車いすバスケットボールチーム『伊丹スーパーフェニックス』に所属し、日本代表強化指定選手にも選ばれている堀内翔太選手(以下、堀内)。大学4年時の怪我から右足を切断したことをきっかけに、車いすバスケットボールを始めました。
東京2020パラリンピック競技大会では男子日本代表が銀メダルを獲得するなど、世界的にもレベルの高い日本の車いすバスケットボール。2023年1月に3年半ぶりに開催された天皇杯の前に、堀内選手の車いすバスケットボールへの想いについて伺いました。
落ち込む間もなく出会えた車いすバスケットボール
ーー車いすバスケットボールとはどのようなきっかけで出会ったのですか?
堀内)大学4年生のとき、怪我から敗血症を患い右足を切断しました。入院していた病院で、地元の車いすバスケットボールチームの選手に声をかけてもらったことがきっかけです。その後、仮退院のタイミングで車いすバスケットボールを見学したことで、興味を持ちました。
ーー初めて見た車いすバスケットボール。どんなところに魅力を感じましたか?
堀内)座ったままでシュートを打ったり、車いすを漕いだりすることで、“走らなくても競技できる”という部分がまずおもしろいと思いました。また、僕と同じ障がいをもった選手から「堀内くんの負った障がいの特徴は、車いすバスケットボールでは活躍の場が多くて、競技をする上ではすごく魅力的だよ」と言われて、自分にもできるかもしれないと思えました。
ーー足を切断するご決断から、自身の将来に対する不安などは感じられていたのですか?
堀内)正直、不安になるということは特になかったです。当時大学4年生で、将来よりも目先の卒業できるかどうかということが心配でした。加えて、障がいを負ってすぐに車いすバスケットボールに誘ってくれた先輩に出会えたことが大きかったですね。自分で考え込んだり落ち込んだりする間もなく、車いすバスケットボールのコミュニティに入って「お前ラッキーやな」と言われ、そういう考え方もあるのだなと思えました。いい意味で、切り替えはとても早かったと思います。
どんな人でも求められるから魅力的
ーー競技を本格的に始めてから感じた車いすバスケットボールの魅力を教えていただけますか?
堀内)『持ち点』というルールは、車いすバスケットボールの大きな特徴で、魅力にもなるものです。障がいの重さによって持ち点が定められ、出場している5人の持ち点を合計14点以内で収めなければなりません。
チームには障がいの軽い選手、重い選手もいる中で、どの障がいを持っていても平等に出場機会が与えられて、楽しめるし、逆に“障がいの重い選手”がいないとチームとして成り立たないところも魅力的だなと思います。
ーー持ち点の低い、障がいの重い選手もチームにとって役立てる存在になるということなのですね。
堀内)「誰かから求められる」ということが重要だと思います。私自身、障がいを持ったとき、人から求められなくなることが怖くなりました。でも、車いすバスケットボールではどんな人も“求められる存在”になることができます。
ーー持ち点を活用した戦術などもチームによってあったりするのでしょうか?
堀内)障がいの程度によって、持ち点もそうですが、乗る車いすにも違いがあります。基本的には、障がいの程度が比較的軽い3.0点以上の選手(ハイポインター)は、車いすの座面が床から高い位置に取り付けられているので、高さや体の動きを最大限に発揮しやすくなっています。一方で、障がいの程度が重い2.5点以下の選手(ローポインター)は、体の安定性を保つために車いすの重心が低くなっているので、操作性やスピードが増すという特徴があります。このように、障がいの特徴でプレースタイルが変わる部分も非常に奥深い競技だと思います。
ちなみに、僕が所属する伊丹スーパーフェニックスは、ハイポインターが多く出場しているとともに、ローポインターも個で勝負ができるので、そこを活かした1on1を強みとしています。
ーー堀内選手のストロングポイントはどんなところですか?
堀内)僕はセンタープレーヤーとして、リバウンドやポストプレー、ミドルシュートなどを得意としています!
「心の壁」をなくしていきたい
ーー堀内さんは、小学校を訪問して車いすバスケットボールの普及活動もしていらっしゃいます。障がいを持つ方のお話や障がい者スポーツに触れられる経験は、子どもたちにとってすごく大事なことですよね。
堀内)僕自身、自分が怪我をするまでは障がい者スポーツに対して正直なところ大きな壁を感じていました。障がい者や車いすの方がいたら、一歩引いてしまったり、自分から話しかけに行くことはできなかったです。
そうした経験から、実際に障がいを持った僕が発信していくことによって、一人でも多くの方の「心の壁」をなくしていけたらと思ってます。僕は、障がい者スポーツに出会って考える幅が広がり、世界が広がったと感じています。「こんな世界があるんだ」という思いを多くの人に知っていただき、価値観を変えていきたいですね。
ーー「心の壁」というお話がありましたが、堀内さんから見て、障がい者の方が健常者に対して求めている姿勢や行動があれば教えていただきたいです。
堀内)「何もできないでしょ」っていうようなスタンスだと、「あれもこれもできるんだけど」って、反論したくなりますね。(笑)
だから、少し厳しい言い方かもしれませんが、「何ができるの?」と最初に言ってもらった方がありがたいです。身体的にできないことを理解してもらうことで、その場にもうまく馴染めると僕は思っています。
ーー障がいの有無に関わらず、普段のコミュニケーションとも似ていますよね。ハードルを感じずに、お互いの得意や苦手を知ろうとすることが大事かもしれないですね。
競技に集中できる環境へのありがたさ
ーーいま堀内さんは伊丹スーパーフェニックスのスポンサーである東テク株式会社の社員としても働かれていますね。
堀内)僕自身2年前に結婚して、競技により一層専念したい気持ちの一方で、生活面など悩んでいたところに、縁あってお声掛けいただき入社を決めました。大学卒業後、出身大学の就職課で働いていたこともあり、東テクの人事の方とお話もしたことがあったので、そうした安心感も大きかったです。
ーーどのような形でお仕事をされているのですか?
堀内)午前中は取り扱う空調機器の知識の習得、提案資料の作成などをおこない、午後は競技の練習に時間を使っています。2022年7月に入社してまだ日が浅いので、業務についても勉強しながら邁進しています。基本的には在宅で仕事をしているのですが、月に一度、月次報告で事業所に出社したときの明るく温かい職場の雰囲気が印象的です。今後、仕事の面でも会社に貢献できるようになりたいです。
ーー車いすバスケットボール以外でなにか取り組まれているスポーツはありますか?
堀内)車いすソフトボールをしています。東大阪市の花園ラグビー場の隣に車いすソフトボールの専用球場があり、そこにはテニスやマラソン、カヌーなどの車いす競技の選手が多く集まり、いろいろな方と出会える良い機会にもなっています。
ーー素晴らしいコミュニティになっていますね。
堀内)障がいを持った人にとって、こうしたコミュニティは本当に大事だと思います。僕自身、障がいを負ってからすぐに声をかけていただいたので、車いすバスケットボールのコミュニティに入ることができました。実際、リハビリのスタッフからは、車いすの方はスポーツをしないと筋力が衰えてしまい、別の怪我にも繋がると言われています。精神的な面も含めて、障がい者スポーツにできるだけ早く触れてくれるといいなと思います。
ーー本日はありがとうございました!2024年のパリパラリンピックに向けても応援しています!
1/20、21で3年半ぶりの天皇杯開催
堀内選手所属の伊丹スーパーフェニックスは、西日本王者として大会に臨みましたが、1回戦で埼玉ライオンズに僅差で敗戦。その後の5・7位決定戦で、ワールドバスケットボールクラブに見事勝利し、5位に。チームとしても個人としても今後の活躍に期待です!
【東テク株式会社(東証プライム市場上場)】
空調機器を中心とした、設備機器の販売、ビルオートメーションシステムの施工・保守、エネルギーソリューションの3つの事業を展開。幅広いソリューションをトータルで提供することで、あらゆる「快適性」と「持続可能な社会」の実現を担っている。