高校球児の憧れの舞台“甲子園”。日本の多くのプロ野球選手・メジャーリーガーが甲子園から誕生しました。
「アフリカの子どもたちにも甲子園のような憧れの舞台をーー。」
一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)の代表理事友成晋也(以下、友成)さんは、野球の普及があまり進んでいなかったアフリカの地で、『アフリカ55甲子園プロジェクト』を立ち上げました。元メジャーリーガーの松井秀喜さんもエグゼクティブ・ドリームパートナーとして活動を支援されています。
友成さんが大切にされていることは、野球の競技力向上ではなく、『教育』のために野球を広めていくことです。
なぜアフリカなのか、なぜ野球なのか。そこに懸ける想いを伺いました。
友成晋也さんプロフィール
民間企業を経て、1992年にJICAに入職。その後、ガーナナショナル野球チーム監督、タンザニアナショナル野球チームの監督、南スーダン青少年少女野球団の監督などを歴任。2019年に一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)の代表理事に就任し、現在に至る。
1人でも多くバッターボックスに立たせたい
ーーまず、ガーナのナショナル野球チームに関わるようになったきっかけを教えてください。
友成)JICAの職員としてガーナに赴任した際に、ガーナのナショナルチームとJICA関係者をはじめとした在留邦人のチームで野球の試合をしました。当時のナショナルチームは、ナショナルチームとは呼べない素人同然のチームでした。そのため、大学まで野球をやっていた私のプレーを見て、ガーナの選手やチームのオーナーは驚き、彼らが私にナショナルチームの監督になることを依頼してきたことがきっかけです。
そこから、オリンピックの予選を経験するなど、約3年間ガーナのナショナルチームの監督を務めることになりました。
ーーナショナルチームの監督後もガーナで普及活動を続けられていましたが、何かきっかけがあったのですか?
友成)ナショナルチームの指導をしている際に、所属する私の教え子たちを学校に派遣して、子どもたちに野球を教えていました。そうした努力が実り、私がガーナから日本へ帰国する前日にガーナ史上初の少年野球大会が開かれることになりました。私は、ナショナルチームの監督として始球式に招待されました。そこで出会った一人の野球少年との会話がきっかけです。
ーー友成さんを動かした少年との会話。具体的に教えていただけますか?
友成)その子に「なぜ野球が好きなの?」という質問をしました。すると、その子は「バッターボックスが好きなんだ」と答えました。
「バッターボックスに立つと、みんなが応援してくれる。打っても、打たなくてもみんな平等に打席が回ってくる。野球は“民主主義的”なスポーツだから好きなんだ。」
この答えに私はとても驚かされました。野球は貧乏だろうが裕福だろうが、平等にチャンスが与えられる(打席が回ってくる)“民主主義的なスポーツ”なのです。このことに気づいてから私は、「一人でも多くの人をバッターボックスに立たせたい」と思うようになりました。そこから、NPO法人を立ち上げるなど、アフリカでの野球の普及活動に力を入れるようになりました。
ーー野球が“民主主義的なスポーツ”だなんて考えたこともありませんでした。
そこから、アフリカで野球の普及活動をしていく中で、なぜ『甲子園プロジェクト』だったのでしょうか?
友成)「どうすれば、ガーナ、そしてアフリカで野球を広めていくことが出来るか」を考えたときに、私もそうですが、日本の場合だと“甲子園”というあこがれの舞台が明確にありました。このあこがれが大きなエネルギーになって野球に打ち込む子どもはたくさんいます。さらに、甲子園大会は、地元の代表として出場するので、地域との一体感も生まれます。こうした点から、まずはガーナにも甲子園のようなものが必要だと思い、『ガーナ甲子園プロジェクト』を立ち上げました。ガーナから、タンザニアを経て、現在J-ABSの活動の中心になっている『アフリカ55甲子園プロジェクト』へと広がりました。
ーー『ガーナ甲子園プロジェクト』を実施したことで何か変化はありましたか?
友成)野球人口が増えたことはもちろんですが、野球チームがある学校の校長先生に「野球をしている子は成績が上がった」や「クラスの中で規範的な人材に成長した」というお話を伺いました。野球をすることで、人としても成長をしていました。
ーーただスポーツとして野球を広めるだけではない価値をガーナの方々も感じていたのですね!
野球を通じて、『Discipline(規律)』『Respect(尊重)』『Justice(正義)』を
ーーガーナで甲子園プロジェクトを立ち上げたのち、タンザニアでも普及活動をされています。ガーナのときからの変化はありましたか?
友成)タンザニアでは、「野球というスポーツをしましょう。」という押し売りでは無く、ガーナでの学びを活かして『教育』をテーマに普及活動を進めていきました。アフリカでは、往々にして『Discipline(規律)』『Respect(尊重)』『Justice(正義)』の3つの価値が大切にされています。学校に行けば、そこら中に張り紙がされているほどです。この3つの価値観を醸成することが出来るスポーツとして野球を紹介していきました。
ーー相手のニーズに合わせる形で普及活動を進めたのですね。その後、タンザニアの子どもたちに変化はありましたか?
友成)『試合の前後にきちんと礼をする』や『キャッチボールの時には二列に並ぶ』など、相手をリスペクトすることや規律を大切にする日本の野球文化が受け継がれています。
さらに、タンザニアで野球をやっている子ども達に、「野球をやっていると何が学べるの?」と聞くと、子どもたちが、『Discipline(規律)』『Respect(尊重)』『Justice(正義)』の3つを 答えてくれました。これを聞いたときに、アフリカ開発の“ニーズ”に合った、野球を通じた“人づくり教育”が浸透してきた実感がありました。
アフリカから見る日本の野球
ーーアフリカで野球の普及活動をしてきた友成さんだからこそ感じる、日本の野球人に伝えたいことなどはありますか?
友成)日本では、生まれた時から野球が当たり前のようにあります。当たり前にあるからこそ、気づけていないことがたくさんあります。私は、アフリカでそうした暗黙知を形式知化して伝えてきました。そうすることで、野球の本質を子どもたちに伝えることができ、それが『教育』につながっていると思います。
ーーなるほど。「カバーリング」など、野球をしっかりと知らないとできないようなプレーもあります。こうしたことにもプレーの理由があるのでしょうか?
友成)そうですね。日本だとカバーに走ることは、ミスをすることを想定してそれ以上深く考えたりしないと思います。しかし、アフリカの子どもたちには、「カバーリングは、プレーする人に、ミスしても俺たちがカバーするから恐れずに全力でプレーしろ、というメッセージなんだよ。」と伝えています。子どもたちは目的を理解したうえで、全力でカバーリングをするようになります。このことから、目的のために全員で行動する“公共性”も学んでいきます。
このように、野球(スポーツ)の価値を分解して、伝えていく。これがスポーツ普及において大切なことですし、教育につながるということなのだと思います。
ーー最後に、今後はどのような活動をしていく予定ですか?
友成)今後は、松井秀喜さんに務めていただいているドリームパートナーの輪をどんどん広げていきたいと思っています。そして、ナイジェリアやケニアなどのこれまで活動をしていなかった地域でも“野球を通じた人づくり教育”を広げていきたいと思っています。
ーーありがとうございました!