走る、歩く。
ただそれだけの体験が、遠く離れた子どもたちの未来に繋がったら。ちょっとワクワクしませんか?
途上国では、子どもたちが毎日6キロの道のりを水を汲み、運ぶために歩いています。その現実をリアルに体験できるのが、10月25日に東京・豊洲で開催される「GLOBAL 6K for WATER 2025」。楽しみながら体を動かすことで、同時に水衛生の課題解決を応援できるチャリティーイベントです。
本記事では、ケニアに常駐し水・衛生改善事業を行っている国際NGOワールド・ビジョン・ジャパンの遠藤拓海さん(以下、遠藤)に、イベントの魅力とそこに込められた想いを伺いました。

なぜケニアで支援が必要なのか?現地で見た水衛生の課題
ーーケニアに長期間滞在されていると伺いましたが、どのような事業をされているのですか?
遠藤)2023年3月から常駐しています。外務省の日本NGO連携無償資金協力の助成や日本の皆さまの寄付による、ケニア西部のビクトリア湖を水源とした水衛生事業に携わっています。ビクトリア湖は水量は豊富なのですが、家畜の糞尿が垂れ流しになっていたり、周辺の漁師が使うボートのガソリンなどが漏れていたりなど、水質にかなり問題があります。
飲み水としても使用するので、たとえ煮沸してもその水を飲むと体調を崩したり病気を患ったりと大変です。
ーー具体的にはどのような支援をされているのですか?
遠藤)ヤマハ発動機株式会社様のヤマハクリーンウォーターシステムという浄水システムを設置して飲料水を提供したり、衛生習慣を身につけてもらうためにトイレの設置を住民の方に促したりしています。ほかには、学校で水衛生クラブを立ち上げて、子どもたちに適切な衛生行動をとる大切さを教えたりもしています。
ーー飲み水を提供するだけでなく、教育的な活動もされているのですね。
遠藤)そうですね。実際にトイレを作ったり浄水システムを設置する支援自体は、資金があれば設置するだけなので難しくありません。ただ実際に現地に行くと、井戸が壊れたから使わない、トイレが溢れたから使わないというように、以前に導入したものが使われていない状況がたくさんあります。
飲み水やトイレに重要性を感じていれば現地の人たちが自分たちで直したりするはずなのですが、その価値観が変わっていないので行動が変わらないんですね。支援事業の本質や根幹としては、浄水器やトイレの設置などハード面の整備以上に、教育活動のようなソフト面の方が重要だと感じています。水衛生問題の重要性を理解してもらい現地で完結するような仕組みをつくることが大切です。

ただ支援するだけじゃ終わらせない、「自立する仕組み」づくり
ーー“現地で完結する仕組みづくり”とは、どのようなことを指すのでしょうか?
遠藤)たとえば、クリーンウォーターシステムで浄水した水も無料で配っているわけではありません。現地の人たちに水管理委員会というコミュニティを立ち上げていただいて、浄水した水を販売していただいています。20リットルを日本円で5~6円くらい(5ケニアシリング)で販売するようにしていて、売上を管理費として積み上げていき、浄水システムが故障したときなどは修繕費として使っています。
このように、やがては支援に依存しない形で、現地だけでシステムが回ることを意識して活動しています。
ーー壊れてしまったら終わりではなく、使い続けられるような仕組みを整えている。
遠藤)もともとケニア政府には水を管理する省があります。ですので、この事業で立ち上げた水管理委員会も政府のシステムに登録しており、事業終了後はケニア政府の監督の下で持続的に浄水システムの管理が行われていくことを目指しています。
ワールド・ビジョンが主導で立ち上げた現地の水管理委員会だけで管理するというよりは、ケニアの国のシステムにうまく連携できる形にもっていく感じですね。まったくのゼロから管理システムをつくるということではありません。
ーー支援するだけで終わらないように、その先のことも意識されているんですね。
遠藤)そうですね。やはり我々NGOのような支援団体は、いつまでも支援地にいられるわけではありません。支援事業を始める段階で、出口戦略を持って取り組まなくてはいけないと思います。現地では今後も人々が生活を続けていくので、その地域の人たちが自立するために我々はあくまでも補助的な立ち位置にいます。

国際支援の志は「リアルな体験」から始まる
ーーこれまでは事業について伺ってきましたが、遠藤さんご自身についても教えてください。
遠藤)私の叔父はイギリス人で英語しか話せません。だから子どもの頃から、家族なのに日本語で会話できない人がいるのが変だなという感覚がありました。それが語学や外国に興味を持つようになったきっかけだと思います。
中学時代には、母親から半ば強制的に交換留学生としてオーストラリアに10日間のホームステイに行かされたのですが、現地の5歳くらいの女の子が英語を普通に話していて。これまで英語は勉強の科目の1つと思っていたのでそのことがとても衝撃的で、さらに日本の外側にある世界に興味を持つようになりました。
ーーその頃から国際的な環境問題や支援活動にも興味があったのですか?
遠藤)大学進学までは国際問題への関心はそれほど高くはなく、「何となく国際かな」というくらいの気持ちで青山学院大学の国際政治経済学部に進学しました。進学してから授業を受ける中で国際政治に興味を持ち、紛争解決や国際安全保障を扱うゼミに所属しました。
とくに大学2年生の時に、コソボの人道支援へインターンシップとして参加したことは自分にとっては大きな出来事です。紛争から10年以上が経ち、国際的な支援が撤退していく一方で、残された国内避難民の方に物資を提供したり子どもたち向けに日本の文化を紹介するイベントなどを開催したりする中で、戦争の影響を受けた人たちのために自分が力になれることに取り組みたいと強く思い始めました。
実際に紛争が起きた場所では、銃撃の跡が残った無惨な壁や、蜂の巣状になってしまった家屋もたくさん残っていました。そのような状況を実際に見てリアルに感じたことが、私の気持ちに大きな変化を及ぼしたんだと思います。

ーー大学での学びだけでなく、現地でのリアルな体験が大きな心境の変化に繋がったのですね。
遠藤)そうですね。どれだけ机上で勉強していたとしても、実際に体験することで気づくことはとても多いと思います。その後、ゼミの先生の勧めでイギリスの大学院であるキングス・カレッジ・ロンドンの戦争学部に進学してさらに紛争地での人道支援について学び、国際協力関係の組織で働くことを将来的に考えながら在ノルウェー日本国大使館でも働いていました。
先進国の大使館で行う国際協力関係の仕事は、各国からの支援金の調整や政策的なことなど、どちらかというと“川上”の仕事が多いんです。もちろん、そういうことが分かっていないと取り組めないこともあるのですが、2年間働いたので次は現場に出て支援を受ける人たちの顔が見える“川下”の仕事をしたいと思うようになりました。
ーー数あるNGOの中でどうしてワールド・ビジョン・ジャパンを選ばれたのですか?
遠藤)私は命の危険がある人たちが、最初に手を差し伸べられるべきだろうと考えています。だから、何かの地域や支援分野の専門性に特化したNGOよりも、本当に最も困っている人たちに手を差し伸べられる選択肢が多い組織で働きたいと思っています。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、貧困、教育、水衛生、栄養など本当に幅広い分野を支援している国際NGOで各国とのネットワークも広いので、私がやりたいことに取り組めると感じたことが選んだ理由です。
ーーありがとうございます。遠藤さんが国際支援に興味を抱くようになった大きなきっかけとして、ご自身の「リアルな体験」があることがわかりました。
6キロの歩みが命をつなぐ『GLOBAL 6K for WATER 2025』
ーー10月に東京で開催される体験型チャリティーイベント『GLOBAL 6K for WATER 2025』について教えてください。
遠藤)途上国の子どもたちは、水を汲むために1日あたり平均6キロ歩きます。ただ歩くだけではありません。重い水を運びながら歩くのです。詳しくはイベントページがありますので、ぜひこちらを見ていただければと思います。
遠藤)今回は東京・豊洲の舗装された道路で開催されますが、実際にケニアなどの水問題が深刻な地域では、道は岩だらけで毒蛇に噛まれる危険や象などの野生動物に遭遇することもあり、非常に過酷です。日本で暮らしていると、6キロも水を運ぶことや水の重さを体感する機会はほとんどありません。ぜひ命の水の重さや尊さ、現地の水問題を“体感”するきっかけになればと考えています。
ーー実際に体感すると、「自分ごと」になるので気づくことも多くありそうです。
遠藤)イベントへの参加は関心を持つための一歩だと思います。とくに国際問題に関心のある学生は、海外の問題を自分ごととして捉えたいと思う人が多いと思いますが、私は最初から自分ごと化を求める必要はないと考えています。
アフリカの知らない子どもたちのことを、自分ごととして考え続けるのは難しいですし、誰もがそこまで関わる時間や余裕があるわけではありません。だからこそ最初のきっかけは、もっと軽い気持ちで良いと思うんです。例えば「気持ちよく走ろう」「筋トレの延長で水を持ってみよう」など、そのような気持ちでも良いのです。今回のようなスポーツイベントは、参加しやすいハードルの低い入り口になっていると思います。
ーースポーツを介すると社会貢献への取り組みもハードルが低くなり、楽しみながら参加できるようになりそうですね。
遠藤)実際に水の重さや距離を体感すると、その後に水問題について自然と関心が向いてきます。ニュースやネットで流れていく情報も、体験をすることでアンテナが立ち、意識する情報も変わると思います。
水を持って6キロ歩いた経験がある人は、今後の人生で水問題に目が向く確率が高まるでしょう。そういった方々が将来、水問題に一緒に取り組む大きな仲間になってくれたら嬉しいです。

ーーイベントの参加費は実際どのようなことに使われるのですか?
遠藤)たとえば、冒頭にお話した今回私が担当しているケニアの水事業も、このイベント参加費から支援をいただく予定です。具体的には、水浄化施設の設置やトイレの設置、コミュニティでの教育活動に充てられます。
ーー文化として支援や寄付に慣れていない日本人でも、ほんの少しだけの想いがあれば気軽に参加できるイベントですね。最後に、このイベントに期待していることを教えてください。
遠藤)水は緊急性が高く、3日間水がなければ命に関わります。汚れた水を飲むと下痢症やコレラなどの病気になり、かえって脱水症状を悪化させることもあります。一方で、水問題が解決されることで、子どもたち・人々の健康が向上し、水汲みに充てられていた時間を教育や経済活動などに使えるようになることで、未来につながる大きなインパクトが生まれます。まさに命の水です。今回のイベントを通じて多くの人に水問題の存在や自分にできることを知ってもらいたいです。
そのための一歩として、10月25日に東京で開催される「GLOBAL 6K for WATER 2025」では、300人の参加者を目指しています。今回参加した皆さんが「GLOBAL 6K for WATER」のアンバサダーとなり、SNSなどで投稿してくれたり、いいねボタンを押してくださったり、リポストしていただくだけでも、大きな広がりを生みイベントがさらに盛り上がっていくと思います。
ぜひ、「少し運動してみようかな」というくらいの気持ちで十分ですので、気軽に参加していただけると嬉しいです。
ーー10月25日、東京・豊洲で300人の仲間と一緒に歩いたり走ったりするこの体験は、きっとあなたの心に残る1日になるはずです。ぜひ、友人や家族と気軽に参加してみてください。あなたのその行動が、子どもたちの明日を変える一歩に繋がります。




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