「視覚障がいを楽しく理解してもらいたいーー」
2022年10月2日にJリーグ・ツエーゲン金沢のホームゲームにて、昨年に引き続き第2回『Future Challenge Project』が行われました。
視覚障がいの方にサッカー観戦を楽しんでいただくこのイベント。実行委員の方々がどのような想いでこのプロジェクトに関わっているのかをインタビューしました。
インタビューに参加したみなさん(Future Challenge Project実行委員)
- ツエーゲン金沢 クラブスタッフ 灰田 さちさん(以下、灰田)
- ツエーゲン金沢 サポーター代表 加納 伸一郎さん(以下、加納)
- 金沢星稜大学 教授 西村 貴之さん(以下、西村)
- 金沢星稜大学 学生 田中 孝治さん(以下、田中)
- 金沢星稜大学 学生 宮本 光さん(以下、宮本)
- ツエーゲン金沢BFC 田辺 陽一さん(以下、田辺)
今年はサポーターを巻き込もう!!
ーーまず、サポーターとして本プロジェクトの実行委員を務められた加納さん、参加を決断された理由を教えてください。
加納)実行委員のことは、ツエーゲン金沢の灰田さんの「サポーターをもっと巻き込んでいきたい!」というツイートを見て知りました。昨年に引き続き今年も実施するということは、それなりに成果もあったのだろうし、持続・継続していきたいのだろうという想いを感じたのが参加の理由です。
灰田)昨年の反省点から、サポーターの皆さんをもっと巻き込みたいという想いが強かったので、今年は早い段階で「実行委員募集!」というリリースをクラブから発信しました。
加納さんを含む2名のサポーター方が手を挙げてくださり、とても嬉しかったです。お二人がサポーターの皆さんと私たち実行委員や視覚障がいの方をパイプ役として上手く繋げてくれたおかげで、プロジェクトの幅がすごく広がったなと思っています。
加納)事前にゴール裏のコールリーダーにプロジェクトの話をした上で、「普段通りでいいけど、いつもよりちょっとわかりやすくチャントを歌ってや!」と頼んだりしました。
ゴール裏で熱い応援をしているコアなファンたちは試合観戦がメインですので、応援もするけど、イベントも楽しみたいという方に対して、「今日は視覚障がい者関連のイベントをしているよ。」という情報を伝えていく事を意識していました。
ーー熱い方は熱いままで保ちつつ、巻き込める人は巻き込んでいく。その判断は普段スタジアムにいるサポーターの方だからこそできるものではないでしょうか?
灰田)今年から始めたゴール裏の横断幕掲出体験など、最初は少し不安に思っていました。こうしたことも加納さんが事前に話をしてくれていて、改めてサポーターが実行委員に入ってくれた影響は大きいなと感じました。
基本的にツエーゲンのサポーターは来る者拒まずのウェルカムな雰囲気があります。当日はサポーターの皆さんが視覚障がいの方に応援のやり方を教えているシーンもあり、本当によかったです。
加納)試合当日の私は、いつも通りのことをした中で視覚障がいの方と一緒に試合を見ただけでしたので、特に負担だと感じることはありませんでした。
学生たちの試行錯誤!視覚障がいを楽しみながら理解してもらう企画
ーー金沢星稜大学の皆さんも昨年に引き続き大活躍でしたね。昨年に比べて今年の『Future Challenge Project』はいかがでしたか?
西村)昨年より学生の活動する範囲が広くなったという印象でした。全体のコーディネートも任せていただき、すごく良い経験になったなと思います。
また、今年からはこの取組みが金沢星稜大学地域連携センターの採択プロジェクトに認定されました。昨年度はゼミ単独で参画でしたが、複数ゼミが参画し、昨年よりもスケールアップした形になりました。
金沢星稜大学の広報担当製作の動画。実際の参加者も感動する本格的な作品になりました。
ーー学生として参加された田中さん、宮本さんは実行委員を任された際、率直にどんな印象を持ちましたか。
宮本)私も田中も昨年は参加しておりませんでしたが、今年もプロジェクトがあると聞いて、プロスポーツチームの方と連携なども含め魅力的なプロジェクトであると感じていました。
視覚障がいについては、わからないことが多かったのですが、1つずつ学びながら作り上げていけば、きっといいものになると思っていました。
昨年の活動からレベルアップさせなければというプレッシャーはあったものの、貴重な経験をさせていただきました。
ーー宮本さん、田中さんから見て、今年のイチ押しの取り組みはなんでしたか?
宮本)自分たちが企画・運営したブラインド麺モリーという啓発ブースです。
ブラインド麺モリー:目隠しをした状態でカップうどんの重さの感覚を覚えたあと、目隠しのまま点字ブロックを白杖を使って歩き、最初に持ったものの重さを当てるゲーム。(協力:石川県バリアフリーツアーセンター)
宮本)視覚障がいの方の感覚を感じつつも、ゲームの様な要素を持たせて、多くの方から楽しかったという感想をいただきました。自分たちも楽しみながら取り組めたのがよかったです。
田中)「視覚障がいを楽しく理解してもらう」というテーマで企画を考える中で、視覚障がいの方にお話を聞く機会が何度かあり、何気ない段差や信号に大きな恐怖を感じている事を知りました。その感覚を目の見える人にも知ってもらおうと意識しました。
ーーこうした学生が働きかけた取り組みについて、ツエーゲン金沢BFC(ブラインドフットボールクラブ)の田辺さん、いかがでしょうか?
田辺)学生さんは企画段階から視覚障がいについてどんどん聞いて、イメージしてくれていました。それを社会にどうやって伝えていこうかっていうのを深く考えてくれて、泣いてしまいそうなほど感動しました。
目の見えない人たちにとっては、無関心が一番よくないことです。こうして少しでも視覚障がいのことに関心を持ってくれたことが嬉しかったですね。
ーー西村先生から見て、今回の学生の活動はいかがでしたか。
西村)よく頑張っているなと感じました。40人という数の参加学生をまとめ、役割分担をするために夜中まで研究室で話し合ったりもしましたが、とても楽しそうに取り組んでいたのが印象的でした。
ブースに来てくれる人やプロジェクトに関わってくれる人に楽しんでもらいたい、喜んでもらいたい、という想いがずっとあったのだと思います。『ホスピタリティ』というものを感じることが出来ました。
灰田)学生メンバーが本当に自主的に長い時間をかけて、視覚障がいについてどうしたらより多くの人に伝えられるのか、どうしたらブースに足を運んでもらえるかということを真剣に考えてくれました。彼らの自発的な動きには本当に助けられましたね。
「情報障がい」という課題
ーー2回目の開催となった「Future Challenge Project」ですが、新たに見えた課題などありましたら教えてください。
西村)企画は良いものが作れていますが、実際に参加してもらう人を集める事が、とても大変でした。
視覚障がいにおける『移動障がい』という面では、スタジアムに足を運んでもらった人に対してサポートしたり、楽しんでいただける体制はできてきたと思います。
しかし、『情報障がい』という点で、そもそもこの企画を目の見えない方に届けることが難しいと感じています。
灰田)そうした集客の面で、やはり口コミが一番よいと感じました。実行委員の視覚障がいの方から知り合いにお電話していただき、10名ほどの参加者が集まりました。
視覚障害者協会や盲学校の方々にもっと働きかけ、観戦だけでなく主体的にこのプロジェクトに関わってもらえるような形を取っていけるようにし、より一層このプロジェクトの輪を広げていきたいと考えています。
“非日常”を“日常”へ
ーー今後に向けての皆さんの考えを教えてください。まずはサポーターの加納さん。
加納)このプロジェクトをきっかけに、視覚障がいの皆さんが普段からふらっとスタジアムに来ていただくようになることが理想だと思います。試合運営ボランティアスタッフの方に視覚障がいの方の来場情報を共有し、受入れサポートをしてもらう。それに加えて、サポーターも出来ることは手伝うという流れに持っていけるのが理想ですね。
ーー学生の目線ではいかがですか?
田中)視覚障がいの学びや取組みをここで終わらせてはいけないと思いました。今後も、街中などでの視覚障がいの方へのちょっとした声かけやサポートをできるようしていかなければいけないと、今回のプロジェクトを通して強く感じました。
宮本)企画・運営を通して、楽しみながら学ぶことが出来ました。障がいを持たれている方を取り巻く社会環境は、本当に少しずつですが、良い方向に前進しているなと感じるため、よりそういった啓蒙、活動が広まっていけばいいなと思いました。
ーー最後にツエーゲン金沢の灰田さんお願いいたします。
灰田)理想としては、この『Future Challenge Project』が必要なくなることだと思います。その実現に向けて、毎年継続していかなければなりません。
私たち地方の小さなクラブにも出来たことなので、「うちでもやってみよう!」と他のJクラブさんにも広がって、大きな輪に発展していけばいいなと思います。
ーーありがとうございました!
編集より
今回、実際に金沢に赴き、1日このFuture Challenge Projectと一緒に行動させていただきました。その中で何より感じたのが、“普通である”ということです。スタジアムまで行くバスから、もうすでに視覚障がいの方と学生で恋バナをしていたり、昼食時には学生に対して、「ここで待ってるからお昼買っておいで」という様子が見られたり。
その中でも、「道が狭くなる時はこんな風に引っ張って」や、「このスピードで大丈夫ですか?」といった、お互いの気遣いの声掛けも忘れない。大人と学生がサッカー観戦をきっかけに一緒に過ごして仲良くなる、本当に素敵な光景を見ることができました。
この活動が続いていくこと、そして皆の意識が当たり前になることを願っています。(柳井)