福岡・九州から「めざせ世界一」のスローガンのもと野球にとどまらず、人々の感動、勇気、夢につながる世界一のエンターテインメントの実現を使命とする『福岡ソフトバンクホークス』。
今回は“元プロ野球選手”の肩書きを持ち、球団広報として活躍する西田哲朗さん(以下、西田)にSports for Socialを運営する株式会社HAMONZの山﨑蓮(以下、山﨑)が、選手と球団広報という両方の視点から見るプロ野球チームや選手が行う社会貢献活動について伺います。
西田哲朗:1991年生まれ。大阪府出身。関西大学第一高校から、2009年のドラフト会議で東北楽天ゴールデンイーグルスから2位指名を受け入団。2017年に福岡ソフトバンクホークスに移籍。2020年に現役引退後、同年に球団広報に就任した。
「恩返しをしなさい」セカンドキャリアを決めた父の言葉
山﨑)まずはじめに、現在の西田さんの球団広報の業務内容について教えてください。
西田)シーズン中は全試合チームに帯同し、基本的には首脳陣や選手のマスコミ取材対応や試合中の談話やヒーローインタビューを受ける選手の調整を行っています。オフシーズンはテレビ番組の出演調整なども行います。
“チームが優勝する”ということがホークスの魅力を知ってもらうことだと思っているので、選手が一番プレーしやすい環境づくりを心がけています。
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山﨑)「球団広報」のポジションを打診されたのはどういったタイミングだったのか教えてください。
西田)僕は福岡ソフトバンクホークスという環境やチームメイトにとても恵まれていると感じていて、お世話になってきました。そんな球団から「チームの構想に入っていない」と言われたとき、他のチームに移籍するという選択肢はなく、現役を引退することを決意しました。それを球団に伝えたところ、「球団広報として働いて欲しい」というオファーをいただきました。
山﨑)そうなんですね。現役引退後はプロ野球から離れるという考えはありましたか?
西田)プロ野球の世界で11年間プレーをして、それが外の世界でどれだけ自分が通用するかを試してみたい気持ちと、球団広報のオファーは頂きつつも、「自分に球団広報が務まるのだろうか」という気持ちがあり、一般企業への就職も考えてはいました。
実際に声をかけていただいていた企業もあり、自分自身も一般企業でチャレンジしてみたいという気持ちがあったので、実は一度は球団にはお断りしたのですが、それでも球団から熱心に誘っていただきました。父親からも「ホークスに移籍して、お世話になったと思うなら、恩返しをしなさい。選手時代から違った視点でプロ野球を見て、1から勉強しなさい」という言葉をもらって、お世話になった人たちのためにも、本気でホークスの広報をやってみようと思いました。
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山﨑)球団広報として働き始めたばかりの時期はどのように仕事に取り組んでいましたか?
西田)元プロ野球選手が球団広報という立場で仕事をする中で、球団からもファンや一般の方からも「西田はどういったことができるのだろう」という目で見られているという意識で働いていました。なので、私自身の活動次第でプロ野球選手の価値が上がると考えてもいましたね。
今でも、元プロ野球選手が球団と一般の方々を繋ぐ一番「表」の部分を担っているというプライドを持ちつつ、僕自身がプロ野球で培ったものに加えていくことを意識して、仕事に取り組んでいます。
選手の社会貢献活動を知ると、プレーの見方も変わる
山﨑)素晴らしいですね。プロ野球のチームや選手が社会貢献活動を行うことに対して、どのようなお考えをお持ちですか?
西田)ホークスの本拠地であるPayPayドームには年間で約230万人、1試合当たり平均3万5千人以上が観戦に来ます。やはり、プロ野球は注目度が高いスポーツコンテンツだと思っています。
それだけ影響力があるので、ネガティブなニュースが流れるとプロ野球に対するマイナスなイメージに繋がってしまいます。逆に良い取り組みを行っていたとしても、積み重ねていかないとなかなかその良い取り組みは周知されないとも思っています。
山﨑)「ファイト!九州」など、CSR活動をする中でご自身はどのように社会に還元していきたいと思っていますか。
西田)僕自身やれることは限られているので、各選手がやりたいことに対してどれだけサポートして、メディアに取り扱ってもらえるようにするかだと思っています。選手から社会貢献活動に関する相談を受けることもあります。
山﨑)そういった相談もあるのですね。
西田)どういう活動をしていったら良いのかや団体を紹介を行うなど、選手の活動をサポートする部署もあるなど、ホークスとしてもバックアップできる体制を取っています。
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奥様を乳がんで亡くしたことから、元ホークスの鳥越裕介さんは乳がんに関する取り組みを行っていました。その鳥越さんを慕う中村晃選手は、早期発見や治療を呼びかけるピンクリボン運動を行う認定NPO法人ハッピーマンマへの寄付活動を一緒に行っています。そのように活動が繋がっています。
今宮健太選手は地元・大分でもとても人気があるので、大分の子ども食堂へのクラウドファンディングを応援することから始めています。
選手のやりたいことや現在の活動を繋げたり、背中を押したりするのが僕たちの役目です。
山﨑)こうした社会貢献活動も、多くの方に知っていただきたいですよね。
西田)そうですね。記事に1度取り上げても、他の情報もたくさん入ってくるので流れてしまいます。例えば、柳田悠岐選手がホームラン1本につき30万円寄付していることを知っている人は多くはないと思います。
ですが、もしこの成績連動型寄付活動を知ったら、柳田選手を応援する気持ちは大きくなると思います。そして、ファンの方々に「どこに寄付をしているのか?」と寄付先の団体である認定NPO法人 国連WFP協会にも興味は移っていきます。そこから新たに少額でも寄付する人が生まれたり…そのように柳田選手、野球選手の影響力から社会貢献活動は広がっていくと思います。
球団広報としてメディアに取り上げてもらえるようにしていくだけでなく、大学での講演などもその一環で、さまざまな手段を用いてプロ野球選手の活動を一人でも多くの人に知ってもらえるように意識しています。
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投球数に応じたワクチン寄贈 モチベーションに繋がる社会貢献活動
山﨑)さきほど選手のモチベーションに繋がるというお話がありましたが、社会貢献、地域貢献が選手にとってどのようにプラスになると考えていますか?
西田)和田毅投手は開発途上国の子どもたちに感染症のワクチンを支援する活動を行っており、投球数や勝利数によって寄贈するワクチンの本数を決めています。和田投手は、この活動が自分のプレーに対するモチベーションに繋がると話していました。
また、球団としても、福岡ソフトバンクホークスの選手がやっていることが球団のイメージにも繋がり、寄付した団体も喜んでくれて全てがプラスになるのではないかと思います。
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山﨑)最後に、西田さんの今後の展望を教えてください。
西田)「元プロ野球選手の球団広報」という肩書きはこれからずっと背負っていくものだと思っています。だからこそ、僕にしかできない仕事が沢山あると思っているので、プロ野球選手時代の経験を活かした仕事をしていきたいと思います。
球団としては、選手が活躍して、メディアの露出を増やしていきつつも、野球のパフォーマンスも最大限発揮できるようにバランスを取れるようにサポートしていきたいと思います。チームが優勝し、選手が活躍をできるように、選手のメディア露出とパフォーマンス維持のバランスを取ることをサポートしていきたいと思います。
優勝するために、球団広報の業務に取り組んでいきたいと思います。
山﨑)球団や選手の社会貢献活動の考え方や事例を教えていただき、大変勉強になりました。ありがとうございました!