフとして働く中で、もともと生理の問題や、生理の貧困に関心があったのですか?
渡邉)私自身も30歳を越えてから体の調子がが生理によって左右され、ダルくて仕事が手につかないこともありました。「学生の頃はこんな感じじゃなかったのに」と思っていました。
そんな中、地元紙で『生理の貧困』について取り上げられている記事を見つけました。はじめは生理について「触れちゃいけないものだ」という考えもありましたが、クラブとして何か一歩踏み出せないかなと考える中でRED BOX JAPANさんと繋がり、「生理の貧困」に向けた活動がスタートしました。
設置するだけで気づきのきっかけに!
ーーRED BOX JAPANさんは、「学校に無料の生理用品を詰めた赤いボックスを提供する」活動をされていますね。生理用品を設置するにあたって課題はあるのでしょうか?
木戸)生理の貧困に関して、「貧困」という言葉が1人歩きしてしまい、自分には関係ないと考える人も多いです。RED BOX JAPANは、生理用品を学校や児童館に寄付することができる仕組みになっているので、「よかったら設置してください」というスタンスでお話するのですが、学校や児童館では「うちでは必要ない」という回答も多くあるのが現状です。それは貧困という言葉へのネガティブな価値観なのではないかなとも感じました。
ーー実際に設置すると、どのような効果があるのでしょうか?
渡邉)松本山雅では、実際に置くとなると活動に関する告知もあり、男性も含めて何かの気づきのきっかけになることがありました。
また、物理的にもちろん生理用品で助かる人の他にも、生理用品がある環境ということが女子にとっては本当に安心なんですよね。
木戸)まず置いてみて、何かみんなで感じていこうとか、相手を理解しようというところが一番大事なところなので、この活動ではそれを意識してます。気遣いのカタチは夫婦関係に似ているのかもしれませんね。「言ったことやってよ!」ではなくて、気づこうとしている思いやりが一番嬉しいです。(笑)
正しい知識で広がる支援
ーー「生理の貧困」についてお伺いしたいと思います。言葉からイメージされる経済的な面以外にも課題はあるのでしょうか?
渡邉)生理について正しい知識を持っていない方が多くいることも課題に感じています。
生理用品を買わない・買えないではなく、まず買おうという考えをもってもらわないといけません。生理は軽視していい問題ではありません。今後、妊娠・出産と進んでいく可能性もあるため、体を大事にしようとする意識が大切になります。
生理の体調の波というのは食事などの生活習慣で変えることもでき、そうしたことをまずは勉強してもらった方がいいと思い、木戸さんに研修についてご相談しました。
木戸)生理用品についての知識もより多くの方に知ってもらいたいと考えています。使い方だけではなく捨て方も大事で、実は生理用品のゴミってマイクロプラスチック問題で大きな環境破壊に繋がっているというデータも出ているんです。
ーーそうなんですね!女性の体だけの問題ではないと。
木戸)意外に思われるかもしれませんが、阪神大震災のときに欲しかったものとして、生理用品が多く挙げられたという話もあります。災害時に備えた地域のストックとしての生理用品が大事になるのですが、被災時には公衆トイレなどは衛生上良くないとか、紙ナプキンだと浸水する可能性があるのでタンポンの方がいいよ、など、この課題について考えるだけで多くの議論が生まれます。
今回の松本山雅さんでのスタジアム活用は、「地域」という目線でも大きな社会課題解決であるとRED BOX JAPANとしては捉えています。
渡邉)1回生理用品を置いてみて、話の中で出てくる発見もありました。「体は女性だけど心は男性の方、トイレはどっちに入るの?」「REDBOXをどこに置いたらいいの?」という話も出ています。そうした気づきや相互理解に向けて考えるきっかけになったというのが、実際に設置してからの効果として一番大きいのではないかと考えています。
ーー使用するかどうかではなく、置いてあるということが非常に大事なんですね。子どもを預ける場所がある安心感と似て、クラブとしてのセーフティーネットを作る活動になっていますね。
松本山雅だからできること
ーーREDBOX JAPANさんは学校を中心に活動されていた中で、今回はスポーツクラブとの活動になりました。スポーツクラブだからこそできたことはありますか?
木戸)学校の場合は「学生の安心」がREDBOXの設置の目的です。今後Jリーグのクラブチームは地域との繋がりが重要になると考えていたので、松本山雅の場合は、地域の課題をみんなで考えようという話を「生理」を通じてできたかなと思います。
松本山雅さんは、女性だけではなくて、障がい者の方なども含め、いいスタジアムにするためにダイバーシティについてすごく考えてるチームだと感じています。そもそもクラブとして、社会の課題を解決したり、いろんな人に安心して来てもらえるスタジアムとか地域をつくっていきたいという中で、特に男性が多いJリーグで「生理」の課題を取り上げることにも意味があるのかと思います。
ーーJクラブが、地域の課題にアプローチするということは、まさに「シャレン!」ですね。
渡邉)社会連携活動(シャレン!)は、私にとってはスタジアム外でやるイメージでを持っていましたが、今回はこうしてスタジアムでできる社会貢献活動で、かつ、集客にも結びつく活動ができました。実際、今回スタジアムでの活動で行ったことといえば、生理用品を「置いただけ」です。それでも意味があるものになることを感じましたし、こうした小さなことでもサッカークラブだからできる一歩があるのではないかと思っています。
ーーこの活動についての今後の展望はございますか?
渡邉)今回REDBOXの設置を行うに当たって、行政や学校だと、設置まであと一歩踏み出せないというお話も伺いました。私たち松本山雅がやることによって、「山雅がやったからできそうかな?」と周囲に思っていただけたら嬉しいです。トイレットペーパーのように、当たり前にトイレに生理用品がある状態を作れたらと思っています。
木戸)「生理の貧困って何をすればいいの?」ということを思われている方は多くいらっしゃいます。REDBOXの活動は、渡邉さん自身がやってみて実感されたと思うんですけど、本当に置いているだけです。
最初の一歩が重く感じると思いますが、こうしたアクションで少し相手のことを考える機会ができるだけでも、世の中変わるんだということが伝わっていけばいいなと思っています。
ーーホームタウン活動をしても集客に繋がらないと考える人もいると思いますが、安心・安全なスタジアム作りが、集客にも繋がってくるのかなと思いました。今回は貴重なお話ありがとうございました。