「人は誰でも挑戦できる、越えられる」を理念として掲げる、インクルーシブ型フットサルチーム『バルドラール浦安デフィオ』。聴覚障がい者と聴者(健常者)の融合チームとして、2014年に立ち上げられました。
現在、監督兼選手としてチームを率いる泉洋史さんに、このクラブへの想いや挑戦について伺いました。
「deaf(聴覚障がい)」×「desafio(挑戦)」
ーーまずは、バルドラール浦安デフィオのチームの紹介をお願いします。
泉)バルドラール浦安デフィオは、障がいのある人とない人が一緒に活動し、千葉県フットサルリーグの3部に所属しています。
「deaf(聴覚障がい)」と「desafio(挑戦)」を組み合わせた「Defio(デフィオ)」というチーム名には、「障がいを超えたインクルーシブフットサルチーム」という意味が込められています。
ーー大学時代での経験が、聴覚障がいの人が参加できるフットサルチームの設立に繋がったと伺いました。チームを立ち上げた経緯を教えてください。
泉)当時私は、選手としてバルドラール浦安の2軍でプレーしつつ、特別支援学校の教員として働いていました。障がいのある人がフットサルやサッカーをやりたくてもできない、チームにうまく馴染めない。そのような問題を知ったことで、「障がいがある人と一緒に上を目指せるチームをつくりたい」と思うようになったのがきっかけです。
また、「障がいのある人と健常者の接点を作りたい」という想いもありました。自分自身も特別支援学校に実習に行く前までは、障がいのある人を遠ざけて、自分とは違う存在として捉えていたように思います。
ですが、実際に障がいのある人と接してみると楽しくコミュニケーションが取れますし、フットサルも一緒にできます。「知らないだけ」「接点がないだけ」なのだと感じました。そのことを伝えるという点でも、多様なメンバーのいるデフィオが「健常者のリーグに参戦」すること自体にも意味があると考えました。
不安を抱える中、リーグ代表者会議でもらった拍手
ーー新しくチームを立ち上げる、しかも障がいがあるメンバーとないメンバーが一緒に活動するということで、不安や困難がたくさんあったのではないでしょうか?
泉)「そもそも健常者のリーグに参入できるのか」という不安がありました。千葉県のチャレンジリーグに普通に申し込んだ後、代表者会議のときに「実は耳が聞こえない選手もいる。だけど同じルールの元に挑戦させて欲しい」ということを説明しました。すると、「いいですよ」という返答だけでなく、拍手までもらったんですね。自分としては、「本当にそんなチームと一緒にできるの?」みたいに思われるのではないかという不安がありました。まずはリーグへの参加が第一のハードルだったと思います。
ーー健常者のリーグへの参加は、危険性への懸念が大きいのでしょうか?
泉)聴覚障がいということで、「一緒に競技できるの?」「審判の笛が聞こえるの?」といった心配がありました。しかし、実際に一緒にやってみると、アイコンタクトや身振り手振りでやり取りしながら一緒にプレイできる。口の形や状況を見極めて審判のジャッジを確認できることを理解してもらえます。聴覚障がい者を思い浮かべた時に漠然と「聞こえない」「コミュニケーションが取れない」という不安を、どのように払拭してもらうかというところに、難しさがあるように思います。
ーー千葉県の3部リーグに参加して今年で6年目。最初は、いろいろな戸惑いもあったかと思うのですが、年々、周囲の理解は進んでいると感じますか?
泉)公式戦では、もちろん、勝つこともありますし負けることもあります。これは、いい意味で他チームの選手が気にせずに普通に試合をやってくれているからだと思います。
嬉しかったこともありました。手話を学んだことがある審判の方が、「始めます」とか「お願いします」といった挨拶にさりげなく手話を使ってくれました。自分たちを、デフィオというチームを受け入れてくれていると感じました。
デフィオが健常者のリーグで普通に試合をすることで、障がいがある人を身近に感じてもらう。障がいがあってもなくても、真剣にフットサルの試合を戦うことができるんだ、ということを実体験として感じてもらうことは、とても意味があることだと思いました。
デフィオを率いることの難しさと楽しさ
ーー監督兼選手としてデフィオを率いる楽しさと難しさを教えてください。
泉)楽しさで言うと、他のチームにはない特徴を持つチームなので、「自分だからチャレンジできること」に打ち込めるというのはとても楽しいですし、やりがいがあります。
現在はチームの中に、聴覚障がい、知的障がい、精神障がい、視覚に特徴がある選手、と多様なメンバーがいます。多様なメンバーがいるから学べることもありますし、時に困難だと思うこともありますが、それがあるからこそのデフィオだと思っています。困難を乗り越えていくために試行錯誤をしながら、「これだったらできるかもしれない」ということを見つけていく過程も楽しいですね。
一方で、障がいがある人にデフィオに参加してもらうことには、まだまだハードルがあると感じます。障がいの為、環境が整わなかった為、今までスポーツをできなかった人、続けられなかった人は多いのではないでしょうか?いざ新たにフットサルができる選択肢があっても、それを選ぶのには勇気が必要です。チームに入るための心理的なハードルは、自分たちが思っている以上に高い。だからこそ、一緒にデフィオで挑戦したいと思ってもらうために、情報の出し方や体制づくりを考えていきたいと思っています。
ーー多様なメンバーがいる中、チームを率いる上で大事にしていることを教えてください。
泉)障がいの有無を超えて健常者リーグに挑戦しようとデフィオに入ってきてくれた時点で、みんなは頼もしいメンバーです。
一方で、多様だからこそお互いを知ることがより必要だと考えています。その為、コミュニケーションは特に大事にしています。
例えば、動画やLINEでの練習や試合の振り返り、ミーティングを通して、メンバー同士で自分の考えを伝え合う時間を多く取るようにしました。「あんな風に思っていたんだ」「本当はこういうことをしたかったんだ」と、お互いの気持ちが見えるようになります。そうすることで、お互いのことをより知れます。多様性を受け入れて活かし合い高め合うことでチームの強さに結びつけたいなと思っています。
デフィオだからこそ、伝えられること
ーー「チャレンジフットサル教室」「特別支援学校のフットサル交流」などの社会貢献活動を行なっていると伺いました。活動を通じて、伝えていきたいことはありますか?
泉)フットサルが新たな一歩を踏み出すきっかけになり、いろいろなことに挑戦していく楽しさを伝えられたら嬉しいです。
特別支援学校などの訪問先で、先輩たちが卒業後に社会で活躍している姿や、フットサルを続けている姿を見せられるのは、デフィオだからこそできるのだと思います。自分自身が特別支援学校で補助教員をやっていたときに、サッカーをやりたくてもできない、部活動に入れないという実情を知ったので、訪問した学校の卒業生がデフィオに入ってきてくれるのはとても嬉しかったですね。
障がいのある人は、本人の障がいの様子や、環境の要因から成功体験が少なく自信がなくなってしまったりして、新たなところに飛び込みづらかったりする場合が少なくないと考えています。そういうことを取っ払えるくらい楽しく新しい刺激に溢れたチャレンジの場を作りたいと考えています。
ーー泉さんにとって「挑戦」とはなんですか?
泉)自分だからこそできることです。自分の中の向上心と探究心というものが、挑戦に繋がっているのかなと思っています。自分でも「何かの役に立てるかもしれない」と感じられるのは嬉しいですし、「新しい出会いや学びが楽しい」という気持ちです。
ーーこれからの挑戦について教えてください!
泉)より1人1人にフォーカスして良さをさらに高めていくことに挑戦し続けていきたいです。その多様性をチームで力にするデフィオを目指していきます。また、障がいのある子供達により多くの刺激を届け、障がいを超えて挑戦を体現するロールモデルとなる存在になれたら嬉しいです。
ーー本日はありがとうございました!
※バルドラール浦安デフィオの情報はこちらより
写真提供:バルドラール浦安デフィオ