東京でオリンピック・パラリンピックが開催されて3年。2024年は、フランス・パリでオリンピック・パラリンピックが開催される年です。
2024年5月には神戸にて世界パラ陸上大会が開催され、2025年には東京で世界陸上・デフリンピックの開催が予定されるなど国際大会も多く開催されます。
昨年、2023年には、スポーツにおける優先課題に関する会議「体育・スポーツ担当大臣等国際会議(MINEPSⅦ)」や、ASEANスポーツ大臣会合が開催されるなど、スポーツを通した国際交流・協力や社会課題解決など、国際大会の他にもスポーツを通した持続可能性な社会の実現に貢献する機運が高まっており、今後、さまざまなニュースが入って来ると予想されます。
これから先、日本が取り組むべき「スポーツ×国際交流・協力」の道とはどのようなものでしょうか?
こうした課題に対して、中心となって取り組むのがスポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)。SFTは、世界のあらゆる世代の人々にスポーツの価値やオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを広げることをめざし、2014年から始まった取り組みです。東京大会2020が終了した後も、引き続き日本国政府が推進するスポーツ国際交流・協力事業として国内外におけるスポーツを通じた国際交流・協力を推進しています。
2022年度より再始動したSFTに関して、その活動の意義や、関わる人の想いを、職員である山田直樹さん(以下、山田)にお伺いしました。
尚、本記事ではシリーズとして、下記記事も掲載しております。
SPORT FOR TOMORROWの存在意義
ーー東京2020大会以後も、新たな形でSFTが存在する意義はどのような点にあると思いますか?
山田)SFTは当初、東京2020大会の招致が決まり、スポーツによる国際貢献を実施していくムーブメントとして立ち上がりました。スポーツ庁を筆頭に日本の主要なスポーツ団体と、JICAなどの国際協力に取り組む団体、そして企業やNPO・NGO団体などが連携をしてコンソーシアムを作りました。
日本で一丸となってスポーツで国際交流・協力をしていくために、会員として400組織が登録して、官民連携の横断型の体制となっていました。
東京2020大会以後は、スポーツ庁の第三期スポーツ基本計画にもとづき、2022年度から改めて「ポストSFT」として当時の意義を受け継いで再始動しました。
ーー『コンソーシアム』という、共通の“目的”を持っている人たちの組織という点が非常に意義のあるものですよね。
山田)まさにそうですね。共通の目的を持っているということに加えて、官民が連携するコンソーシアムというのは、SFTの持つ特徴でもあります。コンソーシアムやネットワークは縦割りの組織になりやすいこともありますが、官の枠組みでもスポーツ庁や外務省が運営委員となる事で横連携も生まれています。コンソーシアム会員に関しては、スポーツ団体、企業、NPO・NGO、自治体、教育機関など、さまざまなアクターが存在することが本コンソーシアムの大きな意義になっています。
ーー『ポストSFT』として2022年度から改めて動き出す、という点で大変だった点はありますか?
山田)よりアクティブに取り組んでいくことを目指してコンソーシアムも一新されたため、会員さんにも再度入会頂いたり、以前と違う魅力を作っていくことなど、過去のレガシーを活かしながら多種多様なアクターと新しい価値を創造していくことはやりがいがある一方大変でもありますね。
ーーしっかりと以前のレガシーも残しつつ、東京2020大会以後、ポストコロナという意味も含めて新しいフェーズに入っていくことを示すのは相当難しいことだと感じます。
山田)『ポストSFT』となってからは、国内で行われる国際交流や国際協力にもより目を向けるようになりました。それまでは、東京2020大会に向けて日本の団体が行う海外でスポーツ国際貢献活動が中心になっていましたが、現在では外国人技能実習生の支援のためのスポーツイベント実施や、外国籍の方が多く住んでいる地域でのスポーツ教室など、国内での国際交流・協力に取り組む団体の動きにも注目しています。
SFTカンファレンス2024
SFTでは、スポーツ国際交流・協力の普及やこれからのスポーツのチカラを考える場として「スポーツ・フォー・トゥモロー・カンファレンス2024」を2024年3月6日に開催しました。
ーー今回のカンファレンスではどんな所を目的に開催されたのですか?
山田)本カンファレンスでは、「次世代のスポーツ×国際交流・協力。東京2020大会レガシーの先へ」をテーマに、多くのスポーツ国際交流・協力に関心を有するアクターが集いながら国際動向や主要トピックスを議論しこれからの世界との向き合い方を考える場として開催しました。また、SFTが継承する東京2020大会レガシーをパリ2024大会の先へと繋げていくために、いま何が求められているのか。国際的な専門家や研究者、実践者による事例発表、さまざまなフィールドで活躍する次世代リーダーによる未来討議を実施しました。
ーー具体的にどんなプログラムがありましたか?
山田)第1部では、スポーツ国際交流・協力の国際動向セッションとして、パリ2024大会に向けての取り組みやロンドン2012大会のレガシー、東京2020大会のレガシーを活かした取り組みなどについての発表がありました。
Marie Barsacq (パリ2024オリンピック・パラリンピック組織委員会 インパクト&レガシー エグゼクティブ・ディレクター)からは、パリ大会に向けたフランスの取り組みの報告がありました。フランス全土の小学校(6歳から11歳)の子が毎日先生と30分のアクティビティを行う活動を始めたところ、特定のエリアのインパクト調査では、子どもたちの健康面だけでなく、クラスの雰囲気や学習面でもいい効果があったと報告が出ているとのことでした。
第2部では、スポーツ庁長官表彰式及び各受賞団体による事例発表を実施しました。SFT カンファレンスでは毎年、国内外におけるスポーツ国際交流・協力事業や東京2020大会のレガシーを継承・活用した事業を行ったSFTC正会員を対象にスポーツ庁長官感謝状を授与しており、今回はバラエティに富んだ4団体が受賞しました。
表彰団体
〇「外国人留学生等を対象にした“国際武道文化セミナー”」公益財団法人日本武道館
〇「すべての義足ユーザが日常的に楽しく走れる社会を目指す“Blade for All”」株式会社Xiborg
〇「サッカーを通じて、世界の「つながりの総量」を増やしていく。“Beyond borders CAMP in Nepal”」一般社団法人Seeds
〇「日本・ベトナム間、大学生・特別支援学校生によるインクルーシブ遠隔スポーツ部活動の実践!」東京家政学院大学 松山研究室
ーー今回はスポーツ国際交流・協力シリーズとして、表彰団体である「日本武道館」と「Xiborg」についてもインタビューをさせて頂きました。2つの団体にインタビューさせていただき、さまざまな交流や協力の形があると実感しました。
山田)はい、インタビューではありがとうございました。今回表彰された団体はどれも素晴らしい活動をしている団体ですので、ぜひ参考にして頂けたらと思います。
山田)第3部では、スポーツ国際交流・協力未来討議(ユースセッション)と題し、アフリカやアジアで活躍する次世代リーダーや世界と向き合うトップアスリートが登壇し、スポーツ国際交流・協力の未来を考えるセッションを実施しました。
スポーツ国際交流・協力未来討議(ユースセッション)登壇者
[モデレーター]
〇篠原果歩 (ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団 Programmes and Grants Manager)
[パネリスト]
〇中村悠人 (筑波大学 人間総合科学学術院 人間総合科学研究群 スポーツ・オリンピック学位プログラム)
〇渡邉ありさ (一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構海外事業担当)
〇土井智弘 (元SOLTILO Cambodia)
〇平塚里奈 (一般社団法人 A-GOALケニア支部リーダー)
〇久良知美帆 (城北信用金庫 フェンシング/フルーレ選手)
ーー次世代リーダーの話は原体験に基づいているものが多く、熱量も感じました。印象深かったエピソード等ありましたか?
山田)はい、今回は特に海外で活動経験のある現役学生や、仕事の傍らインターン等で関わる方、世界を知るアスリートにも登壇いただきました。スポーツ国際交流や協力の分野ですと、どうしてもNPO/NGOの活動をイメージしてしまいがちですが、国際大会における選手同士の交流や合同練習なども立派な異文化理解であり、交流であると改めて実感しました。
また、今後のスポーツ国際交流や協力をさらに推進していくために、国内と海外の人材交流を通した組織強化(チームスタッフや審判員等)の必要性や、国内における留学生や在留外国人などがスポーツにもっと関われるようになるスポーツへのアクセス、大学生等が海外で経験できる機会の創出など、多くの提言をいただき今後のヒントになりました。
SFTに関わる人
ーーところで、山田さんご自身は、どのような経緯で『SFT』に関わるようになったのでしょうか?
山田)もともと、私は国際協力のバックグラウンドが多く、NGOの仕事でインドに2年間いたこともありました。ただ、学生時代はサッカーをしていたこともあり、いつかはスポーツと掛け合わせた国際協力をやってみたいと以前から思っていた所、運よくSFTのポストで仕事をすることができました。
ーー実際にSFTの中に入ってみて、感じることはありますか?
山田)スポーツと国際交流・協力はすごくポテンシャルのある領域だと感じています。日本政府が進める事業かつ、官民一緒に活動するコンソーシアムも魅力的ではありますが、SDGsの流れもある昨今、スポーツの価値やチカラをどう国際交流や協力と掛け合わせるかは、非常におもしろく、楽しく仕事させていただいています。
ーーそもそもになりますが、“国際協力”とは、なぜ必要なのでしょうか?
山田)なかなか難しく、答えはないかと思いますが、「誰もが人権を持って平等に生きられる権利を享受できる社会」にしていく上で、国内であるとか国外であることはあまり関係がないと思っています。海外のことも自分ごと化しなければならないと思いますし、どこかで自分が地球環境や他国の方にとっても加害者になっていることも考えられます。“国際協力”という言葉は少し大きなものをイメージしがちかもしれませんが、隣の人にペンを貸す、近所の人と話をする。そういった交流や相互に助け合う社会や文化が原点であり重要だと考えています。
ーーこれから先に目指す姿を教えてください。
山田)私自身、スポーツを通した教育という点に関心を持っています。世界を見たときに、「スポーツにアクセスしたくてもできない人」がたくさんいるので、そうした人たちに機会を提供できるような社会になっていってほしいですね。初等教育や高等教育など「教育」の重要性は誰でも理解していますが、スポーツも同じくらい人間が成長できる機会だと思っています。教育を平等に受けられる権利と同じくらいスポーツをしたい人にはその権利と実施できる環境づくりは大切なことだと考えています。
ーー私たちはどのようにスポーツ国際交流や協力に関わっていけばいいのでしょうか?
山田)スポーツ団体や非営利団体が中心になってしまいますが、実際に活動に参加する他に、関心を持った団体に少額でも寄付(応援)することもできると思います。社会貢献活動をする団体への寄付も、社会還元という意味では投資の対象とも言えます。少しでも寄付することで、その団体のこと知りたくなりますし、積極的に情報取集もしていくかと思います。そうしたアクションをして、関わりを持つ人が増え、寄付文化も定着していくといいですよね。
ーー今後の『SFT』における、展望を教えてください。
山田)私は、主にSFTの中でもSFTコンソーシアムの担当なので、スポーツ国際交流・協力に関わるコンソーシアムの会員さんを増やすこと、会員さん同士のマッチングを行い、組織や事業発展を促し、日本におけるスポーツ国際交流・協力業界をさらに発展させていきたいと思っています。その中で地道ではありますが、カンファレンスなどのイベントを通して、世の中への発信にも力を入れていきたいです。
また、海外へのSFTモデルや会員さんの取り組み発信も重要であると思っていますので、各種国際会議やスポーツイベント等においても発信していきたいと思います。
ーーありがとうございました!
SFTでは共に活動して頂ける会員(無料)を募集しています。
ぜひ、スポーツを通した国際交流・協力を推進していきましょう!