コンタクトレンズの通信販売『レンズアップル』を運営する株式会社パレンテでは、2017年から一般社団法人全日本知的障がい者スポーツ連盟(以下、ANiSA)の設立以来初めてのスポンサーとして活動しています。
コロナ禍もありながら、2022年のブリスベン(オーストラリア)でのアジア・オセアニア大会では、民間企業で初めてのメダルプレゼンターを務めました。
そんな深い関係性のANiSAとパレンテですが、働く社員にとって『知的障がい者スポーツ』はまだまだ未知の領域だと感じる方も多いのが現状です。7月に行われた全体会議で、ANiSA会長の斎藤利之さん(以下、斎藤)から、初めてANiSAの話や知的障がい者の現状について聞いた社員。そこでどんなことを思ったのか?また、さらに深掘りして聞きたいことを今回は対談形式で伺いました。
“知る”“触れる”ことの大切さや、『多様であること=組織にとって良い』とされている現状への納得感が増す対談です。
対談参加者
一般社団法人全日本知的障がい者スポーツ連盟会長 斎藤利之さん
株式会社パレンテ 吉田忠史さん(代表取締役社長)
株式会社パレンテ 福田寛樹さん
株式会社パレンテ 小島梨乃さん
株式会社パレンテ 宍戸健治さん
知的障がいを“見える”ように
ーー先日のパレンテさんの全体会議で、ANiSAの会長である斎藤さんが講演されました。知的障がい者スポーツだけでなく、知的障がい者における社会の実情などもお話しされましたが、どのような意図でお話されたのでしょうか?
ANiSA 斎藤)ANiSAのことを知ってほしいと同時に、皆さんがあまり出会うことのない“知的障がい者”についても知ってもらえるようなお話をしたいと考えました。知的障がい者に関する課題、その社会的な背景についてもお話したのですが、こうした情報は自分から注目しない限りは入ってきません。パレンテさんが、せっかく私たちを支援していただいているので、社員のみなさんにも「知的障がいが見える」ようになっていただければと思います。
ーー知的障がい者の犯罪率や性教育の話題など、かなり踏み込んだトピックもありました。ただ一方で、社会で生きていく上で、目をそらさずに知るべき問題であるとも感じるお話でした。
斎藤)日本では、こうした話題にフタをしてしまいがちです。そうした話題でも、しっかりとお話をすることで「まわりがどう支えていくのか」を考えるようになるなど、“見える”状況にしていかなければなりません。
パレンテ 吉田)とても興味深い講演でした。社員からの反応もすごくよかったです。
ーー斎藤さんは、なぜ知的障がい者スポーツに関わり始めたのですか?
斎藤)私自身、吉田社長と同じく学生時代はバスケットボールをやっていました。その後、早稲田大学のコーチをしているときに、兄から「障がい者バスケを支援している企業があるから遊びに来い」と言われ、愛知県に行きました。実は最初は、『車いすバスケ』のことだと思っていたのですが、そこで行われていたのは知的障がい者バスケットボール日本代表の合宿で、そこで初めて知的障がい者スポーツのことを知りました。
知的障がい者スポーツの特徴は、よいと言われたプレーをやり続けてしまうことです。とくに、状況が刻一刻と変わるバスケットボールなどにおいては、似たようなシチュエーションであれば、“いま最適なプレー”よりも“以前褒められた”プレーを選択してしまうことが多いです。こうした課題に対し、どのように教えれば伝わり、上達するのかを考える。ある意味、指導する側が非常に成長することも知的障がい者スポーツの大きな特徴だと思っています。
ーーそうした関わりからANiSA設立に至るまでには、どのようなことがあったのでしょうか?
斎藤)知らない方も多いのですが、知的障がい者スポーツはパラリンピック種目になっているものもあります。私もリオパラリンピックや、平昌パラリンピックなどに帯同してお手伝いをしていたのですが、東京2020やその先に向けて一時的なブームで終わってしまわないために、各団体を統括する組織が必要だと感じ、2017年にANiSAを立ち上げました。
知的障がい者スポーツってなぜ知られていないの?
ーーパレンテの社員の皆さんからもどんどん質問していただければと思います!
パレンテ 宍戸)知的障がい者が目立たない・注目されないというのは、やはり見た目にわかりづらいという点があるのでしょうか?
斎藤)大きく2つの要因があると思っています。1つは、メディアに出ることが少ないことです。言葉を選ばずに言うと、重度の知的障がい者の会話は痛々しい感じに受け取られかねないですし、「そんな状態の人を“さらし者”にするなんてひどくないですか?」という批判をメディアが受けることもあります。
もう1つは、自分たちから前に出ることが難しい、という点もあります。知的障がいの競技でも東京パラリンピックの金メダリストがいるのですが、自分から何か状況を変えようとしたり、よりサポートを得るために選手自身が主体的に活動することは難しい障がいでもあります。
パレンテ 小島)ANiSAさんとしては、そうした知的障がい者でスポーツをやる方々に対して具体的にどんな支援をしているのですか?
斎藤)ANiSAは、知的障がい者の選手を支援するという形ではなく、統括団体として各競技団体を支援しています。陸上競技や水泳、卓球、バスケットボールなどの団体です。
各団体の方々は、普及や強化の部分で熱心に活動してくれているので、団体としてのガバナンスの部分や、海外とのやり取り、大会開催や派遣への活動資金集めなどの面で協力しています。
もう一つは、お子さんに「知的障がいがあるけど運動させたい」と思ったときの問い合わせ窓口にもなっています。問い合わせを受け、どんなスポーツをやりたいのか、その地域にどんなスポーツ団体があるのか、どこに聞けば活動できるようになるのかなど、統括団体としてさまざまな競技に関わる組織だからこその対応をしています。
ーーそうしたときに、「どこに聞けばいいか?」というのはなかなか難しいですよね。大事な役割だと思います。
全然変わらない~実際に見て感じる経験を~
ーー以前のインタビューで、どうやってANiSAさんを支援すればいいかわからないという話から、「まず試合を見に来てください。健常者だろうとパラの方だろうと知的だろうと試合に人を見に来てくれることが嬉しい。」と言われたお話が印象的でした。
小島)実際に吉田社長が見に行かれて、どのような違いを感じましたか?
吉田)いい意味で“違いがなかった”ですね。スポーツの試合をしている場面を見て、知的障がい者だとわかることはありませんでした。もちろん、受付やバス移動などの場面で一緒になると彼らの特徴がわかるのですが、私が見たバスケットボール、水泳、自転車に関しては本当にわからなかったですね。
宍戸)知的障がい者の自己肯定感が低いというお話も斎藤さんの講演で伺って印象に残っています。スポーツはそうした点で、褒められて自己を認められたと感じる場面がありそうですよね。
パレンテ 福田)私は以前、ANiSAさんの関わる知的障がい者スポーツの大会にボランティアに参加させてもらいました。そのときに、「おはようございます!」と元気のよい挨拶をしてくれしたり、少しお手伝いするだけで「ありがとうございます!」とすごく喜んでくれました。そんなに喜んでくれるなら、とこちら側の気持ちも盛り上がったのをよく覚えています。
ーー福田さんはパレンテさんの社内メンバーでお手伝いにいったときに参加されたんですよね。どのようなきっかけで参加しようと思ったのですか?
福田)会社としてANiSAさんをスポンサードしているのは知っていたのですが、実際にどんなサポートをしているのか当時はわかりませんでした。また、私のまわりに知的障がいのある方がいた経験がなく、そうしたことを知るいい機会になりそうだと思って参加しました。運営業務が大変だったので、もう少し競技をゆっくり見れたらよかったなと思います。(笑)
ーーここまで、斎藤さんの講演だけでなく、深いお話も聞いてきました。皆さんお話を聞いての感想はいかがですか?
宍戸)私は小学生のときに、学校で実際に知的障がいを持つ子たちと一緒に1日遊ぶ機会がありました。実際に遊んで「純粋に楽しかったな」と思っていたのですが、小学校を卒業して中学生になって以降、そうした障がいのある方と関わる機会がまったくなくなりました。
社会人になって会社で働くと、自分の仕事のことや会社のメンバーのことを考えることばかりになります。ですが、全体会議で斎藤さんのお話を聞いて、社会に対するやりがいを感じられるきっかけが仕事以外にもあるということを改めて考えさせられました。
ボランティアなど、“障がい者を支援する”という形になるかもしれませんが、それを通して自分自身に達成感を得られたり、そうした機会をくれるパレンテという会社を好きになるきっかけになるのではないかと思います。
吉田)会社を経営していく上でも社員として仕事をしていても、「本当に自分たちの価値って、商品を売買するだけでいいのか?」と思うときがあります。そうしたときに、自分が頑張って作った利益の一部が社会貢献になっているということはすごくやりがいを感じられることになると思っています。
一方で、斎藤さんとお話していると、知的障がい者の方を本当の意味で対等に見ているというのがよくわかります。なにか活動するときのリスクに対しても、「健常者も似たようなリスクがある」という考え方をされますよね。こうしたレベルまで、僕たちも会話の意識が上がっていくと、“支援している”という感覚ではなく、本当の意味での『共生社会』を作る一助になっていると思えてきますよね。そこに加えて、福田さんが言ったように感謝されることも増えて、自身の肯定感も上がっていきます。あまり説明が要らず、国や言語もまたげるスポーツは、そうした点で非常に適しているものだと感じます。
小島)ANiSAさんへ支援をしていること、その中身を知ると社員としてすごく誇らしい気持ちになります。正直、私も知的障がいのある方との関わりはこれまででなかったので、漠然としたイメージしか持っておらず、全体会議の斎藤さんのお話を聞いて、「こんなことが現実社会で起きているのか」と衝撃を受けました。
吉田)言わないだけで、お子さんに障がいのある人や、ご自身もADHDなどを抱えている方も多くいるのだと思います。
そういう人たちは、実は私たちから“見えていない”だけで、同じ社会で生活しています。組織や会社で、そうした特徴を受け入れるきっかけを作っていかないといけないですよね。
ーーパレンテさんは、会社として知的障がいのある方や、視覚障がいのある方も同じオフィスで働かれています。こうした会社の取り組みに対して皆さんはどう思われますか?
福田)大賛成です。さまざまな人がそれぞれどう考えるのか、他人の立場になって考えるきっかけになりますよね。
小島)「自分がいままで感じていたことは、当たり前ではない」ということに気づくことができると思います。『誰も取り残さない』姿勢はすごく大事だし、仕事をしながらも、いろいろな特徴を持つ人たちと接するのはこれから先の自分の人生においてもプラスになると思っています。
斎藤)例えば、知的障がい者スポーツでは、コーチの言葉かけは健常者に対するものよりも重要であり、より相手への深い理解が必要になります。こうしたことは、考え方を変えれば、自分が上司になったときに部下にどう接するのか、ということともリンクしますよね。
障がいのある方に「何を手助けしてあげたらいいか」と考える時点で相手の気持ちに、相手の立場になろうとしています。そうした意味で、『多様性』という言葉は障がいだけに限らずですが、一緒にいる中で考えを巡らすことそのものが、自分のキャリアのためにも間違いなく繋がると思います。
吉田)「知的障がい者と今までの人生の中で全然関わらなかった」という社員は多くいます。ですが、そうした人“関わらなかった”人との関わりや、情報へのアンテナがないと、いろいろなイノベーションは起きませんよね。
斎藤)前回の講演や今日のお話も、ご自身の考え方がちょっと変わるようなきっかけになればうれしいですね。
ーーありがとうございました!