「人生100年時代」が当たり前に語られるようになった現代。しかし本当に求められているのは、“ただ長く生きる”ことではなく、“いかに健康で、自分らしく生き続けられるか”という視点です。
2025年6月、東京で開催された『SDN Conference 2025』では、そんな時代の本質に迫るセッションが行われました。テーマは「歯学とパフォーマンス/105年活きるには」。登壇したのは、歯科医療の枠を越えた健康支援を続ける株式会社SCOグループ 代表取締役会長 玉井雄介氏(以下、玉井)と、93歳にしてアイアンマン世界選手権を完走、ギネス記録を持つ稲田弘氏(以下、稲田)。モデレーターは、長年スポーツビジネスの現場に携わってきた森村國仁氏(以下、森村)が務めました。
「歯とスポーツ」。一見すると距離のあるように見えるこの二つの要素が、人生の質、さらには“挑戦する力”とどう関わっているのか。世代を超えて響く熱量と、現場で語られた知見をレポートします。
『SDN(Sports Doctors Network)Conference 2025』とは?
『SDN Conference』は、スポーツ現場の最前線に立つ医師やトレーナー、研究者、ビジネスパーソンたちが一堂に会し、競技力向上と健康支援の新たな知見を共有する場です。2025年で3回目の開催を迎えた今回は、「越境する知性〜スポーツ医学がひらく社会の未来〜」をメインテーマに掲げ、東京大学・安田講堂を会場に、多彩なセッションが行われました。
医療・科学・テクノロジー・教育・地域創生など、多領域の専門家が登壇し、スポーツという共通言語を通じて社会課題を捉え直す同カンファレンス。現場の実践知に基づくリアルな議論が展開されることから、アスリートやスポーツ関係者にとどまらず、一般のビジネス層や教育関係者からも高い注目を集めています。
本記事では、その中でも特に注目を集めた「歯学とパフォーマンス/105年活きるには」セッションに焦点を当て、医療とスポーツが交わる最前線の議論をお届けします。

セッション内容ダイジェスト|105年活きる“挑戦”の価値
登壇者紹介
玉井 雄介氏(株式会社SCOグループ代表取締役会長)
稲田 弘氏(アイアンマン世界最高齢完走者)
森村 國仁氏(モデレーター・元電通スポーツアジアCEO・筑波大学非常勤講師)

オーラルケアとスポーツの関係性とは?
『⻭の健康とスポーツ』と言われて、すぐにイメージが浮かぶ人はまだ多くないかもしれません。ですが、世界的なスポーツチームであるFCバルセロナの監督であるハンジ・フリック氏は、選手のメディカルチェックの項目に“オーラルケア”を付け加えました。こうしたスポーツ界の流れは今後も1つのトレンドとして動いていく中で、Jリーグのクラブとともに『オーラルケアクリニック』の開院に向けて積極的に動いているSCOグループとしては、どのように考えているのでしょうか?
玉井)私自身、この歯科業界に入ったときに初めて「自分の歯の本数は28本だ」ということを知りました。人々がオーラルケアに注目し、自身を健康に導いていくためには、まずそうしたリテラシーを上げていくことが大切だと考えています。
スポーツやアスリートを通して、人々が自分の体に興味を持つ、健康への意識を持つということが私たちがスポーツと関わっていく一つの大きな理由です。トライアスロンの稲田さんや高橋選手、モンテディオ山形を始めとした私たちが支援するJリーグのクラブを通じて、行動変容を起こすことを期待しています。
Jクラブとともに開院に向けて動いている『オーラルケアプロジェクト』では、まずは日本人の持つ「歯が痛くなったら歯医者に行く」という意識を変え、“日常的なメンテナンス”として捉え、歯医者さんとの距離が近くなるようなことを期待しています。

アイアンマン稲田弘さんの“生き方”
この日は、92歳でアイアンマンレースを完走した稲田弘さんもゲストとして登壇。世界最高齢での完走者としてギネス記録を持つ稲田さんの言葉から、本当の意味での健康への意識を学びます。
稲田さんがトライアスロンを始めたのは70歳。それよりも距離が長く過酷なアイアンマンレース(※スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmという長距離を1日で完走する、世界で最も過酷なトライアスロンレースの1つ)への参戦は79歳からです。「100歳までやりたい」と語る稲田さんは、どのようにその健康な体を維持しているのでしょうか?
稲田)練習は基本的には“休まない”ということを心掛けています。練習する量は自分の体調やスケジュールによって変わり、少しの日もあればたくさんやる日もあります。「やりたくない、キツいな」と思うときもあるのですが、期待に応えるためにも「絶対にやらなければ」という義務感があります。はじめは自分のためにやっていたことですが、今はいろいろな人が応援してくれて、期待をしてくれているからこそ、キツいことにも耐えられる部分はありますね。
応援の力って本当にすごいんですよ。先日のレースでは、足を痛めていてもしかしたら完走できないのではと思っていたのですが、沿道で応援してくれる人たちがたくさんいて、私の名前を呼んでくれる人もいると本当に自分の力になり、完走することができました。
玉井)90歳を超えてもアイアンマンレースに挑戦している稲田さんからは私自身もいろいろな学びがあり、自分もさまざまなことに挑戦したいと思える原動力になっています。もともと登山をしていたところからトライアスロンに出会い、ホノルル・トライアスロンを昨年完走しました。こうしたチャレンジは自分の“生きた実績”として積み上がってきます。こうしたチャレンジをするためにも、日々の健康の意識、自分の体への意識や医療へのリテラシーというものを高めていく必要がありますよね。
稲田)もちろん私自身も自分の体の衰えは感じていて、それは避けられないと思っています。それでも、歯を大事にすることや食事などさまざまなことを続けていき、どんどん新しい挑戦をしたいと思っていますし、皆さんもそうした挑戦を楽しめるような人生を送っていってほしいと思っています。一緒に頑張りましょう!
カンファレンスダイジェスト

Sports Doctors Network(以下、SDN)は、世界的なスポーツチームのヘッドドクターや医療・スポーツ・食の専門家が一堂に会する『Sports Doctors Network Conference 2025 in TOKYO —最先端スポーツ医療を、すべての人へー』を、東京大学安田講堂にて開催しました。
本イベントのゲストには、オリンピック金メダリストの室伏広治氏や元サッカー日本代表の鈴木啓太氏、テニスプレイヤー伊達公子氏、宇宙飛行士の山崎直子氏、経済学者の成田悠輔氏、フリーアナウンサーの滝川クリステル氏など、スポーツに限らず、各界を代表するスペシャリストの方が登壇し、エリートアスリートケアの一般活用や宇宙医療の未来、食とパフォーマンスなど、多岐にわたるテーマで講演を行いました。




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