“大阪エヴェッサ”というチーム名は、七福神の一人で商売繁盛の神様である「戎様」の、親しみを込めた呼び方「えべっさん」が由来であるー。
名は体を表すと言うが如く、ビジネスと社会貢献を両立した活動「EVESSAチャリティ」を行っている大阪エヴェッサ。代表取締役・安井直樹氏(以下:安井)に、活動に込める想いだけでなく、ビジネスを手段とした社会貢献活動のリアルな一面もお話しいただきました。
公立中学校の年間体育課予算は約25万円
ーー「EVESSAチャリティ」の活動を始めたきっかけを教えてください。
安井)もともと私は「ソーシャルグッド」への関心が高く、何かそういう活動をしたいと思っていました。その想いから、地域の児童養護施設にチケットやバスケットゴールの寄贈を行っていたのですが、本当に困っているのだろうか?と感じることもありました。
確かに、バスケットゴールを寄贈して喜んでもらえる時もありましたが、何年か寄贈を続けていたら受け入れ先がなくなってしまい、何か他の方法があるのではないかと感じ、一定期間活動を止めていたんです。
ーーそうだったんですね。
安井)高校時代に私学でバスケットボールをしていたのですが、その時のコーチからある時、「今、公立高校で部活を教えてるんやけど、古いので良いからボールもらえへん?」と言われたんです。ボールくらい買えるだろうと思ったのですが、「ホンマに公立高校って予算がないんや」と言われ、エヴェッサとして出来ることを考えるようになりました。
とはいえ、自分の中で腹落ちする本質的な目的がほしいなと思ったんです。言われたからやるような取り組みはおそらく持続しないなと。
考えた結果、目的はシンプルに「子どもたちの環境を良くして、喜んでもらう」それで良いのではないかと。その目的を実現するための手段としてビジネスを使っているイメージです。その考えがきっかけとなり、「チャリティパートナー」という手段を作って目的達成しようと始まった取り組みが「EVESSAチャリティ」です。
ーー「手段としてビジネスを使う」というのは、SDGsの考え方に繋がる部分でもあると思います。安井さんが仰っていたように、腹落ちさせるため、長続きさせるための制度設計を考えられての今の形なのかなと。
安井)自分なりに調べたらその高校だけではなく、ほとんどの中学・高校が困っているんですよね。年間予算を調べたら、中学校の体育課年間予算が1校あたり約25万円、高校でも約50万円ぐらいとのこと。バスケもサッカーもその他競技全て合わせてその予算規模だと分かりました。
これではボール1球を買うことすら大変という感じですよね。そんな状況が続けば、競技レベルにまで影響してしまうと私は考えています。まずは子どもたちのためにと考えてやっていますが、時間軸を長く見た場合、最終的には競技レベルの向上に繋がっていく活動になると考えています。この課題解決をビジネスの手段で実現できたら最高だなと、今、気合いを入れて取り組んでいます。
納得してもらうには「感情」と「理屈」の両方が必要
ーー企業さんにお話しされた時、反応はいかがでしたか?
安井)ご説明をしたら殆どの企業さんから「協力するよ!」と言っていただけます。
ーーこの活動に対して、企業さんがどこに心動かされてお金を払いたいと思うのかが気になります。
安井)「感情」と「理屈」の両方がないといけないのではないでしょうか。
まず「理屈」の面は税制上、全額損金に落とせることです。お金の流れを簡単にご説明すると、大阪エヴェッサから(ボール等の)物品を買っていただいて、寄付をするという流れになっています。地方自治体への寄付になるので、社会貢献をしながら全額損金で落とせる。
人間的な「感情」面だと、「年間予算が約25万円と約50万円で子どもたちの体育現場が運営されていて環境整備ができていない。この状況を改善していきたい。」という話をさせていただいたら「それは大変やなー。それなら協力するよ。」と言ってくださいますね。
ーー「子どもたちのために」というワードとは違うのでしょうか?「チャリティ」なら、「子どもたちのため」が1番綺麗な見え方かと思います。
安井)目的としてはそのとおりなのですが、その言葉は良くも悪くも使われすぎていて、逆に響かないのではないかと思っています。「子どもたちのためになる」ということは、みなさん直感的には感じられていることだと思うので、あえて使っていません。
ーー子どもたちが困っているからと訴えかけるのではなく、「実際に困っているところに寄贈します」というお話の仕方に企業さんも共感するのですね。そういうことが一番リアルなのかもしれません。
安井)昔、一から十まで全部を考えてプレゼンしたことがあったのですが、逆に響かないんですよ。ビジネス感があったのかもしれません。難しく考えるのではなく、「会社で出た利益は社会課題の解決に使いませんか?」ということで良いんだと思います。
大阪に根付く“チャリティ精神”?
ーーBリーグチームの中で「チャリティ」を打ち出しているのはエヴェッサさんだけかと思いますが、「チャリティ文化」は大阪の土地柄が関係しているのでしょうか?
安井)確かに、大阪市中央公会堂が寄付で建てられたように大阪は昔から寄付によってインフラ整備がされたりしていますね。
もしかすると大阪の方々には寄付の文化が昔から根付いているのかもしれません。
ーー「チャリティ」とはっきり言っているのが大阪らしいのかもしれませんね。
リリースを見ると、周りの企業さんがとても前向きだと感じます。
安井)嬉しいことに「こういうこと(社会貢献活動への寄付)に協力したかった!」というお声も多くありますね。
ーーそういった意味では、この取り組みが、学校の活動のためにも、パートナー企業さんのためにもなっているWIN-WINな取り組みだと感じられますね。
チャリティに選手は関わっていますか?
安井)大阪エヴェッサはプロスポーツチームですので、今後どんどん選手にも関わってほしいと思っています。「EVESSAチャリティ」というのはあくまでも大枠です。ディテールはチャリティオークションでも良いと私は考えています。「EVESSAチャリティ」という大きな枠組みの中の一部として選手が関わるプラットフォームのチャリティオークションという仕組みを作っているので、もっと多く実施していきたいと考えています。
ーー選手はオークションに対して、どういった心持ちなのでしょうか?
安井)役に立つならみたいなぜひ参加したいという雰囲気がありましたね。
ちなみに、現在実施しているチャリティオークションは、学校現場に寄付をするユニフォームを買うことを目的にしています。
ーーユニフォームを買うという目的にされたのは何故でしょうか?
安井)ユニフォームは高く、買い換えることができない学校や部活が多いんです。しかしながら企業さんにはボール寄付の方でご協力を頂いております。ならば、チャリティオークションの収益はユニフォーム購入に使って、エヴェッサが寄付するという流れにしました。
ーー公立学校の課題に対して、企業さんから直接はボール、一般の方から買っていただける選手オークションはユニフォームという棲み分けですね。
どんどんこの活動を真似してほしい
ーー最後に、今後どういった社会貢献を行ったり、どんな存在を目指していきたいですか?
安井)全国でこの活動が広まるように、バスケットボールに限らず他のスポーツリーグでもこの取り組みをしてほしいと思っています。この活動をさらに活性化させて、最終的には日本の全てのスポーツの競技レベルアップが図れたら良いなと思っています。私たちがモデルとなって大阪から他の都道府県に広げられる立ち位置になりたいなと考えています。
ーーこんな活動をしていきたいというビジョンはありますか?
安井)シンプルに子どもたちが元気に競技が出来る環境ができたらそれでOKだと思っています。あくまでもそのゴール達成の為にビジネスという手段を使っているということが理想なので、ゴールを常に考えてこの活動をさらに大きくしていきたいです。