応援歌の一つ「愛してるぜ We are ORANGE」。
この歌に手話を交えながら応援する大宮アルディージャの「手話応援」が10月9日に行われました。
取り組みは今年で13回目を迎え、誰でも簡単に覚えやすい振り付けは、「サッカー応援も、ノーマライゼーション」という合言葉にぴったり。
Jリーグからも「社会に幅広く共有したい社会貢献活動」として2020年に表彰されたこの取り組みについて、大宮アルディージャの池田正人さん(以下、池田)に事前にお話を伺いました。
手話応援を実施するにあたって
ーー大宮アルディージャさんが続けている「手話応援デー」とは、どのような活動なのですか?
池田)クラブのパートナーで地元・大宮の企業である毎日興業株式会社の故・田部井功さん(当時の社長)が、さいたま市から相談を受けたことがきっかけです。当時さいたま市は、「ノーマライゼーション条例」を全国の政令指定都市に先駆けて施行するタイミングでした。
田部井さんは、「障がいのある人に対して、地域の企業として何か役に立つことができないか」と考え、聴覚障がいのある方およそ80名をスタジアムに招き、2006年に1回目の手話応援を開催しました。
ーーパートナー企業さんからの活動で、2回目の開催までには紆余曲折があったと伺いました。
池田)2006年に手話応援を行ってから、2回目を開催するまで3年間空いています。実は、初回の手話応援では、クラブやサポーターとの間でうまく連携が取れていませんでした。
取り組みとして改善し、また実現させるために「実行委員会」を立ち上げ、クラブや団体、毎日興業様に加え、サポーターの方にも入っていただき話し合いを進めました。
その結果、2010年8月に2回目を開催することができ、それ以降は毎年続いています。
続けなければ、会えないかもしれない人たち
ーー活動を継続し、よいものにするためには、サポーターの方々の理解が欠かせなかったのですね。
池田)回数を重ねるごとに、サポーターの方々が手話で応援できる機会をつくってくださっているのを実感しています。数年前には、試合の前半で参加者の手が疲れてしまうほど「愛してるぜ」をやりすぎたこともありました。(笑)
サポーターの声や応援のリズムは試合の流れによって変わり、どのように選手を鼓舞するかというのはすごく重要で難しいことでもあります。応援をリードするサポーターグループに理解をいただけているおかげで、取り組みが継続できていると感じています。
ーーこの活動を継続する意義を感じる出来事があったら教えていただきたいです。
池田)3,4年前に試合の会場で、ろう者の方2人が手話でコミュニケーションを取っている場面を見かけたので、たまたま私の近くにいた手話通訳さんに意味を尋ねてみました。そのお二人が別れ際にしていた会話は「来年もまた、ここで会いましょう」というものでした。
「続けることができなければ、この先、会う機会がないかもしれない人がいる」と、私たちがこの活動を続けていくことの重要性を身を持って感じるエピソードでしたね。
安全なスタジアムにつながる「それぞれの目線」
ーーこの活動は2020年、Jリーグが社会連携活動の中から社会に幅広く共有したい活動を表彰する「シャレン!アウォーズ」で、地域にある社会課題の課題のためにチャレンジしている活動として「ソーシャルチャレンジャー賞」を受賞しましたね。
池田)当初からは考えられないほど「手話応援」に関わる人が増えてきたなかで、「ソーシャルチャレンジャー賞」の受賞で、実行委員の方々をはじめとする多くの人の想いが社会から評価を受けることができました。
何かを行うということには少なからず金銭的な支援は必要で、それがないと継続することはかなり難しいと思います。この受賞に際して、毎日興業の田部井良・現社長も、「どういう状況でも途切れることなく、継続することがやっぱり大事」だと活動の意義を感じられていたので、コロナ禍においても途切れさせてはいけないと感じています。
ーーこの活動はクラブではなく、「手話応援実行委員会」が主体となって取り組んでいるということですが、そのような組織で取り組む良さをどのように感じていますか?
池田)昨年までで企業や団体も含めた約30の組織が、この実行委員会に関わっていただいております。
また今年も埼玉の日本赤十字社の方々も関わっていただくなど、関わる仲間をどんどん増やしていっています。
当日までに3回ほど実行委員会が行われるのですが、ここには、ろう学校の関係者や聴覚障害者協議会のメンバーなど聾(ろう)者も参加するため、会議の中では手話通訳さんを通してのコミュニケーションが取られています。
手話応援デーは、単純に手話応援をするというだけでなく、聴覚障がいのある方をスタジアムに多く迎え入れることになります。実行委員会では、聴覚障がいがある人と健常者、それぞれの目線から、安全なスタジアムにするためにはどうすれば良いか、さまざまな助言をいただいています。
重要なのは“アルディージャがやっている”意識
ーークラブとして、この取り組みをどのように捉えていますか?
池田)J2の場合、1年365日のなかでホームとアウェーあわせて42日は試合をしていますが、それ以外の日にどのように地域と接点を持つかが大切だと考えています。“サッカー界”にいる前に、まずは“社会”の一員だという考え方です。
「手話応援デー」という取り組みに対しては、クラブのスタッフだけではなくて、サポーターやボランティアスタッフ、売店の方々まで、いろんな人たちに理解してもらいながら準備を進めていきたいですね。
例えば地震が発生した際、警備会社の人たちが拡声器でどれだけ叫んでも、聴覚障がいの方には届きません。ですが、「避難誘導しています。お手伝いが必要な方はその場に座ってください」とか「スタジアムはこの地震には耐えられるので安全です」と文字にして伝えることはできます。
それが完璧と言えるわけではありませんが、それを継続することは重要だと思っています。楽しく安全なスタジアムを提供するための思いを一致させるため、新しく加わったクラブスタッフには、手話応援デーが始まる前には必ず、活動の説明してから当日に臨んでもらっています。
ーークラブの中でも、“想い”を繋げているのですね。
池田)「手話応援デー」は、“担当の池田がやっている”のではなく、“大宮アルディージャがやっている”という意識を持つことがすごく重要なことです。
クラブとしてのベクトル(方向性)をきちんと合わせて、私以外のスタッフも、その当日参加される方に手話応援って何か聞かれたときに伝えられるようにしなければならないと思います。
例えば、障がいのある方にどういった一言をかけるか。
「大丈夫ですか」という言葉より、「何かお手伝いしましょうか」という言葉のほうが受け取りやすいです。手伝いを求めている人は「車いす押さえてもらえますか」と話してくれます。
最初の言葉かけで相手と繋がることができるかどうかが変わってくると思っていて、それはクラブとして全員が意識しなければならないと考えています。
ーーこれからも手話応援デーの取り組みを継続させていくという考えのなかで、どのようなことを考えていますか?
池田)ここ数年、多くのメディアの皆さんに取材いただくなかで、大宮アルディージャのサポーターではなかったり、手話には関わりがなかったりする人たちに対しての発信に課題を感じていました。
どのように伝えていくかを考え、5,6年前からはスタンドの手話応援席の近くに「手話応援デー」と書かれた幕を掲出。取り組みを知らなかった人にも興味を持ってもらえるようにしました。
聴覚障がいに関わる人しか知らなかった期間が長かったこの取り組みを、多くの人にどう伝えていくかというは、これからも考え続けていかなければならないと思っています。
ーーありがとうございました!
当日の様子
2021年10月9日(土)、手話応援デーが開催されました!
写真提供=大宮アルディージャ