『車いすバスケットボール』とは、主に下肢などに障がいがある選手が車いすを巧みに操ってゴールを競い合うスポーツです。1960年の第1回パラリンピックから大会種目の一つとして競技が実施されてきました。国内では、2021年に行われた東京2020パラリンピックで日本代表が銀メダルを獲得したことで一躍注目を集めています。
今回は、車いすバスケットボールについてのルール、知識、そして競技の魅力について解説していきます。
車いすバスケットボールとは
近年、テニスを始め、ラグビー、卓球、バドミントン、そしてバスケットボールなど、車いすを使用して行う競技の人口が増えてきています。
その中でも車いすバスケットボールは、主に下肢などに障がいがある選手が車いすで行うバスケットボールです。現在、国際車いすバスケットボール連盟(IWBF:International Wheelchair Basketball Federation)には世界で53の国と地域が加盟しており、日本国内での競技人口は約1,000人、日本車いすバスケットボール連盟には30チームが登録されています。(日本車いすバスケットボール連盟HP)
車いすバスケットボールとバスケットボールの違い
車いすバスケットボールで使用するコート、ボール、人数、そしてリングの高さや大きさはバスケットボールと同じです。しかし主に異なる点が3つあります。
トラベリング
バスケットボールでは、ボールを持った状態で3歩以上歩いてしまうことをトラベリングと呼び、車いすバスケットボールでは、ボールを持った状態でのプッシュ(手で車いすを漕ぐこと)を3回以上行うことをトラベリングと呼びます。片手で漕いだ場合でも1回のプッシュとなります。トラベリングと判定された場合は、相手チームのスローインから再開されます。
ダブルドリブル
バスケットボールでは、片手でも両手でも一度ボールを手で静止させドリブルを止めてから、再度ドリブルを始めることは反則であり、その行為はダブルドリブルとして知られています。一方、車いすバスケットボールではダブルドリブルは反則として適用されません。そのためトラベリングにはならない範囲でのドリブルやボールの保持は回数制限がありません。
クラス分け
車いすバスケットボールはバスケットボールとは違い、障がいの重い人は1.0点、障がいの軽い人は4.5点と各選手に点数が与えられ、これをクラス分けと呼びます。試合に出場する5人の点数の合計が14.0点を超えてはいけないため、チームの構成でも公平性を保つことができます。障がいの重度によってドリブルやシュートなどの動作、バランス能力などが異なるため、クラス分けの点数が重要となり、その交代の戦略も1つの醍醐味となります。
車いすバスケットボールの歴史
車いすバスケットボールもバスケットボール同様アメリカで生まれたスポーツです。元々バスケットボールはアメリカで、冬の間にも行うことのできる室内のスポーツとして1891年に生まれました。一方、車いすバスケットボールは1945年に終戦した第二次世界大戦により負傷した障がい者の方々が生み出し、1948年には全米車いすバスケットボール協会が設立されました。車いすに乗ったまま行えるスポーツとして普及し、世界中で行われる競技となりました。
日本では1960年ごろに普及し始め、1961年に開催された第一回大分身体障害者体育大会では、初めて車いすバスケットボールのデモンストレーションが行われました。その後、1964年の東京パラリンピックの際に注目を集め、日本全国でも行われるようになりました。
車いすバスケットボールの魅力
現在も競技の輪が広がり続けている車いすバスケットボールは、たくさんの魅力で溢れています。ボールと車いすの車輪を華麗に操り、激しくスピーディーな接触や転倒の中の攻防、車いすの特徴を用いた競技独自の戦術や戦略、そして何よりさまざまな年代、性別、能力を持った人たちが一緒に行えるところが、今も白熱する車いすバスケットボールの魅力です。
車いすバスケットボールには、独自の技が存在します。ルールでジャンプは禁止されているものの、空中戦を制するために「ティルティング」という技を駆使します。車いすの片輪をあげ、高さを出すという高難易度な技で、しっかりとした体幹が備わっていないと行えない技です。
競技用車いすにも日常で使用したり見かける車いすとは異なる機能や特徴があり、選手自身が規定範囲内でカスタムすることもあるなど、とても奥が深いです。早くプッシュをしたり、スムーズにターンを行うために競技用の車いすはタイヤがハの字になっています。さらに接触が絶えない競技な為、足を守るためのバンパーがついています。強度を高めつつ、選手たちが動きやすいように軽さも兼ね備えなければならないなど、様々な部分の設計にこだわりが詰め込まれています。
実際に観戦する際には、試合全体のみならず選手たちの細かな動作、車いすを使った高度なテクニック、車いすがあるからこそ成り立つ戦術、さらに車いす自体に注目して試合を観ると、より競技が面白くなるかもしれません。
東京2020パラリンピックでは男子日本チームが銀メダル!
みなさんの記憶に新しい東京2020パラリンピックでは、車いすバスケットボールの男子日本代表チームが見事銀メダルを獲得しました。
決勝に進出した日本チームは、前回王者のアメリカ相手にも真っ向勝負を挑み、惜しくも60対64で敗れてしまいました。しかし、豊島英キャプテンを中心とした勇敢な戦いには多くの人々に感動を与えました。