2023年11月11日、JICA東京にて今年で7回目となる『ユニバーサルスポーツフェスティバル』が開催されました。ユニバーサルスポーツとは年齢や国籍、障がいの有無に関わらず、皆が一緒に楽しむことができるスポーツの総称です。当日は、子どもたち、ご高齢の方、外国籍の方、障がいをお持ちの方など、さまざまなバックグラウンドを持った50名以上の方が参加されました。
今回、お話を伺うのは2人の大学生。沼本若菜さん(以下、沼本)と池田奈穂さん(以下、池田)です。
「国際協力」をキーワードにJICAのインターンに応募し、活動を行っていた2人。ですが、「ユニバーサルスポーツ」を体験するのは本イベントがはじめて。インターン生として参加者同士で作るチームのリーダーを務めることになった沼本さんと池田さん。最初は不安もあったそうです。
ところが、取材の中で2人の口から出てきたのは、「楽しい」という言葉と、明確に言語化された多くの学びや気づきでした。
インターンをはじめたきっかけは「国際協力」に対する関心
ーーまずは、インターンを始めたきっかけを教えてください。
沼本)きっかけは2つあります。ひとつは進路について考えるきっかけにしたかったということと、もうひとつは「国際協力」はどういうことをするのか知りたかったということです。
就職活動がなかなか上手く進まず、このままだとまずいなと思ったときにJICAのインターンの募集を見つけ、国際協力にも昔から興味があったので、トライしてみようと思い、応募しました。
ーーなぜ国際協力に興味があったのですか?
沼本)中学生の道徳の時間に、南スーダンの飢餓を伝える『ハゲワシと少女』という写真を見ました。そのとき、私は毎日ご飯が食べられて、給食も食べられて、食べ残った給食もあるのに、自分よりも小さな女の子が、ご飯を食べられず、力も出なくて動けず、動物に食べられてしまうという状況にすごくギャップを感じました。そこに対して「何か自分が携われる仕事をしたい」と思い、興味を持っていました。
ーー学校の授業が強く印象に残っていたのですね、池田さんがインターンを始めたきっかけを教えてください。
池田)私がインターンに応募したきっかけは、JICAという国際協力の中心となっている組織が担う役割や意義について考えてみたかったということと、JICAが市民と政府の架橋になれるところに魅力を感じたことです。
大学1年生のときにインドでボランティアをした経験があり、 その当時から国際協力をキャリアにしたいと考え始めていました。
ーー2人は一緒に仕事を行うことはありますか?
沼本)一緒に仕事を行うことはこれまでありませんでしたが、ユニバーサルスポーツフェスティバルの開催より前に、「教育協力ウィーク」のインクルーシブ教育セッションに参加後、「インクルーシブ教育に関するワークショップ」を担当しました。プライベートではとても仲が良いです。
ーー普段は2人はどのようなお仕事をされているのですか?
池田)JICAには、草の根技術協力という市民とJICAが協力しながら現場で国際協力を進める事業があります。その草の根技術協力の好事例を取りまとめて、それがなぜうまくいったのかという背景を関係者にインタビューして、発信するのが私のメインの仕事です。
それ以外にも、途上国で国際協力を行った先生たちが帰国してから集まって話し合う会に参加させてもらったり、中学生に国際協力に関する学びを伝える出前講座の見学もさせてもらったりして、記事にして発信する取り組みも行いました。とても幅広い活動に携わらせていただきました。
ーーJICAの活動に関する発信の仕事を担当されてたのですね。
沼本)私は総務課で1ヶ月ほどインターンをさせていただきました。メインの仕事は、研修員が来日して最初に受けるブリーフィング業務です。
また、研修員が土日に、福利厚生で東京の各地を訪問できるバスツアーのイベントがあるので、広報やサポートを担当していました。
ーー業務以外の活動ではどんなことをされていますか?
沼本)「広く国際協力について知りたい」という想いもあったので、部署や役職を問わず職員さんのお話を聞くことができる『ナナメンター制度』というシステムをよく活用して学ばせていただきました。
ーーご自身の意欲や関心に合わせて、いろんな取り組みを行えるのですね。ユニバーサルスポーツフェスティバルには、どのような経緯で関わることになったのですか?
池田)ユニバーサルスポーツフェスティバルは市民参加2課の小杉さんが中心となって企画・運営されていたので、 「もし日にちが空いているなら、よかったら一緒にやってみませんか?」と声をかけてもらいました。
もともとインクルーシブ教育にも興味を持っていたので、「やらせてください!」とお伝えしました。
自然とチームが仲良くなるユニバーサルスポーツの特性
ーーとても前向きに取り組み始めたのですね。お二人はそれ以前にユニバーサルスポーツを体験したことはあったのですか?
池田)私は参加者募集の記事執筆を担当したのですが、ユニバーサルスポーツについて全然知りませんでした。
沼本)私も体験したことがなく、「どんなスポーツなんだろう」「どんなイベントなんだろう」と想像がつきませんでした。
ーー2人とも当日にはじめてユニバーサルスポーツを体験したということなんですね。そんな中、参加者同士で作るチームのリーダーを担当したと思うのですが、リーダーとして心がけていたことはありますか?
沼本)私のチームは、 小学4年生、70、80歳代の方、中国人の大学院生が入っている6人のチームでした。
つまらなそうにしている人はいないか、 ルールをちゃんと理解していない人はいないかを表情を見たり、声かけを行うことで確認するようにしていました。
池田)私は参加者よりも早めに会場に行って、全体の流れを確認したり、先にルールを覚えたりしていました。チームリーダーとして心がけていたことは、JICAの職員や地域のご高齢の方、ラオスの学生など幅広い参加者がいる中で、「対等に、平等に話しかけること」を意識していました。
結局、コミュニケーションの橋渡しになってくれたのは、私ではなくてスポーツだったと思っていて、いい意味でチームリーダーとしての責任や、やらなきゃいけないことを忘れるほど、私も思いっきり楽しんで参加していました。
ーー私が現地に伺ったときには、すでにお二人とも卓球バレーを楽しんでいましたよね。会場は開会式前からすでにとても盛り上がっているように見えました。参加者が初対面同士であっても、すぐに盛り上がった理由はなんだと思いますか?
沼本)ルールがとてもシンプルなので、ユニバーサルスポーツのルールや楽しみ方をすぐに共有し合えたのが大きいのかなと思いました。
ーーなるほど。普通のイベントだと、スポーツのルールを理解する、仲良くなるというステップがある中で、ユニバーサルスポーツは皆がルールをすぐに理解できるので、すぐに仲良くなること、楽しむことに意識を向けることができるのですね。
池田)みんなが初心者からスタートできるのもいいなと思いました。誰もがチームの力になれるし、 誰もがそのゲームの中でヒーローになれる可能性を持っているので、変にお互い気を遣い合うことが自然となくなり、 純粋にみんなで同じ熱量を持って楽しむことができたのはユニバーサルスポーツの魅力だと思いました。
二人のお気に入りのユニバーサルスポーツ
ーーお二人のお気に入りのユニバーサルスポーツをひとつずつ教えてください。
沼本)卓球バレーです。点が入ったり、ナイスプレーのときに、木の板を台の中心に集めて、ダンダンダンと叩くんですよ。最初は「なんだろう?」と思ったんですけど、やればやるほど癖になり、おもしろかったです。あとは、お互いの顔を見ながらプレーできるので、喜んでいる顔を見ることができたり、「ドンマイ!」という声かけもしやすかったです。
みんな座ってプレーするので、同じ条件でプレーしやすいスポーツだと思いました。
池田)ボッチャがお気に入りです。実はスポーツが始まる前の自己紹介の段階で、チーム内の会話がうまく進まず不安を感じていました。ですが、ボッチャは力勝負というよりも戦略を練るスポーツだったので、「次どこにボールを置いたらいいかな」とか、「相手チームの作戦、こっちも取り入れたいよね」というような会話が自然と生まれました。ボッチャが会話を生み出してくれるという側面が個人的には好きでした。
スポーツを純粋に楽しみながら、他者を知るきっかけに
ーー印象に残っているエピソードがあれば、教えてください。
池田)私のチームはすべてのゲームで負けてしまいました。それなのに、ゲームが全部終わった後に、みんなおもしろいぐらいに笑顔で清々しい顔をしてくれていたというのが、チームリーダーとしてとても嬉しかったです。
あとは、その閉会式が終わって「さようなら」と別れるときに、あるメンバーの方が 「このチーム負けちゃったけど、すごくいいチームワークだったよね」「また来年リベンジね」と言ってくださったのがすごく嬉しくて。
スポーツって、賞状をもらったり、勝ち負けがあったりすることももちろんおもしろさの1つではあると思います。ですが、 ユニバーサルスポーツフェスティバルでは、スポーツを通して生まれた偶然の出会いを大事にしたいと思えたので、その楽しさや思い出を共有できるところが、すごく良いなと感じました。
沼本)チームに70歳代くらいの参加者の方がいて、「私、お婆ちゃんだから」「全然動けないから」とおっしゃっていたのですが、実際にやり始めたら、「私やる!」と前のめりで参加していました。年齢や体力の垣根を越えて楽しんでいるのを見て、とても嬉しかったです。
また、私は風船バレーを車いすでプレーしたのですが、想像の3倍くらい動きにくく、車いすの方の不自由さを自分の身体で感じることができて、良い経験になりました。
まずは知る、わかろうとすることから、その先に思いやりが生まれてくると思うので、「知る」きっかけになった、ユニバーサルスポーツイベントに参加して良かったと思いました。
ーースポーツを通じてだと自然に多様性を学ぶことができますね。最後に一言お願いします。
池田)普段関われない人と関われることが魅力だと思っています。「思いやりを持って接したい」「その人が抱えてる苦しさみたいなものを知りたい」と、どんなに心の中で思っていても、街の中で自分と異なる人に出会うと、実際に声をかけたり話したりすることはなかなかできず「そんな勇気ない」と思ってしまいます。
ですが、スポーツを通して、フラットな関係性で出会うと、自分が勝手に思い描いていたその人の違う一面も見れたり、自分の知らない一面にも気づけたりしました。
池田)ユニバーサルスポーツはそれ自体を純粋に楽しみながらも、相手を知ることや、自分を知ることの身近なきっかけになると思うので、 ぜひ参加してほしいですし、私も来年も参加したいです。
沼本)運動神経は関係ない。年齢も国籍も関係ないのがユニバーサルスポーツだと思うので、「純粋に身体を動かしたい」「汗をかきたい」「チームでなにかやりたい」という人は、ぜひユニバーサルスポーツフェスティバルに来ていただきたいなと思ってます。
私たちの生活はイベントではなく、前に続いていくものだと思うので、ユニバーサルスポーツフェスティバルが、年に1回開催されるイベントではなくて、 定期的に行われる回数が増えて、各地で開催されるようになったらいいなと思います。
ーーありがとうございました!