「新しい女子アスリート像を示したい」
そう語るのは、ハンドボール・デレフォーレ岡山で選手兼チームの顔として活動する角南果帆選手です(以下、角南)。一度は現役を引退し、ハンドボールから離れたものの、「やっぱりハンドボールがしたい」という想いが募り、地元岡山に新設されたチームの立ち上げに携わることを決意。選手としてプレーするだけでなく、講演や地域活動を通して、ハンドボールの魅力や女子アスリートとしての新たな生き方を発信しています。
インタビューでは、引退を決めた当時の葛藤や、デレフォーレ岡山が目指す未来、そして競技人生の中で培った価値観やこれからの挑戦について、率直な言葉で語ってくれました。

引退からの復帰|地元で見つけた新たな挑戦
ーー2025年3月に新チームとして始動した女子ハンドボールチーム『デレフォーレ岡山』。何を目指してスタートしたチームなのでしょうか?
角南)2027年に、ハンドボールの日本最高峰のリーグである『リーグH』に参入することを目標にスタートしました。クラブチームとして試合で実績を積むとともに、地域に根差したチームとして活動をしていこうと考えています。
ーー東京オリンピックにも出場し、一度は引退されていますが、そこから新チームの立ち上げまでどのような経緯があったのでしょうか?
角南)2023年3月に現役を引退したときには、怪我が多かったこともあり自分の中で「やりきった」と思っての決断でした。現役中には、セカンドキャリアはハンドボールとは違う世界で生きていくのかなと思っていたのですが、いざ競技から離れて時間をかけて自分は何がしたいのか、何が必要なのかと考えてみると、「やっぱりハンドボールがしたい」という気持ちが残っていました。そんなときに、地元・岡山県でチームが設立されるというお話しを伺い、タイミングも良く、迷わずこのチームの立ち上げに関わることを決めました。

多様な仲間とともに目指す、地域に根ざしたチーム
ーー実際にチームが始動していかがですか?
角南)まだまだ試行錯誤の段階です。これまで経験してきた実業団やクラブチームは、日本一を目指して高いレベルの選手や環境が整ったチームでした。今のチームは、仕事との両立など大変な面もありますが、最終的に目指すのはやはり日本一です。そのため、いずれは高い要求もしていかなければならないと感じています。ですが、今すぐにそうしたものを求めるよりも、今いるメンバーの特徴や状況に合わせてコミュニケーションをとり、“デレフォーレ岡山がどんなチームになっていくのか?”というところを大事にしながら一歩ずつ着実に成長していると感じています。
ーー今のメンバーにはどのような方が多いのでしょうか?
角南)ハンドボールに対する想い、意欲が強いメンバーが集まっていると感じています。高校や大学まででプレーを引退していた選手がほとんどで、ママさんプレイヤーも3人います。消防士や会社員などの仕事をしながらのメンバーや、看護学生のメンバーなど、背景はさまざまですし、プレーとの両立も大変だと思うのですが、全員が「もう一度競技者として挑戦したい」と口を揃えます。そうしたプレイヤーがいるからこそ、デレフォーレ岡山は“新しい女子アスリート像”を示せるはずです。応援してくれる方々にも「チャレンジすることの大切さ」を感じていただける、可能性に満ちたチームになりたいと思います。
セカンドキャリアとハンドボールの両立で広がる可能性
ーーいろいろな背景を持つ選手がいるからこそ、多様な魅力を持つチームに成長していきそうですね。
角南)まだ立ち上がったばかりのチームなので、私たちも含めて「どうなっていくのかな?」と楽しみにしている部分もあります。私自身、一度現役を引退したときに「社会に出て自分にできることって何もないな」ということも感じていました。ハンドボールを辞めたら何も残っていない状態ではなくて、私自身も、競技だけでなく仕事のスキルも磨ける仕組みを作っていきたいと考えています。
上位のチームでは、ハンドボールにできるだけ集中できる環境が整い始めている中で、仕事のスキルも高められる選択肢があるんだよということを伝えていけるようなチームになったら魅力的だと思います。
これからプロリーグを目指していく中で、もしかしたらさまざまなハードルも出てくるかもしれませんが、それを「デレフォーレ岡山はどう乗り越えていくのか?」と私自身や選手たちも手探りで、楽しみながら未来を見据えているのが現状ですね。
ーー今を考えたときに、現役中もっとこうしておけばと思うことはありますか?
角南)現役時代には、プレーだけでなく例えば資格取得や語学の勉強など、できる時間は絶対にあったと思います。それを「引退してから考えて、次に進めばいいや」と考えていたことには少し後悔があります。もちろんプレーのことだけを考えてやってこれたからこそのキャリアではあったと思うのですが、時間の使い方やセカンドキャリアについても、選択肢の中から考えた上で決断できていればよかったなと思っています。
ーーデレフォーレ岡山での活動が始まって、角南さん自身の中で変わったなと思う部分はありますか?
角南)ハンドボールを通して、“根性”は鍛えられましたし、ずっと「勝つためにどうすればいいか?」と自分でも考え、まわりともそうしたコミュニケーションを取ってきました。それは私にとって強みの部分でもあると思うのですが、地元岡山の企業である菅公学生服の尾崎社長から、「自分の考えていることや思っていることを正しく言語化しなさい」と言われたときにハッとさせられました。

地域の人々にとっての「身近な憧れ」を目指して
ーーデレフォーレ岡山は、この地域に取ってどのような存在になっていきたいと思っていますか?
角南)仕事をしながら、お母さんをしながら競技をしている選手もいることで、子どもたちや地域の皆さんにとって“身近な憧れの存在”になりたいと思っています。身近に感じることで、どの世代にとっても「挑戦してみよう」や「健康を意識してみよう」などの勇気やパワーを与えられる“きっかけになること”ができると思います。
私たちが目指しているのは、ジェンダーや年齢に関係なく、誰もが前向きにチャレンジできるチームであること。そして、その姿を通して、多くの方の笑顔につながる存在になれたらと思っています。
また、ハンドボールには“自由な選手交代”が可能で、試合中でも何度でも交代できるという特徴があります。つまり、誰にでも、いつでもチャンスがある競技です。ただしその分、自分でタイミングを見極め、判断し、決断する力も求められます。そうした経験は、競技者としてだけでなく、社会人としても大きな成長につながると感じています。
だからこそ、私たちはこのハンドボールというスポーツを通して、「挑戦をあきらめなくていい」というメッセージを、プレーだけでなく、日々の活動や発信を通じて伝えていきたいと思っています。今のチーム立ち上げの勢いを活かして、地域貢献に対してもさまざまなことにチャレンジしていきたいですね!
ーーありがとうございました!





