Bリーグ・岩手ビッグブルズでは、Being ALIVE JapanのTEAMMATES事業の一環として、高校3年生の幅下天悟くんを迎え入れています。長期療養の子どもたち、と聞くと小さい子を思い浮かべてしまいがちですが、天悟くんは高校生。高校生だからこそ、選手との溶け込みも早く、将来を見据えた貴重な経験を積んでいます。
岩手ビッグブルズ代表取締役社長の水野哲志さん(以下、水野)に、ビッグブルズがTEAMMATES事業に参加したきっかけや、天悟くんと一緒に取り組む『病院にいる子どもたちとの新しい活動』についてお話を伺いました。
「チームのために何かできないか」と動ける高校生
ーーTEAMMATES事業に取り組むことになったきっかけについて教えてもらってもよろしいですか。
水野)岩手ビッグブルズは、もともと東日本大震災の復興や地域貢献に重きを置いて活動しているチームです。岩手の子どもたちに、夢やスポーツの素晴らしさを伝えることも使命と思い、この事業の話を知り合いから聞き、即決で「やらせていただきたい」とBeing ALIVE Japanさんに言わせていただきました。
ーー幅下天悟くんは17歳で、このTEAMMATES事業にいままで参加した子どもから比べると大きいですよね。高校生だからこその特徴などはありますか?
水野)そうですね。高校生の天悟くんだからこそ、今までいろいろと経験してきたこともありますし、チームメイトとのコミュニケーションも最初からスムーズに取れていたということはあると思います。将来の夢もはっきりしてる子でもあったので、前向きにポジティブに捉えられたかなと思います。
ーー天悟くんはどんな子なんですか?
水野)コミュニケーションという意味で、自分から話すことも得意ですし、意思が強いのは感じます。試合前のロッカールームでも「チームのために何かできないか」と自分から動いています。
ビッグブルズでの経験と
ーー天悟くんは中学校までバスケットボールをプレーされていたんですよね。
水野)そうですね。小学校のときには、ビッグブルズのアカデミーに1年間入っていたようです。バスケットボールのプレー経験だけでなく、ビッグブルズというチームについてもある程度知っていた子でしたので、私たちとしてはありがたかったです。
ーー天悟くん自身もバスケットボールを競技として頑張ってる中で、中学生のときに急性骨髄性白血病を発症して、療養に入ったんですよね。
水野)そうですね。ただ、体調としてはすごくよくなってきていると聞いています。どこまでビッグブルズでの活動と関係あるかはわかりませんが、不安もある中でポジティブに取り組めているのではないかと思います。
ーーどのくらいの頻度でチームの活動に参加しているのですか?
水野)1ヶ月に1、2回ですかね。基本的には試合の日が多いです。高校生なので学校もあって平日はなかなか参加できていないです。
ーー試合の日は天悟くんは、どんなスケジュールで動いてるんですか?
水野)本当にほぼ選手と同じです。同じ時間に会場入りして、ベンチに入って、シュート練習のボールを拾ったり、ミーティングにも出て、試合に臨みます。試合中も選手と同じくらい興奮しています。(笑)
『病気でもバスケットボールをやれるんだ』
ーーTEAMMATES事業として、天悟くんを受け入れるとなったとき、選手たちの反応はいかがでしたか?
水野)選手に不安やネガティブな発想は一切なく、「招いた方がいい」「逆に力をもらえる」といったポジティブな発言が出ていました。実際、1型糖尿病を抱えている選手もビッグブルズには所属しているのですが、『病気でもバスケットボールをやれるんだ』ということを発信していきたい、という想いは以前から選手たちにもあったようです。
ーークラブとして、地域への貢献に対しても、病気という面でも受け入れる土壌があったのですね。
水野)こちらとしても、『復興支援』もそうですが、「地域のため」「ファンのため」ということは選手・スタッフともにしつこく言ってきています。チームの皆が理解してくれているとわかっていたからこそ、このTEAMMATES事業についても即決できたのではないかと思います。
ーー素晴らしいですね。選手たちが「力をもらえる」というお話もありますが、選手から見て天悟くんがチームメイトとしていることでのポジティブな面というのはどういう点があるんですか?
水野)そうですね。天悟くんがいることで、試合前のピリピリした空気の潤滑油になっていると感じます。あとは、「誰かのために頑張ろう」という想いは、身近にこの子のためにと思える存在がいることで、より強く思えるかなと思います。
ーー先日のNTTドコモレッドハリケーンズ大阪さんのインタビューでも、「陸人がみている前では手を抜けない」とおっしゃっていました。そうした点での共通点はすごく感じますね。
病院から選手にハイタッチ!?
ーーこれから天悟くんと一緒に取り組むことはありますか?
水野)『コート上の選手とハイタッチを隔離病棟の子どもたちと行うイベント』を今シーズン行おうと考えています。コロナ禍の状況もあり、現在は開催日を調整中です。
Being ALIVE Japanさんの活動を見てもそうですが、隔離病棟の子たちは外に出れない状況です。それでも、スポーツ観戦など、スポーツに関わることはぜひ体験してもらいたい、という想いからの企画です。
天悟くんがカメラを持って試合前の練習コートに入ったり、インタビューしたりしながら、病院の子たちが選手のハイタッチを感じることができる仕掛けなど、いろいろな企画を考えています。
ーーすごいですね!病院にいながら、チームの中に入っている感覚になれますね!
水野)病院側も、むしろ前向きにやらせてくださいという話でした。
バスケットボールにはハイタッチの文化があるので、試合前の選手紹介のときにハイタッチして出て行くときなど、子どもたちに是非感じてほしいと思っています。
ーー天悟くんが、病院の子たちの気持ちも理解しながら、コートの人たちのチームメイトでもある、という立場なのはすごいことですね。
水野)そうですね。病気を抱えた先輩として、後ろ姿を見せるのはすごく良いなと思いますよね。病院の子たちの勇気や希望になってほしいと思います。
水野)こうした活動ができるなら、もっとチームに協力できる!という病院さんからの声もあります。ファンの方々からも「こういった活動はどんどんやるべき」「支えていきたい」という声もいただいています。
ーー病院など、医療関係の方から「こうした取り組みをビッグブルズさんとやりたい!」と言っていただけるのはうれしいですね。
水野)そうですね。ただスポンサーとして応援する、という形だけでなく、病院のためになることを僕たちができるのはすごくうれしいです。ハイタッチの件も含め、こうした病院の子どもたちを元気づけられるような活動がどんどん広がれば、さらにスポーツの力は高まるのではないかと感じています。
ーーいままでの『訪問』という形だけではない、一緒に取り組んで勇気や元気を与える活動ができるのはすごくいいですよね!
地域の子たちの夢を応援できる場所
ーー天悟くんは選手と一緒の活動以外ではどのような活動をされているのですか?
水野)そうですね。天悟くんはこの春で高校を卒業し、映像制作の専門学校に進学しました。このクラブにきて、チームのための動画を作成するなど、自身の夢や目標に向かって一緒に取り組んでいます。
さらに、ラジオで初めてテレビ局に入ったり、バスケットボール以外のところでも普通の高校生ではできない体験ができています。
ーーいいですね!ご自身の目標や興味に近い体験を、スポーツチームだからこそ提供できているのですね。
水野)そうですね。高校生で、将来が近いということもあり、本人の興味も明確になっています。そうしたところは活動を考えていく上でもわかりやすくていいなと思います。
ある意味、ずるい体験ですよね。(笑)
ーー天悟くんが卒業したあとも、新しい子を迎え入れてのTEAMMATES活動の継続は考えてらっしゃいますか?
水野)そうですね。できればいいなと思っています。
いまビッグブルズは11年目を迎え、チアリーダーなど、以前中学生・高校生のときにエキシビジョンとして前座で踊った子が憧れて加入してくれています。このように、地域の子たちがチームに将来的にまた関わってくれる、というのが地域のスポーツチームのいいところだと思っているので、天悟くんにもそうなってほしいですし、今後のいろいろな活動が将来のビッグブルズに繋がればいいなと思っています。
ーーありがとうございました!