“共生社会”を目指し、取り組みを進める川崎フロンターレ。日本初の感覚過敏を抱えるファンに配慮した観客席「センサリールーム」など、先進的な取り組みが特徴的です。
川崎フロンターレ・タウンコミュニケーション部の田代楽さん(以下:田代)、三浦拓真さん(以下:三浦)に話を伺うと、「継続」というキーワードが見えてきました。
誰もが、“する・見る・支える”ことができるように
ーー「ユニバーサルツーリズム」は、どのような流れで始まったのですか?
三浦)2017年に川崎市で「心のバリアフリー・シンポジウム」が開催され、参加していた株式会社JTB様、全日本空輸株式会社(ANA)様、富士通株式会社様と共に「発達障がいの子たちを社会に取り残さないために何かできないだろうか」と動き始めたのが第一歩です。
クラブとして、障がいの有無、もちろん性別にも関係なく、誰もがサッカーを「する・見る・支える」ことができるようにという想いを持っており、この企画にお声掛けいただき、活動に参画しました。
「ユニバーサルツーリズム」はクラブとして、2019年7月、同10月、そして2020年11月の計3回実施しました。
ーー川崎フロンターレで始まった取り組みが広がっていますね。
三浦)我々は川崎フロンターレというJクラブですので、“ホームタウン・川崎市の子どもや家族”に軸足を置いています。ですが、発達障がいの子どもは川崎市だけでなく全国にいるわけで、こうした取り組みが広がってほしいという気持ちは常に抱えています。
サンフレッチェ広島では、新しいサッカースタジアム(2024年に完成予定)で、センサリールームを常設することを目指しているということなので、そういった他クラブへの広がりは良いことだと思っています。
ーー「ユニバーサルツーリズム」では、さまざまな人の協力が必要だったと思います。取り組みの大変だった点や良かった点はどういったところですか?
三浦)“想い”が先行で、各社ボランティア精神を持っての取り組みだったため、“見えない負担”はあったと思います。
ですが、飛行機の支援などをしていただいたANAさん、ツアーの中身を組んでいただいたJTBさん、テクノロジーで子供の気持ちを表現していただいた富士通さんなどと協力できたことによって、それぞれの強みを生かした、1社ではできないような「良いもの」が生み出されたと感じています。
根付かせていくには「継続」
ーー「0から1」の取り組みには、難しさがあると思いますが、それでも取り組むに至ったことへの原動力はどういったところにありますか?
三浦)フロンターレ自体、「0から1」が好きなクラブですし、さまざまな取り組みを「0から1」で作り上げているので、そこに対して社内での抵抗はありませんでした。
こういった活動は、“発信しなければ意味がない”と考えています。活動に対して評価をいただくことができるのは、取り組みを発信し、それを川崎市民・サポーターの方々、全国の方々に知っていただいているからだと思っています。もちろん大変でしたが、目的や想いをブラさず、発信することで子供達のことを知ってもらうことも大切だと考えて工夫して取り組んでいました。
ーー社会貢献の面では特に、どういったことを意識されていますか?
三浦)「川崎市民を豊かに」という同じ想いを持っている点では、フロンターレも川崎市も、やろうとしていることのスタンスはあまり変わりません。さまざまなコミュニティや、手段を持っている行政と一緒にやっていくことで、いろいろなことができているのかなと思います。
田代)川崎市の南部・川崎区に「富士通スタジアム川崎」というアメリカンフットボールの拠点となる球技場があり、フロンターレは指定管理者です。ここでは障がい者スポーツを積極的に呼び込んだり、インクルーシブスポーツ催事の開催をしています。特に障がい者サッカー連盟に所属している7団体中5団体の利用実績があり、すべての人に開かれた施設であることを意識して運営しています。Jリーグのホームゲームは年20回ほどしかありませんが、拠点は365日稼動することができるため、皆さんにとって身近な存在になり、フットボールをより楽しむことができるのかなと思います。
ーー社会貢献活動を継続的にやっていくために、どういったことを意識されていますか?
三浦)社会貢献活動に成績の良し悪しは関係ありません。J2にいた時期から継続的に取り組んできたことが、今の活動の根底にあります。
0から1にしたことを、10にでも100にでもしていくという「継続」が、サポーター・川崎市民に根付かせるという意味でも大切なことだと思っています。
常に目的を考え、アップデートする
ーー成績があまり良くない時期から継続できたことには、なにか理由があるのでしょうか?
三浦)プロスポーツチームが根付かなかった川崎市という街に、どうすればフロンターレが根付くのかを考え、「地域貢献」という点をキーワードにさまざまなことを進めていったのがきっかけだと思っています。
特に中村憲剛さんのような長年在籍している選手を中心に社会貢献活動に取り組んでいることで、途中から入った選手やスタッフにも、そうした姿勢が受け継がれているのではないでしょうか。
ーーこれからの社会貢献活動について、どのような考え方を持たれていますか?
田代)誰でもフロンターレを楽しめるようにすること、川崎を盛り上げることを軸として、いま取り組んでいるものを少しずつアップデートしていくことが大切だと思っています。
今回の「えがお共創プロジェクト」がいい例ですが、さまざまな企業さまと協力することで、社会に対して大きな提案ができるのだと思います。“自分たちのリソースでは何ができるのか”と考えているさまざまな企業さまと、共に社会が必要としている活動ができたら良いなと考えています。社会をより良くするため、川崎を盛り上げるために、この記事がきっかけでお声がけいただけましたらクラブとして尽力します。
三浦)我々は以前から常に社会貢献活動を行っており、結果的に継続している活動が「SDGs」に紐づいていると評価を受けることがあります。もちろんこれからもそのようなキーワードは意識しつつ、本当の目的を考え、継続していくことが大切だと考えています。