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金融機関×スポーツで描く地域の未来|富士山1周サイクリングが生み出す、人とまちの誇りとつながり

RSJ

日本の象徴である富士山のまわりを1周する大規模サイクリングイベント『スルガ銀行presents富士山1周サイクリング2025』(通称、富士いち)。このイベントを支えるのは、主催のルーツ・スポーツ・ジャパン(RSJ)と特別協賛のスルガ銀行です。金融機関がなぜサイクリングイベントに深く関わるのか?そこには、スポーツを通じた地域活性化への強い想いがありました。
ルーツ・スポーツ・ジャパンとスルガ銀行の担当者それぞれに、「富士いち」やサイクリングへの想いや期待について聞きました。

インタビュー対象

  • 金子知恵子さん(スルガ銀行 ソリューション推進本部 地域創生室長)
  • 藤井優馬さん(スルガ銀行 ソリューション推進本部 地域創生 マネージャー)
  • 中島祥元さん(一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン 代表理事)
  • 栗原佑介さん(一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン 理事)
RSJ(写真左から)ルーツ・スポーツ・ジャパン 中島さん、スルガ銀行 金子さん、スルガ銀行 藤井さん、ルーツ・スポーツ・ジャパン 栗原さん

金融機関が挑む地域創生「サイクリングで地域を元気に」

ーーサイクリングに携わるというのは、金融機関としては珍しい取り組みかと思います。スルガ銀行はどのような想いで活動を始められたのでしょうか?

スルガ銀行 金子)スルガ銀行は1895年に設立され、沼津に本店をかまえています。静岡東部と神奈川西部地域を地元エリアとして、約100店舗を展開しており、この地域を活性化していくことが我々の重要な使命だと考えています。

2011年からはサイクリングを通じて皆さまを応援するさまざまな取り組みを行っています。当初は、ロードバイクローンをサイクリストの皆さま向けに提供するためのPR活動として始めました。現在は、サイクリングを活用した地元の観光情報の発信など、地域活性化を軸とした幅広い活動を展開しています。その根底にあるのは、サイクリングで地域を元気にしたいという想いです。
2025年4月には地域創生室を設立し、サイクリング関連の取り組みの主軸部署として、より活動範囲を拡大しています。

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ーー具体的にはどのような取り組みをされているのですか?

金子)特徴的な取り組みとして、「サイクルステーション」を御殿場・沼津・伊豆・湯河原の4か所に設置しています。それぞれスルガ銀行の店舗の近くにサイクルピットやシャワールームを備え、サイクリングイベントの開催中は、サイクリストの方々に快適にお使いいただいています。静岡東部地域を周遊できるよう配置しており、これらを拠点としてさまざまなイベントを開催しています。

サイクルステーションの設置やイベント開催を続けていく中で、自治体の皆様からもお声をかけていただくようになりました。「サイクリングイベントを開催したいが、スルガ銀行さんはすでに開催実績があるので、ノウハウを教えてほしい」といったご相談をいただき、徐々に活動の軸足が地域の観光支援や地域活性化へと移ってきたのです。

ーーサイクリングプロジェクトについて、地域からの反応はいかがですか?

スルガ銀行 藤井)非常に良好な反応をいただいています。各市町を回る際も、自治体職員の方から「このイベント、申し込みました」「今年も開催されるんですね、楽しみです」といった声をいただきます。ポスターやチラシの配布も積極的にご協力いただいており、ネガティブな反応をいただいた記憶はありません。とくに「富士いち」については、完全に地域に根付いており、名前を聞けば皆さんご存知という状況です。

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富士山を舞台に地域とサイクリストをつなぐ

ーー「富士山1周サイクリング」について教えてください。今年の特徴的な変化はありますか?

RSJ 中島)富士山1周サイクリングは、静岡県と山梨県にまたがる約120kmのコースを1,000人規模のサイクリストが走るイベントです。2025年の大きな変化として、スタート地点が静岡と山梨の2拠点になりました。スルガ銀行さんのスペシャルサポートがあったからこそ実現することができた、初めての試みです。

RSJ 栗原)2拠点スタートをすることにより、同じコースでも通る時間帯やタイミングによって景色の見え方が異なり、より多くの参加者に、より多様な体験を提供できるようになります。サイクリストに水分や食事を提供する「エイドステーション」での提供物もタイミングによって変わってくるので、スタート地点が異なる参加者に対していかに適したものを提供できるのか、人員も含めてバランスを取っていくことが2025年の大きな挑戦です。

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ーールーツ・スポーツ・ジャパンは全国でサイクルツーリズムを展開されていますが、どのような理念で活動されているのでしょうか?

中島)当社は「スポーツで地域に人を動かし、地域活性化を図る」という理念のもと、サイクルツーリズムを全国で展開しています。大切にしているのは2つの軸です。
1つ目は、サイクリストの皆さまにその土地でしかできない風景や体験を提供し、その土地ならではの体験価値を味わっていただくこと。2つ目は、開催地域において外部からの誘客や交流人口の拡大を図り、サイクリストと地域の方々の交流を通じて経済活動を生み出し、相互理解を深めることです。

ーーその中で、「富士山1周サイクリング」はどのような位置づけにあるのですか?

中島)このイベントは、当社が2009年の創業時から関わり続けてきた特別な事業です。2016年からは当社の主催事業となり、2025年で10年目を迎えます。日本の象徴である「富士山」をコンセプトとしたイベントということで、大切にしている事業の一つです。

ーー長年現場を支えてこられた栗原さんから見て、地域との関係はどのように変化してきましたか?

栗原)初期の頃と比べると、地域との関係は劇的に変わりました。当社が主催になる以前は、エイドステーションに市販のバナナを提供するなど、地域色のない形で開催していました。しかし、年を経るごとに地域の皆さまとのつながりと信頼関係が深まり、現在では各エイドステーションで地域の名物を提供できるようになっています。

たとえば、山梨のブルーベリー農家さんのお宅を訪問して協力をお願いしました。参加者からも「ブルーベリーが美味しかった。どこで買えますか?」といった声をいただき、イベントが生産者と消費者をつなぐ架け橋の役割も果たしているなと感じています。
回を重ねるごとに「一緒に盛り上げよう」という機運が高まり、本当に地域に受け入れられていることを実感していますね。

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同じ想いを持つ“仲間”として、それぞれの強みを活かし連携する

ーースルガ銀行とルーツ・スポーツ・ジャパンの関係はいつから始まったのでしょうか?2025年の「富士いち」では、特別協賛へと関係を深められていますが、その背景も教えてください。

中島)互いに静岡・神奈川エリアでサイクリングの取り組みをしていた中で、2018年に業務提携という形でお付き合いが始まりました。
サイクリングイベントの魅力の一つは、地域を横断的につなげることができる点にあります。たとえば「富士いち」では2県10市町村が参加する大規模な広域連携が必要となります。これはスタジアムスポーツなどでは実現できない取り組みですし、このような広域連携をさらに進めていく上で、地元に根付いた活動をされているスルガ銀行さんの存在は非常に大きいです。

金子)2025年の富士いちで特別協賛をさせていただいた背景には、RSJさんが長年培ってこられた知見と、スルガ銀行が持つ地域での知見を共有し、より良いものをつくり上げたいという想いがあります。
とくに、RSJさんが語られる「富士山をサイクリングの聖地として地域を活性化したい」という熱い想いに深く感銘を受けました。これはスルガ銀行の地域創生への想いと一致するものだったため、同じ想いを持つ“仲間”として、一緒に活動していきたいと考えました。

ーーこの連携における両社それぞれの強みはどこにあるのでしょうか?

藤井)RSJさんに、質問や相談をすると、即座に的確な回答をいただけます。また、発着点の駐車場の状況といった、参加者から質問されやすい点をはじめ、イベント運営に関連する情報を細部まで熟知されており、非常に心強い存在です。

金子)長年にわたって培ってこられた豊富な知見を活かし、運営能力はもちろん、企画力や営業力も飛び抜けていると感じます。

中島)スルガ銀行さんは、サイクリングプロジェクトに対して熱い想いを持っており、腰を据えて長期的に取り組む姿勢が素晴らしいと思っています。富士いちの特別協賛も、単年ではなく複数年を見据えていらっしゃり、長期視点で地域貢献や地域活性化を考えていることが伝わってきます。

サイクリングを通した交流が“日常”になる未来へ

ーー今後、「富士いち」やサイクリングプロジェクト全体をどのように発展させていきたいとお考えですか?

金子)RSJさんとの協力関係を継続し、「富士いち」をより地域に根ざした持続的なイベントに育てていきたいです。サイクリングを通じて地域の皆様が「このまちは本当に素晴らしいな」と誇りに思えるような、活気あふれる地域づくりに貢献していければ幸いです。

藤井)静岡・山梨両県が中心となりナショナルサイクルルート認定(※)を取得し、国内外へのPR活動につなげていく構想もあります。「ナショナルサイクルルート」とは、国が「世界に誇るべきサイクリングコース」として認める制度で、実現すれば富士山周辺のブランド価値がさらに向上し、国内外からの参加者増加が期待されます。国内だけでなく、海外からの参加者も増えて、富士山周辺の静岡県、山梨県全体の活性化につながることを期待しています。

※※2025年8月現在全国で6つのルートのみ認定されている。

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栗原)私が最も大切にしたいのは、参加者と地域の皆様の直接的な交流です。これからも、自然な交流が生まれる環境を創り出していきたいと思います。

中島)私たちがサイクルツーリズムを通して目指しているのは、一時的なイベント効果のみにとどまらない、持続的な地域活性化です。「富士いち」という大規模イベントをフラッグシップとして、富士山1周がサイクリングの聖地として認識され、サイクリストが継続的に訪れ、地域の皆さまも歓迎してくださる。そうした良い関係性が“日常”になるような未来を目指しています。
サイクリストの皆さまには富士山1周という素晴らしいコースをより深く愛していただき、地域の皆様にはサイクリストを温かく迎えていただけるような関係や環境を、引き続き整えていきます。ゆくゆくは海外からの参加者も多数お迎えし、日本を代表するサイクリングイベントに成長させることが目標です。

ーー金融機関とスポーツイベント運営企業が連携することで、持続可能な地域活性化を目指している素晴らしい事例ですね。新たな地域活性化のモデルケースにもなりそうです。ありがとうございました。

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